第2節 日本の公立学校の場合 ―群馬県太田市と静岡県浜松市の事例から―
現在日本では、外国人からの就学希望があった場合、日本人と同じように無償で教育を受けることが出来る。ただ就学「義務」ではないため、市町村教育委員会では外国人登録を元に「就学案内」を行っている。その「就学案内」に基づき、教育委員会が判断し受け入れている。
平成20年に文部科学省によって出された「外国人児童生徒の充実方策について(報告)」では、学校教育を通じて外国人児童生徒に我が国の社会の構成員として生活していくために必要となる日本語や知識・技能を習得させることや児童生徒1人1人に対してきめ細やかな指導を行うこと、日本語能力の測定方法や体系的な日本語指導のガイドラインの作成、外国人児童生徒の指導にあたる教員や支援員等の人材の養成・確保など多岐にわたり言及している。
しかし、実際の外国人児童生徒の教育政策は各地方自治体の裁量にゆだねられている。現在の全体の公立学校の問題としては相対的に会話能力が劣るものを優先するため「ところてん式」に卒業するため、学習言語が獲得できていない可能性がある。実際に、日本語指導教員にとったアンケートで「日本語指導を現在行っていない児童生徒の中に、日本語指導したい人がいるか」という質問に「はい」と答えた人が相当数いることからも推測できるであろう。また、カリキュラムがはっきり決まっておらず手探りで行っているため、場当たり的なものになりやすいとの指摘がある。
群馬県太田市と静岡県浜松市は外国人集住都市会議に参加しており、外国人児童生徒に対しての教育を積極的に行っている。ここでは、太田市と浜松市の事例を比較、検討しながらよりよい政策を提案したい。

(1) 群馬県太田市
太田市は富士重工の工場があるため日系人の人口が増加し、平成20年9月現在499人の児童生徒が同市の公立小中学校で学んでいる。
同市は定住化に向けた外国人児童・生徒の教育特区に認定されていた。現在では特区認定を取り消され、代わりとして総務省が行っている「頑張る地域応援プログラム」により、平成19年度~21年度で、バイリンガル講師に7938万円、日本語指導助手に5400万円を地方交付税として得ている。平成19年度には外国人児童生徒日本語指導事業に4446万円を充てている。
同市は就学前児童のプレスクール、夏季休暇中、放課後の補習などといった様々な教育プログラムを行っているが、その中でもブロック別集中システムとバイリンガル教師の採用が特徴的である。ブロック別集中システムに関しては後に詳しく述べる。
平成17年度からバイリンガル講師制度を正式に取り入れている。バイリンガル講師はブラジル等の教員免許を持ち日本語とポルトガル語に堪能(日本語検定1級または同程度の語学力を有する)で現在8名採用されている。ブラジル人は日本・ブラジル両国で募集され、ブラジルでの応募に関してはJICA及びブラジル日本語センターの協力を得ている。
バイリンガル講師の制度をつくるきっかけとなったのは、太田市長の学校への視察だ。市長が授業についていけてないブラジル人の子どもたちの様子をみて制定された。
ブロック別集中システムの効果は高校への進学率で表れている。平成15年は高校の進学率が半分ほどであったが、毎年波があるものの平成19年には83%にまで着実に上昇している。しかし、日本人生徒の進学率が97%であること、人数が少ないことを考慮すると、改善の余地があるだろう。

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(2) 静岡県浜松市
 浜松市は外国人集住都市会議の中でも外国人人口が多い都市である。同市にはスズキやヤマハ発動機の工場があるため外国人が多く居住する。同市に外国人登録をしている義務教育年齢の外国人は2,923人(平成19(2007)年4月30日現在)、うち1558人の半数ほどが、公立小中学校に通っている。 国籍はブラジル人が全体の70.6%をしめており、日本の外国人登録者全体におけるブラジル人の割合の57.2%を大きく上回る。
同市の教育委員会は平成19(2007)年4月に、外国籍を持つ子ども(外国人の子ども)が共生社会の一員として成長することを目指して、幼児期から青年期にかけた支援のあり方について、『浜松市外国人子ども教育支援事業計画』をまとめた。現在は、市全体が熱心にこの問題に取り組んでいるが、外国人児童生徒が市内に目立ち始めた1990年代後半から2001年頃までは、教育委員会や公立小中学校の閉鎖的姿勢が外部から批判をあびることも多くあった。しかし、外国人との共生に力を入れた北脇前市長のもとで、市長部局と市教育委員会が連携しこの問題に取り組んでおり、平成18(2006)年度には、外国人の子どもに関する施策を教育委員会に一本化している。 浜松市の各小・中学校では、加配教員による取り出し指導を行っており、主な業務内容は外国人児童生徒が多数在籍している小・中学校に、教員を加配する。そして取り出しによる日本語指導や生活指導などの適応指導をおこなっているものが挙げられる。4
浜松市の特徴は各小・中学校で、加配教員による取り出し指導を行っている点である。主な業務内容は外国人児童生徒が多数在籍している小・中学校に、教員を加配し、取り出しによる日本語指導や生活指導などの適応指導をおこなっている。加配教員に関しては後に詳述する。
 浜松市南部にある浜松市立遠州浜小学校の例をあげていく。同校の付近には家賃が比較的安い公営住宅が集中しているために、在籍児童数451名のうち外国人児童78名(18.8%)と、浜松市の中でも最も外国人児童の割合が高い小学校である。それゆえ、同小学校には日本語を担当する加配教員が2名、そして市費による外国人児童就学支援員として、ポルトガル・スペイン語堪能な常勤職員が1名配置されている。
同校における日本語教育は4段階の順で進められており、①入学直後のサバイバル日本語、②初期日本語、③JSL日本語教科志向型、④在籍学級でのティーム・ティーチングという順で行われているという。①~③の段階に置いては、外国人児童の生徒に対して「取り出し授業」をおこなっている。これは、クラスで通常行なわれている授業とは異なっており、個別に授業を行なうものである。そのために、同校では学校全体の教育課程編成段階で検討を行なったという。この検討結果として、2学年分に国語の授業時間を統一することとにより、その時間に通常学級にいる児童を日本語学級に集めて指導を行なうことが決定した。
次に、浜松市でも遠州浜小学校とは異なり、1校あたり外国人生徒数が少ない小中学校での体制をみていく。1校あたりの外国人生徒数が少ないために加配教員が設置されていない市内の小中学校の外国人児童生徒のためには、「外国人児童適応指導教室」ということばの教室が市内の2校に設置されており、学校の活動時間内で正規の授業扱いで日本語習得をめざし学校に通い、日本語指導を受けているという。
最終更新:2008年11月04日 14:14