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Crash re mound …Part5

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Crash re mound … Part5

 この作品は、籠龍の作品「REDMOON」と世界観を共にした作品です。
一応こっちのほうが本編となってますがそっちの方も見ると世界観が上手く補完できると思います。


Part5.Crash re mound

Vere side


何度か彼の攻撃を喰らうことによって、俺にもおぼろげながら彼の能力がわかり始めていた。どうやら、彼は「声」を飛ばすことによって人の無意識に干渉するようだ。
「どおしたあ? 俺についてこれねえかっ?」
 彼の拳が俺を狙う。しかし、完全に回避できる距離だ。俺の素早さなら対応できる。そう思って体をひねる。
『おっと、動くな』
 しかし、彼の不気味な言葉によって体が硬直する。身体が無意識に彼の言葉に従ってしまうのだ。そのまま、彼の拳は俺の腹部にめり込む。
「く…このやろっ」
こちらの攻撃には彼は例の能力は使ってこないのだが、それでも彼は素早い。
「なんつーめんどくさい奴だ…」
「おいおい、これくらいで人狼相手するの疲れるんだったらオリス様にゃあ絶対敵わねえぜ」
「ちっ…」
 おそらく、括るのであれば「声」の能力といったところだろうか。しかし、どうにも攻略しづらい。彼の「声」は非常に抗いがたいものがある。これが人狼の能力なのかと思うと、自分の能力が開花していないことに歯がゆさを感じる。
「ほら! ほらほらほらほら! 気を抜いたら死ぬぜ!」
 彼の蹴りや拳が容赦なく襲い来る。
 腕でガードしていくが、それぞれが骨の芯にまで響いてくるような一撃で、押されるのは時間の問題かもしれない。所詮はまだルピスに修行をつけられている身なのだろうか。
「っざけんなあ!」
 力強く叫ぶ。そのまま拳を振りぬく。しかし、大振りすぎたのか、その攻撃はアルフにするりと避けられてしまう。
「その程度で俺たち狼(アルタニス)に挑むことがどんなことか、わかってんのかよ?」
「あ、アルタニス…だと? 何を言ってるんだ?」
「手前ぇが知ることじゃねえよ。んじゃぶっ殺させてもらうぜ――」
 アルフが拳を構える。その動きにこちらは距離を取ろうとするが、しかしまた頭にあの声が響いてくる。
『おっと、動くなよ?』
 まるで骨や神経そのものが自分のものではなくなるような感覚だった。何か別のものから圧力を加えられているようにして体の自由が利かなくなる。
「自分のその未熟さに絶望してな」
 アルフの拳が振り下ろされる。
「―――その一撃、待ちな」
「僕は謳う、文字よ其の異端者を押し返せ」
 俺の前に、突然二人の人影が割って入る。一方は剣を抜いてアルフの一撃を受け止める。そしてもう一方は右手を前に出し、左手で分厚い本を開く。
 本からは無数の黒い霧とも煙ともとれるようなものが吹き出し、アルフを包んでいく。
「んな…なんだとおおおおおお!」
 アルフはそのまま黒い塊に押し返され、そのまま吹き飛ばされて地面にたたきつけられる。一瞬の出来事に呆気にとられていると、その二人影はこちらに振り返る。
「おいおい、俺の宿敵が同じ狼野郎がやられてんじゃねえよ」
「まあ、ヴェアさんは確かに弱いですが…元聖騎士としてちゃんとしてほしいですね、まったく」
 彼らはこちらを見ながら笑い、手を差し出す。
「ハウンド…マタギ?」
「おいおい、どうしたよ。そんな口開けてるとバカに見えるぜ?」
 ハウンドはバカにしたように笑いかける。なぜ彼らが助けてくれたのか、わからないが彼らに敵意はないようだ。
「なんで、俺を助けたんだ…? お前ら、俺は異端者だろ…」
「ったりめーだ。魔女と手を組んで各地を回ってるって、聖騎士の恥だからな。いつ首をとってやるか今は考え中だ」
 何やら彼らの意図がわからない。マタギはアルフの方を見ると、再び本を開く。
「ま、あっちの方の異端者の方があなたより強いと思ったんでね。あなた達を利用させてもらうんですよ」
 こちらを見る。こいつには前回瀕死の重傷を負わされている。なんとも信じがたい言葉だが、今の状況では彼らを相手にしながらアルフと戦う力はない。
「共同戦線、ってやつか?」
「とんでもない。あの人狼が街で暴れないように、僕たちがヴェアさんを利用するんですよ? 僕たちは腐っても聖騎士ですからね」
 マタギが笑う。その笑みは、心底嫌味に満ちており、かえって爽快感さえ出てくる。
「だから、さっさとあの人狼のこと教えろ。俺たちゃあいつのことなんも知らねえんだからよ」
「―――ああ!」
 俺は剣を抜く。アルフを見据えながら、聖騎士が三人一列に並んだ。

Sei side


 大きく息を吸い込むと、一直線に突き進む。ルーナが隣で微笑んでみせる。それが、まだ震えている私を気遣ってのことだということは容易に想像がつく。しかし、そんな気づかいが今の私には嬉しい。死地の中での仲間とは、かくも逞しく見えるものなのだろうか。
「私は願う、彼の者を圧し潰せっ!」
「妾は命ず、風よ彼の者の体を切り裂け!」
 両者の魔力が合わせてクラオエにかかる。いくら魔法に抵抗できても、二つの魔法を一度に喰らうのはきついだろう。風の領域という、戦闘向きではないルーナに、初実戦の私。不安が大きく残るタッグだが、それでも内に秘める潜在能力は高い。
「私は…デーヴァの娘だああああっ!」
 さらに魔力を上乗せする。クラオエはみしみしと地面に陥没していき、足場をなくす。ルピスの話では頭を狙うといいらしいが。
「ルーナ…頭を狙うってことは、」
「殺すってこと。大丈夫、その役目は私がやるから」
 ルーナは微笑みながらクラオエに近づく。しかし、胸騒ぎがする。〝冷嬢〟の二つ名で有名な攻撃型のルピスに勝ったわりに、私たちの魔法にかかりすぎていないだろうか。体力の限界が来ているだけならば幸いなのだが、どうもおかしい。
「ルーナっ! 危ないっ!」
 叫んだときにはもう遅い。クラオエはにやりと笑いながら、ルーナを片手で吹き飛ばす。ここから見ても、間違いなく骨が何本か――いや、もしかしたら内臓もいくつか重要な機関が傷ついているかもしれない。
「た、確か回復はルピスが…」
 そう考えようとして、思考を止めすぐに横に動く。直後にクラオエが迫っていた。
「はっはっは…さすが、彼女の娘、だ。感性も鋭いみたいだねえ…」
 しかし、さすがのクラオエも相当疲弊している。ルピスの全力に、私たちの猛攻を喰らえば、さすがに弱るだろう。
「しかし、まだまだ開眼してはいないね。その琥珀色の瞳…まだまだ彼女には程遠い。彼女ならもっと強い輝きを放っていた」
「どういうこと…? お母さんを知ってるの?」
 クラオエは黙って攻撃を続ける。
「ああ。あいつに救われたからな…ほら、話に夢中になってるとあの魔女たちのように吹き飛ぶよ」
 重い一撃が私を襲う。
「――っ! 私は願う。その拳よ岩より重くなれ!」
 私に向かっていた拳はそのまま直角に真下に落下する。クラオエは態勢を崩し、再び跪いた状態になる。
 足元の石を拾い、軽くクラオエの頭上に投げる。ちょうどクラオエの肩あたりまで飛んだ瞬間、再び私は右手を前に出す。
「私は願う! 小石よ大岩の重みと化せっ!」
 石は先ほどと同じように真下に高速で落下する。そのままクラオエの肩を巻き込み、ずしりと地面に落ちる。おそらく今だけあの小石の重みは岩をも越えるほどとなっているだろう。だが、これでまだ死んではいないだろう。
「…ど、どういうこと? 救われたって。話が見えてこないんだけど」
「くっ、はっ、はは…制御できない分威力は爆発的だな…もう、限界か…」
「質問に答えてよ…」
 彼との不毛な問答にもこの戦いのにも疲れてくる。
「ああ、ああ悪いね。俺はこういう性格なんでな。まあ、確かにそろそろ教えてやってもいいかな」
 私が与えた傷が少しずつ癒えていく。再び反撃されないとも限らないが、体が動かない。彼の話を聞きたいのだ。
 私の中にはひとつの思いが確信となってうごめいていたからだ。
「昔、どうしようもない人狼が一匹いた。レッドムーンに従っていることもバカらしくなって、一人各地を放浪としていたバカな男だよ。そいつはある日、天圧の魔女と出会った」
 クラオエはゆっくりと近づいてくる。私の胸の鼓動は早くなっていく。私がこれまでの人生の中で一番疑問に思っていたことだ。私が、街を出られなかった理由を、前に進むための一歩を踏み出す勇気が持てなかった理由を、彼は持っているのではないか。
「そいつは別に魔女と戦おうなんて思っていなかったから、もちろん天圧の魔女も攻撃をすることはなかった。むしろ興味を持って話しかけてきた」
 小さい頃から父親がいない理由を、私は知らなかった。母に聞いても、困ったように微笑むだけで、それ以上を聞くことができなかったのだ。そうして、私のその不安は段々と自己を否定することにつながっていった。
「魔女と人狼、互いに相いれない存在だが、二人はその中で互いに相手を真剣に思い合った。しかし―――魔女と人狼は、ちょうどその時戦い合っていた。そいつらはそのまま戦いに巻き込まれることになる」
 父がいないというだけで周囲の視線は冷たかったし、私自身悲しみに包まれることもあった。
「人狼は、天圧の魔女をかばって、瀕死の重傷を負った。天圧の魔女も、避けられない死の呪いを受ける。そんな中で、破滅の魔女がレッドムーンと共に相打ちになったという話が流れてきた」
 クラオエは穏やかな表情で私を見ている。その視線は、まるで。
「そこからの数十年は幸せに暮らしていた。しかし、レッドムーンの復活を知らせる噂が流れだした時、そいつは恐怖に駆られた。復活したレッドムーンは必ず各地に残っている人狼を見つけ出し、仲間にするか、できない場合は殺すからだ。そして、出会った魔女は必ず殺し回るだろう
 そいつは、レッドムーンに見つかるわけにはいかなかった。そいつの隣には呪いでほとんど戦闘力のない魔女がいたし、なによりそいつの子供がいたからだ」
 子供。その言葉をまるでそのままぶつけられたかのように私は頭に衝撃を感じる。今、おぼろげだった確信はより明確なものへと変わる。
「そいつは妻と娘を付近の街に置き、レッドムーンを迎え撃つべく、調査の旅に出た。しかし、数十年経ってわかったことはそいつにはレッドムーンを倒すことはできないってことだけだった。そして、そいつは偉大な魔女の血を引く自分の娘の危険を憂い、妻亡き自分の家へと帰ってきた」
す、とクラオエは私を指さす。金縛りにあったように私は全く動けなくなる。
「お前は、俺の娘だ」
「―――そ、か」
 言葉が上手くでてこない。突然の事実に、目がちかちかしている。
「ちょうど魔女と人狼なんて、珍しい組み合わせが来たからな…俺はお前を強くして、彼女らと同行してもらおうと考えた」
「で、でもなんで! ここまですることないじゃない!」
「ここまでしないと、お前の力は覚醒しない…そして、これは俺自身の罪滅ぼしだ」
 顔を上げる。もう彼に戦う力は残っていないだろう。そこまでして私を強くしたかったのか。顔すら知らなかった父親。
「それに、死なない身体でも、やっと――デーヴァ…やっと俺も、お前の――ところに――」
 そのまま、クラオエは消えていく。身体中が光になっていく。それを見た瞬間、私は彼の元へ走る。
「待って…待ってよ、せっかく会えたのに、どうして…」
「セイ、お前は――人狼と魔女の娘だ…お前は、真に強い種族の子だ。だから、俺なんかがいなくても…な――」
 そう言って、彼の手が私の頭に乗る。
「力を見誤るなよ…セイ…」
 その言葉を最後に、クラオエは完全に消え去ってしまった。

Vere side


 ハウンドがまず切りかかる。アルフはそれを避けながら、ハウンドに襲いかかるがそこで腕が止まる。彼の身体に黒い文字がたくさんしがみついており、それがまるで強固な鎖のようになって動きを封じている。
「犬は鎖で縛っとくもんでしょ」
 皮肉げに笑いながら、今度はマタギが切りつける。アルフは避けられなかった。おそらく皮膚を硬化させているのだろうが、それでもマタギの剣で傷つく。
「くっそおおおおお、手前ぇら、邪魔だっ!」
 アルフが荒々しく吠える。しかし、その怒りで後ろの俺には気付かない。
「相当イラついてるな、声の人狼さん」
 俺はそのまま切り刻むようにしてアルフに剣撃を浴びせていく。最早勝負はついたも同然だった。アルフも、一度にいくつもの声を飛ばせるわけではないようだ。複数の人間に対しては同様の命令を飛ばせるが、『動くな』と命令すればマタギが魔法を使い、『黙れ』と言えば俺たちが動く。意外なところに弱点があった。
「三人だから、か…」
 一人で戦っていたら絶対にわからなかった、こいつの弱点は、実に単純なものだった。アルフは倒れ伏し、まだ起き上がろうとしている。
「く、そ…俺が手前ら人間なんかに…」
「おいおい、人間なめるなよ?俺たちゃ聖騎士だぜ?」
 ハウンドがアルフの頭を踏みつける。どちらが悪いか微妙な構図だが、聖騎士は正義たるわけではない。なので俺も別に何も言わない。
「僕たちは異端を駆るための異端ですよ? たかが人狼が勝てるわけないでしょう?」
 マタギも、見下している。俺はアルフに近づき、剣を突き刺す。最後にアルフは笑ったように表情を歪め、そのまま完全にこと切れる。
「…不気味な野郎だぜ。気味悪い声ばっかりだしやがって…」
「さて、あっちの方の人狼も片付いているみたいですし。僕たちは最初の目的のほうに戻りましょうか、ハウンドさん」
 マタギがハウンドを見る。しかし、ハウンドはセイを見ると、目を細めて嘆息する。
「いやあいつはやべえぞ。近寄らない方がいいな…マタギ、とっととずらかれ。たぶん暴走するぞ」
 ハウンドは足早に去っていく。
「はあ? またわけのわからないことで敵前逃亡する人ですね…ちょっと! く、ヴェアさん。これで終わりじゃあないですからね?」
 マタギはそう言い残して去っていく。
「暴走? 誰が?」
 俺はハウンドの去り際の言葉が気になっていた。すぐにルピスのところへ駆けつける。ルーナもルピスもぼろぼろだったが、丘の上に一人、セイが立っていた。なにやら異常なほどの魔力のうねりと拡大が感じられる。明らかに彼女は正常ではないようだ。
「セイ…?」
 駆け寄る。しかし、セイに返事はない。目を開けたままじっと一点を凝視している。
『セイは今暴走を自我で止めようと踏みとどまっている』
 突然、頭に声が響く。しかし、さきほどのアルフの声ではない。もう少し大人びた落ち着いた声だった。
『君の能力が必要だ。セイを救ってくれるかい?』
 声の主は、背中を押すように、俺に指示していく。
「だ、誰だよ…お前、」
『そんなこと、どうでもいい。とりあえずは君の力も覚醒しかけている。彼女の魔力が視えるのなら、それを吹き飛ばすような感覚で咆哮してくれ。それが君の能力だ…名を全てを喰らう咆哮(クラッシュ・ル・マンド)という』
「全てを喰らう咆哮(クラッシュ・ル・マンド)…?あんた何言ってるんだ…」
「ううううううううう…!」
 突然、セイが苦しみだす。顔は青ざめ、息ができないかのようだ。症状さえ違えど、ルピスが白き衣(ブランチュール)によって暴走してしまったときと似ている。
『速くするんだ。セイが死ぬぞ』
「くそ…ああ、ああわかったよ! やりゃあいいんだろ!」
 そして、俺は一瞬にして咆哮する。全てを吹き払うような、薙ぎ払うような、喰らいつくすような勢いで咆える。
 セイの周辺からは異常な魔力は消え、そのままセイは倒れてしまう。
「わ、ちょっと、セイっ!」
 慌てて受け止めるが、彼女は寝ているだけだった。どうにかなってしまったのかと心配したが、安心した。これでルーナもルピスも安心するだろう。
 しかし、人狼が二人出てきただけでこれだけの甚大なダメージを受けてしまった。今回はハウンドたちが協力してくれたから良かったものの、次会う時は敵かもしれないのだ。
「強く、ならないとな…俺も」
「私も…強く、なる…父さん」
 不意に、セイが呟く。俺の言葉に反応したのかと思ったが、ただの寝言のようだ。
 疲れた体に鞭を打って、俺は三人を安全な場所まで移動させる。風に乗って、人の声が聞こえたような気がしたが、それは俺には聞き取ることはできなかった。
『娘を、よろしく頼むよ。魔女と共存せし、若き人狼君…』
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