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"インテルメッツォ"

目次

原作は作曲者の人生で本当に起こった実話

  • このオペラはR.シュトラウスの家庭をそのまま描いたもの。ローベルトは作曲者自身、クリスティーネは利かん気で知られたシュトラウスの妻パウリーネを指している。劇中に出てくる離婚騒動はR.シュトラウスが実際に経験した事件に依るもの。ある時、若い女性がストランスキーという指揮者(オペラの中でこの役割を担うのは宮廷楽長シュトロー)に会い、チケットをもらう約束をしたが、いつまでたっても届かないので、彼女は手紙を書こうと電話帳をめくった。しかし、ストランスキーという名は出てなく、R.シュトラウスが出てきたので、このご婦人は自分が名を聞き違えたものとして、シュトラウス宛に「いとしい方、あなたのチケットを送ってくださいな」という手紙を送ってしまったのだ。運悪くこの手紙をパウリーネが開封してしまい、彼女はかんかんになって夫に離婚を迫った。身に覚えのないシュトラウスは必死に妻をなだめ、何とか手紙の主を探し出して誤解を解いたという。事件当時、作曲家は37歳。かなりの心労を伴った一件だったはずだが、元来ユーモアのセンスに長けているシュトラウスは後年この事件をネタに、オペラを一本仕上げたのだった。
  • 「インテルメッツォ」はシュトラウスの作品の中でも最高に楽しいものである。彼が愛用したシュプレヒゲザンク(歌と語りの中間のような歌い方)と交響詩でも鳴らした表現豊かなオーケストレーションの技が見事に調和し、最高傑作と呼んでも恥じない出来ばえだ。大部分は軽妙な語りと明るく心地よい音楽でまとめられ、そして最後の和解の場面において、突然スケールの大きな旋律があふれ出す。場と場をつなぐ間奏曲も、それぞれの情景をよく表していて、非常に楽しい。一部他人が手を加えているとはいえ、シュトラウスとしてはめずらしく台本まで手掛けているのも貴重である。にもかかわらず、ほかの諸作品と比べても知名度はかなり低い。
  • 彼が「インテルメッツォ」を作曲したのは、すでに一回目の大戦が終わり、時代ががらりと変わり始めていた頃。音楽界だけ見ても、人々は無調や十二音技法に飛びつきだし、シェーンベルクやストラヴィンスキーが注目を浴びる一方で、依然として昔ながらの手法で作曲するシュトラウスは次第に取り残されるようになっていた。そのためか現在では傑作とされる「アルプス交響曲」、デーメルのお菓子からインスピレーションを得たという「泡立ちクリーム」(まれにワルツのみが演奏される)、そしてこの「インテルメッツォ」はいずれも成功したとは言いがたかった。しかし、シュトラウスは決して信念を曲げることはなく、自らの理念のまま作曲を続ける。その結果、十二音技法が一般の聴衆にとって難解なものとなり、ストラヴィンスキーの音楽が万人向けとは言えなくなったあともシュトラウスは未だに愛され続けることになった。彼にとってこのオペラは、若き頃の事件を笑い飛ばすとともに、楽しかった時代へのオマージュでもあったかもしれない。

本当に悪妻?~R.シュトラウス夫人パウリーネ

  • さて、このオペラで一番活躍するのはクリスティーネ=パウリーネだが、彼女は実際のところどんな人だったのだろうか。「私が誰で交響詩作家の妻としてどうだったかなどと書かれてはかなわない」と、劇中でクリスティーネは言っているが、ここではあえてそれを無視して彼女に「スポットを当てて」みたい。
  • 一般的にパウリーネは、癇癪持ちで夫を口汚く罵るとんでもない女とされ、悪妻の典型として定着してしまっている。書籍や数多く投稿されたネット記事においても、未だにこのイメージは払拭されていない。しかし、当のシュトラウスは「私にはああいう女房が必要なんです」と言い、彼女の姿を何度も作品に投影している。《英雄の生涯》に登場する英雄の妻や《家庭交響曲》はその好例である。これらは管弦楽曲だが、よく聴いているとパウリーネを表す旋律は決まって二つの面に分かれている。一つは一般的なイメージ通りのガチャガチャした音楽、もう一つは作曲家だけが知っていたであろう、しっとりと優しい性格。そして、今度は言葉も伴ったオペラで妻の性格を余すところなく描き出した。劇中のクリスティーネがパウリーネであることは、このオペラを知っている者ならだれでも知っている事実で、そのためこのオペラにまで悪妻のイメージを持ち込む人が多いが、いったん先入観を捨てて、じっくりと彼女の言動を観察してみよう。そうすれば悪妻であるかどうか容易に答えが出るはずだ。
  • まず第一幕の冒頭。クリスティーネは長旅に出る夫のために女中に支度をさせているが、任せきりではなく、自分できちんと確認し、必要な物を次々と羅列していく。夫が朝食を取りに席をはずしたタイミングでは、旅行中の軽食から常備薬にいたるまで用意させていて、その配慮の細かさには驚かざるを得ない。また、一人残ってからも夫のためにジャムの手配をしたりして思いやりを忘れず、第二幕でいよいよ夫が帰宅するとなった時にはダイニングを飾らせ、ケーキまで用意するのである(余談ながら第一幕でクリスティーネが電話でノイバラの実を注文する場面があるが、ノイバラの実というのは、俗にいうローズヒップのことであるそうだ)。冷静に考えて、これほど面倒見の良い夫人が世界に何人いるだろうか。ちなみに、夫婦げんかの場面で、クリスティーネが相当なきれい好きであることが暗示されるが、これも誇張ではなく、シュトラウスは家に入る時、足ふきマットを三枚も使って靴を拭わなくてはならなかったという(足ふきマットのエピソードはオペラの中にも出てきて、吹雪の時訪ねてきたルンマー男爵が靴の汚れを指摘される場面がある)。
  • パウリーネは軍人の娘で、一時はソプラノ歌手として活躍していたが、結婚を機にほぼ舞台からは手を引き、たまに夫の歌曲を一緒に演奏して楽しむ以外は一生妻としての役割を果たし続けた。近頃、女性の出世欲のために家庭が崩壊する例が多いのを考えれば立派と言うほかない。
  • 「家内は本当は優しさそのもののような人だよ。」これは第二幕、ローベルト=シュトラウスが語るセリフ。このオペラを鑑賞していると、実際そうだっただろうと思う。パウリーネこそはシュトラウスにとって最高の「良妻」だった。

身元不明の登場人物~ルンマー男爵

  • 多くの登場人物が実在する中、現実にまったくそれらしきモデルが見当たらないのが唯一この役。第一幕ではローベルトの出発後クリスティーネの相手役となり、第二幕では最終シーンでめちゃくちゃな調査結果を持ってくるのだが、シュトラウスはいったいどこからこの人物の着想を得たのだろう。オペラの性質上、女声ばかりに偏ることがないようにテノールの役を加えたとも考えられるが、それにしても男爵の性格はあまりに奇妙であり、実際何の役にも立っていない。以下まったく憶測に過ぎないが、もしかするとシュトラウスは多くの経験の中で、ルンマー男爵のような人物に会ったことがあり、実際に劇中と同じようなシチュエーションを味わったのではないだろうか。ミッツェ・マイヤーの一件はほとんど第二幕に集中し、最初の幕はルンマー男爵とクリスティーネの関わりがメインになっているので、こちらも実話なのではないかと考えてしまう。ちなみにこの役はその性格も考えて、テノールといってもリリックよりキャラクターなどがやったほうがふさわしいだろう。

ローベルトのカード仲間たち

  • 第二幕の冒頭はローベルトと仲間たちがカードゲームにいそしんでいる様子が細かく描かれているが、台本をよく読むと、脇役の仲間たちにも一人ひとりある程度の個性を持たせてあって、なかなか興味深い。事件の当事者である宮廷楽長シュトロー以外はすべて立場しか記されていないのだが、商工業顧問官や法律顧問官など、ずいぶんといかめしい役職の人たちだ。しかし、物々しい肩書に反して、彼らがゲームをしながら交わす会話は噂話や中傷めいた発言ばかりで彩られ、このギャップが面白い。もう一人の仲間である宮廷歌手は次々とあらゆるオペラの引用を口ずさんで笑わせる。彼は三つのオペラを歌うが、以下それぞれ何のオペラなのか記しておく。カッコ内は役名である。
    • 「汝、夕べの祈りは済ませしや?おおデズデモーナよ!」 《オテロ》第四幕(オテロ)
    • 「ああ、彼も弱かったわ。みんな弱いのよ!」 《パルジファル》第二幕(クンドリー)
    • 「たった一つの過ちゆえに、そのような罰を受けねばならぬのか?」 《魔弾の射手》第三幕(隠者)
  • 宮廷歌手はバスの役であるにも関わらず、本来のレパートリーであろうと思われるのは三番目の隠者のみ。ほかはテノールとソプラノの役である。特に二番目のクンドリーなどはあまりの珍趣味に思わず笑い出してしまう。

ドイツで人気のカード・ゲーム~スカト(Skat)

  • ところで、ローベルトたちが夢中になっているカード遊びはスカトというゲーム(日本ではスカートと表記されるが、ここではスカトとする)。これは各スート(ダイヤ、クラブなどのマークのこと)の2~6を除いた三十二枚のカードを使って三人で勝負するゲームで、かなり複雑なルールがあるが、ドイツではかなり人気がある。ここで詳細を書くと長くなりすぎるので割愛するが、劇中に出てくる用語だけざっとまとめておく。詳しく知りたい方は  ドイツのカードゲーム スカート ルールと戦略  というサイトに詳細な説明が載っているので参照いただきたい。
    • 単独プレイヤー・・・このゲームは一人対二人で勝負するので、一人でプレイする人のこと。
    • ビット・・・誰が単独プレイヤーになるか決めるために行う競りのこと。18から始めて、22、24…というふうに二つずつ競り上げていく。
    • グラン・・・スカトには三種類のプレイ方法があるが、グランは四枚のJを切り札とし、これに通常の四種のスートを加えて合計五種類のスートで勝負するもの。
    • ヌル・・・勝負で一枚もカードを取らないことを目的とするプレイ方法。
    • ウヴェア・・・実際に勝負を始める前に、三種類のプレイ方法のいずれかですべてのカードを取って(ヌルの場合は一枚もカードを取らない)勝つと確信した時に自分の手札を公開すること。
    • コントラ・・・対抗プレイヤーが勝てると思った時に宣言する。
    • レコントラ・・・対抗プレイヤーがコントラをかけた時、単独プレイヤーがそれでもなお勝てると思った時に宣言する。コントラに比べて失敗する率も高いが、劇中ではローベルトがレコントラをかけて勝っている。
    • ラムシュ・・・ビットでプレイヤー全員がパスをした時に、三人がそれぞれ単独で勝負する。
    • シュナイダー・・・カードの得点を90点以上取ること。
    • シュヴァルツ・・・すべてのトリックでカードを取ること。

録音

カイルベルト/ヴィーン国立歌劇場ライヴ

  • 訳者が聴いた唯一の録音で、これ以外には聴きたいと思えないほどの名演。このオペラはクリスティーネ役が良くないと始まらないが、ここではハニー・シュテフェクが澄んだ声で荒っぽさと優しさをうまく表現し、ヴィーン・フィルの明るい音色と相まって何とも心地よい。夫のローベルトを演じるのはヘルマン・プライ。この役の温かい性格を歌に込めると同時に、第二幕でシュトローを怒鳴りつけるシーンなども板についていて、オペラの終わりではシュテフェクとともに美しい二重唱を聴かせてくれる。しばしばオペレッタで名前を見かけるフェリー・グルーバーが、独特の癖のある声でずる賢いルンマー男爵を歌い、これもまたはまり役。1963年のライヴだが、比較的音質も悪くなく、聴きやすい。

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© Maria Fujioka



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