「小内透(2006)「日系ブラジル人のトランスナショナルな生活世界:第4章 出稼ぎと帰国にともなう子どもの教育問題と解決の視点」」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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第1節はじめに(p55~)
近年ブラジル人の子どもの不就学が大きな教育問題に。ブラジルでも、出稼ぎ者の不適応と共に、子どもたちの不適応の問題も指摘されるようになった。これは再び日本へ出稼ぎに来る結果をもたらす。子どもたちの不適応はポルトガル語やブラジルの文化にうまくなじめないことによって生み出される。
第2節在日ブラジル人の子どもの教育問題
第1項ブラジル人の子どもの教育形態(p56~)
太田市の2001年の調査
→小中学校に通うものが最も多く、ブラジル人学校に通う者が2割弱。不就学は3割5分。
2002年の外国人集住都市会議の不就学の子どもたちに関するデータ
→26%の外国籍の子どもが不就学
第2項公立学校に通うブラジル人の教育問題(p57~)
・日本の公立小中学校では、外国人登録がなされていれば、外国人の子どもも親子の希望に応じて基本的に受け入れている。
・ ブラジル人収受家の学校では日本語指導教室や国際教室を設置して「取り出し授業」を行い、日本語指導教室担当の日本語指導助手(非常勤)は自治体負担。国の加配制度を利用している学校も
問題点・「ところてん式」に教室を卒業。(相対的に会話能力が落ちる者優先のため)
・ 場当たり的になりやすい
・ 日本語指導教員も特別な教育を受けておらず、的確な指導が出来ない
・ 母語教育や母語による教育の排除(日本語でも母語でも学習言語が獲得できない事態が生まれることもあり、原学級に戻ってもついていけない)
・ 進路の問題(ブラジル人の児童・生徒の成績が悪く、高校に進む者は多くない。)
・教師と親子のギャップ(教師はブラジル人が教育に無関心と考えている)
子どもを公立学校に通わせる理由
―大泉町小5・中2対象(父・母・子それぞれ30人に調査)―
・ 親の高学歴志向(約8割が日本かブラジルの高等教育を望む)
・ バイリンガル志向が強く、日本語習得に意欲的
・ 日本人との交流(30人中26人が日本人の友達を持つ)
第3項ブラジル人学校における教育問題(p60~)
・2005年現在63のブラジル人学校があり、約6000人が学ぶ。
・ 授業料は平均約4~5万円
・ 給食や制服がある学校も
ブラジル人学校歴(265人を対象)
・ 来日当時からブラジル人学校に通う;54.7%
・ 公立学校からの転校;38,5%
ブラジル人学校に通わせる理由
・ ブラジルで進学するため(→親と子共に高学歴志向で約8割)
・ いじめや日本独特の学校文化にあわない(合わせて約2割)
→親主導(約8割)で決められていて、親の帰国希望によるものが多い
定住化の傾向が強いため、ブラジル人学校に通う意志とそぐわない
問題点・教育環境が劣悪、高額な授業料(自治体・企業からの支援がない、施設の不備)
・学校接続の問題
日本の正規の学校として認められていない。しかし現在は1年間補習校で学んだ後、ブラジル教育省認可のブラジル人学校の卒業生にも日本の高校大学の受験資格が与えられている。だが、カリキュラムがあっていないため不可能に近い。
・ 家族の帰国とそれにともなう教育戦略の実現可能性の低さ(定住意識なき定住化)
第4項不就学の子どもの問題(p64~)
不就学のきっかけ
・ 公立学校の授業についていけなくなる
・ 日本の学校生活になじめない
・ 一時的な帰国や転居のため
不就学の問題点
・ 教育保障の問題(国際人権A規約、子どもの権利条約)
・ 15歳未満の労働が基本的に禁止されているにもかかわらず工場労働に従事
・ 非行化
・ 不就学の実態が把握しにくい(不就学の定義自治体や統計によってまちまち)
↓
新たな取り組み
・2005年度に不就学外国人児童生徒支援事業開始。
2年間で23722千円の予算。応募した自治体に補助金の交付。(太田市、飯田市、美濃加茂市、掛川市、浜松市、富士市、岡崎市、四日市市、大阪市、豊中市、神戸市、姫路市)
・ブラジル教育省の補習過程修了認定試験(スプレチ―ボ試験及び初等中等教育修了資格認定試験)の日本での実施(1999年~)
日本で働くブラジル人にも出稼ぎ途中でブラジルの小中学校を中途でやめた者が多くいると考えられたため。←不就学者にとって少なからぬ意義をもっている
第5項在日ブラジル人の教育問題の背景と問題解決の視点(p66~)
問題点
・ 硬直した日本の学校のあり方(日本語のみによる単一の文化を前提)
たしかに、公立学校でポルトガル語にもとづくブラジル流の教育を全面的に保障することは現実的には不可能に近い。可能であるとしても、学校の中で固定された二つの「世界」ができるとすれば、必ずしも望ましいとはいいきれない。しかし、特定の教科、日本語教室、部活、総合的な学習の時間などに母語や母国の文化の維持昨日をもたせたりすることは可能であろう。こうした、できる範囲での多文化を前提にした公立学校での受け入れを考えることが教育問題の解決の一つの現実的な視点となろう。
・ブラジル人学校の社会的地位が低いことも問題の1つ
各種学校と認められない(施設面・環境面での認可基準を満たすことが難しいため)
・ 親の「出稼ぎ意識」をベースにした教育戦略(子どもを帰国願望維持のための「アンカー」としてブラジル人学校に通わせている)
紹介された事例
・ 太田市で実施されている教育特区事業を紹介(バイリンガル講師・・・)
・ ペルー人学校;ムンド・デ・アレグリア(名前だけ)
第3節帰国にともなうブラジル人の子どもの教育問題
第1項再適応の難しさの背景(p67~)
・ 帰国症候群(出稼ぎ期間が長くなればなるほど、ブラジル人社会の変化に戸惑う)
・ ブラジルで新しい仕事が見つけられないなど経済的な問題
子どもの場合、言語や文化、生活や社会関係の大きな変化に直面
(ブラジル生まれの日本の学校生活を経験した子どものみ)
・ 日本とブラジルの教育制度の移行
・ 言葉
・ 滞日年齢(比較的年齢が高いときに日本に滞在)
・ 帰国後の対応の特徴(ポルトガル語の習得や地理、歴史)
・ 帰国後の家族の様子(父親は日本に残り、片親だけ)
日本生まれの子ども、ブラジル人学校に通っている子どもを考えると問題はより複雑に
第2項公立学校で学んでいた子どもたちの適応・再適応(p69~)
ナカガワ・イッサム・デシオ、ナカガワ・ヤナギダ・キョウコ(精神科医とカウンセラー)
・ 日本で生まれた子、小さいときにいった子は自分を日本人だと考える
→ブラジルの文化になじみくい、ブラジル人の声がうるさい、食べ物の違いが気になる
・ 言語の問題→「自然と」日本語を身につけたため、公立学校でつまずかないが、ポルトガル語が獲得できない、亡失していく。
→ブラジルに帰ると、ポルトガル語の出来がチェックされ、その結果で学年が決まる。(卒業証書があっても、卒業以前の学年に位置づけられることがある)
・ ブラジルは教科指導中心で一人ひとりの背景にあまり目を向けない。
・ 日本語を話せる教師がいない(授業料が高い一部の私立学校除く)
・ 周辺国からの不法移民が多く、その子どもたちに目が向くので目立たない
第3項ブラジル人学校で学んでいた子どもたちの適応・再適応(p70~)
問題点
・ 落第制度があり、学習度によって編入する学年が決まる。
(ブラジル人学校に通っていても適用されるが、親はそのことを知らない)
・ 教育省はそれぞれの学校の教育内容や教育条件等を十分に把握しないまま認可を出していた。(ナカガワ・ヤナギダ・キョウコ談)
・ 商業主義、経営第一主義に陥っている可能性
・ 教科書がブラジルから送られてきても、文化の違いから理解しづらい
・ 無国籍状態の子どもはブラジルから教科書が送られてきてももらえない。
↓
日本は血統主義、ブラジルは出生地主義のため(ブラジル国籍を取得するためには一度ブラジルに帰り届出を出さなければいけない。そのことを知らない人がいる)
第4項不就学の子どもたちの適応と再適応(p72~)
・ プレイスメントテストとして学力が決まるため、学力に合わせた学年に配置される
・ 一定の年齢(14歳と21歳)になると補習過程で学び直すことも可能(正規過程と同等に扱われる)
ただしこれらの点はあくまでも日本で不就学であったものがブラジル帰国後、改めて勉学を志すことを前提としている。(中略)その意味では、日本で不就学を経験した者が帰国後、改めて学びなおす意欲を持てるよう支援が必要であろう。
第5項家族の生活形態の重要性(p72~)
出稼ぎが家族を崩壊させる事例は数多く、それを契機に子どもの生活が乱れてしまうケースも少なくない。子どもの教育のあり方も家族の将来設計のあり方に規定されている。その意味では父母が子どもの教育を含めた家族の確実な将来設計を構築することが何よりも重要。
第4節ブラジル人の子どもの教育問題を解決する視点
第1項 日本の国籍法の問題(p74~)
日本の国籍法が現在のようなトランスナショナルな生活世界に必ずしも見合ってない
・ 1985年の国籍法の改正で父系から父母両性の血統主義に改正されたが無国籍状態を依然として作り出す(アメラジアンも)
・ 一方ブラジルは出生地主義
→ブラジルでは1993年に国籍法が改正されたため、日系1世の子は二重国籍が可
一方、日本国籍を持たない外国人夫婦が日本で出産すると、その子どもが無国籍状態に
(在日韓国人の場合、韓国も血統主義のためどちらかの国籍が取得が可)
第2項 教育制度の問題(p75~)
・いずれの言語もきちんと身につけていない段階で異なる言語環境におかれたときには、深刻な問題が生まれる可能性は高いが、それも言語習得に関して効果的な支援を行えば、ある程度解決の見通しは出てくる。
・ 異なる教育制度を持つ国の間を移動する場合、移動する子どもたちのトランスナショナルな生活世界は異なる制度の狭間で深刻な矛盾に直面せざるをえない。
その矛盾は、両国の教育制度の違いやそこから来る制度の不整合を解決しない限り、存在し続ける。
・ ブラジル人学校の高校や大学の受験資格付与を評価。しかし、実際受験を突破することは難しい。
→形式的な制度の接続ではなく内容的な接続できるような制度改革が必要。その意味ではスプレチ―ボと日本の文部科学省が実施している中学校や高等学校の卒業程度認定試験の内容を相互吟味し、統一したものにする。その上で、互いの国でそれぞれの国の言葉と子どもたちの母語を効果的に教授しながら、両者の教育制度間の行き来をしやすくするように図ることが重要な意味をもつ。
第3項 親の教育戦略の重要性
・ 日本に居住しているブラジル人は子どもの未来を見すえた教育という観点が弱い
(ブラジルに移民した日本人(日系1世)は日本語で日本式の勉強させるため、独自の学校をつくるなど、子どもたちの未来の生活が保証されるように子どもの教育を考えていた)
・トランスナショナルな生活世界に対応した教育制度は、将来生活をする国がどこになっても教育した成果が無意味にならないようにするための、最低限のセーフティ・ネットとして考えられなければなら