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Chopin Asort5

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Chopin Asort… Part5

 この作品は、籠龍の作品「REDMOON」と世界観を共にした作品です。
一応こっちのほうが本編となってますがそっちの方も見ると世界観が上手く補完できると思います。


Part5. THE 7th Sword

Vere side

 クラッシュルマンド――目の前の大剣を見つめる。吸い込まれそうな魅力を持ちながらも、どこか全てを崩壊させるような危うさを持つ、不思議な感覚が押し寄せる。
 ルピスとセイは、後ろの方で俺を見つめている。この剣を抜くには、俺の人狼としての能力の完全な覚醒が必須である。しかし、そんなことは可能なのだろうか。
 目を閉じて、クラッシュルマンドの柄を握る。
 相変わらず何の反応もない。しかし、どこか親近感を感じる。自分の中の一部がそこにあるような、そんな既視感に襲われる。
「クラッシュルマンド…どうしろってんだよ」
 まったくわからない。自分の能力であるのに、好きに使うことができないというのは非常に気持ちの悪いものだった。
「人狼の能力はよくわからないけど、基本的に成長していくにつれその力をコントロールできるようになるんだけどね」
 ルピスが呟く。
「人狼っていってもな。俺はまともに獣のようになることもいまいち上手くできないしなあ」
 頭をかく。今までは常に、純粋に聖騎士の延長として人狼の力を考えていた。しかし、クラッシュルマンドが発動してから俺の中での人狼というものが全く別質のものとなっていたのだ。
「ヴェア、人狼であることをどこかで否定してうんじゃないの?」
 セイに言われ、ぎくりとする。そうなのだ。なんだかんだ言って、もともと人間だった俺が人狼になったなどと言われてはいそうですかとすぐになじめるわけがない。
 仮にも異端を刈り取る側の人間だったのだ。そこから人狼――異端の存在へと変わってしまったことが俺の中で一つの葛藤を生み出しているのかもしれない。
「あの聖騎士のハウンドって人とも、この前のアルって人狼とも、私たち魔女ともヴェアの立ち場は違うんだね」
 セイの呟きが、頭に響いていく。確かにそうだった。俺はある程度共通の目的を見出しながら、しかし結局どこにも属せていない中途半端な立場の存在になっている。そうしたことから、俺の中で俺自身の聖騎士と人狼、そして魔女に加担する気もちがないまぜになっているのかもしれない。
「そうか、俺は頭ん中がぐちゃぐちゃだったのか」
 そう考えると、解決もしていないのにすっきりしてくる。俺が俺であることは、自分が一番よく知っている。それが、三人の違う立場の自分を創り出し、小難しいことにやっきになっていたのだ。
 少し、深呼吸をしてみる。アルと戦った前回の戦闘を思い出す。あのときは、目の前の敵を倒すことを考えていた。ルピスの魔法の暴走を止める時は、ルピスを救いたいと、爆炎の魔女と戦ったときには、ルーナを守りたいと思ってクラッシュルマンドを発動したはずだ。
「つまりは、そういうことか。肩の荷をおろせってことだよな」
 俺は、再びクラッシュルマンドに向きなおる。今度は、リラックスした状態で、余計なことは考えない。ただひたすらに、目の前の剣と向き合う。
 すると、自分の手が青白く光り始める。
「これ? で、いいのか? これがクラッシュルマンド?」
 後ろの二人に問うが、二人とも首を横に振る。確かに、彼女たちもわからないだろう。
 俺はそのまま大剣に触れる。何かが粉々に砕けるような音が、辺りに響く。そして、大剣を包んでいた岩はまるでそれまでの硬質が嘘であるかのようにぼろぼろと崩れ始め、その神々しい大剣が身を現す。
「これが―――破剣、クラッシュルマンド、か」
 俺は、その大剣を一振りする。片手でも両手でも、まるで自分の体の一部を動かしているような使いやすさと、異常なまでの軽さが気に入った。自分のために用意されたかのような剣の造りに、驚くばかりである。
「やった、ヴェア! 何でいきなり使えるようになったの?」
「ああ、そういうこと…考えすぎはよくない、ってことね」
 セイとルピスはそれぞれ違う反応をしながら、俺に寄ってくる。しかし、その間の地面から、突如一人の女性が出てくる。
「はあ~い、こんにちは、皆さん。話は聞かせてもらいましたよ」
 のんびりとした口調の、ふっくらとした女性だった。まるで母親や子供を育てるかのような包容感は、まさに彼女を表している。
「だ、誰だ? いきなり土ん中からとは…魔女みたいだけど…」
 突如現れた女性は、こちらを振り向き、俺のことをよくよく観察する。
「ふむふむ。貴方もあの方と同じような空気が…いえいえ、そんなことはいいんです。私の名前はシャローンといいます」
 シャローンと名乗った女性は表情では笑ったりしてみせているが、相当疲れているようだった。おそらくかなり移動し続けているか、魔法を使いすぎているかのどちらかなのだろう。しかし、そんなことはおくびにも見せずにシャローンは続ける。
「貴方たちも私と同じ、大神を打倒する目的を持っていますね。ちょっと私とお話しませんか~?」
 のんびりと話す口調は、しかし、俺たちの運命を左右するほどのものだった。




Luna Side

 目が覚める。どうやら気絶していたようだ。身体を起こすと、隣でゲルバが座っていた。なにやら悦に浸ったような顔でこちらを見ている。
「いやー、ルーナ様かわいーっすね。大魔女の頃からは考えられないですよー。泣く子も恐怖死する大魔女が、今やこんな愛らしい女の子とは、いやまったくわからないですねー」
 問答無用でゲルバに手刀をおくる。ゲルバは痛みをこらえながらも私のことを注意深く見る。
「どうやら暴走は止められたみたいですね。なによりです」
「とはいえ、使いこなせてないわ。これじゃあ役に立たないかもしれない。もしあkしたら仲間に被害が…」
「いやいや、そんなことはないですよ」
 ゲルバはずいっと顔を前に出す。
「大魔女の転生体とはいえ、たかが一介の風使いの魔女が特上の禁忌魔法使って暴走を抑えられたんです。これはもう文句なしです」
「そう、かな」
「そうです。それに、ルーナ様にはいつだって仲間がいるみたいですから。ダイジョブです、ほら」
 ゲルバが指す方向を見ると、ヴェアたちが歩いてくる。彼の背中には、彼の身長ほどもあるかとも思える大剣が掛けてある。
「…そう、だね。まあ、なんかあったらよろしく頼むよ? 憂愁な大魔女の護衛さん」
「任せてくださいー。私、頑張りますんで」
 ゲルバが胸を叩く。
「ん? どうしたんだ? お前ら。ほら、見てくれよ。クラッシュルマンドを手に入れたぞ」
 ヴェアが近寄り、大剣を見せる。それはまごうことなき自分がアークの時に作り上げた、魔を排除する剣だった。
「うん、ヴェアもルーナ様も合格、だね」
 その言葉を聞いて、後に続いていたルピスもセイも喜びの表情を浮かべる。そしてもう一人、この場にいながらも私は顔を知らない魔女が一人、顔を出す。
「あの~、いいでしょうか~。この森の主である〝影兵〟のゲルバ・ケルン様とお見受けしますが~」
 のんびりした口調の女性は、自らをアンナマリアの教員だと言い、先日大神によって陥落されたアンナマリアの数少ない生き残りであると言った。
「えっと、それでどうしてそのアンナマリアの生き残りがこんな辺鄙な場所に?」
「ルーナ様それヒドイ…私だってクラッシュルマンドを守る役目さえなければこんな森出ていきますよ…」
 私の言葉にゲルバが涙を流すが、シャローンはまじめな表情でこちらを見る。
「貴女様と同じく大魔女の三黒柱である〝不滅〟の魔女エリーゼ様から、〝再誕の日〟の連絡をしに来ました」
「再誕の日?」
「エリーゼから?」
 私とゲルバはエリーゼという名前に、そして残りの連中は再誕の日という言葉に反応した。不滅の魔女は、ゲルバやセイの母、デーヴァと並ぶ大魔女の側近のうちの一人であり、これら三人の魔女を指して三黒柱と呼んでいたのだ。
 シャローンは説明を続ける。そのエリーゼの話によると、どうやら大神は日蝕の日を待ち続け、今は力はため続けているということだった。
「ですから、私たちは大神が力を完全に開放する日蝕の前までに万全の態勢を整えなければなりません~。そのために、私は今全大陸を駆けまわって同士を集めているのです」
 シャローンの疲れはそのためだったのか、とヴェアが呟く。確かに言われてみればシャローン自身の笑顔とは裏腹に彼女の衣服は相当汚れている。長い旅でそれほど休んでいないのだろうか。
「なので~、ゲルバ様ももしよろしければ私たちと共に――」
「そうねー。私たちのほうでもタイミングは合わせようかしら。しだけど、貴女たちは周りの人狼をお願いできる?」
 ゲルバはあっさりと告げる。シャローンは、突然言われたことに、驚きを隠せない様子で、口をぱくぱくとしている。
「いや、でも~、それでは~…」
「下手な戦力はいらないと思うわー。用いるなら一騎当千の実力を兼ね備えた人材を、ってね。それに、エリーゼみたいな頭でっかちには前線よりも後ろの方で大局を見据えてる方が性に合うでしょうし」
 ゲルバは懐かしむようにして言う。シャローンも、ゲルバにここまで言われてしまっては反論もできない。
 シャローンは話終えた後、休憩もそこそこにすぐに旅立ってしまう。
「もう行くの? そんなに疲れてて大丈夫?」
「やらなければいけないことがありますから。大丈夫です。アンナマリアで亡くなった同志のためにも、これくらい…」
 そう言って、シャローンは再び土に潜っていってしまった。彼女もまた、大切な人を失ったのだろう。
 私はヴェアの方へ振り向く。お互い、してやったぞの表情で微笑み合うと、拳を合せる。
「それじゃあ、ここからが本番だよ、ヴェア。私たちの最後の戦いのために。再誕の日まで最終調整といこうか」
「ああ、任せとけ。レッドムーンなんて俺が握りつぶしてやるさ」
 つかの間の、幸せな時間。その瞬間が崩れさることは、誰もが一様に感じていた。再誕の日を目指して。
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