"ラ・ペリコール"

対訳

手紙のアリア(動画対訳)

ほろ酔いのアリエット(動画対訳)

セギディーリャ(動画対訳)

あんたはハンサムじゃない(動画対訳)



あらすじ

  • ペルーのリマは総督のお祭りに湧きかえっています。やってきたのは流しの歌手のピキーヨとその恋人のぺリコール、3人従姉妹の店の前で歌を歌いますが実入りは思わしくありません。総督は眠っているぺリコールを見て一目惚れ、何とか愛人として宮殿に連れて行こうと考えます。

訳者より

  • 先日とある中古CDショップで、往年の現代音楽系の名指揮者イーゴリ・マルケヴィッチがラムルー管を振ってオッフェンバックのオペレッタ「ラ・ぺリコール」を演奏した録音(EMI)を見つけ、思わず手に取りました。こんなレパートリーまで録音しているんだ、というのに驚きましたが、聴いてみるとノリの良いリズムに生き生きとした歌い回し、このオペレッタの録音の中ではピカ一ではないかと思い切り堪能させて頂きました。
  • この「ラ・ぺリコール」、キャラが立っていて強烈なことではオッフェンバックの数あるオペレッタの中でも屈指のものではないでしょうか。スペイン支配時代のペルーの首都リマを舞台に、美人だけど抜け目なくて気の強そうなヒロインのラ・ぺリコールと、ひ弱な草食系っぽいけれどキレるとかなり危ないその恋人のピキーヨ(ふたりは流しの歌手として歌を歌って暮らしています)、コスプレ大好きでお忍びで町を歩いたり牢屋に忍び込んだりとまるで水戸光圀公か遠山左衛門之丞かと思う(にしてはどこかボケている)ペルー総督ドン・アンドレアス、その総督の思いつきとワガママに振り回されるしがない中間管理職の第一侍従長パナテラスにリマ市長のドン・ペドロ、目的と手段が転倒して今や脱獄するテクニックを楽しんでいる老囚人、街で居酒屋を切り盛りするお茶目な三人の従姉妹たち、そして図らずも総督の愛人とされたぺリコールに嫉妬する嫌味な廷臣と貴婦人たちと、まあよくもこんな人たちを登場人物としてしたものだ、と感動してしまいます。オッフェンバックのオペレッタは常々どれかぜひ訳してみたいなと思っておりましたので、ちょうど良いきっかけでもありかなり膨大なテキストの量ではあるのですが翻訳にチャレンジしてみました。
  • オッフェンバックのオペレッタ、けっこうその時代背景を知らないと分からない世相風刺のギャグなどもありますので(フランス革命ネタなど政治的に際どいものもありました)日本語にしてもさっぱり意味不明な部分も多いかと思いますが、キャラ設定の巧みさだけで笑えるようなシチュエーションも多々ありますのでまあお楽しみ頂ければ幸いです。このマルケヴィッチ盤はじめ多くの録音では台詞部分はナレーションになっていたり大幅にカットされていたりしてそのままで視聴用には使えないとは思いますが、いくばくかのお役には立てるものと思います。それと一点だけ補足ですが、総督ドン・アンドレアスのことを「王様」と呼ぶ場面がところどころにありますけれども、実は私が総督と訳したViceroyは直訳すると「副王」なのです。恐らくは本国スペインの王族のひとりが王様の代理の立場で植民地の支配権をすべて任され、ついでに本国と同じような王侯貴族の生活を許されていたといったところなのでしょうね。第2幕で出て来る宮廷というのもそうしてみるとよく分かります。
  • このオペレッタで最も有名なのは第1幕でほろ酔い気分でぺリコールが歌うクープレ「ああ!何てすてきな晩ごはん!」だと思いますが、これが歌われる第1幕大詰めは登場人物全員が酔っぱらってる出鱈目な結婚式を、オッフェンバックお得意のフレンチ・カンカンを織り込みながら畳み掛けて行くという強烈なもの。マルケヴィッチの切れ味鋭いバトンのもとで聴くのが実に楽しい場面です。こればかりでなくお忍びのコスプレで登場する総督(第1幕では医者・第3幕では牢屋の看守)の陽気なクープレや第1幕のぺリコールとピキーヨがお祭りで歌うノリの良いデュエット、そして第2幕の幕切れ、裏切ったと誤解した男がヒロインを罵倒して突き倒し、周りが義憤に駆られて騒ぎとなるというまるでヴェルディの「椿姫」を彷彿とさせるシチュエーションに緊迫感のかけらもなく流れる「反抗的な夫」のワルツと楽しいナンバーが次々と繰り出されます。
  • オッフェンバックのオペレッタの中でも台本・音楽共に良くできた傑作だと思うのですがあまり録音・映像は多くありません。映像では国内盤DVDにもなっっているジュネーブ歌劇場のもの(1982)が、マリア・ユーイングという芸達者をヒロインにしてなかなか面白くガブリエル・バキエのドン・アンドレスや ニール・ローゼンシャインのピキーヨと共演者も好演です。同じ公演をCDとしたものもあるようですがどうせなら映像で見る方が…
  • 録音では古いものは分かりませんが良く見かけるのは3種類。冒頭に挙げたマルケヴィッチ/ラムルー管他のもの(1958)は歌手陣はあまり有名な人はいませんがオペレッタのノリにあふれた楽しい歌唱ですし、何よりオーケストラの推進力が素晴らしい。個人的には一押しの演奏です。
  • アラン・ロンバールがストラスブール・フィル他と入れた録音(1976)は歌手陣が魅力的です。レジーヌ・クレスパンのぺリコールにアラン・ヴァンゾのピキーヨ、ジュール・バスタンのドン・アンドレアスと、フランスオペラの粋を尽くした味わいのある演奏と申しましょうか。このオペレッタの魅力のひとつであるドタバタ感には欠けるかも知れませんが十分に魅力的です。
  • 残る1点はミシェル・プラッソン/トゥールーズ管他のもの(1981)。プラッソンの入れるオペラは時折おやっと思うキャスティングをしておりますがこれもそんなひとつ。若かりし頃の録音ではありますがぺリコールにテレサ・ベルガンサ、ピキーヨにはホセ・カレーラスのスペイン出身コンビ。これにバキエのドン・アンドレアスらが絡みます。ただ残念ながらこの録音では主役二人のキャスティングは生真面目過ぎて成功しているとは言い難く(特にカレーラスが一所懸命おどけているのには痛々しささえ感じます)、あまり溌剌さの感じられないオーケストラ(しっとりと良く歌う美質はあるのですが、この曲の肝はそこではないと思う)と、少々他の盤に比べて魅力には欠ける印象があります。それ以降の最近の録音がほとんどないのがとても寂しいところです。

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@ 藤井宏行

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最終更新:2019年05月16日 18:55