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Blancheur … Part3

  この作品は、籠龍の作品「REDMOON」と世界観を共にした作品です。
一応こっちのほうが本編となってますがそっちの方も見ると世界観が上手く補完できると思います。


Part3.engage in battle 

Luna side


 森の木々を、慌てて走り抜ける。雪が降り始め、街道へ通じるけもの道はさらに白く深く埋もれている。後ろからは、大きな笑い声とともに荒っぽい足音。
「ちょっと待ったあああぁぁ! お前は魔女だろう! 話を聞かせてもらおうか!」
 片手に握るはすらりと伸びた長剣。そしてこのやかましい聖騎士という特徴。おそらくヴェアが話してくれた、ハウンドという男に相違ないだろう。
「それがなんだよっ! 私は今急いでるんだ! 後にしてくれないかなー」
 のんきな声で返すも、走りながらなのでどうにも息が上がってしまう。先ほどから風の魔法で移動速度を上げているにも関わらず、ハウンドという男はなおも追跡を続けている。
「くそっ…妾は命ず、風よ私の歩を速めよっ!」
 風が空気を抜けるように音がすると、私の足元にさらに風が集まり、私の速度は増す。
「うお、まだ速くなるのか。いいだろう、まだまだ俺も修行が足りんってことなんだな!」
 そう言うと、ハウンドもまたさらに速度を上げてくる。魔力で底上げした速度は今や馬の疾駆するのと同等だろうか。それに続いてくる彼の体力は並大抵のものではない。
「なんて…無茶苦茶な男だよっ!」
 まさにその通りだった。ここで戦ってしまっては、すぐにヴェアに気付かれてしまうと思い逃げていたが、さすがにどうにも彼から逃げきることは不可能なようだ。
「仕方ない、戦うか」
 ぽつりと呟いて、走りながら後ろを見る。相変わらず荒っぽい走り方でハウンドが追ってくる。
「おう、どうしたっ。戦ってくれるのか!」
「そうだよ! あんたがしつこいからねっ! しつこい男は嫌われるよ!」
「ばか野郎! 男は当たって砕けるもんだぜ! そんじゃあ、ちょいといきますか」
 そういってハウンドは長剣を構える。
「妾は命ず、疾風よ木々をなぎ倒せ!」
 ハウンドの横の木々の腹の部分が次々と風で切り裂かれていく。木こりの斧のように風はすぐさま大木を横に切りつけ、倒す。
「うお、これが魔法か。初めて見たぜ…ヴェアの変な力ともまた違ってるみたいだな」
 しかし、その大木をハウンドは身をかがめてすり抜ける。ちょうどその大木が届かないところまでくると、一気に私に距離を詰める。
「な…速っ!」
「いや、手前ぇらが遅いんだよ」
 どすり、と鈍い音がする。私は、そのまま背後の木に掛けられてしまった。どうやらハウンドの剣は、私を傷つけることなく服ごと大木に突き刺さったようだった。
「う、これは…動けない…」
「ほらどーだ。これでもう逃げらんねーだろ」
 ハウンドの言うとおり、この状態ではまさにぶらさげられた猫同然である。魔法を使うにも、おそらく出がかりを潰されれば状況は余計に悪化するだろう。
「うー、まさか自分がこんなに弱いとは…」
「まあしゃーないだろ。俺たちゃ聖騎士だぜ? 手前ぇら異端者に匹敵するために努力してきたんだ。ひたすら努力してきてお前らに歯が立たないんじゃどんだけチートしてんだって話だよ」
 ハウンドは腕を組んで私を見る。しかし聖騎士がこれほどのものとは思わなかった。私の生きた時代でこれほどまでにただの人間が強かったのは初めてだ。
「さて、と。お前はいろいろと事情知りみたいだし、ちょっくら俺と付き合ってくんねえかな」
 ハウンドは私を睨みながら、そう言った。

Lupis side


 私はすっと息を吸うと、足を踏み出す。木の蔭から出た私を、彼らは目ざとく見つけ、そして取り囲む。
「おいお前! 町の者か?」
「町の者でなければ話を聞かせてもらおうか…」
 取り囲んだものは、皆一様に同じ装束を着ている。これは――そう、聖騎士に準ずる隊士の服である。
 私の積もらせた雪が、目となり耳となり、彼らの情報を教えてくれた。聖騎士の中でもどうやらきな臭い仕事ばかりこなしているようだ。どうにも聖騎士の単独行動をバックアップしている存在らしい。ここで放っておくと、ルーナを追いかけかねない。
「そうなると厄介だね…」
「おい! 何をぶつぶつと言っている!」
 男が一人、私によってくる。素早く周囲を見回し、現状を把握する。相手は手だれが五人。
「おい、やはり見られたからには始末しておくべきだろう」
「また女か。先ほども村で殺したかな。もう女子供は殺しあきたよ」
「だが、男よりもよく泣くし…なにより男の命乞いよりも女のほうが気分がいいだろ」
 くっくっと下品な笑い声をあげながら男たちが話す。私はそれを聞きながら、思わず目を細める。
 嫌悪感が露骨に出てしまったのか、寄ってきていた男が私を見るなり睨んでくる。
「なんだあ? 文句でもあるのか?」
 それを聞いては、もう笑うしかない。しかし、それも気に食わないようで、彼は私の肩を掴もうとする。しかし、その手が届く前に、彼は言葉にならない叫びをあげる。
「こっ…こいつ! 目の色が…」
「うるさいよ、あなたたち」
 静かに、私はそう言った。男たちはすぐさま臨戦態勢をとる。やはり下卑た態度はとっていても聖騎士に準じる存在ではある。構えに油断はない。
「それにしても、あー気が楽だわ。あなたたち、気兼ねなく殺せるから」
「な…んだと?」
「ヴェアさんとは大違いって言ったの。聖騎士って噂と違っていい人ばっかりだとおもってたけど、やっぱそんなことなかったわ。あなたたちみたいなクソばっかりで安心したわ」
 そう言うと、私は後ろに大きく後退する。青玉色の瞳を光らせながら、冷静に五人全員を視界に入れる。
「くそっ! 油断するな!魔女だぞ」
「まあいい、マタギ様の目的をこんなに早く見つけられたのだからな…」
「魔女の討伐なら、いけるはずだ…」
 口々に調子の乗ったことを言っている。まったくもってはらわたが煮えくりかえりそうだ。ルーナと再開したり、ヴェアとの時間で感じた久々の安らぎがこれで完全に吹き飛んでしまった。
「あなたたち――あんたたち、知ってるかい?」
 ぴくり、と彼らは反応する。
「魔女の中でも特に怒らせちゃいけない魔女ってのがいるんだけどさ。炎、雷、影、土――そして氷。この五つの領域の魔女は絶対に怒らせちゃいけないよ。覚えときな」
 男たちは懐から獲物を取り出す。短剣や小銃など、小ぶりなものばかりだが、全員が全員それらの武器の扱いに秀でたものばかりだろう。
「ま、すぐに死ぬんだけどね」
 そういって私は隣の大木に手を当てる。
「我が名の下に命じる、巨木よその根まで凍りつけ」
 突然氷がその大木から放射線状に伸びていき、五人の男たちを襲う。男たちは突然のことにもなんとか反応して跳躍し、その氷をよける。
 どうやら、魔女と戦ったのは一回かそこらではないようだ。戦いなれている。
「そう、ならこれはどう? 我が名の下に命じる…大気よ凍りつき彼の者を包みこめ」
「なぁっ?」
 一人の男が、素っ頓狂な声を上げたかと思うと、一瞬で氷の塊となってしまう。
「くそっ、大気を扱うぞ…周囲の変化に気をつけろ! ああいう魔女は人自体に魔力を干渉させられないからぎりぎりのところで避けるんだ!」
 魔法をよく知っている。最初に私のところに歩いてきた者は、少しばかり知っているようだ。
 魔力を人に介することはできない。魔力によって生じた魔法を人にぶつけるのがせいぜいである。もちろん、それでも避けるには相当の技量がいるのだが。
「それでも、あんたらは避けるんでしょ?面倒くさいね」
 逃げ回るようにして動きまわっていた男たちを見回して、私は一旦止まる。
 同時に、男たちが一斉に攻撃に出ようとするが、私はもう勝利を確信していた。
――どれだけ人間が努力しようと、それは付け焼刃にすぎない。それを教えてあげます。
「氷(ドマニエ・)の(ウヌ)楽園(・ネイゲス)」
 それは一瞬だった。私の呟きに呼応するかのように、ぴたりと世界は動くことをやめる。そして、後に残ったのは私と氷だけ。
「やはりヴェアさんは、いい人ですね。あなたたちを見ていてそれがよくわかりました」
 歩きながら、私は後ろを少し見る。
「しかし私の魔法…やっぱり仲間がいたら絶対に使えないな」
 そこでの光景は、凍っているなどというものではなかった。対峙していた残り四人の男たちも、木も草も土も、およそ生命の片鱗を示すものすべてに絶対の死と永遠の凍結が与えられ、時間が奪われていた。
「ルーナに習った方法で古代呪文研究してみてるけど、やっぱり氷は攻撃的な呪文ばかりですね…難しい」
 凍った世界をあとに、すぐさま踵を返して走る。危惧した要因は排除した。あとはルーナのところに行くのみである。

Vere side


 やっとのことでルーナの魔力のところにたどりつく。しかし、目の前に広がった光景はなかなかに予想外のものだった。
「また、お前かよ…」
「おう、来てやったぜ。この俺様がよ」
 なぜかハウンドが立っていた。ルーナは、大木に掛けられている。捕まったのだろうか。
「何してるんだよ、こんなところで」
「ん? 見てわからんか。これが午後のティータイムを楽しんでるように見えるのか? お前は」
 ハウンドは余裕の表情で俺を見る。確かにこの状況、明らかに俺の方が不利だ。ルーナを人質に取られている今、簡単にやられてしまうだろう。
「よし、んじゃ早速始めるか…男の決闘ってやつをよ」
「ま…待ってくれ、その前にそこにいる――」
「さて、んじゃ風の魔女さんにはどっか行ってもらうか。もう用済みだしな」
「――へ?」
 ハウンドは、大木に刺さっていた自分の剣を引き抜く。ルーナはそのままするりと木をつたって地面を下りる。
「う…ごめん、ヴェア。私はヴェアを呼ぶための餌にされてたみたい」
「そう! そしてお前が来たからには…もうこの魔女に用はない! 後に残るは俺とお前の一騎打ち!」
 剣をまっすぐに構え、ハウンドは俺と対峙する。
 どうやら本当に俺との決闘だけを求めていただけのようである。さすがにここまでくると呆れてしまう。
「…仕方ねえな。ルーナに手を出さなかったことに免じて、戦ってやるよ。ただし今回は人狼に化けるのはなしだ。あれになるとほとんど俺の意識が飛んじまうからな」
「ああ? まだあの状態でコントロールできてねえのか。お前にしては赤ん坊みてえな対応だな」
「うるせえ。わざとお前に合わせてハンデ背負ってるのがわかんねえのか」
 売り言葉に買い言葉とはこのことである。さすがにルーナもあきれた様子で見始めている。
「ま、しょがねえ。それなら俺の非常用の剣を一本貸してやろう。正々堂々、平等な勝負じゃねえと意味がないからな」
 そう言って、ハウンドは腰に提げたもう一本の剣をこちらの足元へ投げる。俺はそれを取り、剣を確認する。
「…ハウンド、お前ってやつは」
「さあ行くぜヴェア! 俺様の剣さばき、覚悟しな」
 すっと視界からハウンドが消える。しかし、冷静に耳を澄まし、ハウンドの足音をたどり、予測できる相手の動きを頭で追う。
「そこだっ!」
 そこに剣を振り下ろすと、案の定ハウンドが突撃してきている。あちらも得意の長剣を振りかざし、剣と剣が撃ち合う。幾度となく聞いた金属音が再び二人を引き離し、今度はハウンドは木々の間に隠れる。今度は俺が攻撃する。姿勢をなるべく低く保ちながら歩いていき、微妙な空気違いからハウンドの居場所を読み取る。
 一本の木をすり抜けざま剣を横に薙ぎ払うが、俺の剣は見事に空を切る。
「ばーか、こっちだぜ」
 しかし、それも予想の範囲内だ。俺は軽く身をそらしてその剣をかわすと、下から振り上げるようにして切りかかる。
「っと、大分強くなったな。さすが俺とともに剣の腕を磨いてきた仲だぜ」
「だからんな覚えないっての! お前はただの準備運動だったろ」
「ふん、どうかな」
 軽口をたたいてみるが、確かに今のハウンドは昔のころの弱さがない。前回の戦いからおもっていたことだが、どうにもハウンドは異常なまでに強くなっている。しばらく会ってなかったうちに何があったのだろうか。
「手前ぇがそうやって俺のことをみくびってる限り、手前ぇは俺には勝てねえぜ」
 ハウンドは一瞬で後ろに回り込み、剣を振り下ろす。俺はハウンドの剣をなんとか受け止め、はらいのける。
「ヴェア! 手前ぇはもっと強いはずだろ! どうして本気を出さねえ? 本気で俺をなめてんのか?」
「…っ、くそ」
 ハウンドが容赦なく連続して剣を振り下ろす。
「手前ぇがどれだけ俺のことをなめようと構わねえ。そうやって余裕たっぷりに俺に勝つんだったら文句は言わねえよ。だけどな、本気も出さねえで俺に負けやがったら、そんときゃお前を一生許さねえぞ」
 力任せに弾かれる。その衝撃で、俺はそのまま吹き飛び後ろの大木にたたきつけられる。
「大丈夫? ヴェアしっかりして!」
 ルーナの声がする。必死に俺を揺さぶっているが、大木にたたきつけられた時の衝撃で内臓が悲鳴をあげている。人狼にさえならなければ俺もただの人間でしかないというのがよくわかる。
「ああ…大丈夫、だ」
「ヴェア、人狼の力を使いきれてないの?」
 ルーナに問われるが、答えられない。その無言を肯定として受け取ったのか、ルーナは悲しそうな表情をする。
「そうだったの…やっぱりレッドムーンの力を使いこなすにはまだ時間がかかるか」
 その通りだった。以前の爆炎の魔女との戦いで使いこなしていたはずの力も、今ではどうやって人狼になるのかすら思い出せない。
「ヴェア、ごめん」
「なんでお前が謝るんだよ」
「私、勝手にヴェアはもう何でもできるんだって思ってた。変な期待をかけすぎちゃってヴェアに無理させてた」
「んなこたねーよ。別にお前は俺に迷惑なんか掛けちゃいない。これは俺の問題だからな」
 体に鞭打って立ち上がる。吹き飛ばされた時にろっ骨にひびが入ったか、最悪折れたか。しかし、目の前のハウンドは未だに構えを解いていない。まだやるつもりだ。
「ただ俺も万能じゃない。まだルピスに助けてもらう必要もあるし、ルーナも、必要だ」
 再び剣を構える。ルーナは、どんな顔をしているだろうか。面喰ったような顔をしているか、それともいきなりこんなことを言い出して呆れているだろうか。しかし、これだけは言わなければいけない。
「俺が最初人狼になったとき、最初に救ってくれたのはお前だ。お前は俺を利用しようとしてたか、それとも何も考えずに助けたのか、そんなことはどうでもいいんだ。俺にとって、お前が手を差し伸べてくれたことがどれだけ嬉しかったか、わからんだろ」
「それは…」
「だからな、そんな感謝の気持ちもまだ伝えきれてないんだ。お礼もしてない。返しても返し切れないくらいお前に恩を感じてる。だから――勝手にいなくなるんじゃねえ」
 そして、俺はハウンドに向きなおった。言いたいことは言った。もう自分の力にも恐れない。ハウンドがそこまで言うのなら、俺も全力をもって彼にぶつかろう。彼もまた、俺のいない間に血を見るようなほどの努力をしたのだろう。
「もう済んだか」
「おう、待たせたな」
 長剣を再び俺に向けてから、突進する。その速度も、先ほどよりも速くそして無駄のないものとなっている。ハウンドの奴もまだ全力ではなかったということか。なんとも彼の成長がうらやましい。しかし、こちらも強くなっている。一度も負けたことがない相手に負けることはできないだろう。
「行くぜ、ハウンド」
 そのハウンドの突進を、俺は真正面から受ける。冗談に構えて、たたき落とす。そのまま彼よりも速く横に跳び、彼の両足と両腕四か所を切りつける。
「ぐっ…くそ、ったれめ…」
「前やりあった時は腹刺したからな。さすがに同じ場所は辛いだろ。傷も浅くしておいた…だから俺をmぉう追いかけるな、ハウンド」
 ハウンドはそのままバランスを失い、倒れてしまう。しかし、意識はあるようでこちらを見ながらにやにや笑っている。
「そう、その強さだぜ。俺はそのばかみてえな力の手前ぇを聖騎士として、人間としてぶった押してやる、さ…」
 再び俺はハウンドの腹を思いっきり踏みつける。ぎゅう、とハウンドは呻き、そのままおとなしくなる。まあこいつのことだ、まだ死なずに俺を追いかけてくるだろうが、仕方ない。
「さて、ルーナ…戻る――かっ?」
 振り返ろうとした瞬間。
 俺の胸からは、黒い槍が突き出した。
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