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Crash re mound … Part2

  この作品は、籠龍の作品「REDMOON」と世界観を共にした作品です。
一応こっちのほうが本編となってますがそっちの方も見ると世界観が上手く補完できると思います。


Part2.Kuraoe -a guard of the town-

xxx side

 この町に魔女が来るとは思わなかった。しかも、あの古き魔女、デーヴァの知り合いであるようだ。私がこの耳で聞いたのだから間違いないはずだ。
もっとも、デーヴァと知り合いという線が嘘であっても、彼女たちは相当な腕前の魔女であるのは確かであるようだ。もしかしたら二つ名を持っているのかもしれない。
チャンスだ。もしかしたら、考えうる限り最後の。
 とりあえずは、この街に滞在し続けてもらわなければならない。すぐに逃げられてはいけない。自分の能力はこの街以外に出してはいけないものだ。
まずは一人ずつ、確実に――。

Lupis side

 本当にこのメルカトルという街は、商業に秀でている。古くは行商人たちの通り道が交差する露地に、一件の宿をたてたことが始まりというから、その発展の軌跡は想像に絶えない。
 ルーナとヴェアは、それぞれ見たい店があるというのでそのまま別れてしまった。
「それじゃあルピス、またさっきの広場で」
 ルーナはのんびりとした口調で私に手を振った。ここ数日は打倒レッドムーンを目標に、何度も何度も私と模擬戦闘をこなしてきたので、こういった息抜きはちょうど良いのかもしれない。
 ヴェアにしても、久しぶりの活気ある街だ。数日前まではまっとうな人間の騎士だったのだから、たまにこういうところにいないと気分も落ちるだろう。
「二人とも、ちゃんと休みなさいよー」
 自然と笑みがこぼれてしまう。どうやら弟と妹の両方ができてしまったようだ。やんちゃで無茶はするけれど、彼も彼女も大切な仲間なのである。
 それに、私自身少し息抜きもしたいところだと思っていた。
 故郷の氷の館を出てからは小さな集落や村に寄りながらほとんど野宿同然の旅を続けてきた。さすがに私としても疲労を隠せない。
 しかし、ルーナの存在が私をひどく安心させているのは確かだった。もともと妹のような存在であり、また数少ない魔女として信頼できる仲間でもある彼女がそばにいてくれていることは、心の癒しとなる。自分が一人で生活しているときから考えてみると、よく笑い、よく怒る。生きてきた数十年、どちらがより私らしく生きられたかと言えば、間違いなく彼女とともにいた瞬間に違いないだろう。
 しかしまた、別の理由もある。彼女が執拗にレッドムーンを追う理由。そして、彼女の知識――その知識量に反比例したような魔力の弱さ、なにより先ほどの話でもそうだったが、〝破滅のアーク〟という名前に対する彼女の表情。
 間違いないだろう。彼女は〝破滅のアーク〟の深い関係者であるだろう。もしかしたら末裔か、究極的に言えば本人の転生体である可能性も高い。
 魔女から恐れられ、人狼からは災厄の象徴とされ人間には悪魔扱い、果ては自分たち魔女や人狼を創造した存在であるレッドムーン――大神をも滅ぼそうとした伝説の存在。
 それがもしルーナであるならば。
 最近よく思うようになった。彼女の弱さは、ある程度理解していたが、ヴェアの話だと最終的に爆炎の魔女を退けたのはルーナだという。いくら爆炎の魔女が強くなかったとしてもさすがにルーナが〝あのルーナ〟の状態であれば敵うはずもない。
 ここにきて彼女という存在の認識が変わってきたことを自覚しつつある。
 ヴェアとルーナを見ていると、彼らがどれだけ常軌を逸しているそんざいであるかが見て取れる。それと同時に、私はどれほど大多数にいるかが痛いほど伝わってくるのだ。
「確かに、今はまだ私の方が強い。でも…あと何回か実戦をこなせばそれなりに強くなってくんだろうな」
 彼らの上達速度は半端なものではない。ルーナも、現在の魔法をかなり早い段階で習得しただけのことはあるが、それ以上にヴェアの成長速度が異常すぎる。人狼という存在が皆こういった強さを秘めているかはわからないが、模擬戦闘をこなすだけでどんどん動き方を覚えている。もともと聖騎士だったからだろうか。
 彼らが私を越える時。それは彼らが思っているほど遠くない未来なのかもしれない。私は、もう既に自分の限界が見え始めている。もう自分には上がないと知った瞬間――成長は著しくその速度を落とし、ゆるやかに消えていく。
 しかし、彼らはその上というものをどこかで突き破ってしまうのではないかと思える。私は、彼らと出会って大変光栄に思える。家族として、そしてまた未来あるものを導くものとして、彼らに同行することが、楽しい。
「私は、あなたたちと共にあるからね…」
 彼らの顔を思い浮かべながら、そのまま道を歩く。そこに、感じた覚えのない悪寒が背筋を伝う。
「…? なにこれ…魔女でもない、聖騎士でもない…?」
 歩いているうちに、街のはずれにまで来てしまったようだ。建物は少しさびれており、最初に見た明るいイメージの街並みとは一転して廃墟寸前のような印象さえうかがえる。
 道には浮浪者のような者がそのまま建物に身を預けて座り込んでいたり、物乞いと柄の悪い荒くれが喧嘩していたりと穏やかではない。
「どこの街でも、表側と裏側ってのはあるのねえ」
 呆れながらその辺を散策してみる。お決まりの如く、道端にいる者たちは私のことをなめるように見ている。カモがやってきたとでも思っているのだろうか。知らないとはいえ魔女に絡むなんて運の悪い人たちである。
「おいおい、姉ちゃん。ここらへんは来たら危ないんじゃないのか? 金とかいろいろ取られちまうぜ?」
 早速予想通りの展開になる。この男たちが、ただ単に親切な助言をしに来たとは思えない。
 男たちは四、五人で私を囲むと、見下すようにして威圧する。
「ってなわけでえ…身ぐるみ剥がさせてもらおうかい。悪く思うなよ? 姉ちゃん」
 すっと顔を上げると、私は顔を歪ませる。
「そっちこそ、後悔することに――」
「ちょっと待ちな」
 売り言葉に買い言葉、と思った瞬間にその空間をばっさり両断する人物が現れた。その声の主は、男たちの襟をつかんで私から引き離す。
「はいはい、こんな綺麗なお姉さんいじめてたらかわいそうだろ? それとも君たち俺と遊ぶかい?」
 突如現れた青年は、全身に奇妙なイレズミが入っており、いかにも怪しいといった様な風貌で会った。助けられた、のだろうか。
「あん? んだ手前ぇは! いきなり出てきて態度でけえな」
「さすがに見てられないからな。自分の街の汚い所なんて、見せたくないだろ?」
 青年は金色の髪をなびかせてにこやかに告げる。微笑みを絶やさないようなその表情の真意は読み取ることができないが、とりあえず今の状況を見て助けに来てくれたようだ。
「ちっ、仕方ねえな。お前の持ち物から剥ぎとって、ゴミ捨て場にでも捨ててやるよ」
 男たちが青年に向かって構える。さすがに大の大人が五人ともなれば、打ち負かすのは厳しいだろうに。
「あ、あなた…危ないわ。私は一人で大丈夫だから早く――」
「おいおいおい、助けに来た男を追い返すなんて、とんだ礼儀知らずだな」
 そう言いながら、青年は腰を深く落として臨戦態勢をとる。どうやらただの無鉄砲ではないようだが、それでもただの人間には荷が重すぎるだろう。
「名はクラオエ。この街の自称、用心棒だ。お前、名前は?」
 男たちの方を見ながらクラオエと名乗った男は私に叫ぶ。
「私は…私は、」困った。自己紹介などしてもいいのだろうか。
「おいおい、お寝坊さんか? まあいい、ひと暴れしてるうちにちゃんと目を覚ましておくんだぜ!」
  そういってクラオエは男たちの中に飛び込んでいく。それがなんとまあ強い。彼もヴェアと同じくらい強いのではないだろうかと思ってしまうくらいに強い。みるみるうちに男たちを返り討ちにしてしまう。もしかして彼も聖騎士なのだろうか。
「――っくしょお! おい、こいつやばいぞ!」
 情けない声を出しながら逃げていく。クラオエは、その様子を笑いながら見送る。そして、完全に見えなくなると今度は私の方に振り向く。
「さて、目は覚めたかな? お嬢さん」
 手を差し出してほほ笑む。この男、何者なのだろうか。もしかしたら、新手の聖騎士で、魔女を追ってきたのかもしれない。なんにせよ関わるのは危険だ。
「…助けてくれてありがと。それじゃ」
 無愛想だとは思うが、今は敵を増やしたくはない。できれば無関係で終わらせていたい。
「ちょ、ちょーっと待った! そんなつれない素振りないでしょ。せっかく助けたってのに」
「頼んだ覚えはないわ。悪いけど勧誘なら他を当たってくれないかしら」
 そのまま歩きだす。クラオエは何度も追い付き、話しかけてくるが、私が無視を決め込んだことを察してか足を止めてそのまま私を見送る。
「やれやれ…さっきセイと話してたんじゃないのかよ…」
 その言葉に、ぴくりと反応する。
「セイ? セイってあの…小さな女の子?」
 聞き返すとクラオエはため息交じりに答える。愚問だとでも言いたげな態度だ。
「呪われ子、魔の末裔、死神の使い…この街の一部の噂だけどな。彼女のことをこう呼ぶ奴らもいる」
 間違いない。私の浮かべているセイと一致している。その彼女と目の前の彼にどのような繋がりがあるのだろうか。本来魔女はなるべく人と関わらないように人里にまぎれて生活するはずだ。街の人間から迫害を受けている彼女なら尚のことだろうに。
「あーいや、別に皆が呼んでるってわけじゃない。ただ、街の中心に住んでる奴らは…ちょっとセイのことが嫌いみたいでな」
 嫌いで済まされるほどなのだろうか。傍目に見てもあれは生易しいものではないだろうに。歩いているだけで盗人扱いなどいい迷惑だろうに。
「んで、こっちはちょっとセイと知り合いなんだけど。おたくも知り合いでしょ?」
「おたく〝も〟ってことは、あなたも?」
 私が指摘すると、クラオエはわざとらしく口元を押さえ、そっぽを向く。
「あ? …ああ一応な。でもまあ結構嫌われてると思うしな。あいつも覚えてないだろ。近づかないようにはしてるけど」
 この男もよくわからないものだ。しかし、確かに少女が街中からいじめを受けているということには憤慨する。大人たちがよってたかって子供を迫害するなど、恥ずかしいことだろう。
「まあ、あんたは悪い人間じゃなさそうだな」
「ルピスよ。あなたはよくわからない人だけどね」
「はっはっは。手厳しいねえ…ま、話もできたしそろそろ行くか。そんじゃまた」
 クラオエは踵を返して歩いて行く。結局、本当にセイの心配をしていただけだったのだろうか。
「もう柄の悪い連中にはからまれないようにしろよ」
「それはあいつらに言っておいて」
「はっはっは、違いない」
 口の減らない男だ。しかし、どこかヴェアのようでもある。とはいえ、もう会わないだろう。数日休んだら、再び旅に出る身である。
 彼は、振り返ることなく去って行った。
 彼の後姿を見ながら、なんとなく私は彼の姿がぶれているような感覚を覚える。
「…まさか、あいつ…」

Vere side

 ルピスは一人で考えたいことがるからと言って、行ってしまった。残った俺とルーナは時間を潰すために街をぶらぶらと目的もなく歩いている。
「そういえば、さっきの魔女の話なんだけど」
「さっきの魔女? セイ?」
「じゃなくて、昔の魔女で――」
「デーヴァ?」
「そうでもなくて…」なかなか話が前に進んでくれない。
「アークっていったけか? 昔レッドムーンと戦ったっていう魔女」
「ああ、そうだね…」
 渋い反応だ。興味がないのか、それとも避ける理由でもあるのか。どちらにしろ彼女はあまりアークという魔女について触れたがらないようだ。大神と戦った魔女の話なんて今の俺たちに最も必要な話ではないか。
「もしそのアークって魔女のことがわかるんだったらさ、そこからレッドムーンとの戦い方がわかるんじゃないか?」
 思いつきではあるが、結構いい案だと感じた。今は藁にもすがる思いだ。どんなことであれレッドムーンに勝てる確率が上がるのならばそれに越したことはない。
 しかし、この質問に対してもルーナの反応はいまいちだった。
「アークって奴はただのバグキャラだよ。使う魔法の領域は砂と風だけど、自分の得意としない領域でもバンバン扱えるし、思いつきで新しい魔法創りだしたりするしね…私たちのお手本になんて絶対ならないよ」
「そ、そうなのか…そんなに無茶苦茶なやつなのか」
「そう。だから真似するとかしないとか、そういう次元の話じゃないの。私たちは地道に強くなるしかないの」
 アークと違って。僅かにそう呟くのが聞こえた。消え入りそうな、泣き出しそうな声をしていた。
「なあ。そのアークって魔女、お前と何か関係があるのか?」
「なんで」
 予想していたのだろうか。彼女の返答は意外にすぐ返ってくる。しかしその言葉の中にはどこか刺々しいものがある。
「いやなんでって…なんか、避けてるみたいじゃないか。明らかにアークのこと知ってるような言い方じゃないか?」
「そんなことない」
「そうか? 俺が見てる限り、すごく怪しいぞ。怒ってるようにも見えるし…」
「はあ? 私が怒ってる? ヴェア、何言ってるの? そんな話してるよりもまず自分が強くなること考えるのが先でしょうが」
 どうあっても話す気はないようだ。まあ、ここまで頑なならば仕方がない。しかし、彼女がレッドムーンを倒す理由の根本はそこにありそうだ。なんとなく、そんな風に思える。
「ん…おい、ルーナ! あいつら――」
「今度は何――って、この前の聖騎士…?」
 慌てて物陰に隠れる。少し顔を出して覗いてみると、向こう側の通りにある出店の前でハウンドとマタギが立っている。
 先日、ルピスの館を訪ねたときに襲ってきた聖騎士である。二人とももともと俺の同僚で、ハウンドは腐れ縁とでも言うほどに俺のことを目の敵にしている。彼の根性はある意味魔法でもなんともならないだろう。もう一人の美形の聖騎士、マタギは魔女の力を指輪に封じて魔法を使っているらしく、前回はかなり痛めつけられた覚えがある。
「…なんでこんなところにいるんだろう? 私たちつけられたのかな?」
「いや、俺たちを追いかけてくるならもう少し大勢で来るんじゃないか? 前回も何人か部下を連れてたみたいだしな」
「そう…だよね。それなら他に何か理由があるのかな」
 何やら裏で聖騎士が動いていそうだ。ハウンドが俺を目的とする以外の任務で動くのは珍しいが、ないことではない。
 少し話を聞くために、気付かれないように少しずつ近づいていく。
「妾が命ず、風よ我らを隠したまえ」
 ルーナが後ろで呟く。振り向くと、ルーナが人差し指を口元にあててにやりと笑っている。周囲が見えない壁で包まれたような感覚になる。
「近づくんなら、私と一緒のほうがいいよー。こういう時こそ風の魔法ってのは本領発揮するんだから」
 まったく、こいつはスパイでもすればいいんじゃないだろうか。ありがたくその魔法の恩恵をもらい、堂々とハウンドたちの近くまで寄って行く。
「ぁんだよー。ここにヴェアがいるんじゃねえのかよ!」
 ハウンドが突然叫んだために、びくりと体を硬直させる。やはりこいつらの目的は俺たちだったのだろうか。
「だから今回の目的は違うって言ってるじゃないですか。今回ヴェアさんは会えば確保するけど、本題は別のところにありますから」
「なんでだよ! 俺達ヴェア討伐のために組まれたんじゃねえのかよ! おかしいだろう!」
「おかしくないっすよ。聖騎士は等しく異端者の敵となれ、ですから。今はヴェアさんはおいておきましょう」
 マタギはハウンドの肩に手を奥が、ハウンドは無理やりそれを押しのけて、街中で恥ずかしいくらいに叫び倒す。
「うおおおおっ! とりあえずヴェア出て来いやあああっ!」
「やめてくださいっ、恥ずかしいですよハウンド先輩!」
「ホントだな、こいつはいつも恥ずかしいヤツの筆頭だな」
「前からおかしい人だとは思ってたけどこんな恥ずかしい人だとはねー」
「…んん? なんか今変な声が聞こえなかったか?」
 ハウンドがきょろきょろと辺りを見回す。俺とルーナは思わず開いてしまった口を押さえながら、そのまま半歩下がる。どうやら気付かれていないようだ。
「…まあいいか。とりあえず、今回の目的がヴェアじゃねえことはわかった」
「やっとわかってくれましたか…やれやれ。それじゃあ、早速行きましょうか」
 マタギが嘆息しながらハウンドを誘う。しかし、ハウンドはきょとんとした表情でマタギを見据えている。
「ん? どこに?」
「だから…アンタっ、今まで何聞いてたんですか!」
「いや、だから今回はヴェアは二の次だってことだろ?」
 マタギは再び肩を落とす。彼の姿を見ていると、なんだか彼もハウンドに振り回されているのだとかわいそうな気になってくる。おそらく聖騎士の中でもハウンドと組む奴が一番不幸なものだろうに。
 しかし、そうはいってもこのマタギという男。魔女の魂を封印した指輪を使って魔女さながらに魔法を使ってくる。凶悪な人物なのだ。彼のせいで以前俺は瀕死の重傷を負わされたのだ。
「今回は、この街に魔女がいるというのでその魔女を連行しに来たんです」
「魔女ぉ? まーた魔女の相手かよ」
 ハウンドが露骨に嫌そうな顔をする。彼は一度完全な正面対決でルーナを倒しているために、魔女というものに手ごたえを感じていないようだ。
「ただ魔女といっても、今回はそこまで戦闘能力のない、幼い魔女のようですね。魔力もそれほど高くないですし、街の人間に追いやられるようにして生活しているみたいですから、脅威ではないかと」
「はぁー? しかも弱いときた。なんでそんな気の抜けるような仕事を俺らがやらなきゃいけねえんだよ。わっけわかんねえ」
 呆れるようにして頭を振る。確かに聞いている俺でも呆れてしまう。おそらくこいつらが話しているのは先ほど会って話していたセイのことだろう。
 俺から見ても確かに彼女一人を抑えるためにハウンドとマタギという聖騎士二人を連れてくるのはやりすぎな気がする。それとも、以前聖騎士隊がルピスに全滅させられたせいで警戒しているのだろうか。
「さあ? 上の人の意向はわかりませんけどね? 俺にしてみたら聖騎士も魔女の力を蓄えておきたいんじゃないですか?」
 マタギはそう言いながら自分の右手につけている指輪に目を向ける。その指輪こそ、以前の戦いでも使われていた、例の魔女の力を自由に使えるというものだった。
「おいルーナ、あの指輪ってなんなんだ? マタギの奴、あれ使って好き勝手してくれたけどさ」
「知らないよ、あんな技術。確か〝億万文字の魔女〟ウェルフェの魔力が封じてあるらしいけどね。確かにその話は本当だと思うよ。前戦った時のあの強さは、確かにウェルフェのものだったし」
 文字を集合させて、槍や盾のようしたり、足枷のようにしたりして相手を翻弄する魔法を使ってくる。本来聖騎士として相当の戦闘力を持つマタギに、魔女の力が加わるとなると、異常なまでの力を発揮するので凶悪だ。
「…じゃあ、今あの指輪取っちゃえばいいんじゃねえの?」
「その作戦はアリかもだけど。どんな結果になっても知らないよ? 最悪ここら一帯に被害が出るんじゃないかな」
 確かに。魔法というものは小手先のものから広域まで多種多様なものに見える。ここで不用意に騒ぎを起こすのは早計だろう。
 改めて、ハウンドたちの会話に耳を傾ける。
「まーたその話かよ。俺は嫌いだな…そんな魔法の力に頼って強くなるなんてよ。男が頼っていいのはこの体ひとつだろうが」
 ハウンドが力説する。なんとも彼らしいが、正論ではある。異端者を狩る聖騎士が同じ異端の力を使って許されるものなのだろうか。
「そうはいいますけどね。この前だってこの魔女の力使ったのにやられたじゃないですか。魔女ってのはそれほどまでに強いんですよ? 単純に魔法が使えるどうこう、じゃなくて魔女には何か異常なまでの力の源泉みたいなのがあるんじゃないでしょうか――ん?」
 ふいに、マタギが周囲を気にしだす。自分たちに気づいたのだろうか。そう思い、すぐさまルーナとともにその場を離れる。しかし、彼は違うところに意識が向いているようで、特別俺たちに気づいたわけではなさそうだ。
 しかし、これ以上の盗み聞きは危険かもしれない。
「そろそろ行くか? 俺たちも、早くセイに合流しないといけないしな」
「そうだね…ちょっと気になるけど仕方ないか。できればこの街にいる間は鉢合わせしたくないけどね」
 そう言って、俺たちはハウンドたちから離れる。確かにルーナの言うとおり、この街の中では会いたくない相手だ。特にハウンドなんかは俺とケンカすることに命懸けているような馬鹿のため、周囲にどんな迷惑がかかるかわからない。
 安全な位置にまで離れると、ルーナが風の魔法を解く。
「さて、あいつらがここにいるってわかったし。とりあえずは警戒しながら行くしかないね。セイに話も聞きたいし」
 そう言って、ルーナは歩いて行く。俺は、もう一度ハウンドたちがいたところを振り向く。
 彼らも動き出そうとしている。一刻も早く、ルピスたちと合流しなければいけないようだ。今はまだ俺にはそれほど強い力が秘められていない。マタギの魔力には勝てないだろう。
 聖騎士の存在を胸に留めておきながら、ルーナの後を追う。
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