自浄努力の必要性(行政処分の活用・医道審議会など)


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 「業務上過失致死罪は必要?」で書いたように、刑罰は一般予防・特別予防、および、応報を目的として課されるものとされています。したがって、刑罰が課されなくてもこれらの目的が達成できるのならば、あえて刑罰を課す必要はないため、司法機関はこれらを処罰することに対して抑制的となります。
 また、国民が医師らの内部処分に満足すれば「刑事手続による処罰を求めない」という行動が期待されます。つまり、検察官は起訴・不起訴を独自に判断する権限を与えられているといいつつも、「被害者の処罰感情」を無視することはできず、正式に告訴があれば少なくとも捜査に動かざるを得ない。改正法では国民の意思を反映するために、検察審査会の起訴決議に強制力が持たされています。特に、最近では、医療に不満を抱く患者が刑事手続の発動を求める傾向が強まり、しかし実際はそれは実は過剰な期待であって、刑事手続においても満足すべき結果が得られないため、さらに不満を募らせて民事訴訟に挑むという最悪パターンがあるうように思います。この悪循環を断ち切るためには、「刑事手続の発動を求めなくても、悪い医療は淘汰され、正しい医療が行われるしくみが出来ている」という<確信>を国民に与えることが必要です。それは何も、無実の医師をスケープゴートに仕立て上げて国民におもねれ、ということではありません。問題事例が発生した場合に、医学的な観点から過失を問えるものか問えないものかの判断を、詳しい根拠を付して公表し、処分されるべき者がこのように処分されましたということが、国民の目に納得できる形で示されればよいのです。(ただし、医局が機能している場合には、「ある程度以上どうしようもない医師」は排除されてきていたというのが事実です。しかし、このようなことは表立って非医療人の目に触れることはありません。)

 もっとも、このような自浄を実現するのは困難である、とも指摘されます。その一つの大きな理由として、医師会が強制加入制ではない点が指摘されています。大野病院事件で被告側の主任弁護人を務めた安福謙二氏も臨床に携わる医師は、自律機能を果たしてほしい。しかし、医師会も医学会も任意団体。あえて申し上げるが、臨床現場で働く医師は、立法措置を持って強制加入の団体に入る制度にすべき。その中で、自律的に懲罰機能を持ち、業務を停止したり、退場を命じるべき。と指摘しています。

また、米本昌平氏も以下のように述べています
http://www.courts.go.jp/saikosai/about/iinkai/asu_kondan/asu_kyogi13.html
  • 日本の場合,医師法には医師会の規定がなく,その結果,医師という職能集団の自己統治組織がない。なぜこれがないかという理由はよく分かっていない。戦前は強制参加の組織があったが,戦後GHQも特に示唆することなく結局今日まで来ている。どうも当時の厚生省が医籍を管理したかったというのが理由のようであるが,証拠は残っていない。つまり多くの国には最低限の職業倫理を守らせる強制参加の身分制度があり,日本の弁護士会のように,あまりひどい非行があると除名になるため,事実上医業が開業できなくなる。こういう議論をすると,日本には医道審議会があるではないかと指摘がすぐされるが,これは厚労省が医療行政の権限の枠内で処分を出す機関である。厚労省の権限下にある医療費の不正請求の場合と,刑事罰が確定した医師に対して後追い的に行政処分を行う機関である。刑が確定していない医師,あるいは何度も失敗を犯す医師に対する医道審議会の判断基準を強化せよという意見もある。しかしそうなると厚生労働大臣が医師の生殺与奪権を握ることになる。私としては,たまたま私が最高裁の下級裁判所裁判官指名諮問委員会の委員として裁判官の指名の適否について審議させていただいて実感したのだが,これに似た医師資格を審査する独立の第三者機関を作ってここで審査し,医療行政からは引き離すべきだと考えている。

 医師等資格所持者に処分を下す機関としては厚生労働省医道審議会(医道審)がありますが、数年前に年数回開催になりましたが,それまでは6月ごろに年一回だけ。しかも官僚の作文を追認するだけ(これは今も)。非常勤の委員が年一回集まって数時間会議して終り、調査権限は一切なく、数年前から一応判決前や民事でも処分できるようになったものの、刑事裁判の結果が確定するまでは基本的に処分しないような状態でした。
 そもそも、医道審が原則として司法手続が行われた後に行政処分を下すこととしたのは、医師会・病院会の代表や医学部教授らといった医師を主体とする医道審議会が自発的に決定したことです。司法手続を行政手続より前置することで、医療界は事実上自浄作用を働かせる責任から免れるという利益を享受してきました。かつて(現在もある程度はそうですが)、起訴・有罪判断ともに極めて困難であった司法手続を自分たちの権益を守る防壁として存分に利用し続け、ここ数年それが防壁として機能しなくなりつつなった途端、行政も含めた医療業界の不作為を棚に上げて司法を批判することに対しては、反発する声もあるようです。