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Suffering of Paladin … part2

  この作品は、「MELTY KISS」及び籠龍の作品「REDMOON」と世界観を共にした作品です。
思いっきり番外編なのでよしなに。

-Part 2- Jannne Bismarck

Clare side


「んじゃ、とりあえず今のトコは待機な」
 キエルから待機を命じられる。とはいえ、今の私の状況からすれば、余計な足手まといを増やしたくないだけなのかもしれない。
 私は、聖騎士の理想を打ち砕かれ、目の前で神と教会のなんたるかをたたきつけるようにして見せられた。呆然とする私を、聖騎士二人は血のついた表情で笑う。
 スールは、理想を持ってやってきた聖騎士にはよくあることだから、そのうち慣れると言っていた。しかし、私はどうすることもできず、どうする気力もおきない。
「ありゃ? お前は確か、クレアだっけか?」
 名前を呼ばれ、すぐに顔を上げる。そこにはハウンドが立っていた。キエルやスールに聞いていたが、ハウンドはかなりの腕前を持っているらしい。聖騎士としての活動は二人を超えているという。
 しかし、それならば彼もまた教会の威光のままに殺りく行為を繰り返しているのだろうか。
「どうした、こんなところで。んなちっこくなってると気持ちまでちっこくなるぞ」
 私が教会本部の廊下でうずくまっているのを見かねたのだろうか。ハウンドは私の隣に乱暴に座り込むと廊下を見据える。
「なんだなんだ? 何か見えるのか? それともなんか来るのか?」
「いえ…そういうわけではないんですけど」
「じゃあなんだ? 腹でも減ってるのか? それとも下したのか?」
「…女性にそういうこと言わないでくださいよ」
 まあ同じ聖騎士に女性がいるのは初めてだというのでこういう扱いもあるのだろう。
「んで、どうした。せっかくお前の正式な配属先が決まったってのに」
「配属先? 私はハウンドさんたちの隊なのではないのですか?」
 突然新入りに転属が下りたのだろうか。やはり私では戦力にならなかったのだろう。
「や、違ぇよ。俺らの隊には所属してるけど、仕事の内容が違うってこと」
「…無罪の人を殺すことは私には向いてないですよ」
「んー、まあ。そういうことも含めてだな。キエルとかのやり方は強引だったけどわかりやすいはわかりやすいだろ」
「無茶苦茶すぎます」
 私が気を重くしたのが伝わったのか、ハウンドは苦笑しながら廊下を通る人にあいさつする。
「ハウンドさんも人を殺したことはありますか」
 藪から棒だったかもしれない。ハウンドは壁に背を預けながら天井を見ている。私の質問は聞こえたのだろうか。
「ある」
 短く答える。やはり、彼もまたあのような殺戮行為をしているのだろうか。
「やっぱり…聖騎士は人を殺すこともあるんですね」
「聖騎士は教会の仕事をこなす人間っつううことだからな。めんどくさいこともするさ。そりゃ誰でも正義の味方にゃなれねえさ」
 言葉に詰まる。それはスールからも言われたことだ。しかし、私は納得できない。
「神に仕えるって、人を助けるっていう精神はないんですか…? 教会が神に仕える機関であるなら、その下に就いている聖騎士もその意思を持っていてもいいんじゃないですか?」
「異端者の定義がお前にわかんのか?」
 ハウンドは、立ちあがる私をじっと見る。
「…そういうことを話しているのではありません」
「いや、そういうことなんだよ。お前は神を信じてはいるが神を知らない。ここで目を背けりゃお前はこれからずっと盲目的に剣を振ることになるぞ」
 ハウンドは力強い調子で私を否定する。ハウンドは立ち上がると、軽く手招きをして背中を向けてしまう。
「ついてこいってこと?」


 通されたのは、教会の奥深く。とりわけ警備も格段に硬く、おいそれと通ることのできないエリアだった。聖都セリスタルは教会を中心にして放射線状に街が広がっているために、建物を横に長く作ることはできない。
 それではどうやって教会の敷地を増やしているのか。
 それはこの場所に答えがある。私はハウンドとともに重厚で大きな扉をくぐると、長い長い螺旋階段を下り始める。
 セリスタルの真髄は、教会を地下に広げること が都市の強みでもある。有事の際には街の人々を地下に招き入れ、シェルターのようにし、唯一の入口である教会を死守することで大軍の奇襲に備える。
 そのためセリスタルの地下は教会の他にも人々が避難するような施設も備えている。
 私はその光景を眺めながら、ハウンドについていく。
「笑えるな。この国で一番神に近い存在が、地面の中でふんぞり返ってるなんてよ」
 皮肉のつもりだろうか。しかし確かに、神聖を謳う教会の上層部のほとんどが地上の災害からは隔絶された所にいるなんてひどい話だ。
「それでも、彼らは生きる義務があります。神に仕え、その教えを広めるために――」
「結局、今の教会で必要なのはあのお嬢サマだけだ。他のお偉いじじいどもは、お前が言う汚いところで利益を得たりしてるんだ」
 私は言葉に詰まる。確かに教会の裏話はよく聞いている。
 聖騎士、教会関係者に限らず、教会上層部のきな臭い動きは街で暮らしていた頃からよく聞いていた。
 しかし、それでも教会が約百五十年間続いているのは、唯一にして絶対の存在が揺るがないからだろう。
「ついたぜ。こっからは俺は通れない。ここを通るのはお前にだけ与えられた資格だ」
 ハウンドは、ある扉の前で足を止める。
 神聖で、非常に芸術的価値の高い装飾をしており、向こう何百年も朽ちることのないような清潔さと神々しさを持った大きな扉である。
 ハウンドは、私を見ながらぶっきらぼうに右手を差し出す。その手の中には小さな紋章のようなものが握られていた。
「この紋章は…」
 双翼によって守られた堅固な盾の紋章。間違いない、バグラチオン帝国のエンブレムを引き継いだ、聖都セリスタルの紋章である。
「これをつけてけ。お前は今から、生きた神に会うんだしな」
 ハウンドはその紋章を私に渡すと、そのまま踵を返して今来た道を歩いて行ってしまう。
 私は貰った紋章を胸元につけると、ゆっくりとその扉に手をかける。
『きましたね。純潔の麗かな騎士、クレア・ルージュ。入ってください』
 扉に手をかけた瞬間、頭に声にもならないような意思が流れ込んでくる。
「な、なに…?」
 しかし、声は一瞬だけで、その後には静寂が辺りを包んでいる。
 私はしばらく考えていたが、埒があかないためにゆっくりとその扉を開いていく。
 扉を開くと、そこはまるで子供部屋のような場所だった。小さなベッドに、お洒落なテーブル。そしてその部屋の中心には真っ白な少女が立っている。
「あ…、あなたは…」
 私は思わず言葉を失う。
 純白の法衣を何重にも羽織り、流れるようなその銀色の髪の一本一本が命を持っているかのように煌いて、その少女の人間性を失わせている。その陶磁器のように美しい肌と、透明な球のような瞳はどこか神々しくもさえある。
 彼女こそ教会が掲げる神に最も近い存在、聖女ジャンヌ・ビスマルクだった。
「こんにちはクレアさんっ。今マタギさんから連絡が来て、貴女が来ると聞いたのですが…まだ何も用意できていなくて…今お茶を出しますね」
 私の姿を見ると、ぱっと花開くような笑顔を見せて向かい側の部屋に消えていく。彼女が消えて行った方はちょうど台所のようになっていて、ちょっとした家のようになっている。
「あ、あの、ジャンヌ様ですよね」
 私は震える声で尋ねる。ジャンヌは台所から顔を出すと、にっこりとほほ笑んでうなずいた。
「はい。私がジャンヌ・ビスマルクです。一応教会のトップってことになってますけど、そんなにかしこまらないでくださいね」
 そしてまた台所に消える。私がそのまま棒立ちの状態でしばらく待っていると、トレイにカップをふたつ乗せたジャンヌが歩いてくる。私は慌てて彼女に駆け寄り、そのトレイをひったくるようにして受け取る。
「じゃ、ジャンヌ様! こんなこと私がやりますから! ジャンヌ様は座っていてください!」
「ああ、そうですか? ならお茶受けにスコーンを焼いているのでそっちの方を見てきますね」
 そう言って再び台所に消えて行こうとする。私はすぐにトレイをテーブルの上に置くと、ジャンヌを追いかけて台所に飛び込む。
「ジャンヌ様、そのようなことは私がやりますから! どうかゆっくりしていてください!」
 私はもう混乱しながらも、ジャンヌに最高の敬意を払って動いた。対するジャンヌは困ったように笑いながら「ありがとうございます」と私を面白そうに眺めていた。
「いえいえーこれは私の趣味のようなものですからー。クレアさんは座って待っててください」
 ジャンヌは私を押し出すと、そのまま台所に入ってしまう。まだあどけない少女だが、教会の中で最高の権力を持っているのだ。
「な、なぜジャンヌ様の部屋に台所があるんですか…」
「あら、これは私の趣味ですよ。ずっと教会に居続けているので皆さんに無理を言って作ってもらいました。こんなことでもしないと暇で暇で…」
 子供の外見ではあるが、もう百何十年も生きていると言われている。
神の力によって生きているとも、彼女自身が神だとも言われおり、教会の信仰の旗印のような存在である。
「できましたよ。今日はスコーンも付いています」
 ほんのりといい匂いがする。彼女が再びトレイを持ってやってくる。
 丁寧な歩き方と手の動きで素早くテーブルに選り分け、私を座らせる。ところどころに品の良さが感じられ、私とは違う環境で過ごしているということがわかる。
「あ、いただきます…」
 私は流されるままにカップに手をつけ、口に運ぶ。柔らかい葉の香りが鼻をつつき、喉を潤す。完全に借りてきた猫状態で私は小さくなってしまう。
「そんなに小さくならないでください。ささ、スコーンも食べてください。いっぱい作ったので」
「いや、そんなに、ホント、大丈夫なんで…」
 私は恐縮しながら人形のようにスコーンを食べ、お茶を飲んでいた。その様子を楽しそうにジャンヌは眺める。教会の中、特に上層部にはあまり女性は出入りしていないので私という存在が珍しいのだろうか。
「ところで、なぜ私をお呼びになったのでしょうか…お話をするためですか?」
「それもありますけど。もともと貴女とお話をしたかったので」
「私と?」
 意外な話である。教会のトップであり、神のような聖女が私のことを認識しているなんて。
「はい。このセリスタルにいる人間くらいでしたら大体把握しているので、クレアさんのこともよく知っています」
「セリスタルって…この街全ての人をですか?」
 いくら街単位といっても、過ごしている人の数は莫大である。それもバグラチオンの重要都市、セリスタルならなおのことである。
 しかしジャンヌは涼しい顔でうなずく。
「はい。セリスタルで過ごす人、来た人、去っていく人。それら全てを私は把握できるんです」
 そういうと、ジャンヌは私をじっと見つめる。彼女の透き通るような青い瞳は、まばたきの一瞬で純白の色に変わる。
「な―――っ! 魔女、いや、でも…」
 異端である人狼の特徴は身体能力が異常なまでに高いこと、そして魔女の特徴は、その力の行使によって瞳の色が変わることである。目の前の聖女はその純白の瞳でうっすらと私を眺めている。
「やっぱり、貴女の魂は面白いですね、クレア・ルージュ。今まさに魔女の能力を有している私を目の当たりにしているのに、それでも神と同等の存在として崇められている私に対する信仰は揺らがない。それほどまでに貴女の神に対する思いは強いというのですね」
 私の全てが見透かされているような感覚だ。彼女の純白の瞳が私の心そのものをつかみ取り、品定めしているような、不思議な感覚だ。丸裸で立たされているようなのに、目の前にいるのが聖女だからかだろうか、不快や恥じらいの気持ちは起きない。
「…ジャンヌ様は、魔女、なのですか?」
「私は人間を越えし存在、〝聖母〟ジャンヌ・ビスマルク。魔女などではありませんが、魔女の力を扱うこともできます」
 ジャンヌは笑いながら言う。とてもではないが、先ほどスコーンを出してくれた少女と同じ人物とは思えない。
 彼女はゆっくりと立ち上がり、その綺麗な腕を私の首へと回す。私の顔は彼女の体に包まれる。
「クレア・ルージュ。本日付で貴女を私専属の騎士とします」
「――へ、え?」
 ぱっと離される。再び見た彼女の表情はいたずら心に満ちあふれていて、外見相応の幼いかわいらしさが漂う。
「クレアさん、先ほどセリスタルの紋章をいただきましたよね? それ、他の人の紋章とはちょっと違うので持っていてもらえませんか? きっと気に入ると思います」
 ジャンヌは私が持っていた紋章を指す。言われた通り、私はそれを胸につけながら再び彼女を見る。もう彼女の瞳は元の色に戻っている。先ほどのやりとりがまるで白昼夢のようなものに感じられる。
「あの、さっきのことは…?」
「はい?」
「専属の騎士と、言っていたんですけど」
「ああ、ああ。そうですよ。これから貴女は私の騎士となってもらいます。ちょっとこれから移動が多くなるのでそのために聖騎士とは別の、私を守るための騎士が必要だと言われてしまいましたので…」
 ジャンヌは少し上目遣いで私を見る。
「ダメですかね」
 そんなことを言われて拒否のしようもない。私は勢いよく立ちあがるとその場にひざまずき、剣を捧げて首を垂れる。
「いえ、ジャンヌ様。光栄です。未だ若輩の私ですが、ジャンヌ様のお傍で仕えられるよう、身を粉にして剣を振るいます」
 そのままジャンヌも席を立ち、私が差し出した剣を受け取る。略式の騎士叙勲を行う。
「それでは、別命あるまで待機していてくだいね」
「わかりました。それとジャンヌ様―――」
 私は部屋を出る時、おそるおそる尋ねる。ずっと気になっていたことだ。
「なぜ、私を気にかけてくれたのでしょうか」
 ジャンヌは狐につままれたような表情をするが、すぐに柔らかく微笑む。
「貴女が一番、神を信じているからですよ」


Janne side

 クレアが部屋を出た後、私は一人、部屋の奥に進む。台所とは違う、荘厳な廊下が続く通路を進み、やがて開けた場所に出る。
 そこには、玉座とも言えるような椅子があり、私はそこに座る。
「クレア・ルージュ。貴女はなぜそこまで神を信じようとしているのでしょうか」
 私は一人、言葉を紡ぐ。純白に変化した瞳には、クレアが教会の地上でへ戻っている様が映っている。くすりと笑みがこぼれる。
「貴女の魂は他の聖騎士以上に悲しい色をしていますね。人狼ほどに己が信念を貫く強さと、魔女並みにほどよく狂っている」
 私は視線をめぐらす。
 数人の死体が、腐ることなくそこに保管されている。魔女、人狼、そして人間。そして、それらの中心には、氷漬けのまま輝きを失わない槍が立っていた。
「貴女にこれを渡す日もそう遠くないでしょう。世界は今未曾有の危機を迎えようとしています」
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