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Crash re mound … Part3

  この作品は、籠龍の作品「REDMOON」と世界観を共にした作品です。
一応こっちのほうが本編となってますがそっちの方も見ると世界観が上手く補完できると思います。


Part3.Raider

Sei side

 家に帰る。久しぶりに一人じゃないことを実感する。デーヴァが――母が死んでからというもの、久しくこのような時はすごしていない気がする。もちろん、魔女とはそういうものだとデーヴァから強く言われていたが、私はまだそれほどの覚悟ができていなかった。
「あ、適当に座ってよ。私すぐにお茶入れるからさ」
 声をかけると、ルピスさんもヴェアさんも、ルーナも各々テーブルを囲んで座る。こういう時が来るだろうと思って我が家を掃除しておいて本当によかったと思う。
「一人暮らしの割には綺麗にしてるんだねー。もしかしてもういい人でもいるの?」
 むふふと笑いながら、ルーナが近寄ってくる。お茶を入れている途中だったので、いきなりの発言にびっくりする。
「何言ってるのルーナ…そんなわけないでしょ」
「ふーん? そう? 魔女だって普通の人と同じように生活したって構わないと思うけどね?」
 ルーナはさも当たり前のように言う。この子は私と同い年くらいなのに、よく世の中を達観しているものだと思う。なぜこういう見方ができるのだろうか。
「そういえば、ルーナって二つ名とかはあるの?」
 気になったので試しに聞いてみる。
「うん? 私は〝そよ風〟のルーナ。んでこっちのお姉さんは〝冷嬢〟のルピス」
 そよ風は聞いたことがないが、冷嬢は聞いたことがある。戦闘に特化した確かな実力を持っている魔女だという噂だ。
「〝冷嬢〟? へえ、本当に? すごいなー、私みたいなはぐれ魔女でも知ってるよ」
 二つ名付きの魔女が二人に、未知の能力を持った人狼が一人。かなりの戦闘能力をもった一行だということは容易に想像がつく。
「そういえば、セイ。あなたはまだ二つ名はないの?」
 ルピスさんに聞かれて答えに詰まる。聞かれた通り、私にはまだ二つ名はついていない。
 私は黙ってうなずく。正直、この面子の中にいると二つ名がない方が恥ずかしく思えてしまうのはなぜだろうか。
「そうなんだ。それにしてはセイの魔力はやけに高いみたいなんだけど」
「あ? あ、ああ…そうなんだよね。最近やけに魔力が高ぶるっていうか。変に感情が昂ぶる時があって…」
 感情の昂ぶり、というよりは魔力の異常なうねりを感じる時が多い。何故かはわからないが、破壊衝動にも似ている気がする。
「ふーん? なんでだろうな…。ああ、それよりもこの前の聖騎士がいたぞ。なんかセイのことを探してたみたいでさ…気をつけた方がいいぞ」
「聖騎士? って、えーと…なにそれ?」
「ん? 聖騎士を知らないのか?」
 ヴェアさんが驚いたように私を見る。頼むからそんなに奇異のまなざしで見ないでほしい。
「は、恥ずかしながら…」
 ヴェアさんは、ぽつぽつと聖騎士について語りだす。数十年前から神殿が設けた軍のようなもので、様々な力を持った異端者に勝るとも劣らない実力を持った精鋭部隊らしい。主に異端者――私たちのような魔女や、人狼を相手にするために日々鍛えている集団だという。
「ふーん…そんなのがいるんだ。そんなの母さん教えてくれなかったよ。それに人と関わらないで生活してるから、そういう情報には疎いんだよね」
「まあ、ちなみに、俺も聖騎士だった」
 ん? 一瞬ヴェアさんの言葉に反応できなかった。ヴェアさんもまた聖騎士で、人狼であると。どういうことなんだろうか。
「まあ諸々の事情はあるんだけどな…機会があったら話すよ」
 なにやらいろいろと事情が深いようだ。まあとりあえずは彼女たちはかなり物知りであるらしい。少なくとも私なんかよりはずっと。
「それで、聞きたいことがいっぱいあるんだけど――」
 そこからは、私の質問タイムだった。外の世界のこと。主に魔女とか人狼とか、そういった人たちの存在を私はほとんど知らない。普段どんなことをしていたのか、私と同じ境遇に悩んでいたり、私と違う環境で育ったということをいっぱい聞かせてもらった。
 夕飯が終わるころには、もうヴェアさんもルピスさんもルーナもしゃべり疲れていた。
「セイ、好奇心旺盛なのはいいことだけどさ、ちょっと休憩しよう? 今度は私から質問してもいい?」
 答えることにも疲れてきたようだ。ルーナが身を乗り出して私に尋ねる。
「ねえ、デーヴァは…あなたにどうやって接してた?」
 突然話が母のことになったので、慌ててしまう。
「お、お母さん? そうだね…お母さんのことか」
 いきなり言われてもすぐには浮かばない。どうやって語ったらいいものか。
「そ、そうだね…お母さんは――」
 お母さん――デーヴァは、自分が非常に力を持った魔女だということは、自分からは決して言うことはなかった。ルーナが言うように、抜け目なく、自分が魔女であることを誇りに思い、誰に臆することもない、晴れ晴れとした存在だった。
「私は、お母さんが自慢だった。ルーナとかが知ってるくらいすごいとは思わなかったけど、それでも私はお母さんはすごい魔女だって思ってた」
 彼女の魔法の領域は〝重力〟だった。しかし、噂に名高いアークと同じで、自分の不得意な分野の魔法でさえも軽々と使いこなしていくさまは圧巻だった。私なんて、母にならって重力の魔法を使うのがやっとだったのに。
「確かにデーヴァもある程度の魔法は使えたねえ…」
ぽつりとルーナが呟く。調子に乗って私は口が滑らかになっていく。
 母は、私が十五歳になったときに突然倒れてしまったのだ。病気になったわけじゃない。怪我があるわけでもなく、なぜか倒れてしまったのだ。
「なんでだ? 魔女特有の病気でもあるのか?」ヴェアさんが口をはさむ。しかし、ルーナは首を横に振る。彼女は本当のことに気付いているのだろうか。
「デーヴァはもともと原因不明で倒れる時はあったはずだよ。昔の魔女は多分、皆知ってるはず」
 後から母に聞いてみると、その通りだった。私が生まれて十五年はなんとか落ち着いていたのだが、ある日突然、彼女の体の中の悪魔が出てきたらしい。
「レッドムーンの手下との戦いで、体に悪魔を埋め込まれたって言ってた。たぶん、お母さんは死ぬことはわかってたんじゃないかな」
 母は、亡くなるその直前まで普通の生活をしていた。朝ごはんを私の分まで食べ、私に魔法を指導し、昼間なのにぼーっと寝ている。そんな生活の中で彼女は静かに逝ってしまった。
「そうだったんだ…デーヴァはその悪魔と静かに戦ってたんだね。うん、そっか」
 ルーナは微笑みながら、目を閉じる。追悼の意を表しているのか、その姿勢は妙に穏やかだ。ルピスさんもヴェアさんも穏やかにその話を聞いてくれた。
「セイは、このままずっとこの街に住んでるつもりなの?」
 ルピスがふっと、そんなことを切りだす。確かに、この件はある程度予想していた。人狼に魔女二人というアンバランスな組み合わせで旅をしている彼女たちは、なんだか目的を持って動いているように見えてとてもうらやましい。
 私も行けたら――などと思ってしまうが、しかしそれは良いことではないだろう。私がついて行っても実力が追い付かない。
「そう、だね。このままこの街にいるつもりだよ」
「でも街の人たちとか、あんまし愛想よくないんだろ?」
「んー、でもまあ行くあてもないしさ…」
 少し笑いながら受け流す。確かに外の世界には興味がある。しかし、中途半端な魔女が一緒にいてもやりにくいだろう。
「まあ、気にしないでよ。ルピスさんもヴェアさんも、気づかいはありがたいけど…私だと足手まといだし」
「そう? 十五歳過ぎたんなら、そろそろ頃合いだと思うんだけどな…。あなた、最近妙に魔力が昂ぶることがあるって言ってたでしょ?」
 私は黙ってうなずく。確かに、先ほど自分で言ったことだ。時折、自分自身の〝圧力〟に耐えきれなくなる時がある。
「魔女の一応の成人は十五歳。そこからまた成長していって二つ名がついたり、強力な魔女になっていったりするんだけど」
 ルーナは私を見る。透き通ったような瞳だ。きっと魔法を使う時には澄んだ色が浮かんでくるのだろう。彼女は私の瞳を見つめながら、確かめるようにして言う。
「うん、やっぱりデーヴァの娘だね。彼女の力や魔力が強く受け継がれてる。こりゃ、ひょっとするとかなりの使い手になるかもしれないよ」
「おだてても何も出ないよ。お母さんみたいになったら、そりゃ嬉しいけど、私は現状で満足してるし」
 両手でルーナの頬を引っ張る。柔らかい感触で、よく伸びる。まるで魔女ではない、町の娘のように自然な振る舞い方を見ていると、不思議な気持ちになる。
「ルーナはおだててるわけじゃないわよ。確かに、あなたの力は隣から見てても余りあると思う」
 横からルピスが参加してくる。ヴェアは、こういった魔法関係にうといのだろうか、話には積極的に参加してくる気配はない。
「ただ、使い方を知らないみたいね。消費しきれない魔力がちょっとずつ溢れてる」
 くすりと柔らかく微笑みながら私を見つめる。なんとなく、お母さんに近いものを感じる。時々私を見ては、今のようにして見つめてくる。どういうことなのだろうか。
「魔力が溢れるから、知らず知らずのうちに不思議なことが起きる。それが噂になったりして聖騎士や異端警察がやってくる。未成熟の魔女はそういったことから処刑されやすいのよ」
「もちろん、完全に人里離れたところに住んでいるような魔女は人の目に触れる心配もないから、ゆっくりと力を熟成させていけるんだけどね」
 どっちにしろ、人間の隣では魔女はまともに生きることは難しいらしい。よほど強力な魔女でなければすぐにぼろがでてしまうらしい。
「だから、私たちとじゃなくてもいいから、ある程度名の知れた魔女のところに身を寄せた方がいいよ。自分の魔力を上手に操れないとまともに生活すらできないし」
 うむ。そうだったのか。それは知らなかった。
 母は死ぬまでに十分な時間があったのだが、魔法に関して深いことはほとんど話してくれなかった。
 そのことを伝えると、ルーナは大きく嘆息して呆れたようにして私を見る。
「親バカか…たぶん魔力が抑えられたままセイが成人することを望んでたんだろうけど…自分の血を甘く見すぎだっつの。セイにあれほどの魔力が受け継がれてないはずがないだろうに」
 母なりに、険しい人生を送ってほしくはなかったのだろう。
 それはわかる。生前彼女は魔女であることを誇っていたが、私が魔女になりたいというと妙な表情をしていた。
「そうか…魔女として生きるなら今のままじゃいけないんだ」
「そう。それに、今のセイに足りないのは自信だけだと思うよ」
 ルーナは私を見る。
私はそれに答えることができなかった。だって、そうだろう。今まさに二つ名を持った凄腕の魔女が二人と、人狼の青年一人を目の当たりにしたのだ。自分との実力の違いなんて歴然だ。
「あの…さ、もうこの話は終わりにしよう? しょうがないことだから」
 私はそのままテーブルの上の食器を持ちながら、部屋の奥に逃げるようにして去っていく。ルーナもヴェアもルピスも、まだまだ何か言いたそうだったがそれでも私にこの街を出る意思がないことは伝わったようだ。
「でも、ありがとう」

Vere side

 消え入りそうなお礼を言って、セイは奥へ行ってしまった。
 俺は、ルーナとルピスを見比べながら、立ちあがる。
「んで、これからどうするんだ? セイのことは保留にしても、これからの方針を決めなきゃいかんだろ」
「あー、そうだね。ルピス、まだレッドムーンの正確な位置はわからないの?」
「ん、そうね。私も調べてるけど、やっぱり大まかな方向しかわからないわね。近づいていけばわかることもあると思うんだけど」
 ということは、これまで通りだ。修行しながらレッドムーンのあるいた道の上を追う。
「んー、なんか解決になるのか? ただ追っかけるよりも、どっか目的地があるならそこに向かった方がいいと思うんだけど」
 俺がそう尋ねると、ルピスはやや怒気をはらんだ表情で微笑み、ゆっくりと口を開く。
「それがわかればね? 私たちも頑張って調べてるんだから、そんな意地悪なこと言わないでくれる? あんましひどいといくら私でもヴェアのこと氷漬けにしちゃうわよ?」
「すみませんでした…」
 その勢いに負けて、さすがに口を閉ざしてしまう。しかし、結局のところ俺たちが旅している目的はレッドムーンと会うことだ。ルーナとしてはレッドムーンを殺す、とまで言っているが、大丈夫なのだろうか。聞いている話ではなんとも勝てそうにない話に思えるのだが。ルーナには何か秘策でもあるのだろうか。
「とりあえず、修行しながらレッドムーンを探す。これに尽きるよ」
 ルーナは胸を張っている。とりあえず前進あるのみらしい。仕方がない。レッドムーンはどれほどの強さなのだろうか。
『オリス様に刃向かうってのか? おい…』
 頭に響くような声がした瞬間、俺たちは即座に臨戦態勢に移る。すぐに木の窓が割れ、何かが飛び込んでくる。
『よお…こんなところにいたのか。お前らのことは知ってたぜ。自分の周りを嗅ぎまわっているおかしな鼠どもがいると、オリス様が仰っていた…』
 髪をオールバックにした、いかつい顔の男が突然入ってきて俺たちをゆっくりと見据える。
「人狼…?」ルーナが呟く。
「誰だ…オリスって、なんだ? なんの話だよ…」
 俺は突然入ってきた男に警戒しながらもそのただならぬ雰囲気にどことなく近いものを感じていた。
「オリスってのはね…レッドムーンの数ある名前のひとつだよ。一番名前らしい名前だから、側近の奴らは親しみを込めてオリスっていうんだけどね」
 ルーナが男を見ながら苛立たしそうに言う。ルピスも、入ってきた男がただのごろつき出ないことは理解しているようだ。
『んー、とりあえず魔女が二人に…そっちは人狼か? なんで人狼がオリス様を嗅ぎまわるようなことしてんだ? 手前ぇならオリス様も快く迎えてくれるだろうによぉ』
 相変わらず頭に声が響いている。鬱陶しいことこの上ないが、相手側のカラクリがわからない以上は、踏み込むことは得策ではない。ルピスとの修行でよくよく習っていたことだ。
「二人とも、まずはこいつを連れて場所を変えましょう…セイも町の人も、巻き込むわけにはいかないわ」
 ルピスが小声で呟く。しかし、それが聞こえたのだろうか、男がにやりと妖しい笑いを浮かべてルピスを睨む。
「他人の心配よりも、自分の心配をしたらどうだ? ええ?」
 今度は、男が口を開けて喋る。頭に響いた声と同質のものだ。おそらく彼が何らかの念力で話しかけたのだろう。
「気を付けて。人狼の能力は魔女とは違って独特でとらえづらいから。下手すると相手のペースだよっ」
 ルーナが離れたところから指示を出す。それとなく、セイの方に背中を向けつつ、それでも警戒をとかない。
「ふん、とはいえここでやり合うのもめんどくさいな。異端警察に、聖騎士…加えて他にも魔女が一人いるみたいだしな」
 セイのこともハウンドのことも的確に見抜かれている。
「いいぜ。場所を移すか…着いてこいよ」
 そう言って、男は入ってきたときと同じように不作法なまま窓から飛ぶ。俺は、迷わずその後に続く。もし彼が人狼だとしたら、俺は初めて俺以外の人狼に出会ったことになる。少し興味があるのだ。
 周囲への警戒を続けるルピスとルーナは、そのまま俺の後に続く。

Sei side

 部屋を出ると、すぐに異変に気づく。割れた木の窓に、椅子が乱暴に倒れている。そして、そこで異常なまでに何事もないような無表情を保っているルーナの姿。
「…る、ルーナ?」
 私が話しかけるもルーナは何も返事をしない。私が食事を下げている間に何があったのだろうか。
『セイ。わけあって私たちはすぐに旅立つ。追わないでね。できれば一緒に行きたかったけど、そうも言ってられないみたい』
「な、何を…」
『デーヴァの話ができてよかった。ありがとう』
 その言葉を最後に、ルーナの姿は風に溶けるようにして消えていく。どうやら風を使った魔法だったらしい。
 すぐに旅に出ると彼女は言っていた。確かに、彼女たちはただならぬ目的を持って行動しているようだし、そういう突然の別れはある程度予想していた。しかし、この部屋の状況を見るとなんとも奇妙な違和感を覚える。
 窓は、外側から壊されたような形跡。そして、押し入られたような跡。窓が壊されたというのに、私には何も聞こえなかった。どういうことなのだろうか。
「ルーナ…?」
 名前を呼んでみるも、言葉だけがゆっくりと流れていく。
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