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DESSERT ~MELTYKISS外伝~



1.「 BROWN COOKIE 」




 ブレンデッド男爵領はバグラチオン帝国の北西に位置する。
 ロシアナ地方とフランシス地方の間に位置する為、年間を通して寒さが厳しい。
 それ故にブレンデッド男爵領の軍は精強で通っていた。寒さは人も武器も鍛えられる。
 無論、逆の場合もある。
 が、ブレンデッド男爵領は寒さをバネにその力を研ぎ澄ましてきた。
 元々は戦争で土地を拡張してきた有力な地方豪族であったブレンデッド家だが、その領土拡張の途中で帝国という存在と相対し、選択を迫られた。
 戦うか、従うか。
 結局の所、当時のブレンデッド家当主は帝国の傘下に入る事を選んだ。自分の領土を安堵する事を条件として。
 帝国はそれを了承した。とは言え、そうなるとブレンデッド家が軍にしても領土にしても帝国内で強大な力を有してしまう。
 そこで、男爵という爵位としては低く、帝国内での発言権が殆ど無い地位を与える事となった。それを、当時の当主は受け入れた。
 彼は、政治に巻き込まれるのを嫌ったのだ。
 それに、帝国の傘下に入ったのも自分の家と、そして民の生き残りを考えた上での事だ。
 寧ろ、帝国内で力を持ちすぎて叩かれる心配が無くなり却って面倒が無い。
 こうして、帝国領ブレンデッド男爵領が誕生した。


◆◇◆


「及第点って所ですかね」
 ブレンデッド男爵領内異端警察本部隊の隊長であるコン=バボンは渋面を崩さずに苦々しく言った。とても、本心からの言葉とは思えない顔と声。
 それに、ブレンデッド家現当主のモルト・ブレンデッド男爵も同意して頷いた。
 忌憚無く言って、最悪であった。
 号令と共に隊列を組めば、自分の位置を間違えて右往左往する馬鹿がいる。
 火縄錠銃を構えさせれば、操作を誤って早々に発砲する間抜けがいる。
 突撃となれば、目の前の仲間とぶつかり重なり合って倒れる。
 とてもじゃないが、人狼や魔女に対抗できる部隊ではなかった。が、それでも今日が一応の訓練終了日だ。
 訓練を引き伸ばす事は簡単だが、彼らは彼らなりに必死でやってきた。それを、無碍にするのは士気に響く。
 モルトもコン=バボンも彼らを正式な異端警察隊員として認める事自体はやぶさかでは無かった。
「仕方無いので、現隊員と新隊員との協調行動訓練という名目でこれ以降も絞る予定です。まぁ、名目と言えど実際必要な訓練ですしね」
「火縄錠銃の扱いを訓練項目に増やしたのが問題か?」
「それはあります。あれは、中々厄介な武器ですからな。例え、使い方は解っても命中させるには才能が必要だ。あれみたいに」
 コン=バボンが顎で指し示す先には、グレーンが異端警察の射撃訓練場で、歯車錠銃での射撃の訓練をしている姿があった。
 流石にモルトがその才能を見出しただけあって、面白いように的に命中させている。

「他はどうだ。訓練項目の問題点はあるか?」
 モルトとコン=バボンはそのまま異端警察の訓練場から異端警察本部内へと入った。
 本部長室へと入ると、コン=バボンが本部長席に座り、対面のソファにモルトが腰を下ろす。コン=バボンは本部長も兼任していた。
 対して、モルトは公的には異端警察との関わりは無い。
 だが、異端警察が設立されてからというものの、事実上、ブレンデッド家が領内の異端警察を仕切っていた。
 それと言うのも、ブレンデッド家が自分の家と民を守るべく戦ってきた相手は人だけでは無いからだ。ブレンデッド家は人との戦いだけでなく、人狼や魔女との戦いも経験して来ている。大神と魔女との戦争の時、その巻き添えから民を守るべく戦った、という伝説さえある。そうした経緯からブレンデッド家が自分の領内の異端警察を仕切るのは自然の成り行きであり、領内での不満は無かった。
 特に、今の代は円満だ。コン=バボンは平民だったが、モルトとは親しい友人の間柄である。モルトは、父のウィスク・ブレンデッドの意向で平民の学校に通っていた時期があるのだが、その時に知り合った級友がコン=バボンであり、そして―
「何だ。来てたのか」
 本部長室を開けて入ってきた、副本部長ライ・ホップキンもまたモルトの級友であった。



「お前は軍隊が作りたいのか?」
 モルトの隣に座りながら、ライ・ホップキンは眼鏡の位置を直した。先日、酒場で乱闘騒ぎを起こした際にフレームが壊れたらしい。
「槍担当員が26名。十字弩(クロスボウ)担当員が12名。新たに編入する火縄錠銃担当員が14名。あとは、俺、コン=バボンにお前とその御付が3名、銃士が11名の計69名だ。この上に更に増員を考えてるらしいな? やりすぎると帝国にも教会にも睨まれるぞ?」
 ライが詳細に異端警察隊の戦力を書き留めた手帳を本部長の仕事机の上に放り出した。
「帝国や教会よりも民に睨まれる方が私は怖い」
 モルトがそう答えると、コン=バボンも頷いた。
「ライ。お前も、先月の大捕り物は忘れちゃおるまいな? 灰色の人狼を戦闘不能に追い込むのに遺族へ何通手紙を送る事態になった?」
「そりゃそうだが、お前ら、俺の苦労を解っちゃないな。今日も異端警察に若き力を求めて宣伝してたら教会の奴らに因縁吹っかけられたんだぞ。この前の酒場の時といい、奴らは目の敵にする相手を間違ってやがる。俺じゃなくてお前らが苛められるべきだ」
 拗ねたように腕を組んでソファに深く腰を掛け直すライに、コン=バボンは何時もの渋面を和らげて苦笑した。
「嫌な役を押し付けて悪いが、今の人数では複数問題が起きた時に対処できん。先月の時だって、モルトが隊員31名と私的な銃士16名があの灰色の人狼の対処へ行った後だったから、後で起きた問題に、俺、お前と隊員16名で出かける破目になった」
「あれは最悪だった。俺もお前も聖騎士じゃないんだぞ。何であの人数で魔女を相手せにゃならんのだ」
「だからこそ、だ。人数が欲しい。目標は、50・50で部隊を分けれる100単位の部隊だ」
 モルトがそう言ってライの肩を叩いた。そして、その人数が恐らくは異端警察の限界だろうと考えている。


 異端警察は当然ながら軍隊ではない。治安維持部隊の延長、と一口に言っても治安維持部隊の定義の問題が持ち上がってくる。
 例えば、ブレンデッド男爵領の軍隊は領内の民を守る為の存在だ。つまり、広義には治安維持部隊と言える。
 そうした点から、異端警察の成り立ちとしては治安維持部隊の延長というよりも、その業務を引き継いだ組織と言う方が正しいだろう。
 そもそも、異端警察の立ち上げには幾つかの問題があったが、その立ち上げに際して最大の問題となったのが教会である。教会は聖騎士隊を有しており、異端者を独自に取り締まってきた。それ自体は民にとっては好い事なのだが、帝国内の王族や貴族達はそれを諸手を上げて好しとはいかなかった。
異端者などの治安を教会に任せているという事は帝国の権威が堕ちるという事に他ならない。そうなると、民からその統治能力を疑われてしまう事態に陥ってしまい、大変危険な状態となる。最悪、教会のトップを帝国のトップに挿げ替えられ、帝国が教会に完全に乗っ取られてしまう。更に危険な事に、異端者を認定し生殺する権利を教会が持っている以上、教会は自分にとって都合の悪い貴族を異端者として認定し処刑する事が出来てしまう。実際、教会は人狼でも魔女でない者でも異端者として処刑しているとの報告がなされている。
 そうした教会の専横に横槍を入れるべく設立されたのが異端警察だった。
 当然、教会は強固に反対した。自分達の縄張りに帝国の犬が入り込んでくるのだ。特に教会が恐れたのは、異端警察が活動する事によって教会が虚偽の異端者認定を行っている事が明るみに出る事だった。同じく異端者を追う以上、そういった自体は発生しかねない。だが、教会の反対はすぐに立ち消えた。当たり前だが、反対する正当な理由に欠いたのだ。まさか、正直な理由を言う訳にもいかない。

 かくして、異端警察は教会への嫌がらせとして誕生した。


「あと31か。楽勝だよ、畜生めが」
 頭を振ってライは立ち上がった。手帳を回収し、本部長室を出る。それを見送り、モルトもソファから立った。
「ライに伝えてくれ。銃士は9名になったと。2名が、田舎へ帰った」
 コン=バボンは渋面を深くして唸った。
「逃げる場所があるのは良い事だ。俺にもある」
「初耳だ」
 本部長室の扉に手をかける。
「モルト、お前にはあるか?」
「ある訳が無い。あったとしても逃げるのだけは御免被る」
 そう答え、モルトは本部長室を後にした。


◆◇◆


 ブレンデッド家が住む古城は男爵領の主要地である街、スコーチの中心にある。
 元々、戦争においての最後の砦として機能すべく作られたブレンデッド家の屋敷は小さいながらも城と呼ぶに相応しい外観と機能を持っていた。
 それ故に、民は親しみを込めてブレンデッド家の屋敷をブレンデッド城と呼び、スコーチの事を城下街、と呼んでいる。
 ブレンデッド男爵領異端警察本部は当然、城下街スコーチにあり、教会の支部も勿論存在していた。
 その地下室にブレンデッド家お抱え、正確にはモルトお抱えである錬金術師の実験室がある。
 モルトがその扉に手をかけると、爆燃の音が中で響いた。扉を開けると、黒色火薬によって生じた白煙が室内で渦巻いている。
 咳き込む声の方へと口を押さえながら行くと、椅子に座って咳き込む錬金術師、カナディアの姿があった。
 燃える様な赤毛を揺らし、萌える様な緑の瞳を不機嫌そうに細めてモルトを見上げる。
「何か用?」
「パトロンに向かって大層な口だな」
 呆れたようにモルトが見下ろすと、カナディアは口元を歪めた。
「自分で稼いだ金でもない癖に」
「だからこそ、当主として働いている。それに、稼いでもない金を使っているのはお互い様だ」
 モルトがそう言って笑うと、カナディアは詰まらなそうに溜息をついた。白煙は通気口を通って殆どが排出されている。
 白煙が収まると相変わらず13あたりで発育の止まった少女姿のカナディアが露わになった。
 しかし、対照的に、脳は身体と違い貪欲に知識を吸収し、応用している。


 モルトとカナディアは20年来の知己であった。
 元々、カナディアはモルトの父、ウィスクが拾ってきた曰く付きの娘だ。当時、ウィスクは異端警察を率いて暴走した人狼を仕留めたのだが、その人狼が暴れた村で唯一生き残ったのがその人狼の実の娘、カナディアであった。血の濃さは判別出来ないが、少なくとも人狼の血を濃く継いでいるであろうカナディアをどうしたものかと悩んだ挙句、ウィスクは自分の家で引き取る事に決めた。
 偶然、同じ年頃であったモルトとカナディアは良い遊び相手となった。が、やはりカナディアは異質だった。まず、13歳の頃から身体の発育が停止していしまった。しかし、それを切っ掛けとして急激に知能が発達する。その頃から赤毛が床に触れる程、異様に長く伸び始めると、どんなに切っても元の長さへと戻ってしまうようになる。そして、身体能力もモルトを上回った。
 後々に彼女自身が自分を調べた結果、魔力を身体の強化へ自然と活用している、との事だった。魔力の使い方は人狼に近い。だが、人狼程に決定的な強化を出来る訳も無く、また、魔力を常に身体の強化へと流している為、魔女として魔法を振るう事も出来ない。中途半端な存在。それ故に彼女は自分が出来る事を模索し、辿り着いたのが錬金術師という今の地位だった。


「それと、出資金の明細をちゃんと報告しろ」
「際限無く面倒い。モルトと僕の中だし、そこはなぁなぁで行こうよ」
 見下すモルトの目に諦めが宿る。溜息が漏れた。
「示しがつかないだろう」
「体面ばかり取り繕って。何時からモルトはそんな詰まらない大人になったのか」
「それも当主としての仕事だ」
 カナディアは詰まらなそうに横目でモルトを盗み見た。本当は自分と同じで面倒臭がりの癖に、何頑張っちゃってるの? という皮肉が頭に浮かぶ。カナディアの目にはモルトが無理をしているように映っていた。ブレンデッド家の当主として、モルトが守るべきモノは多い。あらゆる能力でモルトよりも勝っていると自負しているカナディアにとって、唯一モルトに才能を感じる点があるとすれば、その自己暗示能力であった。
 モルトはブレンデッド家の当主として、男爵として休む事なく働く。そして、それが自身の喜びであると本気で信じ込もうとしている。その姿はカナディアにとって哀れに映った。そして、昔のような無邪気な関係には二度と戻る事は無いのだと理解していた。
「これは何だ?」
 室内を見渡したモルトが興味を引かれたのは、大型の火縄錠銃であった。それが、銃架に載って固定されている。
「担砲(ショルダーキャノン)だよ」
 素っ気無くカナディアが答えた。その顔は先程のモルトの言葉で明らかに不機嫌だぞ、と主張しているのだが、モルトが視線で先を強く促すと渋々といった様子で口を開いた。
「モルトが、火力が欲しいっていうから。造ってみた。2人1組で使うの、それ。1人が銃本体を担いで、もう1人が銃架を担ぐ。戦場で組み立てて、1人が射手として火縄と火皿を管理。もう1人がカルカ杖を構えて、即座に発射薬と弾薬を詰める。撃つ。繰り返し」
 成る程、とモルトは唸りながら担砲を眺めた。銃自体は大型な火縄錠銃。それを折り畳みが可能な銃架に載せて固定する。大砲のように運用する大型の銃、と言った所か。組み立てるといっても大袈裟なものでは無く銃を載せるだけなので発射体勢が整うまで時間はかからない筈だ。問題は弾道の癖などだが、訓練で解決する問題だった。
「悪く無い。これは貰っていくぞ」
「あ、じゃあ僕も―」
 カナディアは女中服の上に白衣を羽織った。運用法について自身でチェックするつもりなのだろう。モルトは地下室を出て担砲を運び出すべく、使用人を呼ぶ声を上げた。だが、その声の後にモルトの下に現れたのは、グレーンであった。
「グレーン。どうした?」
 グレーンは荒い息を付きながら、コン=バボンからの伝言が書かれた紙をモルトへと手渡した。モルトが紙を読む間に、息を整える。カナディアは一生懸命に背伸びをしてモルトの手にした紙を読もうとしたが、流石に届かず見えない。程なくしてモルトは読み終わり、その紙をカナディアへと渡した。
「爆炎だ」
「爆炎?」
 カナディアが紙を見ると、そこには爆炎の魔女によって人間狩りが行われ、村が1つ焼き払われたと書かれていた。


◆◇◆


 人間は脆い。
 その事に不満を憶えたのはつい最近の事。
 そして、人狼という素晴らしい実験材料があるのを知った。
「破滅のアークだなんて、勝てる訳が無いじゃない」
 彼女、爆炎のアレスは新たに拠点とした洞窟で、捕らえた人間を磔にしながら愚痴愚痴と呟いた。
 あの人狼に未練はあったが、相手が悪過ぎる。
 二度と顔を合わせないよう、拠点を北に移して活動場所を変更した。
「でも、人狼について色々解った事は僥倖でしたが」
 人狼は別にあの一匹だけではない。焦らず捕まえれば良いのだ。
 気を晴らす為にアレスは、磔の実験材料を燃やす事にした。
 炎が実験材料を包む。何やら五月蝿い声も炎で呼吸が阻害されてすぐに五月蝿く無くなる。手足なんかはまだ五月蝿いが。
 火力を上げながらアレスは揺らぐ炎に照らされながら愉悦を深めていった。
 数分後、



 上手に焼けました。
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