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『和のフィアンセ気分で~8年後の和編~』 小ネタ ◆bwfL1IDZzI氏
第3局>>500~>>501
『和のフィアンセ気分で~8年後の和編~』
――12月25日。今日はクリスマスである。
俺もこの年になってようやく、「恋人達の聖夜」を満喫する資格を得たようだ。
今日もいつもどおり仕事を終え、駅に向かって歩きながら携帯を取り出す。
数コールの後、俺の最も愛する彼女が電話に出る。
「はい、もしもし」
「あぁ、和?仕事はもう終わったか?」
電話越しの声が少しだけハイテンションになって耳に入ってくる。
「あっ、もう終わりました!」
「そうか、早いじゃん」
「ええ、だって今日はクリスマスですから。もうオフにしてもらいました」
「いいのか?」
「いいんです。アイドル雀士と言ったって、本当にアイドルじゃないんですよ?」
「あはは、そうだな」
「うふふ」
こんな他愛も無い会話がたまらなく楽しくて、いとおしい。
「それで、待ち合わせは駅前でいいかな」
「はい」
「それじゃ、また後で」
電話を切って、雪の降りしきる道を駅に向かって進む。何年ぶりかのホワイトクリスマス。
こんな日に和とデートなんて、俺はつくづく幸せ者だと思う。
何と言ったって、彼女はプロ雀士であり、テレビにも出演するアイドル雀士なのだ。
そんな和のプライベートを独り占めできるのは、世界中で俺しかいない。
駅に着くと、もうすでに和は着いていたようだった。
「ごめん、待ったか?」
「いいえ、あなたのことを考えていたので、待ったうちに入りませんよ」
そう言いながら俺だけに見せる天使の笑顔。
「そっか。じゃあ、行こうか」
手を握り合う俺と和。しかし、しばらく歩いたところで、
「ねえ、握ってる手だけ、手袋外しませんか?」と和。
「そ、そうだな」と答え、手袋を外してもう1度握り合う。
直に伝わってくる和の体温。手袋なんか無くてもへっちゃらだ。
そうこうしているうちに、目的地に着いた。細い路地の雑居ビルの地下、こぢんまりとした店内。
ここは俺と和の行きつけの店であり、また、2人の出会いの場所でもある。
扉を開けると、俺たちに気付いたマスターがコップを拭くのをやめ、何やら準備を始める。
そして何も言わず、ただちょいちょいと手招きをして、店の奥へ入っていく。
俺達も黙って付いて行くと、2人用の小さな部屋に通される。
「マスター、いつもの」
「かしこまりました」
短い会話の後、料理が出てくるまでの間、俺と和はいつも麻雀をする。マスターが気を利かせて
くれて、この部屋にはいつも麻雀セットが置いてあるのだ。
2人打ち麻雀というのもなかなかオツなもので、将棋のような1対1の緊張感や、高い手が作りやすい
のがなかなか気に入っている。
「ねえ、打ちましたよ」
「あ、ああすまん、和。えーと……」
「うふふ、メ・ン・チ・ン」
俺が牌の取捨に迷っていると、和は決まってこうからかってくる。まあ確かにメンチン狙いなんだが。
手を読まれるのは嫌だが、和が可愛いので何でも許してしまう。
「これでどうだ」
「残念、七対子」
また振り込んでしまった。渋々俺が点棒を出していると、ちょうどよく料理が運ばれてくる。
「よーし、今日はここまでだ」
「あっ、逃げましたね?」
ニコニコと笑う和に、俺はまたドキッとしてしまう。もう付き合って大分経つのに、いつまでたっても
この笑顔にはドキドキさせられる。
食事を終えた俺達が行くのはもちろん――
2人の夜は、まだ始まったばかりだ。