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RED・MOON~2つ名狩りの魔女~第0章:彼女の憎悪・第1章:大神と2つ名狩りの魔女

  {初めに…
 この作品は東風の作品「MELTY KISS」の人狼側からの話です。
 よって、その作品と世界観が同じはずですが、稀に違うところもあるかもしれません。その時は温かい目で見過ごしてください…

 ……では、始まり始まり……


{ 第0章:彼女の憎悪



 世界なんて滅んでしまえばいい。
 人間なんて死んでしまえばいい。
 この世の全て、みんなみんな壊れてしまえばいい。
 憎い。憎い憎い憎い…
 私を捨てた親が憎い。
 私を罵倒する男が憎い。
 私を軽蔑する女が憎い。
 私を恐れる子供が憎い。
 奴らの眼は忘れない。奴らの声を忘れない。奴らの存在を忘れてなるものか! 壊してやる。殺してやる。滅ぼしてやる。
 全てだ。一切の例外なく、人である私が可能である限りの全てを焦土と変えてやる。
 そして私はその世界で唯一、神の隣に立つ存在となる。そこは誰にも渡さない。誰にも渡したくない。絶対に、絶対に…
 唯一、私の存在を認めてくれた彼。私を見つけてくれた彼。私に力をくれた彼。彼は私の全てだ。彼が望めば何だってする。
 憎い憎い、ああ憎い。腸が煮えくりかえる。
 この世界が憎い。
 彼を捨てた人間達が憎い。
 彼を裏切った人間達が憎い。
 彼から授かったこの力で、世界を地獄の鍋底に変えてやる。
 だからこそ、彼には私が相応しい。私しかいないのだ。私以外はあってはいけないに決まっている。
 私と同じ眼を持つ彼…否、彼と同じ眼を持った私だからこそ彼の隣に相応しい。
 私は特別なんだ。他の奴らとは違うんだ。
 格が違う。
 器が違う。
 次元が違う。
 ステージが違う。
 存在そのものが逸した存在なんだ。
 憎い。憎い。本当に憎たらしい…堪忍袋もとうの昔に焼け切れた。
 なぜあの女なのだ?
 どうしてあの女をまだ特別視する?
 彼はどうしてあの女をまだ見る?
 裏切ったあの女を。
 人間に味方したあの女を。
 彼を殺したあの女を…
 どうしてあの女が特別なんだ?
 どうしてまだ彼はあの女を…
 私の方が優れている。
 私の方が強い!
 私は絶対彼を裏切らない!
 絶対に絶対に絶対に…
 いいさ。どうせ、いつかは相俟うのだから。
 見ていればいい。私こそが唯一無二であると見せつけてやる。
 私こそが2つ名狩りの魔女:シャシャ・ランディ


{ 第1章:大神と二つ名狩りの魔女




 この世界は大神によって創られたという。
 大神は混沌としたこの世界に天と地を創り、そこに水を敷き、種を蒔いたそうだ。
 根気強く育てられ種は芽が出、蕾となり身をつける。
 それは大きく広がり大地に緑の絨毯を敷いた。
 次に大神は土、水、大気、光から塊を創った。種を植えたそれらは動きだし、種を造り世界中に広がっていく。
 そんなある時、誤って大神は未熟な雌雄を創ってしまった。それはあまりにも弱く、みすぼらしかった。大神はそれらを憐れに思い、他の生物にはない能力を二つ、盾と矛を与えた。一つは思考力である。自分で考え、自らを知恵により守ることができるための言うならば盾。もう一つは大神の力の一部を与えることであった。これは雄と雌で適応の種類が変化し、雄の方は肉体そのものを主に強化することに、雌の方は万物を操ることに特化した能力でありこれが矛であった。
 その雌雄は与えられた能力を駆使することで、一見他種より劣ると思われてきた環境を逆転させ、最も繁栄することに成功した。
 その雌雄は世界中に爆発的に広がりを見せた。
 同時に、それらは矛ではなく盾。つまり思考・自我を強く持つようになり、より高度な社会を築いていったが、代わりに特殊な能力は衰退していき、ついにはそのほとんどが使い方を忘れてしまった。
 その雌雄達は高度な文明を持った彼らは大神を創造神と祀る。彼らは自らをアルタニスと呼ぶ。これが満月と大神の信仰である。
 アルタニス達は矛を忘れさった者達をヒトと呼び、彼らを大神と共に守った。
 一方、ヒトは進化する知恵と共に争うようになった。その頃だろう。大神が一人のヒトの赤子を拾う。争いによって生き残った乳飲み子。灰塵と化した村でまるで隠れるように眠っていた。
 アルタニス達の反対を無視し大神はその子を拾いアークと名付け育てた。別に大した意図はなかった。気まぐれと言ってしまえばそれまでだろう。周囲もすぐに死んでしまうだろうと思っていた。しかしアークは予想に反し成長していった。アルタニスの中の唯一のヒト。大神は彼女に力を授ける。矛を。森羅万象を支配できる力を。
 彼女には天稟の才があった。後に魔法と呼ばれる能力を彼女はとんでもない速度で学び、他を圧倒していった。昔ながらのアルタニスですら彼女を一目置き、女性のアルタニス達の長となった。
 そしてついに、彼女は大神の隣に立つようになる。
 そしてこう呼ばれた。“唯一無二の大魔女”と。
 不老となった彼女は数百年、大神と共にいた。
 あの〈禍の月〉と呼ばれる戦争があるまでは…
ある者が大神崇拝を捨て、密かにある少女を造った。その子は聖女とされ、ヒトらに聖女の信仰が広まり始める。それは爆発的に広まっていった。
 それはジャンヌ信仰と呼ばれる。それを教える者達にとって、大神の存在は疎ましく思い始める。
 彼らは大神信仰を説くアルタニスを異端者とし、ついには大神を神の座から追いやった。それに怒った大神が世界を再誕を持ち上げる。
 その手始めが、信仰が盛んであった大陸の西への攻撃。豊かな大陸西部は一瞬にして滅ぶ、全てのものが塩化した。塩の谷の誕生である。
 これに心を痛めたのはアークであった。
 そして彼女はヒトに味方したのである。
 大神の核を奪ったアークは部下の魔女達を従え大神に戦いを挑む。
 アルタニスは大神側に味方した男(人狼)と大魔女側に味方した女(魔女)にわかれた。以来、人狼達は好んで自分達をアルタニスと呼ぶ。
 その戦いは熾烈な戦いであった。
 アルタニスは数を減らし、結果、アークと大神は相討ちという形となり、闘いの幕が閉じたのだったが…


 時は〈禍の月〉より百五十年が経過していた。
 一度器(肉体)を失ったアークは新たな肉体へと転生を遂げ、灰と化した大神は灰の中より体を構築し復活していた。
 今の彼は大神とは呼ばれずもっぱら魔女たちからは紅い月(レッド・ムーン)と呼ばれていた。
「オリス!」
 聞きなれた声に目を開けると、黒い髪の女が立っていた。
「魔女達を追いつめた。ってか、追いつめられてる? アポロの奴、弱くて仕方ないわ」
 オリスとは懐かしい。〝創造者〟という意味で昔、娘同然であった者に呼ばれていた。自分もその呼び名は気に入っているがまさか今でもそう呼んでくれる者が現れるとは思ってもみなかった。
 オリス(大神)は身を起こす。ここは木々が生い茂る密林だ。空を見上げると枝の隙間から満月が見える。
 オリスはそれを紅い瞳で確認するように見つめ、呼びに来た女に視線を移す。彼女は闇に溶けてしまいそうなワンピースを着ている。同色の長い黒髪に白い肌。そしてオリスと同じ紅い瞳を持っていた。気の強そうな、挑戦的なその視線は幼くも女性としての魅力も醸し出す。
「それで? アポロはどこにいる?」
「向こうで追われているわ」
 オリスは意識を向けると確かに追われているのが感じられた。魔女と人狼にはそれぞれに特有の気配がある。オリスやアルタニスの中では魔女の気配を〝波長〟。人狼達のを〝破長〟と呼んでいた。
「…んん。では、私も赴くとしようか」
 オリスは魔女達の波長を感じ取り、目的の波長でないことに少し落胆しながら静かに言った。
 女はオリスの様子を黙って見ていた。


「トリャーッ!」
 アポロは自慢のブラウンの髪をなびかせながら、背筋に危険を感じ飛び退いた。背後を電光が通る。
「っぶねー! 死ぬ~! 小娘~! 主~! 何処? ってか、なんで俺一人やねん! コラァ! 魔女共! こんなことしてタダで済むと思ったら大間違いやぞ」
 背後から追ってくる女、魔女三人にアポロは怒鳴る。
「お姉さま! あの汚らわしい犬っころが何か言ってますわ」
「お姉さま? あの節操なしの駄犬が何かほざいていますわ」
「あらあら。躾のなってない子ですねぇ~。こちらとしては早くお縄に付いていただきたいのですが」
 三人の魔女達は笑いながら追いかける。
「俺は狼だっつうの。あいつら許さねぇ。俺だって誇り高きアルタニス。その誇りに懸けてお前らをたお…」
 振り向いてビシッと指を突き付けた時、三人の魔女達の瞳は色を変えていた。魔法を使う際に魔女の瞳の色が変わる。
「私が命ず、大気よ万力となりて下の者を押し潰せ」
「我が命ず、水達よ刃となりてその者を貫け」
「余が命ず、雷よ鉄槌となりて憐れな狼を打ち据えろ」
 三者三様の攻撃がアポロめがけて降ってきた。轟音と共に土煙が巻きあがる。
「直撃ですわ」
「即死ですわ」
「残念至極ですわねぇ~…!」
 巻きあがる土煙を斬り裂き、一つの影が走り去っていく。
「まさか? 生きているのですか?」
「それも動ける?」
「興味深いですわねぇ~」
 アポロの走る背中を見ながら三人は驚きながらも楽しげだ。
「カッコワリー…でも無理~! 無理だ~! 死ぬ~。こうなりゃ」
 全力で距離を取ったアポロは三人に振り返る。首をかしげる三人。
「まさか、ここで変態することになるとわな。痛いんだぜ。結構」
 アポロの体が言ってる傍から膨れていく。ボキボキと骨格が変形し、筋肉が膨らみ剛毛がその筋肉を覆っていく。
あまりの事に目を丸くする三人。呻き声が消えた時、ブラウンの毛並みの人狼がそこにいた。
「すごい! 本当に変形してしまいました」
「初めて見ましたわ」
「圧倒されますわねぇ。なんて邪悪な」
「フンッ! 調子こいていられるのも今の内だぜ、この姿になった俺はまさに百人力なんだ・か・ら・な!」
 牙を剥いて笑みを向けるアポロに三人は笑みを消し身構える。
「俺の力を見せてやるぜ! …と、見せかけて」
 クルリと踵を返すと、先ほどまでとは比較にならないほどのスピードで走りだした。
「あ…逃げましたわ!」
「卑怯者!」
「ウルセー、この姿になった俺に追いつけるものか!」
 アポロを追うがさすがと言うべきか、人狼の彼の足は人では追い付けない。
「困りましたねぇ~。クロノアさん。お願いね」
「わかってますわ。お姉さま
 私が命ずる、風よ疾風となりて我らの足となれ」
 三人の周囲に大気が纏わると、三人はまるで宙を舞うようにアポロを追い掛ける。
「ヘン。これで奴らも追い掛けて…」
「追いつきましたわ」
「早っ!」
「この風来の魔女・クロノアにかかればこんなものですわ」
「テメー等、魔法とは卑怯だぞ!」
「あなたに言われたくありませんわねぇ」
 一番、偉そうな女がニコやかに前に回り込んでアポロに言った。万事休すである。
「さぁ、お縄についていただこうかしら」
「狂おしき嫉妬(アイヴィー・インヴィディア)」」
 アポロと三人の間に紅蓮の炎が割って入った。温度の高さにたじろぐ三人。
「主~!」
 アポロは炎が出てきた方向を見て叫んでいた。
「ご苦労であったな。アポロ」
「勿体なきお言葉です」
 先ほどまでとは打って変わり片膝をつき項垂れるアポロだった。
「よく生きてたわね」
「うっせー! この不死身のアポロ様が死ぬわけねぇだろうが!」
 隣に立つ女の軽い発言にアポロも軽くなった。
「あらあら援軍なのかしら?」
「まぁ、人狼に味方する女の方がいますわ。それに見てくださいお姉さま。あの二人の目。なんて禍々しいのかしら」
「これはこれは珍しいわねぇ~。猿と犬が仲良くしていますわぁ。しかし、そこの殿方の目はもしかすると、もしかするかも知れませんねぇ…」
「「レッド・ムーン」」
 姉の言葉に、妹達の声が合わさる。若干の緊張と、高揚が感じられる。思わぬところで大物がかかったといった所だろうか。
「お喋り好きな魔女さん方さぁ。どうでもいいお喋りくっちゃべってないで、自己紹介してくれない? そうそう所であんた達の中で一番強いのはそこの真ん中でいるあんたかい?」
「失礼極まりますわ」
「まぁ、なんて乱暴な言葉遣い」
 汚いものでも見るかのように女を見る三女。
「ではそちらから名乗ればよくって?」
 しゃべり方にいい加減ムカついてきた。そうオリスの隣で女の顔が語っている。
「わたくしは、シャシャ・ランディと申す者でございます。さしてあなた方に名前をお教えするのは意味があるとは思いませんが、よろしければ、残り僅かな余生で覚えていただけたら嬉しいかと」
 厭味を隠すこともなく、わざとらしくワンピースの裾を挙げ丁寧にシャシャはお辞儀する。
「オリス。あの真ん中の雷鎚の魔女は私がもらった」
顔を上げた瞬間にシャシャはオリスに呟く。と同時に短い詠唱と同時に地面に炎をぶつけた。その爆風で前へ飛び、真ん中の女にぶつかる。女は小さな悲鳴と共に茂みにシャシャと消えてしまった。
 いきなりの事に目を丸くする残った二女。小さくため息をつくオリス。ドーンと二王立ちしているだけのアポロ。
「お前達の事は知っている。ジャンバルキアの三姉妹。雷鎚の魔女・ライア。水蓮の魔女・サランテ。風来の魔女・クロノア。どうやら私の子が先走ってしまったが、私が君達を生かしておく理由がない。ということは理解してくれているだろう。故に、私は今から君達を狩る。覚悟してもらいたい」
 二女はオリスの紅い目の色が増したように感じ、身構える。
「アポロ。お前はどうする?」
「いえ、主の獲物を奪うようなことはできないです」
 やる気は0であった。彼らしいと首を振る。一瞬の視線を逸らしたのを二女は見逃さない。
「私が命ず、突風よ刃となりて敵を斬れ」
「我が命ず、水気よ圧となりて敵の動きを止めよ」
 二女の魔法にオリスは一切避けない。受け止める。
 ドッシリと体が重くなったかと思ったら、突風が体を突き吹ける。風は刃となって、オリスの皮膚を斬り裂いた。
「あらあら。神様と聞いていたのに、血が出ますわ」
「血が出るのなら殺せますわ」
 オリスの体から血が流れているのを見た二女が静かに歓喜した。
「私の体に傷をつけるほどの威力なれば、お前たちは誇っていいぞ。お前達の魔法は確かに優れているということだから。だが、軽率。あまりにも軽率。血が出れば殺せる? 否。断じて否。出血が死に直結するというのは人間の考えである。所詮は人間の考えの限界だ」
 オリスは流れ出ている血を手に乗せると、振る。血が飛び散った。
 咄嗟に気づいたのは次女のサランテであった。
「クロノア! 避けるのです」
 サランテは自ら身を翻しながら、ポカンとしているクロノアの腕を引いた。
 オリスによって投げられたオリスの血。それは二女の背後にあった大木並木を切り倒していた。あまりの切れ味に、切られた後も倒れず切り株に乗ったままの物もあった。
「魔法? 血を刃に変えた…しかも、詠唱なしで?」
 水を使うサランテにはそれが理解できた。
「化け物が!」
 パニックを起こしたのはわけがわからないクロノアであった。
「私が命ず、風よ…」
「あまり動くな…腕が落ちるぞ」
 オリスが言った時、オリスに向けて差し出されていたクロノアの右腕がズルリと落ちた。
 オリスの血の剣をクロノアの右腕は受けていたのだ。ただその切れ味故に斬られたことを体自体が認識できなかった。そして痛みも感じなかったのだ。
 腕と共に噴きだす血。クロノアは悲鳴を上げ、必死で斬られた腕を押さえ浸り込んでしまった。
「我が命ず、水よ膜となりて、かの者を守れ」
 サランテは完全にパニックを起こし戦意喪失したクロノアの周囲に即座に魔法の壁を作り守った。
 しかしオリスの攻撃は続いていた。地面に突き立てた手。
「お前達の養分とするがいい」
 クロノアのいる地面が隆起したかと思うと、木の根がまるで何かの生き物の口の様に現れると、呆然とするクロノアを飲み込んで地中に帰っていった。
 サランテの悲鳴が上がる。彼女の震えは押さえた手も何の意味もなさない。声一つ上げることなく消えたクロノアの分と言わんばかりに、声をあげていた。あんな攻撃を見たことがない。オリスのしたことはサランテを混乱させ、パニックに陥れるのには十分すぎた。
「なんですの? 一体、何をどうすればあんなことができうるのですか? 理解できない。あなたは化け物、化け物、化け物…」
 激しく震えるサランテに、オリスは軽く手を挙げる。
 サランテは次は恐怖ではなく、苦しみの断末魔を上げた。
 白い肌が赤くなり蒸気が上がる。悶える彼女の目が弾け、口からも白い煙を上げそのまま動かなくなった。
「一体…何をしたんですか?」
 あまりの事にそばで立っていたアポロがオリスに尋ねる。
「触ってみるといい」
 オリスに言われ、アポロが触ると彼女は火傷するほどに熱くなっていた。
「その者の体内の水分を沸騰させたのだ」
「そんなことが…できるというのですか?」
「少しコツさえ掴めば、難しいことではない」
 だいぶ力が戻ってきた。
 オリスはそう感じながら、その赤い瞳で月を見上げた。
 だが、まだだ。まだ全快ではない…


「彷徨いし憤怒(アヴェロ・イラスカー)」
「余が命ずる。白き閃光よ全を貫け」
 紅蓮の炎と、白い雷光がぶつかり相殺する。
「不思議な魔法をお使いになりますわねぇ~。でもだいぶ一度の力の消費が激しいよいうですね。そんな物で私と戦い続けられますか?」
「心配してくれるんなら。さっさと死んで…その二つ名、私によこせ」
 ライアの言っていることは正しかった。魔法に対して恐るべき適応能力を見せたシャシャだが、他と比べれば魔法を初めて日が圧倒的に浅いのだ。魔法は無限ではない。有限の力なのだ。しかし、彼女にはまだそれがうまく調整できない。そしてする気もなかった。
「荒れ狂う嫌悪(ベルム・オディウム)」
 紅蓮の炎が渦を巻きライアを襲う。
「単調な技です。力で押し切りたいのならもっと、力を入れなさい」
 ライアは笑みを浮かべながら、渦に呑まれた。
「燃え尽き…っ!」
「余が命ず、若き雷よ。薙ぎ払え」
 横に走った閃光によって、シャシャの炎ごと吹き飛ばされる。
「余が命ずる。余を雷光とせよ」
 吹き飛ばされたシャシャは地面に叩きつけられながらも起き上がった時には、そこにライアの姿はない。
「余は雷なり。何者よりも速いのですわ」
 声は後ろからであった。
「狂おしき嫉妬」
 しかしそこにはすでにライアはいない。
「だいぶ、息が上がってらっしゃる。だから言ったではないですか。馬鹿なのですか?
 余が命ず、雷よ鉄槌となりて憐れな小娘を打ち据えろ」
 雷激を受け叩きつけられる。悲鳴を上げぬように口元をきつく結んだが、声が漏れた。
「まだ立ち上がる? 学習しないのですか?」
「っく…考えるよりも先に、体が動くたちでね」
 ゆらゆら立ち上がるシャシャに少し哀れそうに視線を向ける。が、一方のシャシャはそれに反し笑みを浮かべている。笑みですまされない。ケラケラ笑い始める。
「力が足りない。もっと力を。もっと憎悪を! 塗り潰せ、私自身を黒く黒く塗り潰せ…あんたの雷鎚の魔女の二つ名もらってくよ」
 明らかに空気が変わった。
「なんですの?」
「な~に。ようやく体が温まってきたんで見せてあげようと思ってね。私の本気を」
「なんて…禍々しき色」
 ライアが思わず声として漏らした。
 それは彼女の瞳の色の事であった。魔女は本来、魔法を使う時、その特色の色が瞳に現れる。しかし初めから瞳の紅いシャシャは先ほどから変わっていなかった。が、今変化した。赤い色が濃くなり、濃くなり。どす黒く変わっていく。そしてそれは黒というよりも…
「闇?」
 吸い込まれてしまいそうなぽっかりと空いた闇の穴。そんなことを抱かせる瞳である。
「さぁ! いくわよ」
 あまりの気迫に圧倒されながらもライアは叫ぶ。
「余が命ず、雷帝よ稲妻となりて地を一層せよ!」
「陶酔の憎悪(ナルシス・オディー)」
 大きな技がぶつかる。否、紅蓮の火柱が、光の柱を飲み込んだ。
周囲は目を開けていられないくらいの光に包まれる。
その光が収まった時、ライアの姿はなかった。そして、彼女の背後にあったはずも湖もまた、その姿を消していた。
「雷鎚。確かにもらったよ」
 シャシャは振りかえることもなく、笑みを浮かべながら去っていった。
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