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Crash re mound …Part4

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Crash re mound … Part4

 この作品は、籠龍の作品「REDMOON」と世界観を共にした作品です。
一応こっちのほうが本編となってますがそっちの方も見ると世界観が上手く補完できると思います。


Part4.VS Werewolf!!

Luna side

 村からかなり離れたところに位置する、小高い丘までやってくる。ここならば多少暴れても被害は少ないし、そうそう人が駆けつけることもない。
 敵ながら、あの男は上手い場所を見つける。むしろ、最初からこの場所で戦うつもりだったのか。
 しかし、驚くべきはやはりヴェアも含めた人狼の脚力と体力だった。私たち魔女は魔法を使ってほとんど浮いているに等しい状態で移動したから疲れもないのだが、彼らは走り通しでここまで来て息ひとつ上がっていない。
「さて、と。んじゃおっぱじめるか」
「その前に、ひとつ聞きたい」
 男が戦闘の構えを取るが、ヴェアはそれを制止する。
「なんだよ。これから、って時に…」
「お前、人狼なんだよな。レッドムーンに人狼にされたんだろ?」
「ん、まあそうだな」
 ヴェアの質問に男は構えを解く。
「なんでレッドムーンの仲間になってるんだ? お前は人間に戻りたくないのか?」
「人間か。別に、未練はないさ。力の使い方さえ覚えれば下手に暴走することもないし、それどころか人間以上の力だって身に付くんだお得なことばっかりじゃないか」
 男は、手を広げて自慢するように言う。どうやらヴェアとの考え方の違いが深いようだ。こういう男はレッドムーンのような奴にとっては御しやすいだろう。
「お前。名前は…?」
「アルフだ。そういう手前ぇはなんて名前だ?」
「俺は、ヴェアだ」
 それが最後の彼らの交流だったのだろう。爆発したようにして両者はぶつかり合った。彼らはそのまま肉弾戦に流れていき、連打と防御の撃ち合いを続ける。
「ルピス、どうしようっ!」
「う、うーん…あんなに接敵されてると魔法が撃てないんだけど…ヴェアはわかってるのかしら…」
 ルピスも困ったようにしてアルフとヴェアを見る。
「気持ちが――ざわついてるんだろ」
 後ろからもう一人、男の声がする。その声に、一瞬にしてルピスの表情が凍りつく。
「ヴェアって人狼…多分初めて人狼と会ったんだろ。そのせいで意識しなくていいことにまで意識が向いて、やきもきしたんだろうな」
 ゆっくりと近づいてくる。私は、その男の顔を見る。男は、黙ってルピスを見つめながら、彼女のすぐ後ろで立ち止まる。
「クラオエ」
「よお。数時間ぶりかな、ルピス」
 クラオエという男は、そのままルピスを見ている。
「どういうこと…? ルピス、知り合い?」
「…別れて行動してた時にちょっとね。でも、まさかクラオエがここにいるなんてね」
「ん? そうか? 俺は街の用心棒だからな。雇われればなんでもするぜ」
 そういって、クラオエは臨戦態勢に移る。どういうことか、まったく状況がつかめていないが、どうやらこのクラオエという男、敵であることは確かなようだ。
「ルピス? どういうこと? この人は敵なの?」
「…敵、みたい。しかも、この人も人狼」
「えっ――」
 私が返事をする前に、目の前を巨大な氷柱が通り過ぎていく。振り返ると、クラオエのいた場所には何本もの氷柱が立っている。一瞬にしてルピスが魔法を使ったのだ。声すら聞こえてこなかった。
「ルーナ。あなたはヴェアとあっちの人狼を。こっちは――わかるでしょ? 私は一対一のほうが楽なの」
 私は黙ってうなずく。彼女なりに何かあるようだ。
 私はヴェア達の方へと視線を移す。相変わらず肉弾戦の嵐である。ヴェアは時折腰の剣を抜いて戦うが、何かを感じたのかすぐに引っ込めてしまう。
 相手が丸腰なのだから剣での戦いのほうが有利なはずなのに、どういうことだろうか。
「ヴェアっ! 剣での戦いのほうが有利じゃない?」
「つっ! こいつ、変な声でこっちの動きを見破ってくるんだよ! 戦いにくい!」
 変な声、とは先ほどの頭に響くような声のことなのだろうか。どういうことかよくわからないが、どうやらあの人狼の力で行動を制限されているようだ。
「おいおい、こっちがタイマンで戦ってるってのに、そっちは魔女の援護が入るのかよ」
 アルフが余裕の表情でこちらを見る。自分に絶対の自信を持っていそうな表情だ。しかし、ここで彼の挑発に乗っても仕方ない。
「ふん、言ってるといいよ。私たち二人を相手にできないんだからそんなこと言ってるんでしょうが」
 しかし、アルフはくくっと笑うとそのままヴェアとの戦闘を続ける。仕方ない。何か罠がありそうだが、ここは私が援護するしかないだろう。
 瞬時に魔力を集中させる。瞳は吸い込まれるような翡翠色に染まり、魔力の昂ぶりを感じさせる。
「妾は命ず、風よヴェアの体を軽くしろっ!」
 私の魔力が空気中に流れ込み、奇妙な歪みにも似た力場を形成する。その力場は次第にヴェアの周囲に集まり、そのまま彼の体にくっついていく。しかし――。
『黙れ』
 魔法は、頭に響くその一言によって、霧散する。私の魔力はそのまま宙に消えてしまった。
「どういう、こと?」
「こういうことさっ!」
 アルフが一気に距離を詰める。前に聖騎士のハウンドにも同じようなことをされたが、段違いのスピードだ。一瞬のうちに私の背後にまで距離を詰めると、既に手刀をふりかざしている。
「させねえよっ」
 私を押しのけるようにしてヴェアが前に出て、その手刀を受け止める。しかしアルフはヴェアを眺めながらまだ笑みを絶やさない。
「まだまだ未成熟な人狼だな。自分の能力すら自覚できねえなんてな」
「っるせえっ! お前一体なんなんだよ!」
 ヴェアは拳を繰り出すが、その全てが受け止められる。
「お前と同じ、人狼だよ。しかももしかすると――」
 アルフの声は次第に小さくなっていく。私は地面にたたきつけられて、そのまま顔をしかめる。どうやらアルフの能力は魔力無効化らしい。
 なんとも魔女には辛い相手だ。
「ヴェアっ! そいつ私の魔法を無力化させてくるよっ!」
「なにっ? んじゃこいつの相手は俺に任せろっ」
「無茶言わないでよ、一人でどうにかできるほどヴェアは強くないでしょうが!」
 ヴェアがアルフの腹部に一発蹴りをかます。その勢いで、アルフは地面にたたきつけられる。
「強くないとか言うな! 俺だって強くなってんだからよ!」
「りょ、りょーかい、りょーかい」
 ヴェアの迫力に圧される。まあ確かに、私も魔法を封じられているわけだし、この場で彼に加勢できるものはいない。
「私、どうすりゃいいのよ…」
 ルピスもわけありのようで、手を加えにくいし、孤立してしまった。
 しかし、そんな嘆息と同時に、私は後方でなにかの物音に気づいた。

Lupis side

「動きが鈍くなってるんじゃないか? ルピス」
 嵐とでも表現できるほどの氷の中を、クラオエは優雅に進んでくる。時折隙を見て氷の塊をぶつけても右手ではじいてしまう。
「アンタの目的は何っ? どうしてあの人狼の味方をするの?」
「言っただろ。俺はあいつの用心棒ってわけだ。別に魔女なんてあいつの相手にならないだろうけど、これは俺の気まぐれだ」
 クラオエの人狼としての能力はわからない。もしかしたら、なんらかの特別な条件が必要なのかもしれないが、それを抜きにしても人狼として完成されて戦闘能力を持っている。
 私は魔力を集中させる。瞳に魔力がたまり、その色は透き通るような青玉色へと変化していく。
「氷柱(フェウ)っ! 氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)っ!」
 口の動きと共に無数の氷柱が現れ、その鋭利な刃先がクラオエを襲っていく。はじきとばす間もないくらいの氷柱が彼を襲う。
「うは、こいつぁ…ちと、くるね…」
「ルーナとヴェアを傷つけるってんなら、容赦しないわよ」
 私は一瞬にして氷の槍を作り出すと、彼の胸めがけて深々と突き刺す。彼の胸から血が吹き飛び、手ごたえは確実なものとなる。
「アンタがどれだけ強力な能力だとしても、一対一で私には勝てないわ。私は〝冷嬢〟ルピスよ」
「かはっ――ぐぁ…っくくくく…」
 吐血しながら、クラオエは笑いだす。その笑いが不気味であり、また彼の不思議な余裕を感じさせる。
「な、何…――っ」
 私が彼を見ると、一瞬にして全身に衝撃が伝わる。
 一瞬、彼のなんらかの能力かとも思ったが、違った。純粋に強烈なパンチをもらったのだ。骨がきしみ、内臓がつぶされそうな感覚のまま私は吹き飛ばされる。
「はっはっは、やっぱり魔女ってのはもろいもんだなあ。俺はこんな攻撃受けても痛くもかゆくもない」
 今度はこちらが血を吐く番だ。クラオエは、私が刺した氷の槍を自分の胸から引き抜くと、そのまま力を込めて砕く。
「魔女が接近戦挑むなんて、らしくないね」
 見ると、彼の胸の傷はふさがっている。それどころか、服が裂け血がにじんでいるだけで、彼の肉体には傷らしい傷はひとつも見当たらなかった。
「そうか、アンタ…、再生の能力か…」
 肺がきゅうっと締まるような中、私はゆっくりと立ち上がる。再生の能力なら、あの余裕っぷりも納得がいく。しかし、そんな手品も一回見てしまえばタネはわかっている。
「そうさ。これは言わば最強の盾ってやつさ。俺は脳さえ生きていれば再生することができる」
「くっ――はっ、私にそんな弱点ばらしちゃっていいの? 今の氷の槍で、今度はアンタの脳天ぶち抜いてやるわよ」
「そうでもないさ。頭のガードはしっかりしてる方だからな」
 再び氷の槍を生み出す。ある程度の簡単な魔法ならもう既に詠唱なしで扱うことができる。
「それに、同じ戦法で挑むなんて、〝冷嬢〟らしくないな」
「そうねっ!」
 氷を身にまといながら突撃する。身体全体が痛みでずきずきしてくる。動くたびに悲鳴が上がるようだが、一直線にクラオエに向かう。
「人狼の一撃は重いだろ。魔女だって、魔法を使わなければ通常の人間と同じだろう」
 クラオエも構えをとって迎える。頭は確かにガードされるかもしれない。しかし、私だってルーナとヴェアを相手に常に優勢を取ってきたのだ。
 槍を振りかぶり、突き刺す。クラオエは右手一本を全て捨てた覚悟でそれを受け止める。右腕に槍が刺さっていき、そのまま肩から穂先が飛び出す。
「うっ、ぐう…やるじゃんか。でもなっ!」
 しかし、すぐに彼の左拳が飛んでくる。攻撃に集中していた私はそのまま完全に脇腹に受けてしまう。骨が音を立てて折れ、一瞬意識が遠のく。
「なんだよ。もう終わりかよ」
 クラオエは落胆したようにこちらを睨む。しかし、私はまだあきらめてはいなかった。
「―――白き衣(ブランチュール)っ!」
 私の身体を白い霧が包む。まるで衣をまとったような姿のまま、私の体は完全に修復されていく。私の奥の手、完全な肉体の修復を一瞬で行う禁忌魔法だ。
「はっはっは! やるじゃないか! 〝冷嬢〟っ!」
「まだまだよ」
 槍から手を離すと、すぐに二本目を取り出す。そして、再び彼の頭を狙う。
 予想通り、彼は同じように左腕を犠牲にする。
 私は次なる槍を作り出す。最後はありったけの魔力を込めて。
「我が名の下に命じる! 氷よ必殺の矛となれ!」
 言葉に魔力を乗せ、周囲の氷を収束させる。今まで以上に硬く、鋭利なその矛を私は手に取り、すぐに刺突する。
「おいおい、なめてもらっちゃ困るな! こんなんで右腕と左腕を無力化したつもりか?」
 クラオエは、槍が刺さったままの右手と左手をそのまま前に出し、盾に使う。彼の両腕は既に再生が始まり、刺さったままの氷の槍を溶かしてきている。
「――まだまだ、って言ったでしょ」
 私はその腕ごと槍で貫く。彼の硬質の腕が、両腕とも盾にされているのだ。確かに貫く事が難しくなっている。しかし、私は自分の魔力全てを費やし、声高に叫ぶ。
「我が名の下に命じる! 氷の矛よ全てを貫く力となれ!」
 私の言葉に呼応するかのように矛は錬度を上げていき、彼の腕を削り取っていく。
「氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)氷柱(フェウ)っ!」
 氷柱もまた無数に現れ、彼を襲う。私が言葉を乗せるたびに勢いはさらに増していく。魔力の過剰放出で意識が途切れそうになるが、なんとか保ち続ける。ここでどうにかしないとこの強力な人狼を倒せないだろう。
 私の矛と、彼の盾、この矛盾する勝負は、突然終わりを告げる。
 ぶちっ、と私の頭の中で音がする。血管が切れるような、重い音だ。やばい、やばい。ついに――魔力が切れた。
 私は力なくそこに倒れる。氷の矛も、氷柱も、氷の嵐も、全てそのまま溶けてなくなっていく。私の魔力と同時にそのままなくなってしまった。
 残る力で顔を上げると、クラオエはぼろぼろの両腕で立っている。
「く、くそ…ここまでして…」
「っく、さすがに今のは応えたな。まさかあの一瞬に全ての魔力をぶっ込んでくるとは…ふむ、さすがに腕の再生にも時間がかかるようだな」
 自分の両手を見ながら、そう呟く。私は、負けたのだ。人狼とはかくも強いものなのか。
「俺に負けたからって自信をなくすなよ。俺は最も古い人狼の一人だぜ? あのデーヴァとも会ってるしな」
 ぴくり、とその名前に反応する。
「あ、アンタが…デーヴァに呪いをかけ、たの…?」
 私が睨んでも、彼は答えない。最古の人狼ということはレッドムーンと肩を並べていただろう。よく今の世まで生きていたものだ。
「ん。来たみたいだな…真打ちが。これ――俺も―――」
 クラオエが顔を上げる。しかし、私は魔力の途切れとともに、ゆっくりと意識が消えていった。

Sei side

「来たみたいだな…真打ちが。これでやっと俺も本気を出せる」
 私は、初めて殺意のある敵を前にしている。私の前にはルーナが立っているが、彼女は今どんな気持ちだろうか。殺される恐怖に戦慄いているだろうか。ルピスの姿に憤慨しているだろうか。それとも――。
「セイ。本当にキミは逃げてもいいんだよ?」
 ルーナがちらりと私を見る。その視線で私ははっと我に戻り、首を横に振る。彼女たちがこんな目に合っているのに、同じ魔女の私がのうのうとしていられるはずがない。
「わ、私だって…戦える…」
 思わず声が震えてしまう。実戦なんてこれが初めてだ。それも、魔女と敵対している人狼が相手で、今まさにそこで倒れているのは先ほどまで話していたはずのルピスだ。
「怖いのはわかるよ。死ぬのは嫌だし、あの血まみれのルピスを見れば臆する気持ちを抑えられないしね。今ここで逃げたって、誰もセイを責める奴はいないんだよ。ここはむしろ、逃げてもいいところなんだよ?」
 それでも、私は前に出る。両腕がぼろぼろになった状態だが、未だじっとこちらを睨み続けている人狼。
「あ、あなた…どうしてこんなことをするの?」
「〝天圧の魔女〟の娘だね。俺はお前に用があるんだ、セイ」
 ゆっくりと私の名前が呼ばれる。その瞬間、何か頭にひっかかりを感じる。鼓動が段々と早くなる。戦慄のための恐怖からではない。何か別の感情から、動悸が収まらなくなっている。
「なぜ私の名前を知ってるの…?」
「さあ、なんでかな」
 頭の片隅にある考えを押さえこみながら、私は彼を見る。
「…妾が命ず、風よルピスを運べ」
 ルーナが後ろで呟くと、ルピスがふわりと浮かび、こちらまで飛んでくる。相手の人狼はそれをあえて見過ごしながら、ずっと私を見続けている。
 私の瞳は、自然と魔力を集中させる。母からの遺伝なのか、自然と戦いの空気を自覚できる。私の瞳は、ゆっくりと光沢を失っていき、鈍い輝きの琥珀色になる。
「わ…私は願う、彼の者を押し潰せえっ!」
 口火を切ったのは私の言葉だった。その言葉に私の魔力が乗り、空間を支配する。そこから顕現されるのは、強力な重力。
「くっ、おおおおおおおおおお…」
 みしみしと人狼が地面にめり込んでいく。そのまま跪いたようにして膝をつく。私の魔力が効いているということか。
「妾は命ず、風よ彼の者を切り払えっ!」
 そのままうごけない人狼を、ルーナの魔力で切り裂いていく。少し卑怯な戦法かもしれないが、非力な私たちではしょうがない。しかし、人狼はにやりと笑って私を見る。
「この程度の重力かっ!」
「うそ…力だけで重力に逆らってる…?」
 考えられなかった。相手は確かに人狼だが、物理法則を超えた力を発揮する魔法に独力で打ち勝つのは容易ではない。
「まだまだ魔力が足りないなあ。この程度では俺は止められないぞ。セイっ!」
 そのまま重力に逆らって向かってくる信じられないが、私は両手を前に出して力を込める。
「私は願う、彼の者を吹き飛ばせっ!」
 ありったけの力を持って、風圧を送る。瞬間的に異常な力を持った風が彼を襲う。
「くっ、そおおおおおおお!」
 しかし、人狼は逆に地面に張り付いたようにして動かない。私の魔力が止むと、再びこちらに向かってくる。
「すごいね、セイ。風も使った圧力の攻撃か…天才の娘はまさしく天才か…?」
 頼もしい視線で見られる。それが少し嬉しいが、しかし相手は構わず走ってくる。
「足枷の乱風(レギリア・ブルリア)」
 ルーナが単語を発すると、すぐに彼女の魔力が風に乗って人狼の足を切り刻みながらすくっていく。風が彼の身体にまとわりつくようにして切り裂いていく。
「す、すご…それって、封印魔法?」
「うわ、また懐かしい名前知ってるね…でも残念でした。普通に旧式魔法だよ」
 ルーナはウィンクすると、そのまま人狼の方にかけていく。
 唖然とする私は、後ろで目を覚ましたルピスに気がついた。
「る、ルピス大丈夫?」
「え、ええ…魔法はしばらく使えないけどね…それよりも、クラオエは?」
 クラオエ――。再び頭を鈍器で殴られたような気分になる。その名前にはどこか覚えがあるが、思いだせない。大切なことのはずなのに。
「クラ…オエ、って? あの人狼の名前?」
「そうよ…ああ、ルーナが…。ダメよ、ルーナじゃ多分、太刀打ちできない」
 ルピスが立ち上がろうとする。しかし、それを私が抑える。
「だ、ダメだって! そんなぼろぼろで動くなんて身体ダメにしちゃうよ!」
「で、でも…」
「―――わ、私が行くから」
 私は立ち上がる。先ほど完全に私の魔力は無力だったが、それでも彼の気をそらすことくらいはできるだろう。
「無茶はよしなさいっ! セイっ」
 ルピスの声を背に、私はルーナとクラオエが飛び交っている中に向かう。
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