編集者より

  • 朝比奈隆訳で参考にしたのが、大フィルに保管されている、ヴォーカルスコアです。EDITION PETERS の Klavierauszug(出版年不明) に全訳が書き込まれています。そこでWEBでダウンロードしたイタリア語のテキストと朝比奈訳をできるだけ楽譜に合わせて並べました。
  • 朝比奈隆は上演の度ごとに訳詞に手を入れていたとオペラ歌手の方々からは聞いています。実際、書き直されていたり、訳詞が2種類あったりする箇所があります。そこで、もとの訳詞の上に更に書かれている場合は、(別訳:)という形で併記しました。ダウンロードしたイタリア語のト書きは、あるほうが分かりやすいので、訳しておきました。歌の番号も、ダウンロードしたテキストと楽譜で一致していませんでしたので、楽譜に合わせました。
  • 対訳で難しいのは、繰り返しの場面です。繰り返しが同じ訳の場合は、省略してありますが、同じテキストで訳語が異なるときは、訳をつけておきました。
  • 「リゴレット」はマントヴァ公爵の宮廷の場面から始まります。その宮廷の場面の雰囲気をどう出すか、朝比奈隆訳では、マントヴァ公爵を‘殿’と呼ぶことで、その雰囲気を出しています。例えば、モンテローネ伯爵が出て来る場面はこんな風です。

モンテローネ
(貴族の誇りをもって、公爵を凝視して)
このモンテローネ、殿にじきじき
申し上げることあり。

リゴレット
(公爵に、モンテローネの声色を使って)
話がある。
(滑稽みたっぷり重々しく進み出て)
そなたは我等に謀叛なされたが、
それを我等は特に許した、
それをまた何と夜も昼も
つきまとい、いやはや難儀な。

モンテローネ
(軽蔑を込めた怒りでリゴレットを見すえ)
この外道め!
MONTERONE
fissando il Duca, con nobile orgoglio
Sì, Monteron… La voce mia qual tuono
Vi scuoterà dovunque…

RIGOLETTO
al Duca, contraffacendo la voce di Monterone
Ch'io gli parli.
Si avanza con ridicola gravità.
Voi congiuraste, voi congiuraste contro noi, signore,
E noi, e noi,clementi invero, perdonammo…
Qual vi piglia or delirio a tutte l'ore
Di vostra figlia a reclamar l'onore?

MONTERONE
guardando Rigoletto con ira sprezzante
Novello insulto!

  • そしてこの場面はこんな風に終わります。

公爵、ボルサ、マルッロ、チェプラーノ、合唱
(モンテローネに)
この集いを乱す者は
地獄の鬼に呪われたか。
行け、今すぐ出て行くのだ、
この私を/お殿様を怒らせたぞ。(繰り返し)
怒らせては望みはない、
年貢の納め時が来た。
DUCA, BORSA, MARULLO, CEPRANO, CORO
a Monterone
O tu che la festa audace hai turbato
Da un genio d'inferno qui fosti guidato;
E vano ogni detto, di qua t'allontana,
Va', trema, o vegliardo, dell'ira sovrana, ecc.
Tu l'hai provocata, più speme non v'è,
Un'ora fatale fu questa per te,

  • マントヴァ公爵の宮廷で道化を演じているリゴレットは、道化役に相応しい言葉遣いをしていますが、第2幕で、さらわれた娘のジルダを見た時は、自分が道化であることを忘れて、父親になってしまいます。すると言葉も、いつもの道化の言葉遣いでなく、普通になります。あの有名はアリア『悪魔め、鬼め』は朝比奈訳ではこうなります。

リゴレット
お前ら、腐った奴め、
幾らで娘を売ったか?
いつもの汚い手口だ、
だが、そうはさせないぞ。
さぁ返せ、たとえ素手でも
目にもの見せてやるぞ。
我が子を守る親の
すさまじい力を見よ。
その戸を、人殺しめ、悪魔め、
早く開けろ、早く早く開けろ!
RIGOLETTO
Cortigiani, vil razza dannata,
Per qual prezzo vendeste il mio bene?
A voi nulla per l'oro sconviene,
Ma mia figlia è impagabil tesor.
La rendete! o, se pur disarmata,
Questa man per voi fora cruenta;
Nulla in terra più l'uomo paventa,
Se dei figli difende l'onor.
Quella porta, assassini, assassini,
M'aprite la porta, la porta, assassini, m'aprite!

  • そして第3幕で、マントヴァ公爵の死体を受け取る前の心情を、リゴレットはこう歌います。

リゴレット
待ちに待った時が来たのだ。
長い年月(としつき)、
来る日も来る日も道化の
仮面の下で泣いた。戸口は
(家の様子を確めながら)
開かぬ、まだ早いのか。待つか。
気味の悪い夜だ。
空はひどい嵐、
ここでは人殺し。
素晴しい大芝居だ。
(真夜中を告げる)
真夜中だ。
RIGOLETTO
Della vendetta alfin giunge l'istante!
Da trenta dì l'aspetto
Di vivo sangue a lagrime piangendo,
Sotto la larva del buffon… Quest'uscio…
esaminando la casa
È chiuso!… Ah, non è tempo ancor! S'attenda.
Qual notte di mistero!
Una tempesta in cielo!…
In terra un omicidio!
Oh, come invero qui grande mi sento!
Suona mezzanotte.
Mezzanotte!

  • 第1幕の道化を演じるリゴレット、第2幕の父親の怒りを見せるリゴレット、そして第3幕で、その復讐を大芝居だと言うリゴレット、この訳し分けを見るだけでも、朝比奈隆がただ単に日本語に置き換えていただけではないことが感じとれます。

Creative Commons License
この日本語テキストは、
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
の下でライセンスされています。
@ Aiko Oshio
最終更新:2022年10月28日 19:39