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RED・MOON~2つ名狩りの魔女~第8章:見えざる者

  {初めに…
 この作品は東風の作品「MELTY KISS」の人狼側からの話です。
 よって、その作品と世界観が同じはずですが、稀に違うところもあるかもしれません。その時は温かい目で見過ごしてください…


 ……では、始まり始まり……

第八章:見えざる者(1)



 それはレントが過ごしたどんな夜よりも黒く、どんな夜よりも静かであった。一寸先に見えるのは闇、鼓膜を震わすのは自らの発する吐息と鼓動のみ。音をたてることも恐ろしい暗闇。それはまるで人の人生にも似ているとレントは思った。まるで先の見えない道を歩いている。自分に何が見えているのか、何を目指しているのかまるで見えず、見当もつかない。そして気付くのだ。自分が何に触れているのか、何を感じているのか。呼吸はしているか、立っているのか。それとも浮かんでいるのか。一切に自分は知らない事を気付く。まるで生まれてきたばかりの赤子のように何も知らない。知ろうとしてこなかった。
 レントは恐怖に駆られ身を抱きかがめる。あくまでそうしているつもりだが、そんなことはしてないかもしれないが。自分の呼吸が荒くなっていく。何かが迫ってくる。途轍もない巨大で、恐ろしい何かが……レントは感じ取っていた。しかし、それが何なのか。一体何を意味しているのかを理解していない。ただ、わかるのは嫌な予感がする。不吉な事が起こるということだけであった。
 迫るモノは日に日に近づき、その気配をすぐそばまで感じることができた。
 そしてこの日、ようやくその不吉な塊を見た。
 ……それは、紅い満月(レッド・ムーン)であった……

★   ☆   ★

 レントはベッドの上に跳ね上がった。全身、大量の嫌な汗をかき、呼吸は上がり酷い頭痛にも似た動悸がした。吐き気も少しある。
 この《アンナマリア》に来て以来、毎晩のように見る夢であった。それは徐々に酷くなり、レントの何とも言えない焦燥感を募らせていた。まるで背中を虫が這うような寒気を感じ続けていた。
 レントの夢や、直感は恐ろしいほどに当たるのだ。時には一国を占うような占い師の見る未来よりも、正確に鮮明に確実に未来を見ることができたのだ。レントが傭兵時代にはこの直感と呼ぶには既に逸している感覚により、誰よりも先に危険を察知しある時は避難し、ある時はそれを好転させてきた。故に彼は魔剣士なのだ。人智を越えるものを持つ彼、そして彼の持つ絶世の美貌もまたその妖艶さに拍車をかけている。黄金色のその髪はまるで王冠を戴く王。死者の魂を常闇へ導く暗黒王さながらと、黄金の瞳は常闇ですら万里先を見通せる塩梟の魔眼のよう。と忌み嫌われ、戦場では不吉の象徴とさえ言われてきた。だがレントはあえてそのことに反論などしない。なぜなら、彼らが恐れるのは当然だからであった。例え彼以外の人間が全員死んでも、彼だけは生き残ってきたのだ。
 しかし、未だかつてこれほどに不鮮明で、巨大な凶兆を感じた事はなかった。その予感は確かにこの《アンナマリア》に振りかかる災厄である。しかし、それが遥か先なのか。それとも明日か。まったく判断がつかない。そしてその災厄の先もまた不鮮明で判断しかねるものであった。
 不安に押しつぶされそうな自分を抑え込み額の汗を拭う。だいぶ落ち着いてきたようだが、嫌な感じは治まらない。レントはベッドの縁に座ると、床に散らかる自分の服を着始める。背中に規則正しい寝息が感じ取れた。レントにとってそれは今、何よりも落ち着かせてくれるものに感じられる。今まで緊張していた体がそれのおかげで一気に落ち着きを取り戻し脱力した。
 早いものでこの《アンナマリア》に来て、既に一カ月近くになる。初めこそ警戒していた魔女達も、だいぶレントに慣れたようだった。彼を見る度にその美しさに思わず息を止め、立ちつくすのは相変わらずであったが。
 不安なことと言えば、ラルドックの動きも少し変であった。何やら独りで最近動いているようだが、詳しいことは教えてはくれなかった。と言うよりも、最近はレントとともあまり話さなくなっていた。魔女達と仲良くしているレントに少々腹をたてているようだった。
 彼は外の空気を吸うために立ちあがると、起きないように音をたてずに動き、戸の所まで行き振り向いた。真っ暗な部屋だが、微かに見えるグッスリな寝顔を見ながらレントは、女性に面と向かって見せたら卒倒しかねないほどの笑みを漏らして、アムネリスの部屋を後にした。


 外はいい風が吹いている。まだ暗く、月も見える。レントはブラブラと渡り廊下を歩きながら天を仰ぐ。満点の星に祝福するように降り注ぐ月光。それを見るだけでレントの不安は晴れあがっていく。肺いっぱいに空気を吸い込んでゆっくりと吐き出す。
 広壮な螺旋階段を降り、巨大な時計を見上げていると、寒気にも似た視線に咄嗟に振り向いた。手はポケットに入れられ、中に入っている銀製のナイフを握っていた。
「誰だ?」
 鋭い問いかけに反応はオズオズとではあったがすぐに帰ってくる。角から現れるランタンを持った小さな影は恐ろしげに震え、叱られた子供のように目に涙を溜めこんでいる。しばらくしてレントもその影の正体がわかり、構えを解く。
「ルディアナか。一体こんな時間に何をしている?」
 小さなルディアナは近づいてくる。
「あ、あの、その、私……ちょっと、おしっこ」
 恥ずかしそうに下を見ながら言うルディアナの様子に、なんだか自分が悪いことをしてしまったように感じ思わずレントは謝ってしまった。
「驚かせてすまない。最近、夢のせいか、感覚が異常なほどに研ぎ澄まされて、よくおかしな気配を感じるんだ。背中が冷たくなるような気配が……」
 笑いかけるレントに怯えていたルディアナも警戒を解き、笑い返してくる。こういった時に、自分の端麗な顔つきが役に立つ。
「それは、仕方ないよ。ここには魔女もいれば、人狼もいる。いろんな波長が渦巻いているから、感受性の強い慣れてない人には少し酔ったような麻痺を起すんだよ」
 説明をしてくれるルディアナはいつもの自信なさげではなく、まるで教壇に立ち生徒達に教える教師のように自身に溢れていた。レントはその様子に少し驚き目を見開いた。ルディアナはそんなレントに気付くと、すぐに顔を赤らめ上目遣いで見ながら口を噤む。
「どうした? ルディアナ。よく知ってるんだな?」
「私は魔法は全然ダメだから……せめてこういった所で頑張らないと」
 いつも苛められているルディアナは、そんな逆境を乗り越えるべく誰よりも自分の得意とする分野の知識を得ようと頑張っている。そんな健気な様子にレントは心打たれた。
「頑張れることが一つでもあるのなら、そいつは幸せ者だ。お前はそれをもう見つけているのなら、それを突きつめそして突き抜けろ。そうすれば必ず人はお前を認めるだろう」
 レントは心から彼女を応援したくなり、柄にもなくラルドックのように諭すようなことを言う。ルディアナは笑って、嬉しろうに頷く。
「だが、こんな遅くを一人で歩くなんて危ないぞ。送ろうか?」
「いいよ。部屋まですぐそばだし。それに……宿舎に男は入っちゃダメだって、リアナが言ってた。特にレントには注意しろとも」
「なんでだよ?」
「ロリコンだからって」
「誰がロリコンだよ!」
 心の底から応援してやるというのは、少し撤回しようと思った。
「じゃ、またね」
 レントは去っていくルディアナを見送ると、またあてもなく歩きだした。
「誰がロリコンだよ」

★   ☆   ★

 教室の一室。実戦学を行う場所であるそこは騒音など一切に遮断される造りになっている。その中でカテリーナは独り旧魔法を練習していた。
 手元にはこっそりとジルベルトの部屋から盗んだ魔法書がある。
「雷帝の矢(アフトケラヴィノ・ヴェロス)!」
 呪文と共に差し出される手の先がスパークし目が潰れるほどに光が生まれた。そして差し出される手が弾き飛ばされ、カテリーナは小さな悲鳴を上げ後ずさる。差し出した右手からは煙が出ており、痺れるような痛みに顔を歪めた。
 旧魔法は、今カテリーナ達が使う新魔法とは一切が違った。まずは魔法を発生させる仕組みから考え直さなければならない。新魔法は自分達の周りにある自然を感じ取り、それを利用してエネルギーを生み出すのに対し、旧魔法はその自然を感じ取り一度それを自らの体に取り込ませ、自らに有効な力へと還元させ体外へ発散させるのだ。つまりこれは体内からのエネルギー放出が激しい。加えて集中力が必要で、少しでも気を抜けば発生しないどころか、暴発して危険極まりない。それを考えれば、新魔法とはエネルギー放出を最低限に、そして安全性が考えられたものとして優れているのかもしれない。しかし、小手先に頼った魔法になってしまった結果、爆発力にかけることは否めなかった。
 カテリーナは後ろで束ねたブロンドを鬱陶しそうに振り払いながら、拳を握る。そして集中し、イメージを固める。自らのエネルギーと世界のエネルギーを融合させるのだ。そして自分の望む力へと変化させていく。
「雷帝の矢(アフトケラヴィノ・ヴェロス)」
 彼女の言葉と共に突き出す手。そしてその手から生み出される青白い閃光は、まるで空想上のドラゴンのように空中を掻き斬り進むと、前に置かれていた人形の心臓部分を貫いた。
 しばらくその光景を茫然として、彼女は見ていた。が次第に自分の行ったことに実感が持ててくると彼女は舞い上がった。
「…できた。できた~!」
 初めて成功したことで、人には決して見せない歓喜を体いっぱいに出して喜ぶカテリーナ。そして、そのままへたれこんでしまった。旧魔法に使う集中力と魔力に疲労の限界がきていたのだ。荒い呼吸に、汗が流れおちていく。
 これを新・旧使い合わせている先生方は流石と言うべきなのだろ。そんなことを思いながらカテリーナはゴロンと床に寝そべり目を閉じた。


 ほんの少し時間は前。カテリーナが魔法に失敗し後ずさっている時。
 そんな様子を見ていたのは……否、見てはいない。感じ取っていたのは目に布を撒くマティレスであった。扉が少しあいている隙間から感じ取っていた。
「何をしてる」
 いきなり声をかけられたが、全く驚いた様子もなくマティレスは暗黒の廊下から現れたレントの方に視線を向ける。
「夜間の見回り。と言ったところだ」
 マティレスは訝しげな目を向けるレントに、笑って返した。レントはそれとなく部屋の様子を窺いカテリーナの姿を確認して、視線をマティレスに戻す。明らかに、怪しいと視線が言っていた。見えない彼ですら、レントが何を疑っているのかヒシヒシと伝わってきた。そんな疑念の目にマティレスは苦笑する。
「そうではないよ。私はそういった人間でもない。あの者は最近よくこの部屋でああして、魔法の練習をしているのだよ」
「ストーカーまがいなことは立派な犯罪。しかも相手はガキだぜ? 変態かよ」
「あの者は少し気になる波を持っている。魔女にしては少々淀んでいるのだ。だから、少し監視しているのだ」
 へぇ~と頷きながらも、軽蔑の眼差しを向けるレントにマティレスは首を振る。
「信じてはもらえんか。しかし事実。あの者の波長はおかしい。時に繊細でありながら、時に人狼のように荒々しい波へと変わる」
 そこまで言って彼は一度言葉を切った。
「その点では、君も同じではあるがね。聖騎士・レント」
「なんだと?」
「怒ることはない。褒めているのだ。そして感心している。君ほどに特殊で不変な波は人間で見るのは初めてであるから。君は生まれながらにしての王だ」
「んなこと言って、話を逸らそうなんて思ってねぇだろうな」
 厳しく言うレントであったが、少々頬の緩みが隠し切れていなかった。
「私は嘘はつかない」
 レントはマティレスの言葉に言い返そうと口を開いた時、扉の隙間から目を追いたくなるほどの閃光が漏れる。思わずレントは手で目を覆った。
 光がやみ、視覚が戻ってきた時、レントも前にいたマティレスはすでに姿を消していた。

★   ☆   ★

 ここに来て一月が過ぎようとしている。この《アンナマリア》の構造もだいぶ把握できてきた。だいたいの構造としては通称《アンナマリア》と呼ばれる城を中心に、三つの塔がある《守護》の塔と《治癒》の塔。そして横に並ぶ三つに守られるように《加護》の塔が建つ。守護と治癒の塔はマグアス、そしてミディアスを二つに分けたグループの宿舎となり、加護の塔にはパルアス組の幼い子達と、担当の教師の宿舎となる。そして授業や、食事、他の教師達の寝泊まりなどのその他は全てこの《アンナマリア》に集中していた。ちなみにこの城の主・アンナマリアは中央、巨大な時計がおかれた空間の螺旋階段を上がった最上階にいる。
 ラルドックは《アンナマリア》にある無数の扉の内の一つに立っている。正確にはそこには扉はない。そこは隠された場所。扉であるはずの場所である。見た目は他とは変わらぬ堅牢な壁。しかし、その向こうには何かある。部屋か、もしくは通路があるはずなのだ。それはラルドックが一カ月かけて城の構造を調べ、構造上そうでなければならない場所であった。
 うまく隠されてはいるが、必ずこの向こうには何かある。確信にも似た思いがラルドックを動かす。
 最近、レントは魔女の一人にうつつを抜かしているが、ラルドックは聖騎士としての責務を忘れてはいなかった。常に逆転のチャンスを狙っている。相手は自分達を敵とみなしていない。それはラルドックにとってはこれ以上にもないほどの好都合である。
 ラルドックは壁を調べる。どうにか開けたいのだが、なかなか開いてはくれなかった。以前、グリフォスから聞いたアンナマリアの宝の話を思い出す。グリフォスの話によれば、それは強大な力を有しているらしい。それがどこまで信用できるかは疑問だが、もし仮に本当ならば。そしてそれを手に入れることができれば、人間は、ここの魔女たちの言うオームは格段に力を持つことになるだろう。そうなれば、人々は魔女や人狼に怯えながら暮らさなくてもよくなるかもしれない。
 そしてラルドックが調べた中で何かを隠していそうな所は、ここを除いてはほかにはなかった。
「何をしてるの~?」
 どうすれば開くのかを考えていたラルドックはいきなり声をかけられたので飛びあがり、振りかえるとそこには小さい体にランタンを持った少女が立っている。確か名前はルディアナ。
「何をしているの?」
 怯えた目でルディアナはラルドックを見ている。彼は必死で平常心を造り上げると、笑みを浮かべて「寝付けなくてね。散歩だよ」と優しく答える。レントほどではないが、なかなかラルドックの笑みというのも有効に使える武器であった。ルディアナはその笑みにだいぶ気を許したらしく近づいてくる。
「さっき、レントもそこを歩いてたよ」
 彼女はラルドックの隣に来ると思い出したように話しだす。
「この壁がどうかしたの?」
 ラルドックの様子に気付いたルディアナは問いかける。
「ルディアナ。アンナマリアの秘宝の話は知っているか?」
 彼の言葉に首を傾げたが、彼女はコクリと頷く。
「知ってるよ。有名な話だもん。アンナマリアのお母さまが《禍の月》に大魔女から預かるように頼まれた物で、それにはすっごい力があるんだって。今でもどこかに厳重に保管されているって言われてて、生徒達も一度は探しまわる物だよ」
「見たことがあるか?」
 それには首を横に振る。
「生徒達は見たことはないと思うよ……でも、ダニア教頭先生や、シャローン先生なら見たことがあるかも、これも噂だけど、先生達が力を出し合って、結界を張ってるんだって」
「結界?」
「うん。結界には三種類あって空間を隔離する物、魔女の力を高める物、そして対象物を隠し守る物があるの。最後のは少し他のとは違って、発生時にある条件を付けるの。例えば、魔法での破壊は不可とか、物理的な攻撃には一切不可とか。まぁ、術者が死んだら同じなんだけどね」
「詳しいんだな」
 ラルドックの言葉に、ルディアナは嬉しそうに、そして恥ずかしそうに笑むと、ぺこりと頭を下げて去っていく。それを見送るとラルドックは結界について思案しながら夜を明かした。



 アポロとポポロンがマーブル達の待つ村まで来た時、急にアポロが足を止める。
「どうしたんすか?」
 ポポロンは険しい顔をしているアポロに首を傾げる。
「血の匂いがする。しかも大量に。計画だと騒ぎは起こさないと言ってたんだが」
「変更になったんじゃないですか? 正体がばれたとか?」
「マーブルがそんな失敗するとは思えないんだがな~」
 アポロは納得のいかない顔をしながらも、ポポロンと共に足を進めた。
 村に近づくにつれ、血の臭いはキツくなる。研ぎ澄まされた人狼の嗅覚には血を騒がすには充分過ぎるほどに濃厚であった。
 村に入る彼らは呆然とする。死体こそなかったが、そこは死臭漂う場所であった。
「場所を間違えたか?」
 戸惑うアポロ達を見つけたのはヴァンであった。ヴァンはポポロンを見つけると、顔を明るくして近づいてくる。
「ポポロン! 来たんだね」
「おお~! 俺の弟分。元気にしてたか?」
 近づくヴァンにポポロンも嬉しそうに親友の肩を叩く。
「誰が弟分だ!」
「何? ちゃんと決めただろ。文句があるのか?」
「ジャンケンで決められて、文句しかないわ!」
 楽しそうに話している二人をアポロは静かに見ていると、マーブルが姿を現す。マーブルはアポロとポポロンしかいない事を確認すると、渋い顔をし全てを悟ったように近づくと、何も言うこともなくアポロと手を掴みあい、互いに抱きしめ合った。互いの無事と、心中を察するようにしっかりと。
「何よりだ。お前が無事で……」
「マーブル。いいんだ。そんなことよりもこれは一体何だ?」
 アポロは周囲を見て言うと、マーブルは表情を曇らせて説明する。コロンの登場と、村人の虐殺。そしてコロンの命でヴァンの飛ばした魔女への伝令。アポロは説明を聞くとドンドン険しい顔になっていく。
「村の事は済んだことだ。だから俺がとやかく言うことではないだろう。だが、魔女の件はどうする? ここに来るのか? こんな血生臭い所ではすぐに気付かれてしまうぞ」
「だから君らの到着を心待ちにしていたよ」
 そこにはコロンがいた。相変わらず小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。
「ホルンの〝支配〟する目があれば、雨で血を洗い流すこともできるしね。しかし、ホルンの姿が見えないねぇ~。つまりそこの子が能力を引き継いだと思っていいのかな? ということはあれだね。惨いねぇ~。さすがアポロだねぇ。同族でも容赦しない……」
 コロンの軽口が途中で途切れた。アポロは何も言わなかった。だが彼の発する覇長と、鋭い眼光はコロンの顔から笑みを消したじろがせるには充分だった。コロンは少々、青ざめながらも「おぉ~怖い怖い」と言いながら視線を外した。
「しかし、コロンのいうことも一理ある。俺達はお前たちを待っていた。特にポポロン。君の力を貸してくれ。まだ力を引き継いで間もないから使いづらいだろうが、頼めるかな」
 マーブルの言葉にポポロンは力強く頷き空を見上げる。
〝空の支配〟
 しばらくすると雨雲が空を覆い、そして大粒の雨が降り出す。
 ヴァンは天を仰ぎ感嘆の声を上げ、マーブルはポポロンの能力の適応に満足した。


 その頃、シャシャ達もすぐそばまで近づいていた。
「おい、シャシャ。いいから降りろ!」
 オリスの背にしがみついているシャシャにアポロの弟・ダースが恐れ多いと言わんばかりに言っているが、シャシャはまったく聞く耳を持たない。
「ほかっておけ」
 アタフタしているダースに、老将と呼ばれるビートが単眼鏡を外し拭きながら言う。顔に刻まれた皺には厳しさが溢れ、ダースはビートに言われたことで落ち着き、静かになる。
 この老将ことビートは、アルタニスの中でも最年長であった。唯一、この集団で百五十年前の〝禍の月〟で大神とともに魔女達を戦ったアルタニスであった。故に、彼の発言力は大きいもので、司令塔であるマーブルがいない今、この集団での先頭に立っていた。
「いやはや、しかし歳は取りたくないな。体が昔ほど動かなくなるのは、恐怖以外何物でもない。勘も思考も鈍ってきて…」
「爺。まだまだボケるには早いですよ」
 ダースはついつい弱音を漏らすビートに軽口をたたくと、ビートはクックックと低く笑った。懐かしむようにダースを見てから。
「当然だ。鈍るといっても、まだまだお前さんのような若輩は負けんよ」
 まるで衰えを知らないような精力的にギラつく瞳に、不敵な笑み。その溢れでる貫禄は、一朝一夕で身に付けられるものではない。思わず圧倒されてしまうダースに、ビートは「だが」と付け加える。
「やはり、この老輩に長旅はちと堪えるぞ」
 そんな軽口に、ダースを含めて周りの数人の者達が笑った。そんな中、神妙な顔をしているルックに、ダースは気付いた。
「ルック。どうした」
 尋ねると、ルックは鋭い目をダースに向ける。
「ダース。もうすぐだ。もうすぐエンシャロムを落とす。俺も目的も達成できる…」 
 その目には複雑な色があったが、ダースはただ真剣な顔をして頷くだけ。
「俺はアルタニスだ。誇り高きアルタニス。俺は、親父を殺した魔女を殺すぞ」
 ルックはそう言うと、視線を外してしまった。
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