"フィガロの結婚"

対訳【朝比奈隆 訳】

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恋とはどんなものかしら(動画対訳)



編集者より

  • 朝比奈隆は1949年に関西オペラグループ(現関西歌劇団)を結成し、以来、「椿姫」(1949)、「カルメン」(1950)、「お蝶夫人」(1951)、「ラ・ボエーム」(1952)、「カヴァレリア・ルスチカーナ」「パリアッチ(道化師)」(共に1953)と、毎年次から次へとオペラを上演しています。
  • 「フィガロの結婚」は1961年の第14回公演で上演されています。朝比奈隆訳で参考にしたのが、大フィルに保管されている、ボーカルスコアです。EDITION PETERS(出版年不明)に全訳が書き込まれています。そこでWEBでダウンロードしたイタリア語のテキストと朝比奈訳を、できるだけ楽譜に合わせて並べました。「フィガロの結婚」はノーカットで上演すると結構時間がかかるので、レチタティーヴォを部分的にカットしたりはよくします。そこでダウウンロードしたテキストにはあるけれど、朝比奈隆が訳していない箇所はグレー字にしました。またト書きで、朝比奈訳には載っていませんが、あるほうがいいと思われるものは、追記しました。
  • 朝比奈隆は基本的にはイタリア語のテキストに忠実に訳しています。ただ、音楽に合わせるために訳語変えているところもあります。対訳で難しいのは、繰り返しの場面です。繰り返しが同じ訳の場合は、省略してありますが、同じテキストで訳語が異なるときは、訳をつけておきました。例えば第1幕でケルビーノが歌うアリア『自分で自分が分からない』では Ogni donna mi fa palpitar という言葉が3回続けて出てきます直訳は「どんな女でも胸を高鳴らせる」という意味ですが、それを朝比奈は「なぜだかわからない 女を見ればすぐに この胸はどきどき」と3回の繰り返しを効果的に訳しています。また重唱で、同じイタリア語なのに役によって訳語が違うという箇所もよくあります。そういう場面は、役ごとに訳をつけておきました。例を挙げると、第2幕でアントニオが壊れた植木鉢を手に出て来て、Ascoltate, Ascoltate! 「き、聞いてくだされ」というと、もともとは伯爵夫人、スザンナ、伯爵、フィガロの4人が揃って Via, parla, di', su, Via, parla, di', su.というのですが、朝比奈訳では、伯爵夫人、スザンナ、伯爵は「そのわけを 話しなさい」とそのままの訳ですが、フィガロには「気のきかぬ 老いぼれめ。」と歌わせています。フィガロがみんなの気持ちを代弁しているといったところでしょうか。
  • 朝比奈隆はダジャレやことわざが好きで、それが随所に見受けられます。例えば第3幕のマルチェリーナがフィガロを訴えた裁判の場面で、実は二人は母と息子という思いがけない展開となり、期待が外れた伯爵と裁判官のドン・クルチオに朝比奈は「鶍(いすか)の嘴(はし)のくい違い」という訳をつけています。それを歌い手が「いつかの話のくい違い」と勘違いして歌ったら、朝比奈から大目玉を食らったというエピソードをきいたことがあります。「鶍(いすか)」というのはすずめ科の小鳥で、嘴(くちばし)が上下にくい違っているのが特徴で、そこから「鶍の嘴」というのは「ものごとがくい違って思うようにならないこと」を意味しますが、朝比奈の博学ぶりは歌手泣かせだったようです。また第2幕冒頭の伯爵夫人のカヴァティーナでは、伯爵夫人が伯爵を思って言う“il mio tesoro‟(私の宝物)に「わがせの君よ」という古風な訳語をつけています。これにより伯爵夫人の品位と慎ましさが感じられます。

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@ Aiko Oshio

管理人より

  • 指揮者の朝比奈隆(1908年7月9日 - 2001年12月29日)が翻訳した「歌える日本語訳」を使用しています。日本語訳は左のイタリア語の意味とは必ずしも一致しません。
  • 朝比奈のテキストは遺族の許可をいただいて掲載しています。複製・転載・転用は固くお断りいたします。

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最終更新:2021年12月04日 20:03