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MELTYKISS …Part1

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MELTYKISS … Part1

 この作品は、籠龍の作品「REDMOON」と世界観を共にした作品です。
一応こっちのほうが本編となってますがそっちの方も見ると世界観が上手く補完できると思います。
(3/9追記 このページ見にくいですか?wiki触ってたら楽しくなってこんなんになったんですけど。一応一人称の視点切り替えを表現したんですが…。見にくいと思ったら掲示板とかに書いてもらえると助かります。すぐに直してみますので。)

Part1.encounter

Vere side

 もう何時間続けて歩いただろうか。これ以上走ることは無理だと、身体が悲鳴をあげている。足も、腕も千切れそうなくらいに痛む。
 現状を我慢することは容易い。しかし、この状況があと何時間続くのかを考えると、俺はどうにもギブアップを叫びたい気持ちになる。
 もう夜も更け、辺りは灯りひとつない。木と、土と、多くの野生の気配で続く悪夢のような森が続いているだけだ。
「まだだ!まだ油断するな!」
「異端者を許すな!」
 後ろの方で、俺を追い続けている奴らが叫ぶ。俺の逃亡に付き合ってもうかれこれ三つほど街を越したのではないだろうか。彼らのことを考えると、ほとほと申し訳なくなってくる。
「でも…悪いな、ここで諦めるわけにはいかねぇんだ」
 呟きながら、肺に十分な酸素を詰め込もうと必死になって息をする。追ってきているのは、異端警察だろうか。それとも聖騎士隊の連中だろうか。異端警察であれば多くの人員が通常の人間と大差ない身体能力であるが、聖騎士隊が来るならば、覚悟しておかなければならない。
 滑り込むようにして木々の間を抜け、泳ぐようにして草を分けていく。目の前に広がっているのは先ほどから絶望ともとれるような暗闇ばかりで、少しでも気を抜いてしまえば膝をついてしまいそうだ。
「なんで、追われてるんだよ…? この俺が何したっていうんだよ?」
 独り言は、理性を保つ最大の友人だ。昔からこういった理解を超えたような状況になるとよく使う手段だった。もちろん隣に背中を合わせあえるような奴が居れば、そいつとの語らいを楽しめたかもしれない。
「でも、今は一人か…結構辛いな。戦力的にも、心労的にも」
 ただ、その分一人のほうが楽であるという見方もある。今のような逃亡劇であれば相方の気を使うことなく自分の安全のみを考えることができる。つまり、一人のほうがいいかとか、相方がいてくれたほうがいいかなどというのはケースバイケースなのだろう。
「いたぞっ!囲め囲め!もう逃がすな!」
「ちっ、仕事熱心だな…」
 振り返ると、八人の若者が立っていた。その姿を見て、一瞬だけ心の中で神に感謝を告げる。
 服装や捜索の形態からして、どうやら彼らは異端警察だった。
 黒い皮のジャケットは、少しでも攻撃を防ぐためだろう。おそ
らくあのジャケットの中には薄い鉄板が二枚か三枚重ねて仕込まれているかもしれない。構えた剣は、どうせ支給品の安っぽい刃だろうに。
彼らが聖騎士隊でなくて本当によかったと感じる。聖騎士隊はどんな任務であれ基本的に二人から五人の少数で行動していたはずだ。彼ら異端警察のように徒党を組む必要性がないからだ。
彼らの中の一人、隊長格の男が叫ぶ。
「相手に手を出すな!あくまで殺すのは最終手段だ!異端者を生け捕りにするのが我らの使命だということを忘れるな!」
聖騎士隊は数が少なく、その実力は未だに知られていない。もちろん個人個人の性格に難があり、協調性に欠けるために団体行動などを不得意としている部分ももちろんある。
「隊長、この異端者は何も武装していません。無闇にこちらの敵意を表さない方がいいのでは…?」
「…そ、そうだな。おい、そこの異端者。おとなしく捕まるならば手荒な真似はしない。投降することを勧めよう」
 ぼそぼそと仲間内で話しながら、隊長格の男は俺に向かってそう言った。
「俺が、異端者、か。まぁ反論はできないけどさ…おとなしく捕まるわけにはいかないんだ、悪い」
 大きく身をかがめる。俺が突然体勢を変えたことに驚き、異端警察たちはすぐさま臨戦態勢になる。揃っていい反応をすることには関心してしまう。
「だけど、そんな付け焼刃の実力じゃあ、俺を捕まえられないな」
 その言葉が言い終わらないうちに、足をバネのようにして俺は走り出した。
「よぉ、お前ら。聖騎士隊と違って大勢で行動してて動きやすいか」
 まず一人目。目の前の男の腹部に豪快に蹴りを入れる。地に手をつきながら、その手を押し上げるようにして身体を伸ばし、軽々と相手を吹き飛ばす。その際に横にいた奴には見えたようだった。
俺の右足についている二本の剣が交差したような紋章に。
「こいつ…聖騎士隊の出身か!」
「その通り!」
 起き上がりざまに、横で叫んでいた男の顎を吹き飛ばす。そのまま振り返るようにして後ろから向かってきた男の顔を裏拳で殴り飛ばす。
 剣を使わせる隙を与えない速さで、三人の男がその場に崩れ落ちる。その光景を唖然とした表情で見つめる残りの異端警察を尻目に、俺は再び走り出す。
「…はっ、待て…待て異端者!よくも仲間を!」
「悪いけど待てないよ、ここで捕まるわけにはいかないからな」
 最後の言葉は言い訳のようになってしまっただろうか。しかし、自分が異端者などと呼ばれること平静な気持ちで聞くことはできない。
「俺が異端者、だと…?くそ、スタルタス…」
 今は亡き戦友の名を叫ぶ。何もかもあの事件が発端だったのだ。
 あの事件があってから、俺の人生の歯車は何かが狂い始めていたのだ。
「なんでだ、なんで…なんで俺はあんな姿に…」
 走りながら、混乱していた。もうどこをどう走ったのかさえ覚えていない。頭を抱えながら、ひたすら木々の間を抜けていく。
「…君、ここらへんの人じゃないね。だれ?」
「っ!」
 半ば反射的に声のした方から飛び退く。数瞬遅れて、声の主を
見てみると、緑色の髪をした女の子だった。

Luna side

 その日はやけに涼しく、春風を感じさせない天候だった。いつものごとく森に散歩へと出かけてみても、その悪寒が拭われることはなかった。
 私がここに隠れていることが誰かに知れたのだろうか。
 そんな言い知れぬ不安がよぎる。今の自分であれば満足な戦いはできないだろう。
「誰…?」
 ざわりと草木が音を立てる。よくよく耳を澄ませてみれば、何人かの人間の声のようだ。しかも穏やかな会話ではないらしい。
 興味があったわけではなく、ただなんとなく気まぐれで、私はその声の方へと向かっていった。
 気づかれないように様子をうかがってみると、どうやら一人の男が数人に追われているようだ。
「追われてるのが女の子だったら、助けたかもしれないなー」
 などとおっさんのように呑気な感想を言っているあたり、完全に他人事である。巻き添えやバイオレンスな状況に立ち会わないように、早々にここを立ち去る必要がありそうだ。
 そう思って立ち上がると、追いかけていた方の集団が逃げていた男を取り囲んでいるところだった。
「相手に手を出すな!あくまで殺すのは最終手段だ!異端者を生け捕りにするのが我らの使命だということを忘れるな!」
「な…なに?異端者?」
 聞き流すには少し穏やかではない言葉だった。しかも、追う側の服装を見てみると、数十年前にできたはずの異端警察であった。
「異端警察が追う異端者って、たしか魔女じゃないの?」
 矛盾を口に出してみるが、答えてくれる者はいない。ずっと一人で生きていたせいか、独り言が癖になっている。
 再び彼らのやり取りに目を移す。異端者と呼ばれた男は、ゆっくりと身をかがめた。その静かな殺意や闘志から、どうやら戦うつもりのようだ。武装した男を八人も相手に。
「だけど、そんな付け焼刃の実力じゃあ、俺を捕まえられないな」
 その言葉がスイッチだったのだろうか、異端者の男は爆発したように一瞬で動き、すぐさま三人の男をなぎ倒す。途中の言葉を聞く限りだと、あの異端者の男は元聖騎士隊のようだ。
「聖騎士で異端者?なにそれ。矛盾してない?」
 まだまだ戦闘が続くのかとも思ったが、そうでもなかった。異端警察側がひるんだ隙に、異端者の男はすぐに逃げていってしまった。殺さないあたり、異端者と呼ばれているにしては珍しい。
「ふむ。ちっと興味出てきた」
 もし他人が自分の笑顔を見ていたら、表情を見ただけで悪巧みしてる、と言うかもしれない。それくらい、私は好奇心で満たされていた。
 異端者の男が走っていった方に行ってみると、すぐに見つけることができた。どうやら苦しんでいるらしい。なにかの禁断症状だろうか。
「そういえば、人間は禁断の薬にも手を出したんだっけ」
 有史以来、神に服用することを禁じられた薬を、人間は最近になって飲んでしまっているようだ。もしかしてその男はそういった薬の中毒者なのかもしれない。
 しかし、それだけではないことが段々と伝わってくる。どうやら、彼には何かとてつもない秘密が隠されているようだ。
「…よし、行ってみるか」
 毒を喰らわば皿まで、とも言う。私は自分の直感を信じる。この男に話しかけてみることで、現状が変わるかもしれないと思った。
「…君、ここらへんの人じゃないね。だれ?」
「っ!」
 それまで苦しそうにしていた男はすぐに飛び退き、私を距離をとる。どうやら先ほどの戦闘でかなり感覚が研ぎ澄まされているようだ。しかし、これはまるで―――
「野生の獣みたい…」
「わかるのか?」
 何の気なしに呟いた言葉も、男には聞こえたようだ。私は慌てて口を押さえて取り繕う。
「いや、まぁなんか君の反応が普通の人っぽくないなーと思ってね、別に悪口言ったわけじゃないよ?」
「…そうか」
 極めて好意的に、それでいて無害そうな笑顔を向けながら、私は心の中で呟く。懐かしい、と。
 見た感じ身体中のあちらこちらに擦り傷ができている。あてもなくこの森の中を彷徨い続ければ、誰だってそうなるのは明白だ。元々の服がぼろぼろに擦り切れている。
「ん、その服…?」
 見ると、彼が着ている服は聖騎士隊の紋章が付いている。よくよく確認してみると、彼の右足にもその紋章が刻まれていた。どうやら先ほどの会話の、彼が聖騎士隊出身であるということは確かなようだ。
「聖騎士が、なんでこんな森の中にいるの?」
「さぁ、よくわからないうちに追われて、逃げて、この有様だよ」
「異端者だから?」
 その言葉に彼は答えなかった。私の聞き方がまずかったのだろうか。意外とナイーブなのかもしれない。いくら聖騎士とはいえ異端者として祭り上げられれば精神的にくるものがあるのかもしれない。
「あー、その、さっき君が異端警察に追われてるところを見ててさ。それで気になってついてきたわけ」
 言い訳がましいが、本当のことを言う。私の人生経験からして、この手の状況では変に嘘をつかないほうがいい。
 私に敵意や害がないことが伝わったのか――それとも諦めたのだろうか――、彼はゆっくりとその場に沈み込み、大木に背を預けてこちらを見る。
「それで? 異端者だったら君は俺をどうするんだ? 縛り上げて異端警察にでも突き出すか?」
「そんなことしない、私だって異端警察は嫌いだからね」
 そう、私も異端警察が嫌い。そして彼も異端警察から逃げている。この構図は、見ようによってはなかなか良いものに見えてはこないだろうか。
 私の言葉に、彼は訝しげな表情をする。そろそろ、自分の手の内をさらした方がいいかもしれない。私は、ぱさりと着ていたマントを翻して自分を指した。
「私はそよ風のルーナ。君たち人間が恐怖し、嫌悪する魔女さ」

Vere side

 彼女のその言葉は、一瞬の空白をおいてからゆっくりと頭の中に染み込んできた。
 魔女。大昔から、人々を苦しめる存在として常に世界の表側と裏側の間に立ち、その不思議な魔法で大自然を意のままに操る。
「君が、魔女だって?」
「そう。そよ風って呼んでくれてもいいし、普通にルーナって呼んでくれてもいいけど」
 俺たち、聖騎士が常に追い続けていた存在。異端警察が、ただの治安維持部隊の延長とも言うべき存在とするのならば、聖騎士隊は魔女討伐の一念によって結成された最精鋭の組織である。
「俺は仮にも聖騎士隊出身だぞ。よく顔が出せたな――っく」
 起き上がろうとするが、さすがにここまで走ってきた疲労が出てきたようだ。精神的にも大分疲れている。目の前の魔女、ルーナの姿を見て気を抜きすぎた。
「あぁ、あぁ、ほらそんなに力まないで。疲れてるんだったらこの近くに私の小屋があるからそこで休んでいけば?」
 さすがに魔女の誘いに易々とのるわけにはいかない。
「いや、いい。俺は大丈夫、だ…」
「別に生け捕りにして食べたりしないからさ。変な実験にも使わないし、閉じ込めたりするつもりもないよ?」
 冗談にしろ本気にしろ、魔女の言葉は信用できない。自分のことを棚にあげて言うならば、異端者などを信用すれば自殺するのと同じくらいに愚かな行為だと見られてしまうだろう。
「しょうがないね…ちょっと話を聞きたいから力づくでも連れて行くよ? 私、こう見えても結構それなりの力は持ってるからね」
 どうやら魔女が実力行使にうつるようだ。確かにその気になればこちらの意思など考えずに操ることが出来るかもしれない。
 ルーナと名乗った魔女は、少し俺から距離を取り、真正面に立つ。ふわりと風が起きたような感覚を覚え、俺はそのまま意識が遠のく。
 薄れる意識の中で見たのは、鮮やかな翡翠色に染まった彼女の瞳だけだった。

Luna side

「あれ? なんで? まだ魔法使ってないよ? おーい」
 おかしい。確かに魔法を使うつもりだったのだが、魔力を目に集中させただけで彼は倒れてしまった。
「魔力に反応したの? それってもしかして…人狼?」
 人狼――それは、聖騎士隊からすれば魔女と同格並みの異端者だった。魔力に反応しその姿を変貌させ、強靭な肉体と不思議な力によって暴れまくる。理性のない異常な人間。
「待て待て…もしそうだとすると危ないな。ここで暴れられても手のつけようがないし」
 本来、時間をかければ人狼でも理性を保ったまま変貌できるのだが、おそらく彼は人狼になったばかりだろう。このまま森林の破壊活動に出てしまいかねない。
「しゃーないな。あんまり気は進まないけど、君を助けてあげれば恩も売れるか」
 そう言って、私は半ば昏睡状態の彼に近づく。すぐに変貌しないところを見ると、魔力の耐性が強いのだろうか。それともただ単に反応しきれていないだけか。なんにせよ、すぐに暴れないだけ安心できる。
 近づいてみて気が付いたが、変貌は少しずつ進んでいるようだ。手からは刃と呼べるよどに鋭利な爪が生え、髪は体毛と同化しようとしている。
「妾が命ず、悪しき力よ妾の糧となれ」
 そう言うと、彼の身体から淡い光が漏れ出し、すうっと私の口へと流れてくる。その光が私の口の中へと吸い込まれていくにつれて、彼の変貌はおさまり、元の人間の姿へと戻っていく。
「あ、あああぁぁぁぁ…」
 彼の目はどこか焦点が合わないまま、ただ虚空を見つめているだけだった。肩で大きく息をして、ゆっくりと顔を上げる。どうやらまだ生きているようだ。さすがに人狼の体力は侮れない。
「君、大丈夫? 立てますかー?」
 ひらひらと顔の前で手を動かすが、彼に反応はない。疲れをなんとか乗り切るようにして上半身を起こしているが、正直今すぐ倒れても不思議ではないくらいだ。
「魔女に…助けられた…な」
 かすれるような声で、彼は私を見る。忌々しく、というよりはどこか諦めたかのような視線。私はびしっと指を立てて笑顔を作る。
「そうそう、魔女に助けられたんだし、それ相応の報酬を期待してるよー」
 そう言うと、彼は力なく微笑んで、そのまま崩れ落ちていく。私は背中を受け止めるようにして持ち上げ、彼の顔を見る。汗がびっしょりと出ており、辛そうだ。やはり先ほどの魔法が効きすぎたためだろう。
「その前に、ちゃんと休みな。すぐそこに私の家があるから、少し休ませてあげよう」
 そこまで言って、私は大切なことを聞き忘れていたことに気が付く。
「そういえば、君の名前は?」
「…ヴェアだ」
 ヴェアと名乗った元聖騎士は、さすがに限界だったのか、そのまま深い眠りに落ちてしまった。
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