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RED・MOON~2つ名狩りの魔女~  第十五章:《アンナマリア》の激闘2前半

  {初めに…
 この作品は東風の作品「MELTY KISS」の人狼側からの話です。
 よって、その作品と世界観が同じはずですが、稀に違うところもあるかもしれません。その時は温かい目で見過ごしてください…

 久々に書いたぜ。データが大きすぎたんで2つに分けたよ。

第十五章:《アンナマリア》の激闘2



 レントのそのしなやかな流れる動きはまるでネコ科の猛獣を連想させた。人狼達の攻撃を身を翻し避けながら、魔剣・ネスティマを振るう。炎を帯びた剣は振るわれる度に炎を撒き散らし、剣が通った所を鮮やかに彩る。レントの鋭く、速い剣筋から現れる炎はまるで、彼の周囲を覆い渦巻く竜巻のようであった。
 その熱気は振れば振るう程に増していき、人狼達に接近を許さない。
「どうした、どうした~!」
 調子に乗るレントにネスティマが答えるように、景気よく炎を吐き出す。彼が調子に乗るのも、人狼五人を相手に、レントは互角に渡り合っているのだ。
炎は今やベッドなどに引火し、その部屋を赤々と照らす。
ただ迂回すれば済む人狼達であるが、自分達よりも劣っている人間にバカにされ、迂回など彼らのプライドが許さなかった。しかし、相変わらず目前のレントは彼らを一切寄せ付けない攻撃を放っている。
「何をしている? たかが人間の男一人に」
 新たに部屋に入ってきた赤毛の人狼がその光景を見て呆れた感じに言う。が、しばらくレントの動きを見るにつれ、驚嘆の顔付になった。
「やるじゃないか。ただの人間にしては」
「お前もかかってこいよ!」
 軽い感じにレントは言ってはみたが、余裕がないのは明らかであった。確かに一進一退の攻防を繰り広げるレントではあるが、さすがは人狼と称賛をあげるべきか。レントを警戒する彼らの身体能力は容易に捉えられるものではなかった。しかも相手は五人である。
「ではお言葉に甘えようか」
 気付けば新しい人狼は目前まで来ていた。周りの人狼とはどうやら一ランクぐらい違うようである。レントはネスティマを振るい炎の防壁を張った。
「……な? 炎が消えた?」
 その人狼が炎に触れると炎は煙のように消えた。レントは驚きながらも次に来る攻撃を何とか身を捩り、大げさに距離を取り構える。ネスティマを見るが、相変わらず炎を纏っている。
「面白い武器だ。聖騎士は噂では聞いていたが初めて見る」
 目前の人狼は余裕の笑みを浮かべ、レントを舐めるように見ながら言う。
「しかし、相手が悪い。炎は俺には通じない。俺はアルタニスのガーナ。よろしく、人間よ」
 ガーナと名乗った赤毛の人狼は笑ってみせると距離を詰める。レントはネスティマを両手で持ち身を捩ると、体のバネを利用し渾身の力で振り抜いた。
 レントが振ると、ネスティマに纏った炎がまるで弾丸のように放たれ、飛ぶ斬撃の炎としてガーナに襲い掛かる。ガーナはただ笑みのみ。炎が目前に来た時、炎は先ほどと同じようにまるで煙のように消え失せてしまった。
「炎では俺を焼けんよ」
 ガーナの接近。レントは咄嗟に身を捻ったが、ガーナの手が触った。するとまるで全身に寒気が……そう感じたのは一瞬で次に来るのは全身から力が抜けた驚きと寒さ。一瞬動きが鈍ったレントにガーナの爪が切り裂いた。豪快に吹き飛んだレントはベッドを散らかしながら壁へ激突した。
「俺はあらゆる熱を吸収できる」
 満足そうに言うガーナであったが、動く気配に眉をひそめる。普通は死んでいるはずの攻撃であったが、目前の男は生きていることに驚きを隠せなかったようだ。
「いいこと聞いちゃったぜ~……熱を吸収ねぇ~」
 ヨロヨロと瓦礫を蹴散らしながら来るレントにガーナだけではなく周囲の人狼も目を見開いた。
 額や口元の血を雑に拭き取るレントは歯を見せて笑った。そして内心、初めてと言っても過言ではないが、自分が聖騎士であることに感謝していた。今の攻撃、聖騎士の異端者用に特別に加工された鎧でなかったら、間違いなく砕かれていた。その鎧のおかげでガーナの爪はレントには徹らなかったのである。とは言ったものの、受けた衝撃は確かに半端なものではなかった。体中の痛みで転げ回りたい気持であった。
「へっ、俺が人狼のヘナチョコな攻撃でくたばるかってんだ。俺は魔剣士だぜ。熱を吸収するってんなら吸収してみやがれ!」
 レントは威勢よく血泡を飛ばしながら叫ぶと、ネスティマを豪快に頭上で振りまわす。振りまわす程にネスティマは熱を帯び、炎を噴き上げ、熱風を撒き散らす。ドンドンと勢いは増していく。
「燃えろ燃えろ燃えろ~! 俺の魂は今まさに燃え滾ってるぜぇ~」
 彼の放つ気迫、ネスティマの放つ熱に人狼達は後ずさる。
「熱いな……熱すぎる」
 ガーナは他とは違いレントに歩み寄っていく。レントは振りまわすのを止め身を低くし構える。ガーナが脇のベッドを蹴りつけると、ベッドは弾丸のように飛んでくる。それをレントは斬り上げた。真っ二つになったベッドの向こうから、ガーナが向かってくるのが見えた。ガーナの攻撃とレントの踏み込みはほぼ同時であったが、コンマ秒の差でレントが勝った。ガーナの爪を潜り脇を抜けながら、ネスティマがガーナの脇を舐める。炎は消え失せたが、鋭い刃により堅い毛皮が裂けた。
 血が噴き出すガーナ。しかし浅い。内心舌打ちをしながら次撃に踵を返したレントであったが、ガーナはそこまで甘くはなかった。
 振り上げようとした手を足で踏み止められる。気付けばガーナの顔がすぐそばまで迫っていた。レントにできた事と言えば驚きに目を見開いたことぐらいだろうか。
 ネスティマに纏った炎が煙のように一気に消え失せるのと同時に、ガーナの爪がレントの鎧を砕き突き刺さった。レントの中に指が突き立つ。レントの体が悠々と宙に浮かんだ。
「驚いているよ。よく人間の身でここまでできた。痛いか?」
 顔を近づけガーナは顔を歪めるレントに言う。それにレントは笑みを見せた。
「ヘヘヘ……男だからな。あまり突かれ慣れてないもんでね。お前はどうだ!」
 レントはまだ握っていたネスティマをガーナの肩口に突き刺した。ズブズブと沈んでいく刃に溢れる血。ガーナは痛みに声を上げ、レントを壁に弾き飛ばした。
 壁に激突したレントはそのままずり落ちると、そのまま動かない。
「殺せ、目障りだ。原型もとどめるな」
 ガーナの命令に人狼達が前へ出ようとした時であった。突然、部屋の中へ乱入してきた者が氷の塊を放ち動きを止める。
「我、命ずる。氷達よ。立ちはだかれ!」
 人狼とその者の間の空気が白みを帯び冷たると、氷の壁を創り上げる。
「シャキッとしなさいよ。情けない」
 レントの元へ歩み寄り頬を叩くのに、レントは目を開ける。
「よぉ、ムネ。大丈夫か?」
「なに頓珍漢なこと言ってるのよ。自分の状態見てから言いなさいよね。それはこっちのセリフ」
 アムネリスがレントの傷の具合を見るために鎧を脱がせようとした。それを彼は朦朧とする意識の中で遮った。
「やめろ。ダメだ……鎧が止血の役目を果たしてる。今外せば、俺は出血死する」
 それは今まで戦闘に身を置いてきた彼の本能的な物がそう言わせていたのかもしれない。アムネリスはレントの言葉に頷き、溢れる血を手で押さえる。
「我、命ずる。氷よ。我に従いし氷たちよ。この者を傷を塞げ」
 彼女の呪文のすぐ後、彼の傷口が氷に覆われた。それは止血をしたがその代わりに、レントに激しい痛みを与えた。痛みに苦悶の悲鳴を上げ、一瞬彼は覚醒したがまた意識が遠のいた。
 アムネリスは倒れるレントを引っ張りながら、入ってきた扉から逃げる。後ろを見れば、先ほど気付いた氷壁は崩れようとしていた。人狼達をこれ以上抑えるのは無理だろう。
 アムネリスは急いだ。そしてレントは呼吸が荒くキツそうであった。
「なんで?……俺がここだと? 運命か?」
 揺られ意識が少し回復したのか、うつろな感じで彼の口から洩れる。
「ふん。ソーニャに会ったのよ。あなたがあそこに一人で残ったって、教えてくれたのよ。まったく、無茶をするわね」
 呆れながら言うアムネリスだが、レントはあまり聞いていない様子であった。
「しっかりしてよ。お願いだから」
 アムネリスの言葉にレントは目を覚ましたように、顔を上げる。
「あぁ、聞いてる。運命だな……運命だよ。これは、だろ?」
「……そうね。だから死なないでよ」
 後ろで壁が壊される音が聞こえてくる中、アムネリスはレントが聞いているかどうかなど考えることもなく口の中で呟くと、お腹の中から湧き上がるような寒気を感じながら逃げた。

★   ☆   ★

「◎(ビュレット)」
 薬指を指したルック。
「幻影ですか?」
 警戒した声を出すジルベルトの目の前からダースとルックが消えていた。ジルベルトは目を細め、耳を立てる。ザッという音が聞こえると同時に、魔法を放つ。
「残念。こっちだ」
 その声は反対側から聞こえた。姿を現すルックは小指を指す。
「K(ケルビン)」
 床が凍りつき始める。ジルベルトは飛びのき避けると、そこからダースが現れた。
「射よ」
 威力の低い光がダースに当たり、怯んだ一瞬で攻撃を避ける。
「私は望む。光明……キャァ!」
「させるか、○(エルステッド)」
 ダースに魔法を放とうとしていたジルベルトであったが、ルックが中指を指すと、していた金属のベルトが引っ張られ彼女の体が飛ぶ。ルックへ引き寄せられるジルベルト。ルックは彼女を貫こうと手を伸ばした。
 瞬時にベルトを外し、引力から逃れるジルベルトは態勢を整える。
「光刺(フォスフィクス)!」
「K(ケルビン)!」
 ジルベルトの放った光の矢を、ルックは床から創り上げる氷の柱で防いだ。
「◎(ビュレット)」
 次に現れたのは無数のダースとルックの姿である。各々に動き、見分けがつかないほどに、警戒しながら彼女の周りで構える。
「私は望む。光明よ。全てを照らしだせ」
 手を掲げたジルベルトのその先から周囲を光が照らす。
「幻影では影まではできない」
 影のない幻影達の中に二つの影のある個体。
「五光(フォスペーデ)」
 ジルベルトの魔法は素早かった。五つの光線の内、三つがダースへ。二つがルックへと襲い掛かった。ルックが氷の柱を即座に創り上げたが、ジルベルトの光線はそれを貫通しルックを襲った。
 くぐもった声で倒れるダースに、悲鳴を上げ避けるルック。直撃はのがれ最悪の事態にはならなかった。気にかけるとすれば、ルックの左手が光に呑まれ彼の指は吹き飛んだことぐらいだ。
「はなっから五体満足で勝てると思ってねぇよ! L(ルーメン)LLLLL」
 残った右手の人差指から光線を放つルックだが、ジルベルトはその光を屈折させて回避する。
「光刺(フォスフィクス)」
 代わりに彼女の光がルックの太腿を抉った。濁音の声を発しながら膝をついたルック。視界には次の魔法を放つジルベルト。避けることは困難だ。
「五光(フォスペーデ)」
 五つの光が全てルックに向けられる。
「そいつは問屋が卸ろさねぇってよ!」
 半分諦めかけていたルックの前に立つのはダースだった。五つ全ての光をダースはその身で受け止めた。悲鳴のような絶叫が聞こえたような気がした。
 全身から煙を上げ、よろけるダースに目を疑うと言わんばかりにルックは目を見開き怒鳴った。
「ッバカ! 何してる? 俺に構って勝てる相手か?」
 煙を上げてもなお立っているダースは振り向くことなく答えた。まったくそれには格好をつけるとかなどのない。彼の心からの言葉。
「できねぇ話だぜ……作戦じゃ、いつも俺はお前の壁だからな。お前が後ろにいたら、避けられるわけねぇだろうが!」
 ダースが微かに笑った気がした。
「なんて頑丈な!
 五光(フォスペーデ)!」
 再度放つジルベルトの魔法をダースは再び受け止める。大の字に立った彼は一切後ずさることはない。
「何者ですか? あなたは。一体何でできてるんです?」
「鉄壁のダースだ。よろしく頼むぜ」
 牙をむき笑みを浮かべるダースにジルベルトは気圧される。
「ルック! お前はまだここでやんなきゃいけねぇ事があるんだろ? 殺さなきゃいけねぇ奴がいるんだろ? 行けよ」
「バカな考え起こすんじゃ……っ!」
 ルックが言い終わる前にダースは前へ出ていた。一直線にジルベルトへ駆ける。驚いたジルベルトは魔法を放つが、頭をガードするダースは止まることはなかった。
「五光(フォスペーデ)。五光、五光五光五光五光!」
「届け~!」
「ヒッ! フ、五光(フォスペーデ)っ!」
 壁まで追いつめられたジルベルトの攻撃とダースが突きだす腕は同時。彼の爪が彼女の頬を撫でた。しかし、それが深く抉る前に力尽き吹き飛ばされた。
 地面に落ちたダースは動くことはなかった。頬から血を流し荒く呼吸をするジルベルトはへたり込んだ。
「ダース! ダース。しっかりしろ」
 ルックが足を引き摺りながらダースに駆け寄るが、ダースの反応はなかった。彼は事切れていた。
 ルックの慟哭を見るジルベルトは震える手を抑えながら魔法を放とうとした。その時である。空気が変わった。
 誰もがそれを感じることができた。大気は震え、地面に圧し付けられているような感覚。弱い者ならそれだけで気絶してしまいそうなほどの圧があった。
「デ……デウス」
 ジルベルトの口から洩れるのは絶望の言葉。そこには一匹の人狼。ブラウンの毛並の人狼はゆっくりとこちらへ歩いてくるのだ。ルックもアポロの方へ視線をやる。
「アポロさん……すみません。俺のせいで……ダースは」
 アポロはよろよろとルックの元まで来ると、彼の言葉はまったく耳に入っていないようで膝をつきすでに動かぬ弟を抱きかかえ頬を撫でた。
「ダース……ダース。そんな、お前も、お前も俺を置いて逝くのか?」
 しばらく嗚咽に似た声を出すアポロであったが、急にルックを掴むと放り投げる。驚くルックが視線を向けるとギクリとした。
 アポロの覇長がヒシヒシと彼の周りで波打っていた。
「ルック。行け。弟がお前を守ったのなら、お前は生きなければならない。ここは俺が引き受けよう」
 ルックを見ることもなく、ジルベルトを見ながらアポロは言った。それはルックが聞いた事のないほどに鋭い、アポロの口調であった。「しかし」と言い返そうとするルックを、アポロは遮った。
「頼む。頼むから行ってくれ……お願いだ。ここから先の俺を見てほしくないのだ」
 それはお願いというよりは命令であった。有無を言わさぬ言葉に、ルックは心底震えあがった。しばらく座っていたが、ルックは起き上がると痛みの退き始めた足を引いて去っていく。
 アポロはゆっくりと歩き出す。時間を貰い震えを治めることができたジルベルトもすでに戦闘の目付きで立ちあがり迎えうった。


 ビートの目は状況や、物事に対する色を見ること。彼にまやかしは通じない。
 まるで鏡に映しているような攻撃を躱していくビートにダニアは驚きと共に喜びの笑みを浮かべる。
 ビートはダニアの魔法を掻い潜り懐に潜り込むと一閃。
「鏡城(スペテルム)」
 ダニアの周囲に現れる鏡のような壁によりビートの爪を受け止める。
「破鏡(スパクルム)」
 一瞬、空いた時間で放たれるダニアの魔法。実際の攻撃とは逆に見える空間の亀裂にも惑わされず、飛び退くビートは身を捩り再度仕掛ける。
「鏡映(スパルラ)」
 いくつかの大きな鏡が互いを映すように現れると、ダニアはその中を移動する。合わせ鏡の奥へ奥へと消える。ビートは目前の鏡を割ると、その奥に鏡が実際に並びダニアが立っていた。
「いやなまやかしを使ってくれる」
 よくわからない相手の魔法にビートは、これはまいったとばかりに顎を摩った。攻撃には自信のないビートには相手に自分の攻撃を当てる決定打に頭を悩ましていたのだ。
「いって~」
 互いに笑みを浮かべ向かい合う両者の間に呑気な幼い声が聞こえてきた。ビートの登場で安堵したせいか気を失っていたグランが目を覚ましていた。
 ムクリと起きる白い髪のグランはお腹を抑えている。先ほど突かれた所はすでに血は止まっている。それを見るダニアは瞬時に彼に手を向ける。ビートが助けようと動くが間に合わない。
「破鏡(スパクルム)」
 亀裂と共に来る衝撃……はずだったが、その寸前、闇が現れるとそれを小さな手が吸い込んだ。それはグランの脇で倒れていたドランの手。ドランは手を上げそれを吸い込むとユラリと起き上がる。
「ようやく吸いこめた」
「でかした!」
 黒い髪のドランが起きるのを見て、ビートの口から声が漏れる。自分の魔法を消された、呑みこまれたのに、若干の驚きを見せるダニアをよそに、ビートはグランとドランの襟首を掴んで飛びあがる。壁に爪を喰いこませ壁に立つビートはダニアを冷たく見下ろした。
「そんな所にいて逃げれるとお思いですか?」
 ダニアが目を細めて、彼らを見上げる。
「破鏡(スパクルム)」
 ダニアが放つ魔法は空間の亀裂と共に衝撃を生み出す。それは壁に立つビートらも避けることができない。が、ビートの目は衝撃が生まれる場所を見極めていた。そして手に持っているドランをそちらに向けると衝撃波は、ドランより溢れ出る闇により吸い込まれた。
 さらにビートは逆の手にいるグランをダニアの方へ向けると、グランより微かに光が溢れたかと思うと彼女に向かって衝撃波が襲う。衝撃波は彼女を巻き込み周囲の物を吹き飛ばした。
「ようやってくれたぞ。二子よ」
 地面に降り立つビートは両手の二子に賞賛の言葉を向ける。二人共満足そうに腕を組み「どんなもんだい!」と言わんばかりだ。ビートはうっすらと笑みを浮かべ二子を見たが、その笑みはすぐに消えた。
 ダニアが立っているのだ。傷も一つ、いや着衣に汚れ一つとしてついてはいない。直撃をしたように見えたのは彼女の創り上げた幻覚だったのかもしれない。
「驚いています。変わった能力です。そしてとてもいいコンビネーションと言っておきます」
 ダニアはあからさまな余裕を見せ拍手のポーズを見せた。しかしそれもまんざらでもないようだ。ビートの目が彼女から発する波の変化に気付いていた。それは強く、そして濃くなっていく。さしも「もう、遊びの時間はおしまいにしましょう」と言っているようだった。
「今更ですが、あなた方の相手を私がしているのは幸運と言えるでしょうね。他の娘達では危なかった」
 薄らと笑みを浮かべる彼女の姿は見る見るうちに変わってきた。顔に刻まれた皺は消え、肌にはみずみずしく艶が戻り、年老いていた彼女は若い女性となっていた。
「では、戦いを再開しますか?」
 一歩前に出たダニアの圧倒的な波にビートですら気圧されえた。体が鉛を詰められたかのように重く圧し掛かる。彼女は先ほどまでとは比べ物にならなかった。
 グランは近づく彼女に、半狂乱状態で手を突き出し光と共に衝撃波を発する。それは先ほどと同じような、ドランが取り込んだ彼女の魔法の衝撃派であった。しかし、今回はその衝撃波は彼女に届くことはない。真っ直ぐ飛んでいったはずのそれは届くことも無く霧散し微風すら残らない。
 ダニアは床に転がる石を取ると軽く。本当に軽く池にでも投げ込むかのように投げた。それはゆっくりと放物線を描き飛んでいくはずだった。そう、だった。石は気付けばビートの肩を抉り、貫いていた。
 何が起こったのかもわからぬまま吹き飛ぶビート。ビートですら目を白黒させるほどに、何が起こったのか理解できなかったのだ。脇にいたドランとグランに何かわかったわけもなかった。二人の目には、改めて途轍もない相手と認識と共に子供特有の何かに縋り付こうとする恐怖が浮かんでいた。小刻みに震える二子を満足げに見るダニアは、両手を上げ二子に向けた。
「鏡槍(ランクルム)」
 まるで風を送るような仕草をしたダニアの魔法。それは二子の体を貫き床を抉る。それだけの威力があった。しかし貫くのは石床のみ。二子は咄嗟に飛び上がったビートによって救出されていた。
 ビートは二子を連れ、ダニアから距離を取るために逃げた。あらん限りの力を込めて地を蹴り、相手に背を向ける屈辱を飲み込んで逃げる。彼の長年の本能がダニアの危険性を示唆し、手に余ると警鐘を鳴らしていたのだ。
「いかん。奴はいかん。奴は……」
 食いしばる様に漏れるビートの言葉は途切れる。急に背後に気配があった。
「何がいけないのでしょうか?」
 近づいてくる気配すら感じられなかったが、そこにダニアがいた。ビートは振り返る間もなく両脇の二子を放り投げる。それと同時にビートは見えぬ槍に背から貫かれた。
転がるビートに放り投げられた二子が今にも泣きそうな顔で近づいてきた。
「爺々、しっかり」
「死なないで」
 貫かれた部位より血が流れ落ちる。くぐもった声を発しながら上体を起こすビートは二子を引き寄せる。
「誇り高きアルタニスの末裔よ。戦士達よ」
 切れ切れの言葉を二子は不安気な顔で聞き入る。
「お前たちに命令をする。すぐにここより離れろ。老輩は捨て行け」
 アワアワと返答することができず、ただただ涙を溜めた瞳を向け首を左右に振る二子。ビートの腕にしがみついて動こうとはしなかった。
「聞け、ドラン。グラン。あのダニア。お前達では相手にならん」
「お別れを言う必要はありませんよ。人狼は皆死ぬのですから」
 無情に立つダニアは彼らを見下ろす。
「せめてもの慈悲。三人、いえ三匹一緒に死して栄光を語りなさい」
 手をかざしたダニア。しかしそこに割って入る影。それは素早く、鋭く彼女を蹴り込んだ。それを手で止めるダニアはようやく相手を視認できた。
「「父様!」」 
 ドランとグランの口から同時に希望と歓喜の声が漏れる。そこにいたのは二子の父・ガルボであった。彼がダニアに蹴り込んでいたのだ。が、それはそう見えたの過ぎない。彼の足は彼女に届いていなかった。彼女の上げた手と彼の足の間にはわずかであるが空間があった。それは僅かであったが、確実に届かないことを示す差であった。訝しげにそれを見るガルボ。
「破鏡(スパクルム)」
 ゆっくりと観察させてくれる時間は与えられなかった。ダニアが魔法を放った時にはガルボはすでにそこには存在しておらず、気付けばそばのビート含めた三人の姿も離れた場所に移動していた。そして彼女の前に立つ人狼。
 ガルボの黄色い瞳が沈黙の怒りに燃える。
「三獣士・ガルボ。ということはスカースは敗れましたか」
 ガルボを認識し姉妹の死を確信した彼女の顔に少し陰がかかったが、それは一瞬のことだった。
「息子達が世話になったようだな」
「いえいえ。それほど」
 目を細め、笑みを浮かべるダニア。ガルボを前にしてもその余裕は揺らぐことはなかった。
「次はこの私が相手をしよう」
「それは光栄ですね。こうでなければ肩を温めたかいがありませんからね」
 彼女は両手を上げ手招きするような仕草をした。
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