"ミレイユ"

目次

第1幕

  • 蚕の餌となる桑摘みの娘たちが仕事の合間に集まって恋バナなんぞをしています。時は4月の終わりから5月初めにかけてでしょうか。娘たちのコーラスが素朴で美しいです。歌詞も飄々として面白い。
  • そんな中、貧しい籠職人の倅ヴァンサンとのなれそめをカミングアウトしたのはこのあたりの地主の一人娘ミレイユ。ですが他の娘たちにはもうとっくにばれていたようです。二人の恋を気にかけている女占い師(魔法使いに近い感じ)のタヴェンの心配をよそにミレイユはひたすらにポジティブです。皆が去って行ったあと一人残ったミレイユのそばを通り掛かるヴァンサン。二人は他愛のないおしゃべりを暫し楽しんだあと抱き合い そしてお別れします。第一幕の全編に渡って桑摘み娘たちのコーラスがリフレインします。
  • 桑摘み娘のコーラスは原作の第2の歌「桑摘み」ですが原作の方では娘たちは姿を見せずに、その前の第1の歌「榎屋敷」で知り合ったばかりのミレイユとヴァンサンがここで恋に落ちるシーンのBGMとして絶妙の効果を挙げています。オペラでの二人の会話に使われる素材(ヴァンサンの妹の話題など)もこの箇所で描き出されています。
  • オペラでの娘たちの恋話(クレマンスの夢想なども)は原作ではその次の第3の歌「繭の採取」で触れられています。原作のこの場面は収穫のお祭りでもあることからオペラの第2幕や第4幕にも素材が散りばめられています。
  • この幕で結構有名なミレイユのアリア「ツバメの歌」はあとから歌手の要請で書き加えられたもののようです。プラッソン指揮の全曲盤では収録されておりませんでしたが、確かにオペラ全体の雰囲気からは浮いてしまうような華やかな歌なので省略するのが正解のように私には思えました。

第2幕

  • アルルの闘牛場に集まる人たち。ビゼーの劇音楽「アルルの女」さながらにファランドールの調べに合わせて人々が歌い踊っています。
  • そこへやって来たミレイユとヴァンサン、まわりの皆は冷やかし半分に「二人で歌を歌ってくれ」とせがみます。それに応えて二人の歌ったのがこのオペラでも最も有名なメロディーの「マガリの歌」。マガリというのは女性の名前、訛らなければ「マルグリット」とでもなるでしょうか。この歌は原作にもあって第3の歌「繭の採取」で取り上げられていますが歌詞がだいぶ違う(原作のものはとても長いです)のと、そこでは娘たちの一人ノールの先導で、村娘みんなでコーラスしていることになっています。オペラではこの歌のあと、競技場からマラソンがスタートし、それを追って皆いなくなります。このマラソン選手の一人として名前だけ出て来る「ラガランテ」、実は原作の第1の歌「榎屋敷」でヴァンサンがミレイユ語りかけた時の話題のひとつである物語の登場人物なのです。そのお話の中でもマラソンのランナーでした。
  • 皆が去ったあとに残るミレイユと女占い師のタヴェン。タヴェンの歌うクープレは、この収穫祭の時期は男たちの嫁取りの時期だよと告げています。歌自体はオペラオリジナルですが、歌の合間に挟まれた3人のミレイユへの求婚者、彼らのプロポーズと拒まれる様子は原作の第4の歌「求婚者たち」に詳しいです。オペラでは名前が出て来るだけのアラーリも。オペラの歌の中のもう一人のパスクールは出て来ませんが代わりに同じ馬守のヴェランという男が原作では振られて、ミレイユへの求婚と拒まれる様子が描かれているのです。原作でも最後のウーリアスはその力自慢で牡牛を何頭も倒したことは延々と描写されていますが、ミレイユとの描写は実にあっさりと短いです。
  • オペラではその代わりに原作にはない、タヴェンから他の求婚者のことを聞いたミレイユが「それでも私はヴァンサン一筋よ」と力強く歌うアリアと、そのあと登場してきて何で俺につれないんだ、と恨み言をぶつけるウーリアスとの濃厚な絡みがあります。この辺りは原作の筋立てを大きく変えて話をコンパクトにまとめるのにあとから見るととても役立っています。お見事です。
  • あっさり振られたウーリアスのあと登場するのは息子ヴァンサンと娘ヴァンスネットを連れた籠作りの親方アンブローズ、彼は隣人でもあるミレイユの父親ラモンを訪ねて来たのでした。実はそれが相談相手の娘だとも知らず、息子が誰か身分の高い娘を恋して悩んでいるようだが何かアドバイスを貰えないだろうか、と。
  • そんなアンブロワーズに、身分違いの恋など恥をかくだけだからやめさせておけと辛らつに言い放つラモン。たまたまそれを聞いたミレイユは、その娘が自分であること、自分も心からヴァンサンを愛していることを父の前で告白します。愕然とする父ラモン、侮辱されたといきり立つアンブローズに娘をそそのかしやがって と互いに殴りかからんばかりの勢いで楽しい祭りのシーンは暗転します。
  • 実はこの老人二人のシーン、原作では第7の歌「老人たち」で描かれています。オペラでの次の第3幕で起こる出来事のあとの話なのです。オペラではこうして前に持って来て、二人の仲がここで引き裂かれ、またこの場に居合わせたウーリアスに恋敵ヴァンサンへの憎しみが掻き立てられた、という状況設定に成功しています。

第3幕

  • 怒りに駆られたウーリアスは仲間と共に地獄谷でヴァンサンを待ち伏せしています。ここは妖怪変化が出るところと怯えた仲間たちは夜の訪れとともに帰って行き、ひとりウーリアスは残ります。
  • そこを通り掛かるヴァンサン、お前みたいな貧乏人がミレイユの心を掴んだのは、あの女占い師から惚れ薬でも買ったんだろうと侮辱するウーリアス。激昂する二人は争いとなりますが、卑怯にも凶器を使ったウーリアスにヴァンサンは勝ち目はありません。瀕死の重傷を負って倒れるヴァンサン。それを見てわれに返り逃げ出すウーリアス。たまたま地獄谷はその女占い師の住み家でもあったのでヴァンサンはすぐ発見され一命をとりとめるのでした。(第1場)
  • 原作ではこの争いのシーンは第5の歌「格闘」にありますが、オペラと違ってミレイユに求婚して振られたウーリアスと、ミレイユとの逢瀬を楽しんで帰ってきたヴァンサンとが偶然出くわして起こしたハプニングなのでした。原作ではけっこう長く描写されており、タイマンではなんとヴァンサンの方が勝ってしまうのでした。悔しさのあまり武器に思わず手を出すウーリアス、原作の方が卑怯度は増しています。
  • オペラでは争いの場所は魔法使いタヴァンの住む洞窟の前ということで、倒れたヴァンサンは彼女にすぐに発見されますが、原作では通りすがりの3人の豚飼いによって発見され、なんとミレイユの家に運んで行かれるのでした。そこでは施しようもないということで、そのあとにタヴァンの洞窟へと運ばれて行くのでした。そこをこっそりとついて行くミレイユ、恋する二人は魔法使いタヴァンのもとでふしぎな体験をしながらしばし一緒に過ごすのでした(第6の歌「女魔法使い」)
  • オペラはこのあと、逃げるウーリアスがローヌ川にたどり着き渡し守を待つシーン、折しも6月8日聖メダールの祭ということで、川からおぼれ死んだ死者の霊たちがよみがえってきます。もっともこの亡霊たち、まるで羊飼いの牧歌のような安らかな歌を歌うのであまり怖くありません。渡し守が来ないのに苛立つウーリアス、そこへ怪しげな船頭が小舟とともに突然現れます。あわてて飛び乗るウーリアス、しかし川の半ばで舟は沈んで行きます。そして彼もまた溺死者のひとりとなるのでした。(第2場)
  • これは原作の第5の歌「格闘」の後半部で記されています。原作の方がずっとおどろおどろしい感じ。なおオペラでは触れられておりませんが、怪しげな船頭は水の精が化けたもののようです。

第4幕

  • 地主ラモンの家で深夜まで小作人たちが収穫の祭(聖ヨハネ(ジャン)祭 6月24日頃)をお祝いしていますが、ヴァンサンとの愛を引き裂かれたミレイユは悲しげです。宴たけなわの小作人たちを残して部屋に戻るミレイユ、小作人たちも帰って行き、ひとり屋敷の庭に残った父ラモンは思うに任せぬ人生を嘆きます。
  • 夜が白んできて、遠くから気ままな暮らしを歌う羊飼いの少年の声が聞こえてきます。目覚めていてそれを聞き、その幸せな暮らしを羨んでいるミレイユ、そこへヴァンサンの妹ヴァンスネットが駆け込んできます。兄が卑劣なウーリアスの凶器で深手を負い、女魔法使いタヴァンのところで今傷を癒していることを伝えに来たのでした。居てもたっても居られないミレイユ、でも自分ができるのはマリア様にお祈りすることだと、サント・マリーの礼拝堂目指して飛び出して行くのでした。(第1場)
  • クロウの荒野をさまようミレイユ、娼婦マノンのようにアメリカの砂漠という訳ではないですが、それでも南フランスの夏の戸外は若い乙女にはかなりのダメージです。それにしては大変劇的に彼女は歌いながら歩いて行きます。とても華奢で可憐な乙女という感じではありませんが、これも恋する男を救いたいが故の熱き想いのなせるわざでしょうか。(第2場)
  • これまでのオペラ独自の設定を次の最終幕へとつなげるためか、原作にはないシーンの創作も含めて原作の色々な部分を集めてきています。冒頭の聖ジャン祭の描写は第7の歌「老人たち」より。オペラでは第2幕で恋する二人の父親同士が争うのもこの第7歌で起きた出来事でした。次のシーンの羊飼いの歌は原作にはありませんが、父親にヴァンサンと一緒になることを禁じられたミレイユが家出をする第8の歌「クロウの荒野」でミレイユと会話を交わし、途中まで歩みを共にする羊飼いの少年がヒントになっているのでしょう。そのあとのヴァンサンの妹との掛け合いはオペラがヴァンサンが瀕死の重傷を負うシーンを後に持って来たが故の純粋な創作部分です。
  • ミレイユがひとり荒野を歩いて行くシーンは原作の第8の歌「クロウの荒野」、第10の歌「カマルグ島」より断片的に拾い上げられています。

第5幕

  • ようやく目指すサン・マリーの大聖堂にたどり着いたミレイユ、しかしもう彼女に生きる力は残っていませんでした。ローカル色あふれる鄙びた味わいの讃美歌に引き続いて、怪我が治り、ミレイユを追って駆けつけたヴァンサンの歌声が。ミレイユがそこに現れて二人は感動の再開を果たします。
  • しかし彼女の気力もそこまで。敬虔な讃美歌に包まれ、また駆けつけてきた父ラモンにも看取られて彼女は息絶えるのでした。一人の可憐な娘の死にしてはオルガンの響きを伴ったあまりに壮麗なコーラスをバックにして。
  • 原作では最後の第12の歌「死」がそのまま対応します。

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@ 藤井宏行