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レンラル日誌~馬車を出たら雪国でした編~(2)

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レンラル日誌~馬車を出たら雪国でした編~(2)

 {初めに…
 この作品は東風の作品「MELTY KISS」。また「RED・MOON」の派生です。
 しかし、世界観は若干に変えてある「新説」を元としますので、ん? と思うところも出てきます。
 まぁ、それも愛嬌で。エヘヘ。

 完全に悪ノリで書いた話です。はい。


レンラル日誌~馬車を出たら雪国でした編~




 所変わってマントに包まるレントはガタガタ震えていた。
「ここ、どこだ? 全部、同じ景色に見えるぜ」
 レントも探していた。自分が元いた場所を。
 今や彼にせめてもの温かさを与えるのは、彼の愛剣・ネスティマのみ。
 彷徨っていると、隣の茂みから人影が出てきた。
「おぉ、ラ……るぅ?」
 それは見るからにラルドックではなかった。むしろ男ではない。女だ。まだ若い。彼女は薄手の白いワンピースを着ていた。
「「寒くないですか?」」
 レントと彼女の目が合い、同時に同じことを口にした。
「いえ、私は別に」
「はい。めっちゃ寒いです」
 次の発言には正反対の答えが出る。
「あの……よろしければ、近くに私の家があるので、温まっていきますか?」
「はい、ぜひ」
 まさに九死に一生を得たとはこのことだと、レントは彼女の後を付いて行った。

 そこは立派な館であった。古びてはいるが、しっかりとした場所である。
 レントは応接間に通され、乾いた毛布に包まり、暖かなスープをもらって啜っていた。暖炉には炎がくべられ温かく、そのそばのテーブルには分厚い本が積まれている。助けてくれた女性もここで時間をよく過ごすようだ。
「大変でしたね。このような所で、連れの方と逸れてしまうなんて」
 上品そうに語るのは、もちろん先ほどレント救ってくれた女性だ。この館の主だそうで、ルピスと名乗った。
「そうなんだよな。まったく俺を残して行くなんて」
 ラルドックが聞いたら激怒するだろうが、今はいないので自由に発言している。
「でも、こんな雪山に何をしにいらしたのですか?」
「探し物をしに、ここまでね」
「それは見つかりました?」
「もちろん」
 テーブルを挿んで向かい合う様に座る二人に間。そんな間を壊すのはレント。
「こんな美人に出会えたんだからな」
 レントが茶化したように言うと、まぁ。とルピスも少し顔を赤らめながら笑う。
「そう言えば、この辺りには幻の城って呼ばれる噂があるんだ」
「そうですか」
「そこは探しても見つからない場所だそうだよ」
「探しても見つからないのなら、本当は無いのでは?」
「かもしれない。ただ、実在するのかも、しれない」
「でもそれが実在しても、見つけることはできない」
「そこが、問題だ。興味が湧かないか? だが、さらに俺が興味をそそるのはそこに住んでいる住人だ」
「そんな奇怪な所は住みにくそうですね」
「普通の奴なら、住もうとは思わんな」
 レントは暖炉の炎を眺める。
「そう言えば、ご家族は? こんなに広い館に一人で?」
「え、えぇ。少し前までは父がいましたが、病に伏してしまいそのまま。今では私が一人でここにいるんですよ」
「不便だろ? こんな所に女一人で住むなんて」
「そうですね。確かにお世辞にも暮らしやすいとは言えませんよ。ただ住み慣れた所ですし、なかなか離れられません。住めば都とはよく言ったものです。ただ、朝は布団から出られませんがね」
 それは間違いない。とレントとルピスは笑う。
「でも、こんな所だから、なかなか人と会うことも無いだろう」
「父が、人嫌いで世捨て人のような方でしたからね」
 気難しかったんだ。とレントは納得した。
「そうそう、話しを戻すと、噂ではその幻の館には魔女が住んでる」
「魔女? 恐ろしい話。でも、確かにそんなへんてこりんな館には、魔女ぐらい住んでいなくては面白くないですね」
 その通りとレントは頷く。
「なんでもその魔女は、人を死に至らしめるほどの凍てつく氷や、彼女を見た者を魅了し死ぬまで操ると言われてるんだ」
「それは物騒な」
「さらに、その魔女」
 レントはそこで言葉を溜める。互いに顔を近づけるように前のめりになる。
「人の肉をそのまま食べるらしい」
「まぁ……それは、恐ろしいですね」
 声を低く言った後、しばらくの間は両者口を開かなかったが、「噂だけどな」とレントが吹き出すように言って笑うと、彼女も笑った。
おかしな噂話を笑う。
「それで、その噂の魔女は見つかりました?」
 ルピスの問いにレントは真っ直ぐ彼女を見ながら。
「それが、全然。噂の魔女は見る影もないんだよなぁ」
 ジットリとレントはルピスを見つめながら言う。彼女もそれに残念とばかりに笑って返すと、再びレントとルピスは声を上げて笑いあう。
「まったく噂と言うものはあてになりませんね」
「まったくもって、その通りだ。ただ……一つだけ気になるのが、その魔女は〝冷嬢〟と呼ばれているらしいんだ」
「……気品に満ちた呼ばれ方ですね」
 お互いの表情は一切変わることはない、口元に笑みを浮かべている。
「そう、魔女にしては呼び方に気品がありすぎる。魔女を目の敵にし、忌み嫌う人間がなぜそのような呼び方をするのか? もちろんその〝冷嬢〟と呼ばれる魔女がそう名乗っているから、ということも考えられる。だが、ここで一つ。俺なりの仮説を立ててみた。聞いてもらえるか?」
「えぇ、もちろん」
「あぁ、この仮説はただゲームのように妄想を膨らませて生まれるものだから、おかしかったりしたら遠慮なく口を挿んでくれ」
 ルピスが頷くのを見てレントは立ち上がり、まるで講義でもするかのように歩きながら語り始める。
「まず、その魔女が、まぁ、今はその魔女を〝冷嬢〟と呼ぶことにするが、その冷嬢が冷嬢と呼ばれるにはそれなりの要因があるはずだ。魔女と聞いて思い浮かぶのは? よぼよぼの婆さん」
「皺を深く刻まれた顔にでっかい鉤鼻」
「腰の曲がった体に枯れ木の様な手には長い爪」
「お世辞にも冷嬢とは言えませんね」
「そうだな。仮に名乗っても」
「そう呼ぶことはない。特に人間からは。ですか?」
「その通り、嫌う相手を綺麗な呼び方をするとは思えないしな。だったら、考えられるとしたら、姿を見られたことがないこと。確かに噂では容姿までは、言われてなかった」
「じゃぁ、その魔女は存在しない」
「それも一つの答え。ただ、今は存在しているていで話そう。もし気品溢れる呼ばれ方をしているとしたら、その者はどんな人間?」
「実際に品があり、召使を多く従え、絢爛な女性」
「もしくは、麗しき乙女」
 レントはゆっくりと歩きながらルピスの背後まで来る。
「まだ若く、透き通るような白い肌に、生き生きと活力の満ちた、麗しき乙女。それも立派な家で過ごしている乙女ならば、なおのこと冷嬢と呼ぶのに、相応しいと思わないか?」
「確かにね。どこかの金持ちのお嬢様のイメージかしら」
 耳元で囁くように語るレントを振り切るようにルピスは立ち上がると、「それで?」とレントに話の続きを促した。
「あなたの言う冷嬢とは、一般に言われる噂の冷嬢とはどう違うのかしら?」
「まず、冷嬢は聡明だ。噂のように人に害を加えることは滅多にないだろう。外界より身を守るために様々な工夫をする抜け目のない女性で、物静かに一日の大抵を自らの家で過ごし、読書で時間を潰すような方だ。外に出るにしても家の周辺のみだろう。滅多に人前に出ることはない。ただ人が嫌いなわけではない。独りで過ごす時間を物寂しく思うようなセンチメンタルな部分もあり、そのせいか世話好きで遭難した者達などを見捨てることができない」
「そこまで飛躍していいのかしら? あなたの妄想だけでは説得力に欠けない? 仮にあなたの言うとおりに冷嬢は聡明で、身を守ることを重要だと思う女性が、一人が寂しいだとか、誰かを助けようとか思うかしら? 自分の身が危険になるのに」
「確かに、ではこういうのはどうかな。冷嬢はその落ち着いた外見とは裏腹に、非常にお節介好き。常に誰かに頼られたい、頼りにしてもらいたいと言う一種の共依存への願望がある。故に彼女は年上を演じ、上品に振る舞う。それは相手に自分は頼れる存在だと言うアピールだ。その姿こそ、冷嬢と呼ばれる所以」
「共依存への願望があっても、依存する相手がいない。だから、彼女は遭難なんかをした人を助ける?」
「その通り。だからこそ数少ない人との交流に、彼女は自らの館より出る。自らの願望をわずかな期間でも叶えるためにな」
「う~ん。なんか無理矢理感が残りますけど。まぁ、そういうことにしておきましょう。取り敢えず、冷嬢の誰かと一緒にいたい。という思いが、彼女を世話好きにした。それで? 何か問題が?」
 多少、納得がいっていない顔だが、ルピスはレントを見る。その質問にレントは、ん~と考えるように眉間に皺を寄せた。
「そう。問題はそこだ。何にも問題ないことが問題。彼女は何一つ、問題を起こしていない」
「でも噂では、かなり酷い言われようだけど」
「だが、あくまでも皆口にするのは冒頭に、これは聞いた話だけど。だ」
「直接、知っている人間はいない」
「身近で誰かが犠牲になった話は一つもない」
「誰かが犠牲になったとしたら、それはもう噂ではなくなる」
「そう、それは噂ではなく事件だ」
「でも事件にはなっていない」
「冷嬢は人を襲わない」
「でも、冷嬢は魔女なのでしょ?」
「そう、彼女は魔女だ。自分や他者のためにも他を寄せ付けようとはしないが、自ら繋がりを切るには抵抗のある乙女だ。何はともあれ、これが俺の考える冷嬢さ」
 レントは席につき、ルピスは品よく拍手を送る。レントはそれに頭を下げた。
「では、今度は私が、一人の人物を妄想を膨らませて作っていきましょうか。どうすればいいか教えてくださる?」
 ルピスは次は私の番と言わんばかりに言った。レントはそれを促す。
「いいね。まずその人物は男? 女?」
「美しい姿ですが、男です。しかし、自らの美しさを知っていながらも、それをあまり気にしていらっしゃらない」
「自分の武器を捨てるとは、アホだな」
 レントは鼻で笑う。
「彼はどんな感じの男?」
「彼は狩人」
「獲物を狩って生きている。確かに自分の美しさは関係ないかも」
「それもかなりの腕前の狩人。自分の力に絶対の自信を持ち、無謀だと他が思うようなことも平気でやってのける」
「だが常に彼はその行動を成功させて見せた」
「人々は彼を奇異の目で見ています。奇妙で不気味だと」
「寄ってくるのは敵と味方だけ。孤独だ」
「しかし、そんな彼にも今、信頼できる者がいる。一緒に旅をする方です。その方の話をする時だけ、彼は僅かに心からの笑みを見せる」
 ルピスの言葉に、レントは笑みを返すが思わず手で顔を摩っていた。
「うん。なかなかいい読みじゃないかな。それで?」
「狩人は、自分の決めた狩りしか興味を示さない」
「生きるために狩りをする種族だからな」
「でも、今は命令されて狩りをしている」
「人間関係はいつの世も辛いな」
「狩人は雪降りしきる山へ狩りに来た」
「命じられた旅にうんざりしながら」
「彼はまず自分で獲物を確認に来る。それを狩るに値するかどうかの値踏みをするために」
「自分の判断で狩りをしなくては意味がないから」
「彼は連れと別れ、獲物を発見したが期待した獲物ではなかった」
「狡猾な狐かと思ったら、寂しがり屋の白兎」
「困った。狩るべきか。狩らざるべきか。それが問題です」
「しかし、幸いなことに狩人は武器を忘れてきた」
「言い訳になるためですね? 狩らなかったのは武器がないから。危険はおかせませんからね」
「そうだな」
「さて、では次に狩人に命令を出す者を見てみましょう。仮に〝彼女〟と言いましょう。彼女は絶大な力を持った存在。自身の力に絶対の信頼を置く狩人ですら、彼女に抗えなかった」
「いけ好かないクソ野郎だ。だが、大きな力を持つ。それは淀み、陰があることを知りながら狩人は逃げられなかった」
「……なぜ、狩人は彼女の元にいるのか」
「逃げることなく、素直にそばにいる」
「何か弱みを握られている?」
「それも狩人にとっては重大な弱味だ。でなきゃ、彼を縛ることはできない」
「そう、彼は過剰などに自信に満ち溢れた人です。大抵の事は解決することは可能だと考えるでしょうね。取り返しのつかない過ち」
「絶対的に覆らない過ち。隠しておきたいこと……」
「蓋をしたはずの過ち。つまりは過去に犯した罪。いえ、どこまでも自信に持ち溢れた狩人を持ってしても、それを克服することができない、変えることはできないのだとすれば。それは…もっと大きな問題。つまりは彼だけの問題では無い」
「生ある者は神であろうと、覆ることのないもの。選択などできない」
「そう、つまりそれは今まで生きてきた中で犯したものではない。となれば、もっと前。もっと遡り……そう、彼が抱えているのは出生の秘密かしらね」
「生まれてくるのは意思には関係ない上に、事実は変わらないというのだから。その何かの秘密を持つ狩人は、何とも悲劇的だな」
 レントは手を軽く上げて笑うと、話しを勝手に切った。もう満足。上出来と言わんばかりにルピスに拍手を送る。
 そしてしばらくは、何度目かになる沈黙。互いに観察するように見ていた。
「レントさん。久しぶりに人とおしゃべりで来て、ついつい長くなってしまいましたね。日が暮れそうですから、今日はここで寝ていかれた方がいいですね。でも、お連れの方が心配でしょうね」
「いや、全然。あいつは賢いですから何とかするでしょう」
 再び軽口を言い合う雰囲気に戻り、笑顔がこぼれた。
「そうだ、ルピス。最後に一つだけいいか?」
 妙な緊張感が支配した。それはレントが妙に話を溜めたせいなのかもしれないし、暖炉の明かりが怪しく美しい彼の顔に影を作ったせいかもしれない。
「……何か?」
「……スープのお代わりをもらっていい?」
 ニッコリと人懐っこい笑みを浮かべて言うレントに、ルピスも笑みで返した。
 レントは窓に近づき外を見れば降る雪は強くなってきていた。確かに今日は泊まった方がいいと、レントは窓から離れ新しいスープを啜る。


 レントにはある能力があった。それは一種の予言。予知夢という物だ。ただ自在に操れるものではない。寝ている時に不意に見るのだ。彼と出会った者や、場所などの未来。ハッキリそれが何時なのかはわからないが、彼は見た。まるで彼に語りかけてくるように夢に見るのだ。そして、その夢は彼の知る限り外れたことはない。
 翌朝。
 昨日の雪もやみ、太陽が出ていた。レントは早速、館を出ることにした。ルピスは彼を見送るために入口まで出てきた。
「昨日は手厚い待遇に感謝します」
 レントがまるでどこかの紳士のように一礼するのをルピスは笑った。
「いえいえ。こちらも、久しぶりに誰かと話せて楽しい一時でした」
 ルピスも淑女のようにスカートを持ち上げ一礼。
「お探しの物は結局、見つかりそうでしたか?」
「それが、あと少しで見つかりそうだったんだが、お前の美しさに見惚れていたら見失ったよ」
「それは残念」
 ルピスの言葉に肩をすくめながらレントは立ち去ろうとするが、言い残したことがあるとばかりに踵を返す。
「そうだ。冷嬢について、最後に一つだけ付け加える」
「また、何か浮かんだんですね?」
「まぁ、浮かんだというよりも、見えた」
 レントは意味ありげな顔をして、話し続けた。
「近からずも遠からぬ頃、二人の来訪者が冷嬢を訪れる。その一人は彼女がよく知る者……あぁ~、そう少女だ。来訪者は何か大きなものを追いかけている。大事な使命を抱えている。そして彼女に決断を運んでくる。それは大きな決断だ。その先の運命すら変えてしまうような決断。冷嬢は選ばなくてはならない。友の頼みか、自らの命かを」
 二人の顔からは笑みが消えていた。
「それは前途多難ですね。でもおそらく冷嬢はどちらを選ぶにしても、悔いが残ることはしないでしょうね」
 ルピスにレントは頷いて見せると、気持ちを切り替えるように彼女の手を取り甲に口づけする。
「では、これで失礼いたします。白き館のご令嬢。白き山に住まう俺の白兎。これより先、あなたに輝かしき未来が訪れんことを心より祈っております」
「あなたにも祈っています。南の地より来た狩人。あなたの如何なる悩みも解決の光がささんことを」
 レントはそのまま去っていく。決して振り向くことはなった。

 レントの意気揚々の帰りにラルドックは、コーヒーを沸かして啜りながら迎えた。よっと、手を上げるレントに、レントのカップを差し出す。
「ネスティマ。拾っといたからな」
「おう! 気が利くね」
「わざと置いてったんだろうが。雪に埋もれかけてたぞ」
「うぅ~。ネスティマ~。寒かったろ~」
 置いてあるネスティマに近づき抱きかかえるようにして持つ。
「で? どうだった?」
「どうって?」
「助けてもらったんだろ?」
「そりゃ、もう大切に扱ってもらったね。でかい館だったし」
 ふ~んと興味の無いようにラルドックは頷いた。彼は館よりさほど離れていない所に陣取っていたのだ。彼はレントが望んだ通り、いやそれ以上に動いてくれる。寒い中、文句も言うことなく。
 だからこそ、レントは彼だけは相棒と認めた。
「その館に魔女はいたか?」
「その館に魔女はいなかったよ」
 レントの返答にラルドックはしばらく彼の顔をジッと見つめたが、「そうか」と短く答えるとコップのコーヒーを飲み干して立ち上がる。
「いなかったら、しょうがねぇよな。いねぇもんは殺せねぇしな」
「だな。じゃぁ帰るか?」
「当然だ。一晩中、俺はこんな所にいたんだぞ。もう雪はうんざりだ」
「おぉ~。さぶ。しかし、よくみんな生きてるよな。魔法でも使ってるんじゃねぇか?」
「勘弁してくれ。町中の奴が異端者か? あぁ、でも町の奴全員が魔法を使うなら、使わない奴が異端になって、異端の奴は異端じゃなくなって」
「異端の奴は結局異端だろ。異端の奴らが異端だと判断しても異端は異端だから、異端じゃなくなって……?」
「でも異端の根本は少数派に追いやられたものだから、外からの異端でもそれは中からでは異端ではなく、普通の者が逆に異端となって、異端は異端の意味を変化していって……もういいよ! 朝っぱらから疲れるよ。俺は早く帰って寝る」
 一人スタスタ歩いて行くラルドックに、レントは足早に追いついて隣に行く。
「あぁ~。これでも俺達も経費が落ちるようになるよな」
「まぁ、ちゃんとしたしな」
 二人並んで帰路につく。何をちゃんとしたのかは疑問であったが、彼らなりにはちゃんと調査をした。異端者はいなかったとの結論は出たのだから、誰が何と言おうと決着したのだ。

結局

 セリスタル。
「なんで経費で落ちねぇんだよ! この眼鏡! うそつき~!」
経費では落ちませんでした。
話も落ちません。

(完)
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