良きサマリア人の法

急病人など窮地の人を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人にできることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない」という趣旨の法です。

現行法上の民事責任

 民法698条には緊急事務管理に関する規定があり、これによると、「管理者(義務なく他人のために事務の管理を始めた者)は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない」とされており、この規定により「善きサマリア人の法」が目的とすることが実現できるとする学説がある。しかし、現時点では通説とまでは言えず、また民事上の判例も存在していない。また、緊急事務管理による免責成立のためには「重大な過失」がないことは手当て者が証明せねばならず、手当て者にとってはやや重い立証責任が課せられることとなる。
手当て者が医師である場合、真に「義務のない管理者」と言えるのかについては、医師法19条の応召義務が問題となるが、院外での事故・疾病発生時にたまたま居合わせた勤務外の医師の医療過誤に関する判例は現段階では存在しない。医師に対する無制限の応召義務を否定した地裁判例もあるが、緊急時は自宅にいる勤務時間外の勤務医にさえ応招義務が課せられるとする学説もある。医師が道端で倒れた傷病者の手当てを始めた事例などでは、診療時に当事者間に契約が成立したかが争点となり得、成立が認められれば債務不履行責任を問われ得る。また、航空機内でドクターコールに応じた事例などのように過誤発生時に契約関係がない場合にも、不法行為を根拠に損害賠償請求訴訟が起こされることは想定され、その請求が認容される可能性はある。Wikipedia
 もっとも、実際には医師がこのような場面で敗訴する可能性は極めて低く、サマリア人法は日本においては現行法の解釈を立法的に明示するものに過ぎない、と通常は考えられる。現行法上善意の救助者の免責は確立されていると考えてよい、との評価が多い。

現行法上の刑事責任

 刑法第37条では、違法性阻却事由の一つである緊急避難に関する規定があり、「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない」とある一方で、「業務上特別の義務がある者には、適用しない」とも規定している。謙抑的な運用が期待される刑事上は、緊急避難が成立して違法性が阻却される可能性が高いと考えられるが、やはり判例は存在せず、生じた害と避けようとした害との比較衡量、また医師の場合には応召義務成立による業務上特別の義務の成立の有無等での争いが生じる可能性は否定はできない。万一阻却が認められない場合は、業務上過失致死傷罪、過失致死傷罪、重過失致死傷罪などが成立し得る。Wikipedia

 なお、善きサマリア人の法が英米法に存在しているのは、英米法ではそれが必要だからであり、善きサマリア人の法が無ければ緊急行為に関しても罪に問われる可能性が高いという事になる。一方、大陸法の国々で善きサマリア人の法が存在しないのは、善きサマリア人の法がなくても緊急行為が罪に問われる可能性が低いという事になる。

善きサマリア人法を立法化すべきか

立法化すべき
  • 日本国内の医師に対して行われたあるアンケート調査によると、「航空機の中で『お客様の中でお医者様はいらっしゃいませんか』というアナウンスを聞いたときに手を挙げるか?」という質問に対して、回答した医師全員が上記の緊急事務管理の規定と概念を知っていたにも関わらず、「手を挙げる」と答えたのは4割程度に留まり、過半数が「善きサマリア人の法」を新規立法することが必要だと答えたという。
  • 私は立法化して欲しいと思います。救われる命が医師の「不安(訴訟によって自分の一生が無駄になるかもしれないという不安)」によって救われない可能性があるのなら、法律を制定することで、不安を取り除いてあげればいいことであって、いまの法律で十分だから必要ない、ということにはならないと思います。

立法化には慎重
  • 今問題になっている医療訴訟の大部分は、医療機関内で発生した事故によるものであって、サマリア人法が適用される場面ではないので、たとえサマリア人法が制定されようとも、そのことによって現に被告or被告人とされている医師らの大部分は救済を受けないことは明らかです。例えば、サマリア人法が制定されることによっては、福島事件が起訴されないという保障はないのです。
    「サマリア人法が存在すれば、医師は安心してコールに応じる」とのことですから、法律の存在意義は一定認められるとしても、所詮は医療行為のうちではごく例外的な現象についてであって、そのことによって恩恵を受ける医師も患者も少数であることは否めませんから、現時点でサマリア人法の制定を急ぐ必要性(立法要求度)は、他のことと比べて低いと言うべきです。
  • よきサマリア人の法が制定された後は、医師がドクターコールに出ないと言う事は大いに批判されるでしょうね。実質的に「よきサマリア人の法が成立」=「ドクターコールの義務化」となりそうです。

最終更新:2008年09月18日 09:57