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REDMOON~満月が堕ちた夜~ 第0,1章

  {初めに…
 この作品は東風の作品「MELTY KISS」の人狼側からの話です。
 よって、その作品と世界観が同じはずですが、稀に違うところもあるかもしれません。その時は温かい目で見過ごしてください…

 ……では、始まり始まり……}}
第0章

 世界は大神によって創られました。
 人々もまた大神により作られたのです。
 そんなある時、大神の住まう地に人間の一族が逃げてきました。
 穏やかであった彼らは己を守り抜くにはあまりにも非力でした。
 哀れに思った大神は彼らに力を与えます。
 力に目覚めぬ者達は目覚めた者により多くの災いから救われてきました。
 そして時が流れ、穏やかな時代に終わりを告げる災い。
 それははるか南より来た災い。
 南の地により生き抜いてきた人間の侵略。
 大神は最も信頼する大魔女に言いました。
 「攻め入る者達を打ち砕き、救いの手を」と。
 しかし、そんな大神の意見に大魔女は首を横に振ったのです。
 「大神とはあくまでも万物に平等であれ」
 彼女は大神に神としての自覚を問うのでした。
 大神は彼女に言いました。
 「我が子らの痛みは我の痛み。痛みの原因を振り払うのは当然である」と。
 大神はついにその力を人に使ったのです。
 それがすべての始まりでした。

 ……大魔女の裏切り……

 大神と大魔女の戦争。 
 大神を慕う超戦士と、大魔女に付き従いし魔戦士の戦い。
 それが人狼と魔女との最初の対立……


   第1章
     1
 私は神と呼ばれていた…
  だが今では人は私を卑しい人狼と呼ぶ…
 なぜだ? なぜ裏切る? 私が一体何をしたというのか? 私は常に見守ってきた。危機から救い。平和であれと思ってきた。
 私の同胞達は今や絶滅に瀕している。皆よく働いてくれた者達。
 体から大量の血が流れ落ちようとも。私は死なない。否、死ねない。今ほど己の体が不死であることを呪ったことはない。
 しっかりと地面を踏み占める足後には血がくっきりと残っている。
 私には名前がない。いろんな呼び方があった。
〈神〉〈大神〉〈赤目〉〈赤戌〉〈赤神〉〈名無し〉…
 しかし今はあれの呼び方が一番気に入っている。
 創造者(オリス)
 彼女だけが私を呼んだ。まるでそれが名前であるかのように。冷たげな瞳で、人見知りで少し硬い表情を緩めながら私を呼んだ。戦で親を失った孤児。拾ったただの人間の赤子。同胞達は捨てろと言ったが私にはできなかった。私は聡明な彼女に力を与えた。人を人以上に高める力。一般に今では魔法と呼ばれる力。
 大魔女と呼ばれるようになった彼女はとても美しい女性となった。私は誇らしく思った。これは人間で言う自慢の娘を持つ父親の気持ちなのかもしれない。何百年。同胞達も変わっていく中で、彼女だけが変わらず私のそばにいた。
 人間達に見放され消沈していた私を救いだしたのもまた…彼女だった。信頼では収まらない。言葉などでは表現できないほどに彼女は私の存在だったのだ。
 …そんな彼女がまさか私を殺そうとする第一人者だったとは…
 彼女の名は…大魔女:アーク
☆   ★   ☆
 オリスは深い深い森を走る。丘に見える神殿を目指して。
 人間を影から見守るための黒い体は今や、闇に紛れる漆黒の黒に。人間への愛を表されていた赤い瞳は今や、復讐に燃える赤に。
 多くの同胞の死が彼の胸に突き刺さり縛る。傷を負い血を流す彼の足にさらに速く、と急く。
 森の中を爆走する大きな狼の姿に森の生物は恐怖に身を震わし、殺気だっている雰囲気に息を殺す。
 森を抜け草原の向こうに神殿がある。彼は足を止める。
 彼の前に四人の女。感じられる波長で魔女であることがわかる。
 逆立つ毛がこの場の結界が普通のものではないことを表している。彼女らを人柱とした結界。人柱力を用いた物だ。
 オリスは四足歩行の狼の姿から立ち上がる。牙をむき、鋭い爪を持ち、狼に似た今の彼のような姿を人は人狼と呼ぶ。
 オリスは視線を空へと向けた。
 今夜は本当に美しい満月夜である。

      2
 もうすぐ。彼が来るだろう…妾を殺すために。
 妾はあまりにも多くの同胞の血を流させた。家族同然だった人狼達を、姉妹同然だった魔女達を使って殺させた。そして今、親同然の彼を殺そうとしている。
 心が痛まない。と言ってしまえばウソになるだろう。この心を針で刺すような痛みはやはり戸惑いと、悔みから来るものなのだろう。しかし躊躇いはない。妾は彼を殺す。
 この数百年。妾は彼と一緒にいた。彼の厚い信頼も知っていた。だからこそ、妾は裏切った。妾が裏切る必要があったのだ。
 もうすぐ彼が来る。何百という同胞達の苦痛や憎悪を背負って。
 神殿を守護させた四女達。聖域によって通常の倍の力を持つ妾達。さらには人柱によって力を高めてもおそらく彼の敵ではないだろう。対人狼殲滅術(まほう)を身に着けていても彼は普通ではないのだから。
 彼は神。地上でいくら剣を振ったとしても決して月を斬ることはできないのだから。
 しかしそれでいい。彼女達は勝たなくていい。妾のために時間を稼いでくれれば、それでいい。
 妾は親を殺す。神を殺す。
 妾はアーク。大神を殺す存在。月を堕とす大魔女・アーク。
☆   ★   ☆
 神殿の重い扉を重く軋む音が聞こえた。
 錠などまったく無意味に、大きく、重く厚い扉が音をたてて開いく。月の光で影が伸びてくる。
 扉を開いた太い剛腕の持主は漆黒の毛で覆われていた。目が異様に赤く光る。喉を鳴らすような唸り声をあげる彼の体はまだ新しい他者の血で汚れていた。
「アァークゥッ!」
 扉を開ききった時、彼は彼女の名を叫ぶ。その雄叫びに近い声は大気を揺らし、神殿のステンドグラスを震わす。
「オリス…ずいぶんと遅かったよの~。でもあなたの破長は痛いほどに感じておった」
 女神の偶像の前に跪いていたアークは立ち上がり小さく言った。
「私のために散っていった同胞達の無念を晴らしにきた」
 オリスはアークを見る。白いローブに白い帽子。いつもの格好で、いつものように長い髪を靡かせ立っている。翡翠色の瞳がすでに彼女の戦闘態勢になっていることを意味していた。
 その光景にオリスは無性に腹立たしく感じた。
「同胞達の? あなた自身の? はて…どちらのじゃ?」
「黙れ! 同胞の痛みは私の痛み。その身をもって味わえ!」
 オリスが踏み込むと地面に亀裂が入った。一気にアークの前に。振る抜くオリスの鋭い爪がアークを引き裂く。
「あなたとまともに戦うのは得策ではないよの」
 アークの声は背後から。引き裂かれた彼女は脆く崩れおちていく。
「風映(アリス・アウラ)」
 アークの声がそこら中から聞こえてきた。そして彼女の姿も一人や二人ではない。彼を囲むように立っている。そんな彼女達の攻撃。
…――砕断の風(オニス・ヴェントゥス)――…
 四方から見えない刃の接近を感じられた。オリスは拳を握りしめる。腕が筋肉の隆起で膨らむ。
「ああぁ~がぁっ!」
 気合いと共に拳を振り回す。
 彼を中心に衝撃が生まれた。神殿に設置されていた椅子は吹き飛び、ステンドグラスは割れる。そして彼に襲いかかってきていた風の刃ごと周囲のアークを弾き飛ばした。
 壁にぶつかり、床に叩きつけられ、彼女達は崩れ、割れ、散っていく。そんな中に一つだけ、否、一人だけ肩を抑え立ち上がる彼女。それが本物、彼は襲いかかる。
「でたらめ過ぎるよの~」
…――限定魔法・神々の楽園(ボレス・パラディシス)――…
 腕を振る彼女と同時に神殿内に光が降りてくる。神殿全体が包まれるような感じに。
 アークは手を差し出すように上げる。オリスの爪がアークの体を捉える。
…――鋼鉄の絶対風神(アン・ボレアス)――…
 オリスの爪がアークの四肢を引き裂く寸前。彼は吹き飛ばされた。大気に押し返されたような、体を貫かんばかりの巨大な風が彼の体にぶつかり、神聖な絵が描かれた天井に圧し付けられる。亀裂の入る天井。肺の中の空気が一気に押し出された。
 なんとか態勢を立て直し、地響きのような音を立てて着地するオリス。それにアークは片手を左へ軽く振った。
 オリスの視界がぶれる。次は右から風が襲う。床に爪を立て留まろうとするが押され、床に爪痕を残しながら壁に衝突する。さらにアークは手を地面に叩きつけ、前に突き出す。
 オリスはなす術もなく床に押し潰されんばかりに叩きつけられ、後方に置かれた女神像を潰すように壁に圧しつけられ落ちる。
「…これで終わりか?」
 起き上がるオリスの体には傷一つ付いていなかった。
「やはりあなたは一気には潰れぬか。できればあまり苦しんでほしくなかったのじゃが。でも…仕方ないよの」
 差し出す手を握り閉じる。
「…っ!」
 大気の異常な震えに身を捩ったが、風の塊が左腕を押し潰していた。筋肉は引き千切れ、砕けた骨が突き出て、血が噴き出す。オリスは腕を抑え、歯を食いしばり懸命に漏れてくる悲鳴を押し込める。
「無駄じゃ。聖域により妾の力は通常の二倍。さらにボレス・パラディシスによりさらにその倍乗の力があるのじゃ。いくらあなたが強固と言えど、局部だけなら潰す力はある」
 アークは少しの間まるでそむけるように目を閉じ、そして目を開けると手を翳す。その目には一切の躊躇いはない。
…――怒涛なる風神(ビニス・ボレアス)――…
 まるで生物のように動く大気は彼女を中心に回ると、一塊りになりオリスに襲いかかってきた。オリスは体を捩じり残った右手を捩じる。体の捩じれる所を全て捩じり切れてしまうほどに捩じる。
 風が寸前まで来た時。捩じった体のバネを戻すかのように手刀を振り下ろした。
「グゥゥゥウアラァァッ!」
 渾身の一撃は巨大な風を切り裂く。彼の前で真っ二つにされた風は床を抉り、全てを巻き上げ壁をぶち抜いた。
「無茶苦茶する…ぁっ!」
 土煙り越しに見たオリス。彼の胸は通常の数倍に膨れ上がっていた。アークは咄嗟に構える。叫んだのは同時。
「アン・ボレアス!」
 オリスの言葉ではない怒涛の雄叫びは衝撃派となり、アークの作り出した風に襲いかかる。衝突によりアークは小さな悲鳴を上げ壁へ勢いよく吹き飛ばされた。オリスも後ずさる。
「とんでもないバインド・ボイスよの~…でも、まだまだ!」
 すでに立ち上がり向かってくるオリス。アークは床を叩く。
「首を落とせ!」
 …――退魔の鎌(アーゲントゥム・ファルクス)――・・・
 アークの叫びと共に現れた鋭い刃が鋼鉄並の強度を持ったアリスの毛皮を突き破る。噴き出る鮮血。
 次々と容赦なく貫かれる。絶え間ない痛みにオリスはくぐもった悲鳴を上げる。
「滅びろ! 滅びろ! 滅び、朽ちよっ!」
 刃の一つがオリスの首に突き立ち、オリスの足が止まる。
「ここまで…ここまで、いやまだだ!」
 倒れそうになるオリスはなんとか踏みとどまると大きく雄叫ぶ。
「まだだ。同胞達が受けた苦しみに比べれば、まだ全然足りぬわ!」
 踏み込むオリス。目前にはアーク。アークは慌て右手を突き出したが、その前にオリスの右手が吹き飛ばした。
 宙を舞うアークの右腕。
 そしてさらに一振り。血の涙を流すオリス。アークの体に刻まれた大きな四つの爪痕。そこから血が噴き出した。
 長い髪を靡かせ、彼女は静かに倒れた。
「…なぜ、なぜ私を裏切ったのだ!」
 瀕死のアークにオリスは今までの感情が込み上がってきた。
「あなたは…もう神には戻れぬ」
 静かにアークは答える。
「一度堕ちたあなたには、神になる資格などのじゃ」
「なんだと?」
「神とは、どこまでも自己中な存在。エゴの塊。利己的で、無関心。冷淡で、薄情。だからこそ全てに平等でいられる。だからこそバランスを取れる存在。しかし一度堕ちたあなたは情が生まれてしまった。情を持った存在は神にはなれぬ。なっていいはずがないのじゃ。情を持ち、一、生命として生きている。痛みを消すこともできるのに、そうしないのが証拠。
これは世界のため。そして人間のためにもな」
 壁に背を預け座る形のアークは血を拭きながら話した。
「確かに、確かに私は情が生まれてしまったのは事実だ。だが、それでも。もう退くわけにはいなかいのだ。同胞達の流していった血の量が、失った命の重さが私を前に突き動かす。今ここで立ち止まっていいわけがないのだ。私のために戦ってくれた者達を、死んでいった者達を無駄であったと笑われていいわけがない! 彼らを化け物のまま死なせておくわけにはいかないのだ! すでに引き返すには分岐点は過ぎた。この先は進むのみ! 前進あるのみ。それ以外はあり得ない! 私はもう一度、この世界の神となる…っ!」
 オリスはアークが笑っているのに気付いた。そして、彼女の体が崩れていっていることに。
「こ、これは…転生魔法だと! お前、どこでそれを?」
「フフフ。体は単なる器。妾は魂を解き放ち一から器を作る」
「何度でも、私が殺してみせるさ」
「この空間を作ったのには二つ理由がある…一つは妾の力を高めること。そしてもう一つは。あなたを閉じ込めるため」
「何?」
「妾は大魔女。神を殺す魔女。味わえ」
…――大魔法・砂の風(アレナ・ヴェントゥス)――…
 アークが左手を床に擦りつける様に払った。
 オリスの体を大きな風が吹き抜ける。視界がぶれた。全身が締め付けられた感覚に膝を付く。そしてその後感じた痛みは壮絶だった。全身をジワジワと刺されていくような。血液が沸騰しているような。内臓が一つ一つ破裂していくような。あまりのことにオリスは耐えきれず悲鳴を上げる。身を捩る。
 倒れている女神像。顔が半分砂になり崩れていた。
 見れば像だけではない。イスも絵画も…否、神殿全体が今や砂になり崩れおちようとしている。
「ガァッ! 体が…私の体が」
 オリスの体も例外なく砂になっていく。感じる痛みはこの時のものだろう。
 立ち上がりふら付きながらも外へ出ようとする。幸い壁は所々砕けていたので外に出る所を捜す必要はない。しかし、外に出ようとするオリスを見えない壁が中へ押し返した。
「出られぬ。全て妾が準備したんだから」
 気が狂いそうな痛みに耐え、懸命に出ようともがく中で彼女の声が聞こえた。
「流石のあなたも全てを消し去ればただでは済まぬ。仮に再生できても時間がかかる。その間に妾は転生する。そして妾は人狼を殺していくわ! 何百、いや必要なら何千と。彼らが絶滅するまで。妾は殺し続ける。あなたが二度と夢を見ないようにな」
 すでに半分体が崩れているアークはうっすら笑みを浮かべている。
「アァーックゥーッ! 貴様という奴は。何度でも私が殺してやる! 貴様の命が擦り切れ転生できなくなるまで殺してやるぞぉ!」
 崩れ落ち、砂へとなっていく腕、足、顔。
その夜、声が出る限り、オリスの雄叫びは続いた。
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