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sweet and evil red

瑞希


 意識は遠退き、足は縺れ、今こうして歩いているのも不思議な状態だ。
 群れから離れて1ヶ月。さすがに限界がきたようだ。
 一週間は何も食っていないので、腹を満たすものはなく、今にも飢え死にしそうな気がした。
 人間を狩れば、食い物は手に入る。ただ、あのおぞましい連中が追ってきて、俺を殺すことだろう。
 選択肢は二つに一つ。こうして歩き続けて獲物を捜すか、人間を襲うか。
 覚悟を決め、人間を襲うことにした。この近くに人間の道があるのを思い出し、そこで待伏せることにした。
 その間も周りにいい獲物がないか、気になっていった。もしかしたら、獲物と呼べるものはここにはいないのではないかと考え始めていた。
  待ち始めてから、どれぐらい経っただろうか。限界が近づいてきた。このままでは全く
力が出せなくなってしまう。早く人間は来ないのか。
「ワォォ~~ン」
 なぜ、一匹になってしまったのか?なぜ、群れから離れてしまったのか?思い出せない
 が、そんなことは生きる上で重要じゃない。頭が痛くなった気がしたが、そんなことはどうでもいい。今、大切なのは獲物を仕留めることだ。
 まともに動ける時間は長くない。一回で仕留め、食わなければいけない。
 何とも言えない良いタイミングに小娘が来たものだ。これほど、楽に食事にありつけるとは。こんなチャンスを逃す訳には行かない。


 2

 私は上機嫌でおばあちゃんの家に向かっている。空港からバスを乗り継ぎ、家の近くの村までやって来た。
 おばあちゃんは今、日本を離れて、若い頃の友人がいる北欧の村のはずれに住んでいる。
 兄と別れてから、ショートの黒髪は赤髪のツインテールになり、服は胸にリボンが着いていて、スカートは少し短い。自分にしては可愛すぎるかもしれないけど、次に会ったときに惚れ直させたいからだ。
 以前だったら、この道を走って早く着こうと思ったけど、おばあちゃんへのお土産があるのと、兄に息を切らしたところを見られたくないからやめた。
   家までの道を歩き始めて、十分ぐらいがたった。森が静かすぎる気がしたけど、気になるほどでもない。
「ワォォ~~ン」
 狼が鳴いている。もしかしたら、群れから離れたのかもしれない。気をつけて歩かないと。
 少し緊張してきてしまった。何を話そうか考えていると、すぐに頭が止まってしまう。
 家まで残り半分だから、着くまで何も考えないことにした。


 目障りな存在が三人、同時に始末できる場を見逃すような、甘い人間はあまりいない。
 必ず、狙って来るのは明らかだ。そのため、魔力をここに来るまで、一切使わずに温存している。
 大切な彼女が二年経って、どんな姿をしているのかという期待半分、お互いに命を狙われる可能性があるという心配も半分だ。
 万全な体制で約束の場所へと続く森へと、俺は踏み込んだ。
「ワォォ~~ン」
 殺気が踏み込むほどに強くなる。戦闘は避けられそうにもない。抑えていた魔力を使い、相手の位置を探る。
 人間以外のもの-狼-の雰囲気がするが、言いようのない違和感がする。妹の近くに一体と家の方にも十五体。
「図体が大きすぎやしないか……。2メートルはあるな」
 身体が意識するだけで動きが加速し、目標へと近づく。紫色の魔力球を十六個、宙に浮かべる。
「ッてぃ!」
 まずは十六個を小屋の狼へと放つ。それに遅れて一個を放った。同時に十六個を命中させる算段だ。 十五の爆音が上がる。家を囲んでいた方は一撃で十一体が死に、残る四体も瀕死の状態だ。だが、一体だけは違い、掠りはしたが直撃を避けた。こちらにも気づいたようだ。
「こいつは不自然なことだな」
 間違いなく仕組んだ人間がいる。しかも、今日という日にここを通ることを知っているのは、僅かな人数しかいないので、自然と相手を搾り出すことが出来る。
「さあ、容赦する必要はないみたいだな」
 最後の赤い一体に襲いかかった。


 4

「グルガァァ!」
 見たこともない大きさの赤い毛の狼が飛び出してきた。周りには誰もいないし、自分にはどうすることもできない。最悪だ。
 次の瞬間、狼は光の弾丸を腹に受けて、飛ばされていた。狼はそれが飛んできた方向を見る。 フードを着た人が走ってきた。狼よりも動きが速くて、目で完全に追えない。
 狼が飛び掛かり、その人は避けたものの、狼の爪がフードに引っ掛かり脱げた。その人の顔を見て、安心感が私を満たした
 私の意識が逸れた合間を狼が狙ったが、恋人はそれを逃さずに狼に光球を放った。
「ッゥルガァァ」
 狼は苦しみの声をあげながら、地面に叩きつけられた。まともに直撃を受けたから、生きているかはわからなかった。
「死んだか」
 彼はそういった。途端に力が抜けて、倒れそうになったところを支えられた。
「ちゃんと、待ってたよ。これでいいんだよね」
「ああ、俺達は約束を守った。守らなかった、奴らもいたけどな」
 そういって、狼を一目見た。
「すごく大きいね。」
 彼が狼に近づき、額の毛を避けた。そこにはコンピューターで見かけるようなものが埋め込まれていた。
「これって、どういうこと?」
「こいつで彼らの頭の中を弄ったのさ」
「そんなことって……」
「先にばあさんを確認しよう。犯人は今日中に近隣の施設に放り込んでやる」
 私たちは待ち合わせ場所だった家へと足を向けた。


 5

 小屋に着くと一人の女性がかなりの剣幕で怒っていた。
「二人とも大丈夫だった?あの子たちはまた、とんでもないことを」
「国際法違反で逮捕してくるよ。それよりは怪我は?」
「あなたが少し派手にやってくれたお陰でないわよ」
 義祖母は柔らかな笑みで答えた。自分の息子や親戚が捕まるというのに、そちらは気にしていないようだった。これまでのことを考えれば当然か。
 後は狼たちと奴らの逮捕だけだ。
「兄貴、狼たちはどうするの?」
「丁重に葬らせてもらう。チップを綺麗に取り除いた上でね。すぐに手配をしよう。」 そう言いながら、俺は電話を取り出した。慣れた動作で局の支部へと電話をかける。村かその周辺にいるであろう犯人のためにも、忘れずに人員を集める。
「ねえ、今から伯父さん達を捕まえに行くんでしょ?付いていっていいよね」
 返事はしなかった。そのまま、家を出ると彼女は後ろからついて来た。
 道中、お互い一言も声にださなかった。
 二十分程で村の端にある小屋につき、遅れて局員が到着した。
「周辺を囲め。ドアからは入らずに横穴を空けて入る」
 周囲を囲み終わると同時に手に魔力を集める。紫色に光って見えるその拳で、えぐり取るように壁を殴りつけた。真っ直ぐに殴って、中の犯人に直撃では困る。
「何が起こったんだ」
 小屋で話をしていた三人の内、一人の男が慌てふためき言った。すでに年は四十後半に入っている。
「ドアが開かなかったもので」
「誰だ!」
「君達がよく知ってる国際特殊犯罪対策局の局長だよ」
 中にいた者達の顔が引きずった。まるで有り得ないようなものを見ている顔をしている。こちらとしては余計に気分が悪くなるのだが、しょうがない。
 まあ、こんな若いやつが局長って言ってもな。
 チップの一つを投げてやることにした。
「どうだい?ここにいる理由はわかったかな?」
「若僧がごときが刃向かいよってぇぇ」
 彼は銃を構えようとし、周りに隠れているものがこちらを狙おうとするのがわかった。隠せているつもりなのか、全くこれには呆れてしまう。
 「あなた方三人を含む、ここにいる関係者十四名全員を現行犯逮捕する」
 言うと同時に彼らの足元から光の鎖が出現させ、床に拘束した。屋根裏で情けなく叩きつけられて、呻く声がした。
 その間も義妹は後ろから、その光景を見ていた。これをどう思いながら、見ているんだろう。俺にはわからなかった。


 兄は血が繋がってないから、逮捕にも躊躇がないようだった。そういう私も何も感じることはなかった。
 あれからここまで黙ったまま、歩き続けている。まだ、家までは時間がかかる。
 ここで思い切って聞いてみることにした。
「兄貴はどう思ってるの?」
「何が?」
「あたしたちのことを二年間離れて暮らして、それでもっていうなら付き合っても許してやるとか、そんなこと言いながら、襲ってきたりだとか」
「条件はばあさんが出した折衷案だろ。あの時、向こうは納得してなかったから、襲ってくるのは必然だ」
 昔のみたいに冷静に物事を考えるところは同じみたいだ。
「じゃあさ、狼のことは?」
「彼らが襲ってきたのは事実だけど、それが彼ら自身によってとは言えない」
「あの頭にあった、機械?」
「それが逮捕の理由の一つ、今は国際法で倫理的問題があるとして、無許可で研究したり、使用することを禁止してる。それに」
「それに?」
 何か引っかかったものがあるときの言い方だ。
「サンプルを調べればわかるだろうけど、遺伝子も組み替えられてると思う。」
「だから、あんなに大きかったんだ」
  そろそろ、切り出しても良さそうだった。
「あと、一つだけ聞いてもいい?」
「どうぞ」
 ものすごく優しい言い方だった。
 こんなに緊張するのは今までで初めてだ。どうしようか?
 私を見る、目の前の男性の目は真っ直ぐにこちらを見ていた。恐いけど、頑張って言ってみた。
「今でも、義妹としてじゃなくて、一人の女性として私が好きですか?」

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