小内透、酒井恵真編著(2001)『日系ブラジル人の定住化と地域社会』御茶の水書房
第6章子どもの教育と学校生活より

☆P202(外国人が存在する影響に関しての児童・生徒の意識、サンプル数532人)
  • 日本児童生徒たちが外国人児童・生徒たちを一方で「自然体」で受け止め、他方で「世界に対する興味」の広がりをもたらす存在として受け止める考えが見出せる。
  • 外国人がいる影響について尋ねた質問に「気にならない」「世界に興味が広がる」が多く、逆に「自分が日本人だと感じる」「勉強が遅れる」が少ない点に示される

☆外国人の子どもへの違和感
  • 日本人の子どもたちは違和感がないわけではない。(特に言語と学校文化)
  • 「母国語使用は当然」と認めるものも多いが「日本語を習うべき」とする者も多い
→コミュニケーションのツール(サンプル数532人(p203))
  • 学校の規則に関する外国人児童生徒の寛容度は低い→自民族中心主義ではなく外国人の特別扱いへの不満(学校文化が正しいと思っているわけでもない)

☆P205日本人の親の意識(調査あり)
  • 外国人児童生徒との交流に好意的
① 国際性の育成につながる
② 選択の余地がなく来た子どもと「ルールを守らない」「治安を乱す」大人を区別

子どもの外国人児童生徒との交流や見方は親によって規定されるより、親の意識に影響を与えている。

☆P209進学に対する調査、サンプル数30組
  • 日系ブラジル人の親に対して批判が生まれる背景は、日系ブラジル人の子どもたちが授業に適応していないという共通認識のため
  • 学業不振や自尊心の問題に対する親の関心は進学に対する関心に比較すれば希薄

  • 9割の親が日本かブラジルでの高等教育へアクセスを望む
  • 日本での教育プログラムは同化の強制ではなく、高等教育への必要なプロセスと捉えている

☆P214 子どもにとっての交流
  • 日本人の友達をほとんどの児童生徒が持つ
  • 日本語力によって交流の広がり(友達の人数)が左右される
  • 友達付き合いを学校の楽しみの1つと認識するものは7割を超えるが、日本人と付き合いを楽しみにするのは半数に満たない(日本人とは学校だけの付き合いの人も)

日本人の子どもと付き合う正の側面と負の側面
  • 日本語を教えてもらう、勉強を教えてもらう
→コミュニケーションの円滑化、授業の理解を深める、複数の言語の獲得(=就職のため)
  • 日本人はブラジル人に命令しがち、いばる
  • いじめ

親側の情報不足、コミュニケーション不全で子どもが心理的に孤立することも

☆P217母語についての親の懸念
  • 親世代は子ども世代がポルトガル語を亡失することを懸念している
アイデンティティーにかかわる
↓しかし、
ポルトガル塾との両立している人は少ない。3人(学校の授業が長いため)

☆ 外国人の教育戦略をめぐる問題
親の諸条件が障害になる理由
  • 親の日本語力と家庭学習をめぐる問題(親が教えてあげられない)
  • 家庭と学校教育の連携が不十分(親が問題を十分認識できない可能性)
  • 親の経済力のなさ(塾に行けない)

親の暮らしは同国人中心。子どもは日本人との交流を求める=ダブルスタンダード
⇒子どものストレスを増大させる

☆ P223教師の意識
中学校では完全に「お客様」状態
① 外国人児童生徒の増加により、日本語教育機会が実質的に減少
  • ところてん式
  • 日本語が出来ないゆえの意思疎通の不円滑により、日本人生徒との感情の齟齬による被害者意識を日本語教師は理解している
  • 日本語教師は日本語がわからないことにより、児童生徒に学業的自尊心が傷つけていることを心配している

② 生活言語と学習言語の格差
  • 日常的な注意事項は聞ける
  • 授業についていくことが困難
→新たな日本語教育の形(例えば、普通学級内部での日本語補助!!!)

☆ P224教師がブラジル人児童を不適応とみなす理由
プライベート領域(家庭)とパブリック領域(学校)を2分割して思考し、かつ家庭でのブラジル文化を尊重しつつかつ、学校では日本文化を遵守することを期待する教師の姿勢は、日系ブラジル人児童・生徒の学校内における集団行動への不適応に対する評価に結びつく
→日系ブラジル人と日本人生徒への摩擦や学級統制がきかなくなることを恐れているため

親との連携がうまくいかないため一層困惑、教師は親へ厳しい評価をしている(欠席連絡がない、授業で必要なものをよこさない、連絡が上手く伝わらない)

日系ブラジル人児童・生徒の成績を左右するもの尋ねた中で明らかになったのだが
  • 日系ブラジル人児童・生徒の日本の学校における学業的適応はやる気によって左右される
  • やる気は日本語能力によって規定されており、日本語能力は本人の意欲と親の日本語能力と姿勢による

☆ P227日系ブラジル人の子どもへの教育課題
日系ブラジル人の子どもへの教育をめぐる問題の最深部
=親と教師がコミュニケートできてない
① 言語(1回で情報が伝わっているとは限らない)
→日本人自身がコミュケート手段として日本語能力をスキルアップする。日本語担当をより多くの教師が担当する
② 時間(教師に多くの負担をかけている)
→社会的なサポートシステムが必要
③ 日本における教育の意義をどこに共有するかという問題
日本における教育を学歴社会における機能から理解するだけではこの克服は難しい
日系ブラジル人と日本人の出会う場としての学校の理解が必要

  • ブラジル人社会が一方で成立しようとも、ホスト社会との日常の結節点が必要である。その1つの重要な拠点として学校は位置づけられるだろう。
  • 日系ブラジル人にとって義務教育ではなく、子どもの権利と捉える。
  • 成績評価を読み書く文化に傾斜している学校知に基づくことを認識しつつ、別の尺度でも生徒の能力を測る視点が必要(例、推薦入学)
最終更新:2008年10月21日 23:25
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