第三者機関?行政機関?

  • 「医師主体の第三者機関による選別をした後、一定の事案に限って司法的解決に委ねるべきである」という考え方については、その人的資源をどこから得るのか(全国の紛争を証拠が散逸する前に遅滞なく処理すべく、大規模な体制を構築する必要がある)、対象者が調査に非協力的であった場合はどうするのか(司法機関による強制捜査でない以上、対象者がカルテ等の資料提供を拒んだら、それ以上なすすべがない。口裏あわせや偽証教唆、カルテの改竄を防ぐ手立てもない)などの困難が多い上に、選別が客観的学術的に公平であるか否かに関わらず、「身内によるかばい合いである」という批判も避けがたいように思われます。それよりは、現在の鑑定医に問題があるのだとすれば、医学的に妥当と思われる鑑定意見が出るような工夫(一定の水準を有する臨床医による鑑定実務への積極的な協力等)を検討する方が現実的ではないのでしょうか。
  • 海難審判の場合は、地方海難審判庁→高等海難審判長→東京高裁→最高裁という流れになっているようです。再発防止の取り組みなども同時に海難審判庁で行われているようです。
http://www.mlit.go.jp/maia/index.htm
海難でできるものなら医療でもできそうな気がしますが…
特許の査定などでも専門性が高いため1審は特許庁で行われるようです。さらに2審は知的財産高等裁判所で行われます。
http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_gaiyou/tokkyo1.htm
  • 憲法が「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」(76条1項)としたうえで、「特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」(76条2項)とし、さらに「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」(76条3項)としている以上、憲法で定められた裁判制度の枠組みを変更するには、憲法を改正するしかない。民事裁判については、憲法32条が「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」としている以上、民事裁判を起こすことを認めないとすることは、法律でもできない。
  • こんな事が頻繁に起これば誰も審査機関なんかに頼らなくなります。医療側に立って言えば、審査機関で過失無しと認定されても、それを不服として訴訟を起されますし、過失有りとされれば大威張りで訴訟を起されます。そうなる事は大変好ましくないと考えます。何のための審査機関かと言う事になります。法曹関係者の方は審査機関で過失無しと認定されたら、たとえ訴訟を起されても過失無しの公的機関のお墨付の証拠があるから大丈夫と言われそうですが、医療者の最大の願いは訴訟に勝つことでなく、訴訟を起されないことです。
  • 行政審判の中には、実質的証拠法則(説明が難しいので省略)の採用とか、証拠提出の制限とか、裁判所に対し行政審判の結果を尊重させる仕組みもあります。
  • 行政作用については、行政不服申立の手続きを前置するものがわりとあります。例えば税務訴訟では、税務署への異議申し立て→国税不服審判所の審査請求という2段階の手続きを経て、初めて地方裁判所に出訴することができます。
    これらの例に倣って、立法措置により、医療事故については第三者機関に医学的調査を行わせること、そして医療紛争についてはこの機関による調停を、民事の損害賠償請求訴訟の出訴要件として前置するということは、既存の裁判体系と矛盾しないと考えます。医学の専門的な判断の下に調停を行うならば、当事者双方に対して説得力があり、かなりの件数が訴訟に至らず解決できるのではないでしょうか。
    問題は、第三者機関で出された医学的判断にどの程度の効力を持たせるかで、裁判では全く争えない(完全拘束)とすることが許されるかどうかは、やや疑問です。
    cf.国税不服審判の判断は裁判所に対して拘束力がない。
最終更新:2008年07月19日 09:51