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MELTYKISS … Part2

  この作品は、籠龍の作品「REDMOON」と世界観を共にした作品です。
一応こっちのほうが本編となってますがそっちの方も見ると世界観が上手く補完できると思います。

Part2.witch and knight

Hound side

 おかしい。この辺で間違いないはずだ。先ほど慌てて逃げ帰る異端警察の奴らを見たので、間違いなくここで当たっているはずだ。俺のような単独行動する奴にとって、人探しほど面倒なものはない。そういう細々した作業ほど、蟻のようにたくさんで作業をする異端警察の仕事だろう。
「しかし、ヴェアの野郎はどこ行ったんだよ。さっきから歩いてるがちっとも会わないじゃねえか」
 こちらに来たことは間違いない。先ほどの異端警察が負傷し、焦りながら応援を要請しようと話していたのを立ち聞きしたが、この先でヴェアが一騒動起こしたらしい。自然と口元に笑みがこぼれる。
「やっぱヴェアの相手はこの俺『神殺しの聖騎士』たるハウンド様しかいねえだろうな」
 さすがは俺の好敵手だ。異端警察なんか蝿のように振り払い、なおも逃走を続けているらしい。異端者なんかに成り下がってしまったが、まだまだ聖騎士としての力は健在のようだ。
 ヴェアを倒すのはこの俺しかいないだろう。他の奴がかなう相手ではないことは、聖騎士隊も重々承知している。
「もっとも、俺だったらヴェアの野郎をぶちのめすことなんざ、簡単だけどな」
 さて、まずはどこを探ってやろう。当てもなく探すのは得策ではない。辺りを見回し、少し考える。
 たっぷり考える時間をおいてから、口元から自然と言葉がもれていた。
「道に迷っちまったな」

Vere side

 暖かい日差しがまぶたを通して伝わってくる。いつの間にか目を覚ますと、俺は周囲を見回す。どうやら、どこかの小屋にいるらしい。
 頭痛がひどい。どうやら気絶していたようだが、倒れる前の部分の記憶が少し飛んでいるようだ。思い出そうとすると、白いもやがかかったようにしてその記憶をかき消してしまう。
「ここは…どこだ?」
「妾は命ず、風よ私を運べっ!」
 ふと、外からの声に反応する。その声の方を見ると、窓の外には一人の少女が立っていた。
「妾は命ず、風よ私を運べっ!」
 彼女――ルーナの姿を見て、段々と失われていた記憶が呼び戻される。同時に今置かれているこの状況も、大体の察しがついた。どうやら魔女に助けられ、その対価を払わされるらしい。
「妾は――って、あれ? 君、目が覚めたんだ?」
 ルーナがこちらに気づいて駆け寄る。俺は窓に手を突き、彼女を見る。緑色のショートカットヘアが目に付く、明るそうな十五歳かそこらの外見をした少女。こうして見ると、どう見ても村にでも住んでいそうなただの少女にしか見えない。
 彼女の髪が風でふわりと揺れる。
「ヴェア、だったよね。結構寝てたねぇ…もうお昼近い時間だよ?もしかして昼に起きる習慣だったとか?」
「んなわけないだろ。しかしお前、ルーナだったか? 本当に、魔女なんだよな」
 おそるおそる聞いてみる。これで、『嘘でしたー』とか言われたならば、どれだけ安心したことか。しかし、現実はそうもうまくはいかない。
 ルーナは胸を張って自慢するよう俺を見る。
「そのとーりっ。私はそよ風のルーナ。君の言うとおりの魔女ですよ? なんなら魔法でも使ってあげよっか」
「…いや、遠慮しておく」
 そう答えるのが精一杯だった。元聖騎士の俺がまさか魔女と一緒に明るく話しているとは、誰も想像しないだろう。目の前のちんちくりんな魔女は自分の魔法を披露したいのか、不満をたらしながら俺のことを見ている。
「もしかして私のことバカにしてる?魔女だと信じてないんじゃないの?言っておくけど、これでも昔はそこそこ名の知れた魔女だったんだからね?」
「わかった、わかったから。魔女ってことは納得した。でもその魔女のお前がなんであんなところを散歩してたんだ?」
「この周辺には珍しい薬草がたくさんあるからね。定期的にああやって歩き回って薬草を摘みにいくわけさ」
「薬草か、この俺の体質も治ればいいんだけどな」
 つい本音を漏らしてしまった。しかし、そのつぶやきは彼女にも聞こえたらしく、ルーナはこともなげにそのつぶやきに答えた。
「治るよ」
「…は?」
「だから、治るってば。ヴェアのその身体の異変のことでしょ?」
 一瞬、ルーナが何を言っているのかわからなかったが、少しずつ頭の中に響いていく。俺は思いっきり窓を飛び越えてルーナの前に立ち、彼女の両肩を掴む。
「本当か? 本当に俺の身体が元に戻るのか?」
 いきなりの俺の反応にびっくりしたのか、すこし肩を強張らせながらもルーナは笑顔を作る。
「う、うん。簡単じゃないけどね…ようはヴェアの身体の中にいる悪魔の血を抜き取ることが出来ればいいんだし」
「…そういえばお前、俺の身体の異変のことわかるのか?」
 そういえば俺の身体のことについて、まだこの魔女には何も話していないはずだ。なぜわかったのだろうか。
「そりゃあ、魔女なんだから知ってるでしょ…人狼のこと」
 そう言うと、ルーナは窓をすっと飛び越えて部屋の中に入る。こちろを振り向いてちょいちょいと手招きすると、そのまま部屋の奥へと向かっていった。
「ゆっくり話しましょう、ってことか」
 確かに外で立ち話というのもなかなか疲れる。病み上がりで起きたばかりなので、彼女の好意に甘えさせてもらう。
 部屋に入りそのまま奥に進むと、広いテーブルが置かれている部屋に出る。どうやら食事をするところのようだ。奥には調理場のような部屋があり、そこからルーナの陽気な鼻歌が聞こえる。
「座っててよ、今から昼ご飯用意するから」
「俺にとっては朝ごはんだな。ありがたく食わせてもらうよ」
 どうせ魔女には世話になってしまったので、特に遠慮することもなく椅子に座る。調理場からは景気よく野菜が切られる音がしている。
「で、人狼のことについて知ってるんだろ?いろいろ聞かせてくれよ」
「ん?ヴェアはどこまで知ってるの?」
 ほとんど知らない、というのが正直なところだった。その事を伝えると、ルーナはバカにしたように押し殺した笑いをした。
 人間たちが考える人狼については、大昔からの伝承のとおりでしかなかった。満月の夜に凶暴化した男が獣となって街を徘徊し、人間たちを食い荒らす。
 そんな昔話でしか知らない人狼だが、いざ自分がなってみると、なるほど確かに強力な破壊衝動やら身体の異常な発達はその昔話と似ているところがあるかもしれない。
「人狼っていうのはね。魔力を多く備えた人間の男性のことだよ。ようは魔女に対する言葉だと思ってくれていい」
 ルーナは調理場から顔を出すと、そのまま両手で皿を持ちながらこちらにやってくる。パンと、いくつかの野菜。そしてスープ。調理というには簡単すぎるほどの料理ではあったが、ありがたく手をつけさせてもらう。
「ようは、魔女ならぬ『魔男』ってことか?」
「そういう呼び方になると途端にかっこ悪くなるね。まあ間違ってはいないよ。人狼も魔女も方法は違えど同じ魔法を使う魔法使い。だから魔女が人狼のことを知ってるのは自然なことなんだ」
 人狼が魔女と同じ。確かに聖騎士隊は魔女も人狼も同等の異端者であるとして、どちらの騒動にも顔を出していた。
「俺は人狼が出た村に調査に行ったらそこで大神(おおかみ)にやられた。んで、気がついたら人狼、人狼って呼ばれるようになって、気がついたら逃亡生活だ」
 パンをかじりながら、今までのことを思い出す。優秀な聖騎士として期待されていたはずなのに、なぜこんな異端者扱いされて追いかけられなければいけないのか。
「なんだって運命は突然やってくるものだよ。予告して悪いことが起きるんなら皆が良いことしか受け入れなくなるでしょ」
「それは他人の言い分だ」
「でも他人から見れば結局そうなるでしょ? 結局自分のことはいくらでも言えるけど、他人のことの不幸なんて感心示さないよね?」
 言葉に詰まってしまう。ルーナはスープをすすってから再びこちらを見る。
「…人狼を治す方法は、もとの大神の魔力を使ってあなたの身体の中の悪魔の血を浄化すること」
 もとの大神を再び捕まえる――あの凶悪な怪物と、もう一度対峙しなければならない。そのことを思うだけで、背筋がぞくりとする。嫌な汗が流れてくるのを必死に無視しながら、俺はじっとルーナを見る。
「まあ、大神なんてこの世界にそう何匹もいないはずだし、見つけやすいといえば見つけやすいね」
「そうか…もしかして魔法で位置がわかるとか…!」
「さすがにそれはできないね」
 あっさりと答える。がくりと頭を下げるが、ルーナはそれほど気にした様子もなく、さも自分は悪くないかのようにパンをかじっている。
「魔女ってのは万能じゃないよ。それほど強力じゃない魔女なら人間より少し得意なことがあるだけ、程度にとどめておいても問題ないくらいだしね」
 ルーナは、そう言って俺のことを見る。その視線にある種の羨望の意が含まれていることには、さすがに俺は気がつくことができなかった。

Luna side

 魔女には特性がある。火を扱う魔女、水を扱う魔女、眼を扱う魔女、夢を扱う魔女。その中で私は風を操る魔女なのだ。
 風はいい。空を飛んだり、気持ち良い風を起こしたり、斧に頼らずともかまいたちの精霊の力で木を切ることも出来る。
「ふうん。風ってのは、ようは空気なんだろ」
 その言葉に私は人差し指を立てる。魔法に無学である彼にしては、今の発言はなかなか的を射ている。
「そのとーりっ。私はそよ風とは言ってるけど、結局は空気というものを操る魔女なのよね」
「てことは空気をどうこうしたりとかできるのか」
「んー?大雑把過ぎていまいちよく分からないけど、大体の空気に関係した現象には私の魔力を介在させることはできるよ」
 嘘ではない。空気中に含まれる微量な毒素をえり分け、相手の周囲に撒くこともできる。もちろん普段はそんなことはしないが。
 ヴェアは納得したようにして野菜をほおばっている。突然魔女に厄介になった割には深く動揺することなく、落ち着いた様子で先ほどから話してくれている。図太いのか、それともただのバカか、どちらにせよ元聖騎士という肩書きが魔女である私との会話を阻害するようなことはないようだった。
「ヴェアは元聖騎士なんでしょ?魔女を取り押さえようとはしないの?」
 試しに聞いてみる。おっかなびっくりだった。
 ここで、『実はお前を油断させるワナだったのさ!』などといって飛び掛られたらひとたまりも無いだろう。もちろんおとなしく捕まる私ではないのだが。
「俺も異端者だしな。お前のこと捕まえたからって別に俺が人狼であることを許してくれるわけじゃないし」
「意外と信心深くないんだ」
「聖騎士なんて何十人も平気で殺せるような精神じゃないとなれないしな。無神論者がたくさんだ」
 初耳だ。神に忠誠を誓いし聖なる剣、と巷ではもてはやされている聖騎士ではあるが、実際に蓋を開けてみればただの殺戮者だったのか。それとも何らかの理由があるのだろうか。
「ヴェアはなんで聖騎士になったの?」
「次は俺の質問に答えてくれよ。俺を人狼にした大神がどこにいったかわからないかな。空気でも風でも何でもいいからさ。どうにか探してくれよ」
 食い入る視線はまるで子供のようだった。はたから見れば私が十五、六歳ほどの少女でヴェアは二十五歳を過ぎた辺りの青年だというのに、これではさかさまである。
「そうだねえ…難しいけど、できないことはないと思うよ」
 つとめて明るく、そう言ってやる。もちろん好奇心から、ということもあるが、それ以上に私は人狼に用事があるのだ。ここでヴェアを放り出すようなことはしたくない。
「それじゃあ、少し待って」
 私は精神を集中させる。空気と自分の身体――髪の毛の一本一本まで――が同調するイメージを描き、そこに一滴に魔力をのせる。それに反応して私の外はねした髪はふわりと波打ち、瞳がかあっと熱くなる。おそらう私の瞳は今、魔力によって翡翠色に染まっているだろう。
「お前…それ…」
 ヴェアが私の変貌に息を呑むのが分かる。しかし、以前とは違って、私の魔力を感知しても暴走して人狼になることはない。それを確認した安堵感からか、少し肩の力を抜いてしまう。
「大丈夫だよ。すぐに終わるから」
 そういって私は彼の頭に手を置く。身長的にいって、椅子に座った彼と立ち上がった私が横に並ぶくらいでようやく腕を彼の頭の上にのせることができる。なんとも妙な光景ではあるが、こんな山奥だ。見ている人はいないので、他人からの視点は考えないでおく。それよりも重要なのは、これから行う魔法についてだ。
「妾が命ず、妾が魔力よ彼の記憶を映し出せ」
 魔法には難易度というものが存在する。簡単な数字の計算はすぐに出来ても、難解な方程式で組まれた問題を解くことにはかなりの時間を必要とする。それと同じような感じで、他人に干渉するという魔法は極めて困難な魔法なのだ。極論を言ってしまえば、他人の記憶を読み取る魔法なんかよりは、森ひとつ吹き飛ばすほどの大竜巻を起こす方が簡単なのだ。
 もちろん、今の私に森を吹き飛ばしたり街を破壊するようなほどの魔力はない。ようは手先の器用さが必要な魔法であるために、慎重にならざるを得なくなるということだ。
「んん…」
 他人の記憶に潜り込むというのはあまり気持ちのいいことではない。それどころか、知りたくないことまで知ってしまう恐れもあるためにあまり魔女にとって得のある魔法とはいえない。
 しかし、それが必要なときもある。つまるところ今のようなときのことである。
「紅い。ふたつの…光?これは、ちが、じゃなくて…まさか」
 上手く言葉にならない。ヴェアの記憶の中を彷徨いながら喋っているために、呂律が回らない。水中に潜った状態で声を出そうとしているようなものだ。
「これ、まさか…れどむー…バカな、アンタが…」
「…ルーナ?」
 ヴェアの呼ぶ声が聞こえる。悪いが、今だけは彼に愛想笑いを浮かべている暇はなかった。
 彼女の翡翠色の瞳に映っているのは、獰猛で凶悪な紅い双眸をした悪魔だった。見間違えようもない、いつか来ると思っていた最悪の災厄。
 彼がその大神と戦闘を繰り広げているような場面を映像的に見るあたりで、ヴェアの記憶から自分の意識を強制的に切り離す。
これ以上彼の記憶の閲覧を続けていればさすがに自分の自我のほうがどうにかなってしまう。
「…あ、ああ。なに、レッドムーンが…遂に来たのか」
 呆然と、それこそ虚ろな瞳で虚空を見つめていたのだろう。数十秒も経っていないだろうが、その様子にヴェアは何かを感じたらしい。こちらを見て少し怪訝そうな顔をしている。
「あ、いや、その…」
 どうにも言葉にならない。今の衝撃だけはなんとも形容できない。
「どう、だった? 俺を人狼にした大神はわかったか?」
「そうだね。わかったよ。ヴェアがとんでもない上玉に目をつけられたっていうこともわかった」
 ここでレッドムーン――それが件(くだん)の大神の名前なのだが――のことを話してもいいのか、私は思案する。実際、時間にしてそれほど長くない思考ではあったが、私の頭の中では完全にレッドムーンに対する漠然とした不安に包まれていたためにヴェアへの配慮を欠いていた。
「ヴェアが噛まれた大神はおそらくレッドムーン。『紅い月』と呼ばれた、太古から存在する原初の大神だよ」

Vere side

 突然の大きな話に、最初は嘘だと思った。無理もないだろう、突然自分が初めの大神と出くわしていた、なんてことを告げられても信じられるわけがない。
 大神とは、ようは神格化した霊獣に近い。魔力を有り余るほど蓄えた存在で、その力はひと薙ぎで人間の半分を消し滅ぼすほどの威力があるとさえ伝えられている。聖騎士隊は大神こそを悪魔の塊である、邪悪な力の集合体であるという考えが主流となっていた。もちろん自分は悪魔だのという話は話半分に聞いていたので、それほど大神に完璧な憎悪を抱いているわけでもなかったが、その強さこそは本物であるという実感は他の聖騎士よりも強いだろう。
 そして、その大神の原初だって? 大ボスもいいところではないか。ほとんど神と同格といってもいい、理不尽な強さだ。
「レッドムーンはその昔大いなる力で世界を作った。けれど、人間たちに神の座を奪われて凶暴化し、そのまま世界を崩壊に導く存在となってしまったの。それを止めたのは私たち魔女で、あくまでレッドムーンを尊重しようとしたのが人狼だった。魔女と人狼との戦争は果てしなく続き、人間からは考えられないほどの年数をかけてやっとレッドムーンを封印して争いに終止符が打たれた」
 ルーナははじめ会ったときとは違った雰囲気を持って話していた。おそらくいつもの元気っぷりはかりそめであり、本性はむしろこちらの淡々とした冷静な性格のほうが近いのではないだろうか。そんなことを考えてしまう。
「けれど、いくら魔女でも神である大神を永久に封じることは不可能だった。やがて復活した大神は、魔女に異常な恨みを持った悪霊としてこの世界に復活し、自分を蹴落とした人間たちの破壊と殺戮の衝動のみで突き進んでいる」
 歯切れの悪い口調ではあったが、ルーナはそこまで言うと、ふうと嘆息してスープをすする。
「まあ、ようはヴェアを人狼にしたのはレッドムーンっていうねちっこーくて嫌な奴なんだけどね」
 フォローするようにしてルーナは明るく振舞ってみせる。しかし、俺の記憶を覗いてからのルーナは明らかに動揺と焦りの念にかられていた。しかし、俺が気にしてもしょうがないことではある。助けてもらった上に事情まで説明してもらわなければわからないことがたくさんある。
「大神が世界を作っただって?俺らの神はそんな獣じみたやつじゃなかったはずだけどな」
「人間たちは人間の姿をした神を認めたいだけなんでしょ。自分たちが一番神に近いってことを無理やりにでも納得したいんじゃないかな。そういう奢りとか欺瞞(ぎまん)って、私は大嫌いだけど。お山の大将でも気取ってろって感じ…」
 ルーナの言葉には少々棘があったが、おおむね正しいので反論はできない。俺自身も、聖騎士の頃にはよくそんなことを考えていた――もっとも、それは俺が完全なる無神論者だったからこその疑問だったのだが。
「話しが脱線してるね――つまり何が言いたいかって、レッドムーンを捕まえるのは一筋縄じゃいかないよ、ってこと。私としてもこんな身近にレッドムーンの犠牲者が出るとは思わなかったから驚いてるけど、魔女として、レッドムーンをどうにかしたい」
 ルーナの言葉には、今言った『魔女としての義務』以上に何かの強い意志を感じられたが、無闇に詮索しないでおく。今の彼女の言葉で大体の彼女の提案は受け止めることが出来た。
「つまり俺たちは協力できる、と」
「そういうことになるのかな。魔女と人狼が協力するなんて話、何十年も前から聞いたことなかったけどねえ」
 ルーナはにかっと笑顔を作る。レッドムーンという脅威は確かに問題ではあるが、ここは魔女と人狼、異端者同士協力できることもあるかもしれないのは事実だ。
 俺は右腕を差し出し、彼女に笑顔を向ける。
「まあ、まだ人狼の力を使いこなせてないけどよろしく頼む」
 その言葉に応じて、ルーナも右腕を差し出す。
「うーん、その辺は修行あるのみかな? 聖騎士隊やってたんだし、基礎体力は十分あるんでしょ? それならあとは私たち魔法側に近づくことを目指すといいよ」
 両者お互いに合意が得られたところで、問題点は再び浮上してくる。今のは結局ルーナと協力しあうことだけを決めたに過ぎない。
「で、具体的にはどこに行けばいいんだ?」
「んー、ヴェアはレッドムーンとどこで会ったの?」
 ルーナはそう言いながら、棚の上からこの辺一帯の地図を取り出す。今いる国の全域が記載され、さらに隣国が少し描かれているような、やや広めの地図だ。
俺は彼女に歩み寄りながら地図を見て、先日自分が向かわされた村を指す。
「ここだな。地図には載っていないけど、小さい集落みたいな村がここにはある。そこに人狼と、そのレッドムーンって奴がいた」
「…ってことは、数日でレッドムーンが行きそうなところは、大体ここらへんのエリアかな?」
 そう言って、ルーナはおおよそこの国の南側半分をぐるっと囲んだ。
「は…? ま、まじかよ。この国の南半分だぞ? まだ数日しか経ってないのに、ここまで来るのか?」
「大神の行動速度をなめちゃだめだよ? その気になれば馬だろうと追いつけないくらいの速度で走るから」
 脱帽する。人間とは明らかに一線を画した存在。ルーナがこともなげに言っているのが信じられない。彼女は、こんな異常が常として受け止められるような世界にいるのだ。それを思うだけでも彼女と俺との違いを実感する。
「私だって、その気になれば飛ぶことだってできるし、そんなに不思議めいたものでもないと思うよ。神に近い存在は、方法は違えどそれなりに同じような能力を持っていることが多いから」
「てことは俺にもこれくらいの速度で走ることができるかもしれないってことか」
「そういうことになるね。まぁどんな力を解放していくかはヴェア次第だけどね」
 ルーナはぴっと指を立てる。
「まぁ、そういう込み入った話はいいや。とりあえず大神を追うにはそれなりの時間と体力が必要だって事」
「追うって、こんなに広範囲にわたって動けるんならどうやて追い詰めればいいんだよ」
「ん~、そうだね、難しいね」
 なんとも頼りない言葉だ。しかし、ルーナは言葉のわりにそれほど落胆した表情を見せてはいない。
「とりあえずは旅支度かな?少し支度するから、明日の朝にでも行く?」
 俺としては今すぐにでも出ていきたい気持ちでたくさんだったが、魔女と手を組むためならば一日くらい待つしかないだろう。魔女と手を組む、ということにもう既に抵抗を感じなくなってきている。なんとなく、生まれ変わったような気分だった。
 頷く俺を見て、ルーナはそのまま奥の部屋に入って行った。
 残された俺は、その部屋の沈黙に包まれながら、彼女を見送る。
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