システムエラー(C)

  • 大手メーカーの危機管理マニュアルなぞを見せてもらうとそのあたり実に徹底してよく考えてるなと感心させられます。ま、現場レベルで今ひとつ理念にまで理解が及んでないところがあるってことと、一般の製造業と違って医療の場合なかなかやり直しがきかないことがあるって部分でつらいものもあるんですがね。

  • 東京大学医療政策人材養成講座の研究班(筆頭研究者・神谷恵子弁護士)では、2000~06年に刑事判決の出された事件のうち、ほぼ9割18件の判決文を入手、医療提供者、政策立案者、患者支援者、ジャーナリストという立場を異にするメンバーの参加により、その妥当性を検討した。
    評価は、
    ①事件の非難可能性
    ②処罰の適切さ
    ③事件の原因分析
    ④再発防止の教育的効果
    ⑤医療人としての資質・組織としての体質
    の5指標、12項目について4段階で評価・分析した。
    結果は、18件のうち1/3ほどは刑事訴追が妥当でないか、妥当性が疑わしく、むしろ、医療安全システムに帰因するものであったという。研究班では・医療過誤における「民事」「行政」「刑事」各々の責任の目的・機能に応じた適用を提案、刑事事件を絞り込むこと、医療安全や再発防止を目的としながら、十分機能していない「行政」責任についての改善を提言書としてまとめた。


  • 問題とされるべき「システム」の範囲がよく分からない、という点があります。医療関係者の方々は、民事訴訟において、又は「第三者機関」における審査において、(個人責任を追及する代わりに)問題とされるべき「システム」として、どのようなものをイメージされているのでしょうか。
    手術に関するミスが争点の事例では、過失の主体を執刀医と見るのか、手術室にいたスタッフ全員と見るのか、外科全体と見るのか、診断をした他の診療科も含めるのか、その病院全体と見る(業務体制整備の責任を念頭に)のか、医師の派遣元となった病院まで含める(適切な労務管理という点では責任の一端あり?)のか、地方自治体も対象とする(救急車の配置、病院の誘致、医師の確保といった環境整備は充分であったのか等々)のか、医療機器・製薬業者の責任も考慮する(医療者がエラーを起こしにくくする工夫は尽くされていたか等)のか、医師の出身大学や研修先における教育内容も検討するのか、厚生労働省による医療行政こそ問題とされるべきなのか、その医療行政について責任を持つ内閣、予算を決める国会の行動についても検討を要するのか、国会議員を選出した国民の政治責任も・・・・と、考えようによっては無限に広がりそうです。
    もちろん最後の方は極端なのでしょうが、ではどこまでかと言われると、恐らく、医師によって、また事案によって様々な回答があり得るのだと想像します。しかし、訴訟においては被告を決めて提訴した上、その相手からは各々反論を聞かないといけませんし、判断権者は、全ての主張と証拠を総合して結論を下さなければなりません(これは「第三者機関」による審査でも同じでしょう。)。患者側から見れば、「システムエラー」こそ問題にすべしと言われても、どの範囲を対象にすればいいのか分からない上、あまり対象を広げすぎると、各当事者の言い分を確認するだけで大変な労力となり(当然、各々の言い分に対しては、別の当事者からの反論があり、それに対する再反論もあります)、その主張立証の全てを詳細に検討して責任の有無や割合を確定するのは容易ではなく、紛争解決に要する時間とコストは、当事者にとっても、判断権者にとっても、現在とは比較にならないほど莫大なものになると思われます。
    最後に、「システム」に問題があることと賠償責任の関係がどうなるのかがよく分からない、という点があります。「システム」の範囲自体不明瞭であることは前述のとおりですが、仮に、個々の医師や病院だけでなく、それを取り巻く「システム」全体に過誤の原因があったとして、誰がどのように賠償するのか、させるのか、指針はあるのでしょうか。責任の割合に応じて負担するのだとしても、実際に「医師15、看護師15、病院30、製薬会社20、医療行政 20」などと数値化できるのでしょうか。
    全ての保険医は医科診療報酬点数表(か診断群分類点数表)に基づいて診療を行っています。毎月、医療機関は各患者毎に行った医療の内訳を「レセプト」と呼ばれる紙にまとめて、かかったコストを保険者に請求します。レセプトはまず審査機関(社会保険は社会保険診療報酬支払基金(通称「基金」、「支払基金」)、国保は国民健康保険連合会(通称「国保連」))に送られ、請求ミスや過剰診療と思われる検査、投薬などが「減点」されます。減点された結果の数字で医療機関に保険者から診療報酬が支払われます。不満があれば再審査請求できます。
    また、近年の保険者、国、地方自治体の財政難から、点数表で規定されていない部分での審査がどんどん厳しくなってきています。以前では医師の裁量として認められていた部分も、減点されてしまうのです。実際、「過剰診療」とされる部分の多くは、一般の皆様が想像されるような「不正請求」的なものではありません。とくに公的医療機関においては。むしろ傍目には診療上不可欠と思えるものまで減点されていたりします。(実を言うと、今の私は「どちらかと言うと削る側」の仕事をしています。無茶はしていないつもりですので何卒ご容赦を>>臨床医の皆様)
    その一方で、判例は濃厚診療を要求しています。
    現場の医師としては、「あれをやると保険で削られるし、やらないと訴えられたときに負ける」というジレンマに陥っているのです。これはかなり士気を削がれる状況です。

No.22 僻地外科医さん
  • 都立広尾病院の件では看護師が有罪判決を受けていますが、これはシステム工学の立場で言えば明白なシステムエラーで本来個人の責を問う性質のものではないと思います(院長の有罪判決はちょっと論議が違いますので置いておきます)。
  • 問題になるのは、システムエラーの改善提言をどうするかですが、第三者機関にシステム工学の専門家を入れ、システム上のミス修正を各機関(国、自治体、病院)に促すこと、エラーの改善がない場合は何らかのペナルティーを課すこと、そのペナルティー担当に医療事故保険業者を関わらせることなどで改善可能かと思います。

最終更新:2008年09月24日 21:06