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RED・MOON~2つ名狩りの魔女~  第十八章:届かぬ願い前半

  {初めに…
 この作品は東風の作品「MELTY KISS」の人狼側からの話です。
 よって、その作品と世界観が同じはずですが、稀に違うところもあるかもしれません。その時は温かい目で見過ごしてください…

 アポロ・レント編だぜぇ~ 

第十八章:届かぬ願い



「では、皆さん。準備はいいですか~」
 シャローンののんびりした声が避難場所に響く。避難所にいる生徒、教師達は怪我で動けぬ者達を助け、外へ出る用意をすませていた。
「シャローン先生! ダニア先生です」
 怪我をあまりしていない生徒が、シャローンを呼びに来る。シャローンはその声に顔を顰める。彼女にはその言葉の意味が分かっていた。
生徒に付いて行ってみるとそこには大きな鏡があり、その中にダニアが感情に乏しい表情で立っている。
「あらあら、ダニア。やられてしまいましたか~」
 笑顔を崩さないシャローンに、ダニアは少し顔を顰める。それを見て、意地悪な顔をする。
「慢心は人を殺すとはよく言いますね~」
「うるさいですよ。シャローン。あなたに言われなくとも理解していますよ」
 ダニアにぴしゃりと言われ、シャローンも黙る。
「避難の具合はどうですか?」
「そうですね~。あまりよくはないですね~。私はもう少し回ってみようと思いますけど~……」
「その方がいいでしょうね。では、今集まっている者達は私が外に出しましょう」
「できるのですか~? 誤って途中で力尽いて困りますよ~」
「突いますね。例え死のうが、一度ぐらい運ぶ余力は残してあります。まだまだ、あなたに超えられるつもりはありません」
「できれば、あなたが生きているうちに超えて差し上げたかったんですがね~」
 少し寂しげにシャローンはダニアに言うが、感傷などくだらないとでも言いたげに彼女は鼻を鳴らす。死んでも相変わらずだと、シャローンはダニアを見て笑う。
「それで? 移動の用意はできているのですか?」
「それが~。なかなか怪我をして動けない人達が多いので思うようには進まないそうなんですよ~」
「急がせなさい。でなければ、アンナマリアにこの学校ごと燃やされますよ」
「そうですね~。では、お尻を叩いて急がせましょうかね~」
「用意ができたら私を呼ぶように」
「わかりました。お願いしますね~」
 頷くダニアはすぐに鏡から消えた。シャローンは名残惜しそうに鏡を見るが、ダニアが現れることはなかった。多分、彼女にとってはダニアと会う最後の機会だった。ダニアは自身が死ぬことを考え、生徒達の避難用に自分の一部を鏡に取り込ませていた。だが、所詮それは彼女の造り出す虚像のような物。もちろんダニアであることに変わりはない。本体と繋がっているのだから。しかしダニアが死んだ今、本体との繋がりが消えエネルギーを補給することも、生み出すこともできない。元から与えられたエネルギーが尽きれば消滅するのだ。そしておそらく、それは彼女の言った通りに移動一回分なのだろう。
「お世話になりました。先生」
 そう言って二度とダニアの姿が映ることのない鏡に、シャローンは深々と頭を下げた。
 そんな時に、生徒達が騒がしくなる。人狼でも侵入してきたのかと一瞬焦ったが、そうではなく新しく避難してきた生徒達が来たのだ。
「パラミシア先生! パラミシア先生! 来てください」
 避難してきた生徒の一人が叫ぶ。彼女らの手の中には意識のないジルベルトが抱えられていた。そう、避難してきたのはクルタナ達である。
「パラミシア先生!」
 クルタナの悲鳴にも近い声が中に響き渡るが、パラミシアも何も意地悪でいかないわけではない。他にも怪我の手当てをしなければならない者がいるのだ。彼女は咥えた水銀の体温計で体温を確認する。
「これ以上、増えたら私は死ぬな~」
 溜息交じりに呟くと、そんな彼女の脇よりパラミシアが現れる。彼女の分身だ。と言っても、そこにいる彼女が本体であるかどうかは誰も知らない。誰が本体なのかはパラミシアしか知らないのだ。見ればパラミシアは至る所で怪我人の手当てをしているのだ。新しく出てきたパラミシアは、手当てしているパラミシアと顔を見合わせる。
「今、手離せないから、あなた向こう見てきて」
「はいはい。了解」
 自分からの頼みを聞き、パラミシアはクルタナの方へ向かう。
「クルタナ! あなた、無事だったのね。心配してたのよ。まったく、治療生はただでさえ人手が足りないんだから、ちゃんと避難しないとダメでしょう!」
 パラミシアはクルタナの姿に安堵しながらも、叱責した。
「まぁ、いいわ。手伝いなさい」
 彼女はジルベルトを運んで近くの横にできそうな場所に寝かせると、診察を始めた。クルタナもパラミシアの指示で動く。心配そうに彼女らの周りでは治療を終えた生徒達が見ている中、シャローンも駆けつけた。
「ジルベルト先生。どうなんですか~?」
「う~ん。まぁ、助かるでしょうね。ただ……」
 シャローンの問いに、パラミシアは眼鏡を頭にずらして言葉を切る。
「ただ?」
「ただ、ジルベルト先生は二度と歩くことはできないでしょうね」
「でも、助かるのなら、それでいいです」
 そう言ったのは、その場の光景をジッと見ていたレイアである。シャローンもパラミシアも気付かなかったレイアに視線を向ける。
「生きていれば、それでいいんです。生きてくれさえすればそれで。生きていれば、何とかなるんです」
 レイアが珍しく感情を露わに言ったので、二人は面食らったがすぐに笑顔を向けて、そうですねと頷く。レイアは我に返ったように恥ずかしさに赤面していると、様子を見ている生徒達を押しのけてくるソーニャの姿があった。
「リアナは? リアナは一緒じゃないの?」
 ソーニャはクルタナ達の姿を見るなり彼女らに縋るように言う。リアナは彼女の妹である。レイアはソーニャの問いには首を横に振ったが、クルタナは顔を思わず伏せていた。
 その様子を見たソーニャの顔から色が消える。
「ソーニャ。あと、先生方。話しておかなければならないことが」
 クルタナは意を決し、ソーニャ。そしてシャローン達教師にルディアナがエアロであり、彼の能力とあの場で起きたことを説明した。リアナはルディアナに化けていたエアロに殺害されたことも。ソーニャはあまりのショックに小さな悲鳴と共に気を失ってしまい、周りの者達に助けてもらっていた。
 それに比べ、シャローンは深刻な表情ではあるが頷くだけ。
 話が終わると、シャローンはみんなに用意を急がせる。
「クロエ先生。どこにいるんですか~」
 シャローンののんびりした声に、多分嫌そうな顔をした細い女性が現れる。そして多分シャローンと同じくらいの歳だろう。というのも、クロエと呼ばれた女性教師は全身包帯まみれであった。正直表情もよくわからないが、嫌そうなのはわかる。
「あぁ、そんな。シャローン先生。まさかとは思いますけど、私に何か仕事をさせようとしてませんか?」
「あなたは教師ですからね~。働いてもらいますよ~。私はもうしばらく校内を回り生存者を探します。なので~、あなたはここにいる子達をダニアが外へ連れて行ったら、ちゃんとまとめて指示を出してくださいね~」
 クロエは目を手で覆うような仕草をして嘆く。
「この姿見える? 包帯まみれでしょ? こんな状況で仕事をさせるの?」
「何言ってるんですか~。いつだってあなたは包帯まみれでしょ~。今はどこが増えているのかも、私には全~然わかりませんけどね~」
「もう、過労死する。これ以上働いたら死んじゃう。《アンナマリア》の教師は本当に奴隷のように扱き使われるわ。外の方がまだ魔女に対して優しいくらい。これだから、私は前から転勤願いを出してたんですよー!」
 口を開けば愚痴しか出ない様にも思われるクロエ。彼女の名誉のために言っておくが、彼女は決して怠け者でもなければ自分勝手な人でもない。現に、この戦いでは多くの生徒達を助けるために走り回り、大怪我を負っているのも事実である。ただついつい憎まれ口を叩かなければ動けない人なのだ。
 口ではなんだかんだと言いながらも、仕事は頼んだ者が期待する以上の働きをして見せる。それがクロエという教師なのだ。
「私は辞めますからね。この仕事が終わったら、私は教師なんて仕事辞めてやるんだから。今度こそ止めないでちょうだいよ。シャローン!」
 どうにも興奮してきたせいか早口になっていき、息継ぎも忘れて話し続けている。シャローンは「はいはい」とてきとうになだめる。
「そうですね~。あなたが心配しなくても、これが終わったら《アンナマリア》自体が無くなってしまいますから、私達は教師ではなくなるんですよ~」
 シャローンの言葉にクロエは「あぁ」を嘆く。
 シャローンはクロエとの会話で、クロエが承諾したことを確認すると踵を返して自分の用事を済ませることにした。つまりは校内を回り生き残りを探すことだ。そんなシャローンの前に気を失ったソーニャの具合を見ていたクルタナとレイアがやってきて、懇願した。
「「先生!」」
「ジルベルト先生は、デウスにやられたんです」
 クルタナは一連の出来事を説明する。
「それで、イリス先生は私達を逃がすために残りました」
「イリス先生達だけじゃなくて、レント達もです」
 レイアは不安気な目でシャローンを見上げる。クルタナの目にも同じく不安げな光を含んでいた。
「ラルドックは怪我してるんです」
「レントは私を助けてくれたんです」
 シャローンに掴みかかる勢いで二人は同時に迫ってきた。
「ラルドックを助けてあげてください」
「私じゃ、レントは救えない。だから先生が助けてあげてください」
「「お願い。先生! ……あ、あとイリス先生も」」
 イリスのことはあまり頭になかったらしい。本人が聞いたら泣くだろう。そんな二人にシャローンは彼女ならではの包み込むような優しい笑みを向ける。
「大丈夫ですよ~。レントもラルドックさんも、あとおまけでイリス先生も。私がちゃ~んと連れて帰りますからね~。あなた達は一足先に外へ避難して、クロエ先生の言うことをしっかり聞いて待っていてくださいね~」
 二人の生徒の頬に手を添えて言うシャローンは、彼女らが頷き安心したような顔をしてソーニャの容体を見に戻るのを見送る。
 しかし、彼女の表情は生徒に見せたような優しげな笑みに陰を落としていた。
「えぇ、連れて帰りましょう。デウス相手にまだ、生きていればですけどね~」
 その声が彼女らに届くことはない、少し寂しげな表情を見せるシャローンにも誰も気付かない。彼女はすぐに表情を戻し、避難所を出ていった。
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