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Blancheur … Part4

  この作品は、籠龍の作品「REDMOON」と世界観を共にした作品です。
一応こっちのほうが本編となってますがそっちの方も見ると世界観が上手く補完できると思います。


Part4. Blancheur

Luna side


 ヴェアとハウンドの戦闘は終わった。立っていたのはヴェアだ。安心に胸をなでおろし、彼を見る。聖騎士としての強さと、人狼本来の強さがうまく融合してきている。彼の強さは、やはり私が期待した通りのものだった。
 彼の一言は、私にとっては久々の――救いの言葉だった。彼は私に救われたと言ったが、救われたのはむしろ私のほうだった。ルピスの元を離れたはいいが手掛かりもなく、途方にくれて過ごしていた私の生活に、色を灯してくれた。
 ありがとう、と一言言わなければいけない。私のほうが何倍も救われているのに。
 そしてごめんなさい、とも。勝手に自分だけが先行していただけで、同じ歩みでもともにいけるのだ。
「ヴェア…」
 私の呟きは小さかったが、彼に聞こえたのだろうか。ヴェアは振り向き、安心した表情で私を見る。
「さて、ルーナ…戻る――かっ?」
 その瞬間。
 目の前で起きたことへの反応が一瞬遅れた。それは、戦いの中であれば例え光が瞬くような時間でさえも致命傷にねりかねないのに、私は完全に目の前の後継に呆気にとられていた。
 ヴェアの胸から、どす黒い大きな槍が突き出したのだ。いや、正確に言うと違うだろう。なんとも表現しがたいごちゃごちゃした何か黒いものの集まりが槍のような形を形成している。
「…え? ヴェア?」
 魔法だとわかった瞬間には、私はすぐさま集中し、周囲を警戒する。しかし、そんな私をあざ笑うかのようにヴェアを貫いた槍は黒い小さな粒子のようなものになって散らばっていく。
 胸の槍がなくなったヴェアは、そのまま血を塊ごと吐き出し、地に伏せる。胸からも大量に出血しており、はたから見ても危険な状態なのは丸わかりである。
「妾が命ず、風よ隠されし者を陽の下にさらせっ!」
 風が舞い、そのまま竜巻のようにして辺りを吹き飛ばす。そして、吹き飛んだ草木の中から、一人の青年が顔を出す。服装を見ると、ハウンドやヴェアと同じく聖騎士だった。
「ありゃ、見つかっちゃいましたね。こりゃ予想外だ」
 青年はおどけたような口調で私を見ている。
「いや、新しい技術を使うにはもってこいの機会だったんで試してみたんですが、どうにも弱かったですね」
「妾は命ず、疾風と暴風と烈風よ、彼の者を切りさきひねり、そして押しつぶせっ!」
 彼の言葉も耳には入っていなかった。私はただただ魔法をぶつけるために詠唱の言葉を吐き出す。
 荒々しい風が周囲の草木を刈り取り、巻き上げながら青年へと向かってその暴力的な力をぶつける。しかし、青年は落ち着いて声で傍らに提げた大きな本を開く。
「僕は謳(うた)う、文字よ一矢も通さぬ壁となれ」
 轟々とうなりをあげる風は、真っすぐに青年へと向かう。しかし先ほどの黒い粒子が青年の目の前で集まり、そのまま四角い壁となって彼を守る。私の魔力が次々とその黒い粒子の壁へとぶつかっていくが、異常なまでの強度をほこるその壁を壊すことはできなかった。
「な、なによ…それ…」
 もはや私の力では太刀打ちできない。かなり強い上級の魔法を使ったはずなのに、青年は粒子が再び散っていく向こう側で絶えず笑顔を向けている。
「あなたは、魔女…じゃないけど、魔法を使ってるってことは異端者なんでしょ? なんでそんな人が聖騎士をやってて同じ異端者を傷つけるの…?」
 確かに今のは魔法だった。形式も魔力の流れも、何もかもが私の使っている魔法と寸分違わぬものだった。
 しかし、青年はきょとんとした瞳でこちらをみつめ、まるで今の言葉が自分に向けられているとはわかってないかのように自分を指さす。そして、私の言葉をようやく理解したのかわからないが、突然青年は笑い始める。
「な、何がおかしいの? 私そんな変なこと言った?」
「言ったよ、言った。もうおかしすぎるね。僕が君たちと同じ異端者だって? そんなわけないじゃないか。僕は聖騎士。れっきとしたただの人間だよ」
 それはありえない。魔女でもなければ人狼でもないものが魔法を扱えるなど、聞いたことがない。そんなことができるのは大神くらいなのではないのだろうか。
「そんなことありえない、って顔だね。でもできるのさ。人間の進歩ってのはすごいだろ? ここまで進化すれば人間だって魔法を扱える」
「でも、魔法を扱うことは異端になるんじゃ…」
「ん? そこは大人の世界の事情ってやつでしょ? 神殿は君たち魔女が怖いんじゃない。君たち魔女が他の国の国力となることを恐れているから異端者としているんだ」
 他の国。何の話をしているのだろうか。彼らの言う異端者とは、人間たちの神とは違う神――つまり大神たちのことだおる――を信仰し、その力の恩恵を受けているもののことではなかったのか。少なくとも私が昔生きた時代はそうだったはずだ。
「神殿ってのは結局自分たちの力になるか、敵として牙をむいてくるかのどちらかで判断してるのさ」
 青年は、こちらに歩いてくる。ハウンドはヴェアによって気絶させられ、ヴェアもまた重傷だ。私がどうにかしなければいけない。
「わ…妾は命ず、風よ彼の者の動きを止めよ!」
「僕は謳う、文字よ彼女を縛りつけろ」
 私の魔法もむなしく、彼の魔法が再び勝る。黒い粒子が無数に集まり風をはじき返したかと思うと、そのまま私の手足にまとわりつく。
 そして、そのまま黒い粒子は手かせや足かせのようになる。
「なっ――重っ?」
 突然、肩や背中に岩が乗せられたような感覚に襲われる。見ると、手かせや足かせからは大きな魔力が流れ出ている。そして、その黒い粒子のひとつひとつは小さな小さな文字が具現化したものだった。
「あなたの…魔法は、文字?」
「ご名答! とはいっても僕の魔法ってわけじゃないんだけどね」
 そういって青年は、その手につけている指輪を掲げる。
「僕の名は聖騎士のマタギ。ちなみにこのきれいなきれいな指輪には、”億万文字の魔女”ウェルフェの魂が封印されてる」
「封印、ですって?」
 封印。なかなか聞くことのない言葉だろうに。しかし、私の脳裏にはレッドムーンのことが浮かんでいた。
「そう、封印。すごいでしょ? これが、神殿が目を付けた魔女の効果的な活用法。これがあれば人間でも魔法を使えるようになる。最高の技術だ」
 マタギと名乗った青年は、半ば狂ったように語りだす。どうやら語り好きのようだ。すぐ死ぬような性格のくせに、強さだけは一流の魔女すら凌ぎそうである。
「それだけ饒舌に喋るってことは、よほど自分の腕に自信があるの?」
 私は無理やり立ち上がって聞いてみる。なんとかゆっくりと動くことはできそうだ。マタギは懐からハウンドのものよりもまだ長く細い剣を取り出す。さながらレイピアのようだ。
「もちろん。僕は聖騎士だよ? しかも魔女の力まで手に入れてるんだ。殺す前に自慢くらいさせてよ」
 大きく息を吸う。彼の殺気は確かに身体全体を射抜くようなものである。しかもこちらは彼の――封印されたウェルフェの魔法によって手足の自由を束縛されているのだ。ハウンドに全く歯が立たなかった私には万に一つも勝ち目がない。
「さあ、少しずつ切ってあげるから。楽しませてくれよ」
 マタギが姿勢を低くして突進する。そこへ、横から声がかかる。
「我が名の下に命じる! 氷よ彼を貫き潰せ!」
 巨大な氷柱が三本ほどマタギのところに降り注ぐ。しかし、マタギは直前で後ろに飛び退く。
 そして私とマタギの間に距離が開くと、そこに割って入る人影が出る。
「ルーナ、大丈夫? 私が来たからにはもう安心ですからね」
「ルピス…」
 彼女は少し怒ったような表情で私を見ている。いつも私が自分勝手な行動をした時に、彼女は私をこうやって睨むのだ。切迫した状況なのに、なぜだが安心してしまう。
「これは…噂の“冷嬢の魔女”じゃないか。幻の城から出てきてくれて好都合だよ、あなたも封印する予定だったから」
「封印? 何のこと?」
「こいつ、魔女の魂を指輪に封印して魔法使ってるの…人間なのに」
 私が苦々しく言うと、ルピスはある程度察したようだ。目を細めてマタギを睨みつけると、傍らで倒れているヴェアに気づく。
「そう。よくわかった。つくづくあんたら聖騎士は私をぶちギレさせたいみたいだね…」
「億万の文字に勝てるの?僕の武器はここから無数に出てくるんだよ?」
 そう言いながら、マタギは持っている本を掲げる。確かに、本なら文字は無数にある。それらすべてが武器だとするならば、それこそ異常な強さを誇る。
「我が名の下に命じる、大気よその空間ごと凍れ」
 ルピスの一言で、今まで雪の降り積もる森だった場所が一瞬にして氷漬けの世界と変貌する。
 私は背筋に悪寒が走るのを感じる。ルピスが怒りで魔法を使っている。それが満ち満ちて感じるために、久しぶりという感情すら湧きあがらない。彼女のこの本気の魔力の振動は、そうそう崩れるものではない。
 マタギの方も、さすがに相手の大きさを感じたらしい。少し相手を見据えながら距離をとる。
「へっへ、強いね…でも、強いってことは、僕の力になればそれだけ僕の魔法が強くなるんだろ」
「言いたいことはそれだけ? 今の私ならお前をぶっ殺せるよ。もっとも、私よりもまだ強い子を知ってるけどね」
 言いながらルピスは私の方を見る。私は、すぐさまそっぽを向く。確かに、昔の私ならば――。
「そんなことはどうでもいいさ。今はとりあえずあんたを殺――」
「氷柱(エルムル・)の(ドル・)嵐(アルケル)」
 嵐が場を突き抜ける。その中で私は、何十、何百という氷柱がマタギの周辺に現れるのを見る。
「僕は謳う、文字よ完全なる盾となれ!」
「あんたの力じゃ、防ぎきれないよ」
 ルピスの呟き通り、氷柱は全方位に展開しているのに対し、マタギは前面にしか文字の壁を張ることはできない。その弱点を、私も利用させてもらう。少しでもルピスの役に立たなければいけない。
「足枷(レギリア)の(・)乱風(ブルリア)!」
 その瞬間風はマタギの展開した文字の壁を切り裂きながら彼の足元をすくっていく。
「なに!」
 彼の足を巻き込みながら、切り裂く。そしてまた、彼の体にまとわりつくように彼の体を切り裂いていく。そして、その風に気を取られたのがマタギの失敗だった。
 怒涛の氷柱の連撃がマタギを包む。直撃と同時に白い霧のようなものが辺りを包み、その衝撃で割れた氷が再び氷柱となってマタギに突撃していく。
 何度も、何度も何度も何度も何度も氷柱がマタギのいた場所を貫き、押しつぶし、破砕していく。
 やっと氷柱の攻撃が終わったかと思うと、煙が晴れていく。そこには、マタギの姿すら見えない。欠片も残さないほどに微塵にしてやったのだろうか。
「――逃げられた、ね」
 ルピスが青玉色の瞳を細めて言った。確かに、いつの間にか私を拘束していた魔法も解かれている。どうやら彼は逃げおおせたようだ。あれほどの実力を持った魔法を扱う人間の聖騎士。これからはまた厄介な者に追われることになるかもしれない。
「――そうだ! ヴェア!」
 跳ねるようにして起き上がり、私はヴェアのところまで行く。ヴェアは先ほどと変わらず苦しそうに顔を歪めながら額に汗を浮かばせている。ただ、マタギの魔力に上手く反応してくれたのか防衛本能か、彼は人狼の状態になっており、死ぬことはないようだ。しかし、このまま放置しておくと大変なことになるだろう。
「ヴェア…ヴェアが、ヴェアが危ないよ!どうしようルピス」
「落ち着いて、ルーナ。大魔女(メルティ)の接吻(キス)でヴェアさんに生命力を送ることはできないの?」
「違う…あれは私が大量の魔力を吸い取るだけの魔法だから、そんなのじゃヴェアを助けられない。私が元の姿になったとしてもほとんど相手を傷つける魔法しか使えないし…」
「そうか、それなら私の出番ね」
 錯乱した私を押しのけるようにしてルピスが前に出る。くるりとこちらを見ると、にこりとほほ笑む。
「あなたが教えてくれた旧式の魔法。私は嬉しく思ってるわ…こういう時に何もできずにただ静観しているなんて、もう嫌だわ」
 一瞬だけ、ルピスが表情を硬くする。私の知らないルピスもまた、誰かを亡くしているのだろうか。
「だからね、こういう魔法も探って覚えてみたの…」
「まさか、禁忌魔法――」
 言い終える前に、ルピスは眼を閉じ、集中し始める。私ですらわからないほど高速の言葉で、ルピスは詠唱を始める。
 私の中に、焦りが生まれる。もし私が残していたメモを彼女が読んでいたとしたら、瀕死の者を完全に治癒するという魔法があったはずだ。しかし、自身の治癒とは違い、他人の治癒を行うのは非常に危険でありかつ失敗するケースが多い。それだけ難易度も高いし集中力も使うのだ。
「――白き(ブラン)衣(チュール)」
 その瞬間、ヴェアとルピスが光に包まれる。閃光のようでもあり、また太陽のような光でもある。その魔法は旧式の治癒まほうであり、その分強力な魔法でもあり、そして私が作り上げた魔法の中でも有数の禁忌魔法だった。
「っ――うう…」
 ルピスが苦悶の呻きをあげる。やはりルピスほど魔力をたくさん持っているとはいえ他人の治癒には膨大な量の魔力が必要となる。精神力が削られれば、生命力が削られる。そして段々と体力が落ちてきて、ついには命までもが失われてしまう。
「ルピ…ス…?」
 ヴェアの意識が戻ったのか、薄目を開いてこちらを見ている。傷ももう大分塞がったようだ。
「ルピス、もうヴェアが大丈夫そうだから…だからルピスもそろそろ止めないと…」
「うぅ、う――ああっ!」
 痛みに身を小さくする。光もまた、やむことはなく続いている。
――止められないのか。魔法が暴走している。
 旧式の魔法は、一度発動させると中断させることができないのだ。今の魔法とは違い、勝手のきくようなものではない。それは十分に承知していただろうがこのままでは本当にルピスが危ない。
「ルピス…死なないで…お願いだよ――」
 メルティキス――私が元の姿に戻ったとしても、旧時代の魔法を中止することはできないだろう。それほどに彼女の魔法、”白き衣”は強力なのだ。
「っぅがああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
 突然ヴェアが吠える。音波は衝撃波のように私たちの間を勢いよく通り抜けていく。ただの咆哮がありえないほどの威力だ。
「う、う…ルーナ?」
 ルピスがゆっくりと起き上がる。私もすぐに飛び起きて、状況を確認する。もう、白き衣の魔法は止まってしまったようだ。
「え、なんで…なんで?」
「おまえなあ、俺の力忘れたのかよ…」
 そこではっとする。ヴェアの人狼としての能力のひとつに、咆哮することですべての魔法をかき消してしまうものがあった。
「あ、あぁー! それか! 今思い出した」
「今かよ! 覚えてろよ…」
 ヴェアは少しだけうなだれながら私を見る。しかいs仕方ないだろう。人狼などは個体差によって相当その能力が違ってくる。せいぜい共通の能力といえば超人的な肉体くらいなのではないだろうか。
「でも、本当にルピスが無事でよかったよ…」
「ああ、なんとかなったな。よかったよかった」
「よくないっ!」
 突然ルピスが私の目の前に立つ。じっと見つめるその眼は、やはり怒っている。
「本当に心配したんですよ? ヴェアさんにも迷惑をかけて、こんな壮絶な戦いまで巻き起こして…」
「…はい、ごめんなさい。私が早計でした」
「それに、私がいなければヴェアさんももしかしたら最悪の事態になってしまってましたよ? わかってるんですか? あなたはいつもそうやって他人に迷惑かけないように振る舞っているつもりでそれが一番迷惑かけているのがわからないのですか? 自分がいなくなればいいなんていい気になりすぎです」
 もはや返す言葉もない。ただただ黙って彼女の話を聞き続けるしかない。
「ま、今回はルーナが悪いな…突然出て行くなんて、無茶しすぎだろ」
 その通りだった。まさに、私一人では何もできなかった。しかし、だからといってそのことを気にして一人になるなど、彼らに対して失礼だったのだ。
「――まあ、仕方ないですね。あなたたちを放っておいたらまたいつ危険な目にあうかわかりません。私もついていきます」
「はい、すみませ…え?」
「ん?ルピス、お前今…」
 ヴェアと私、ちょうど頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。そして、しばし彼女の言ったことを十分に認識すると、二人でぱっと笑顔になる。
「ルピス! 本当に? ありがとう」
 がばっと彼女に飛びつく。
「わわわっと、こらルーナやめなって――じゃなくてやめなさい、ルーナ。ええい、離しなさいってば」
 私は嬉しさのあまり、ルピスに頬ずりしている。それを笑顔で見つめるヴェア。ルピスはまだどこかぎこちない様子だが、確実に馴染んできている。
「それじゃあ、行こうか。ルピスの道案内のままに」
「そうだな…今回の奴らも態勢を立て直して追ってくるだろうし、早めにここを発たないと」
 確かに、魔女を封印するなどということは聞いたことがない。神殿が開発した新しい技術なのだろうか。
「まあ、気にしていてもしょうがないですよ。とりあえずは進むしかないです。それに、ルーナもヴェアもこれからは旅と同時に力の扱い方も覚えないといけないですしね」
 ルピスは教師のような目でこちらを見る。
 確かに、ルピスの指導のもとにこれからもっと強くなる必要性がある。そうしなければ、今の私たちではレッドムーンはおろか聖騎士に出すら勝てないだろう。

 私たちは再び歩き出す。赤い(レッド)月(ムーン)に向かって。
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