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第1章 なぜ日本語教育か
本章では、在日ブラジル人に教育支援の対象を絞った理由を説明していきたい。在日ブラジル人に絞った理由は、先ほど示したとおり、日系ブラジル人移民は定住化する流れがあり、その実質数は韓国朝鮮・中国に次いで3番目に多いということである。ニューカマーとは、第二次世界大戦以後に、主に経済的な理由で日本に移住してきた者のことであり、ブラジル人のほとんどはこのニューカマーに分類される。ニューカマーとオールドカマーでは、移民となった目的も経緯も異なっている。私たちがあえてその中でニューカマーの彼らを取り上げるのは、今後日本にやってくる移民の傾向は経済的な面から見ても彼らのようなモデルであると考えたからだ。今日のブラジルからの移民を考えた場合、日本に渡る理由は経済的なものである。同時に、現在の在日ブラジル人子女の教育を見直してみると、その支援は十分であるとは決していえない現状がある。つまり、将来の日本社会を想定すると、現在の在日ブラジル人の教育支援を確立していかなければ、この教育上の問題はますます肥大化・深刻化していくであろうということが考えられる。確かに、ブラジルのめまぐるしい経済発展や、サブプライムローンから端を発する日本経済の悪化などを考えると、ブラジルからの移民が増加していくとは言い切れないが、ブラジル人を対象とした結果、ニューカマーの移民を対象とした教育政策の先行事例を作ることが出来れば、その意義は大きいものとなるはずである。
 第1節では日本は学歴社会であるという点からブラジル人支援が必要であるということを説明し、第2節では進学率、第3節では日本語教育について言及していきたい。
第1節 「学歴」社会の日本
在日ブラジル人子女に教育を施さなければならない理由の一つは、日本が「学歴」社会であるという観点から説明することが出来る。日本は「学歴」社会であり、それに基づいて、最終学歴が上がるにつれて収入が上がる場合が多い。 この点は、日本人だけでなく、たとえ外国人であれ同じ条件であるといえる。つまり、日本で生活していくうえで非常に重要となってくるものが学歴であり、在日ブラジル人子女の社会的地位が向上し、日本の力となるような育成を図るのであれば、「学歴」は無視して進めることの出来ない問題であるということだ。なぜなら、日本で生活をするために職を得る場合、「学歴」社会・高度人材育成 などにおいて、「学歴」は「職歴」に並ぶキャリアの一つとして重視できるものと考えるからである。
このような現状から在日ブラジル人問題を再考すると、一つの問題が浮かび上がる。それは、小学校や中学校を出たばかりの子どもたちの就労、主に工場での単純労働に従事するということがある。学歴が低ければ、彼らの職業は限定されてしまい、底辺労働者層から脱出することができないことが懸念される。 この問題は在日ブラジル人が増えてきている現在の日本において、目をそらしてはならないことであろう。労働人口の低下が予測される我が国においては、彼らを高度人材に育てることは競争力の維持や埋もれていた才能を見つけ出すという意味でも、意義があることではないか。さらに、そのように育成された在日ブラジル人は、今後日本とブラジル、または新たに来日するブラジル人と日本との架け橋的存在になりうるだろう。彼ら独自の強みは、2つの国の文化を知っているということである。これをうまく利用できれば、特殊な職業への道が開けることにも繋がる。例えば、新たにやってくる日系ブラジル人へ教育を行うバイリンガル講師や、在日ブラジル人が多く働く工場で、ポルトガル語しか話せない多数の労働者と日本人の工場経営者の間に入り、仲介をする中間管理職などがそれに当たる。しかし、 これらの職業は、あくまで学歴を積み重ねていった上で得られるものであると考えられる。だが、公立学校で学ぶ在日ブラジル人の子どもたちの成績は概ね芳しくない。 日本語の理解ということを考えれば、それを想像するのは難しくないだろう。確かに幼い頃から家族と共に来日し、普段の生活をする上では日本語(生活言語)に不自由を感じない子どもも多数いる。だが、学習言語として日本語を活用する場合、漢字の読み書きやその意味の把握が難しく、理解した頃には授業の内容自体が先に進んでしまっているということが多い。 浜松市NPOネットワーク(2005)によると、全国17都府県で公立高校の「外国人特別枠」が設定されているものの、在日ブラジル人を含めた外国人生徒進学率は50%未満と推定されている。
在日ブラジル人子女を「学歴」社会の中で救援していくのであれば、取るべき道は二つ存在する。高校進学率を向上させるため、学習言語習得を目指し日本語教育を行うという方法と、アファーマティヴ・アクションを実施するという方法である。しかし、本稿では前者の日本語教育を行うという方法を取る。なぜなら、私たちの政策提言の長期的な視野に立った目標は、在日ブラジル人と共生し、パートナーシップを形成することであるからである。たとえアファーマティヴ・アクションを実施して学歴という点で問題がなくなったとしても、本質的に日本社会に適応しているとは言えない。
また、2007年度に行なわれた愛知県の日本語学習意向調査 によると、「近くに無料又は授業料の安い日本語教室があれば、あなたのお子さんを通わせたいですか?」という設問に対して、「通わせたい」と答えた外国人の保護者の割合は、全体(公立小中学校・外国人学校)の61.3%にのぼることがわかっている。そして、その中でも公立小学校が60.5%、外国人学校が81.7%と高い割合を示している。このように外国人の保護者が日本語教育を必要としている理由をまとめると、以下のようになる。
 日本で暮らしていく面を考慮すると主に生活言語としての日本語教育の必要性が考えられるから。
 主に公立学校で、児童生徒たちが授業に参加し学習する際に必要とされる日本語の学習言語の習得が望まれるから。
 生活言語としての日本語の学習は、比較的容易に習得が可能であるとしても、学習言語としての日本語を習得するためには相当な時間と労力を要すると考えられるから。

 以上のようなアンケートを見ても、日本語教育を行うニーズは在日ブラジル人からも確かに存在しており、日本語教育を行うことが一方的な押し付けとなることはないといえる。