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無題 一×透華 一視点 百合注意 ID:otme+Xcr氏
第1局>>242~>>251
ボク、国広一は焦っていた。
『もう、その鎖は卒業でもいいかもしれませんわね』
その鎖は卒業――
言われてみて、初めて気がつく。
今までの不自由な日常から解放されるというのに。
心の中に深遠の闇が広がっている――
思いもしなかった。
解き放たれることが、絶望にも似た痛さを伴うことが。
怖かった。
この闇に飲み込まれることが。
透華から放たれた言葉――
それを聞いてからの、ボクの中にある焦燥感。
ボクは透華の傍にいたいのか?――
「…違うよね」
ボクは透華の『モノ』になりたいんだ――
初めて出会った、尊敬できる人。
いや、尊敬なんて言葉すら失礼にあたるかもしれない。
ボクが、ボクの全てを捧げたくなる絶対的な存在なのだから。
ボクが、ボクの全てを捧げねばならない絶対的な存在なのだから。
だから怖いんだ。透華に『捨てられる』ことが――
改めて、自覚をせざるを得なかった。
ボクは透華に買われただけのメイド。
透華がインハイに行くためだけの数合わせ。
透華が役立たずと判断したら捨てられるだけ。
ピロリロリンピロリロリン♪
PHSが鳴る。
「はい、国広です」
「ああ、はじめ?お茶を持ってきて下さらない?」
「ん、分かった」
急いで給湯室に向かい、ワゴンにお茶のセットを載せる。
この2年、毎日透華のためにお茶を淹れてるけれど
透華はべノア(紅茶の最高級ブランドらしい)よりもリッジウェイやマリアージュフレールが好きみたいだ。
透華の傍にいられる――
それだけで、ボクの心は暗澹とした気分が晴れるんだ。
透華の部屋のドアをノック。
返事が無い。
もう一度ノック。
返事は無い。
「透華様、お茶をお持ちしました」
――返事は無かった。
ドアを開けてみる。
「開く…ってことは中にいるんだよね」
中に入ると、透華が壁を睨みつけていた。
最近、こんな透華をよく見る。
何か…悩んでる?
ワゴンをその場に置き、透華に近づき声をかけようとしたその時。
「あーっ!もう!何で私がこんなに悩まなければいけませんの!?」
「わあっ!?」
「うわっ!?」
ワゴンを押してなくてよかった!本当によかった!
びっくりしてワゴンを倒すなんて醜態をさらすぐらいなら、ともきーの前で胸パッドを入れる方が遥かにマシだ!
「ななな、何ですの!?ノックもなしに入るなんて失礼じゃありませんこと!?」
「ノックしたよっ!したけど返事がないから、おかしいって思ったんだよっ!」
「そ、そうなんですの?…それは失礼しましたわね。で、何の御用ですの?」
「透華が言ったんじゃない。お茶を持ってきてって」
何かに集中してる時の透華は自分の言ったことを忘れるクセがある。
「…そうでしたわね。それでは淹れて頂こうかしら」
「うん、美味しいですわ。貴女もお茶を淹れるのが上手くなりましたわね」
「そりゃあ毎日毎日淹れてたら上手くもなるよ」
「そんなことはありませんわ。これならすぐにでもお店を出していいレベル。普通はここまで上達しませんもの」
「…ありがと」
そうやって。
そうやって、そんな優しい笑顔で、ボクを虜にするんだ。
だからボクは!透華に縛り付けられていたいんだよっ…!
「ご馳走様。今日はもうお休みなさいな」
「うん、分かった」
勝手なものだ。
あれほど透華の傍に居たいくせに、焦った心を見透かされたくなくて急いで片付け始める。
ふと、透華を見ると、また壁を睨みつけていた。
「ねぇ、透華」
「何かしら」
「何か悩み事があるんなら、ボクでよければ聞くよ?」
何かを言いたげに。
しかし、弱音を吐くのを堪えるように唇を噛み締めた。
「…大丈夫ですわ。ありがとう」
「そう…」
すぐ傍にいるのに。
手を伸ばせば触れられる距離にあるのに。
透華の悩みは、ボクでは解決できないんだろうか?――
ボクの心は、想いは、透華に届かないんだろうか?――
「それじゃ、おやすみ」
無力感で情けない気持ちになりながら、透華に告げる。
――返事は無かった。
「とーか?」
――返事は無い。
「とーか?おーい、とーか?」
――返事は無い。
「透華!?ちょっと、聞いてる!?」
――返事は無い。
「ねぇってば!」
椅子の背もたれに体を預け、潤んだ瞳でボクを見ている。
…潤んだ瞳?まさか!?
「顔が赤いなぁ…熱があるのかな…」
透華に風邪を引かせるなんて、メイド失格だよ…!
「体温計取ってこなきゃ…」
「はじめ!」
「うひゃい!?」
「ちょっとそこにお座りなさい」
「あ、はい」
ベッドの横にある椅子に座らされ、透過を見上げようとした時、いきなり抱きしめられた。
暖かくて、優しくて、切ない香りがした――
「ととと、とーか!?」
「一度しか言いませんわ…はじめ、貴女が好きです」
「ふぇっ!?」
「もう、貴女なしでは生きていけない…!」
「とーか…」
「貴女の心も、躯も、全てがほしいの…!」
「…」
強く、より強く、ボクを抱きしめた。そこから伝わる微かな振動。
そこから理解できたこと。
透華だって怖かったんだ。
――ボクを失うことが。
…泣きそうだ。
透華が、ボクなんかのために。
ボクみたいな、透華の傍にいることしか能がない存在のために。
「透華、落ち着いて」
震える透華をあやすように抱きしめる。
安心して、透華。
これから先、何があっても、ボクは透華の傍にいるよ。
でもね、透華は思い違いをしてるんだよ――
ゆっくりと立ち上がり、ボクの手が透華の手を包み込む。
「全く…透華は何も分かってないんだから」
「わ、私が何も分かってないですって!?」
「そう。ボクは透華のもので居たいってことが」
「え?」
「ボクは透華の側に居られるなら何でもするよ」
そう、何でもするよ。
例えそれが、どんな理不尽な命令でも。それがボクの存在意義なのだから。
ゆっくりと、跪き。
透華の手の甲に――キス。
そして透華の手を愛おしく、頬ずりした――
「ボクの指と口はね、透華に気持ちよくなってもらうためにあるんだよ」
「ボクの胸も、お、おまんこも、お尻の穴だって、透華に楽しんでもらうためにあるんだよ」
ボクは、透華の『モノ』だから――
ボクの一世一代の告白を呆気にとられた顔で聞いていた。
目に力が戻った瞬間だった。
ボクの唇はすごい勢いで奪われ。
嵐のごとく、ベッドに押し倒された――
朝の光がカーテンの隙間から差し込んでくる。
眩しさを避けたくて、寝返りを打つ。
目を開けると、そこにはボクのビーナスがいた。
「おはよう、はじめ」
「おはよ、ご主人様」
「それは止めてって言ってますのに…」
「何度も許しを請うてるのに、気を失うまでイかせてくれる透華が悪いんだよ」
「だ…って、そんなの仕方ないでしょ!?あんなに可愛い貴女がそうさせるんですから!!」
「冗談だよぉ」
透華の唇を啄ばむように、キス。
「ねぇ、朝御飯まで時間あるからさ…」
「…仕方ないですわねぇ」
ボクのお願いを渋りながら聞いてくれる透華。
優しすぎるよね。
でも…
鼻息荒くしながら言うセリフじゃないよ――