―風越女子の絆―      キャプテン×池田      百合注意         ID:hBn2My0W  


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無題 キャプテン×池田 百合注意 ID:hBn2My0W氏
第1局>>79~>>84


            ―風越女子の絆―

   また、あの暑い夏が来る―――――。
   強い日射しに青い空。それを彩る巨大な入道雲に蝉時雨。
   真夏にすっぽりと包まれた、緑溢れるのどかな路を歩いている子猫のような
   少女――――池田華菜。
   そこからわずか下がった位置でついてくるのは、穏やかな空気を湛えた
   風越女子高校麻雀部キャプテン、福路美穂子。

   山間部特有の涼やかな風がふたりをくるんで空へ抜けていく。

   「いよいよ始まりますね、県予選!」
   「そうね。去年のことは去年、今年は気持ちを切り替えて行きましょう」
   「…はい!」

   慈愛の響きを含んだ美穂子の声に、髪と同じ色の猫的耳を生やして
   池田が返答する。目は星が散っているごとく輝いた。

   「去年は私が天江に振り込んだせいで……」
   「華菜。」
   「は、はいっ」

   少したしなめる音を感じた池田は言葉を止め、キャプテンの言葉を待つ。
   沈黙する数刻、蝉の声だけがやたらと耳についた。

   「そのことはもう言わない約束じゃなかった?」

   表情は柔和なまま、人差し指を口元に当てて薄く微笑む。
   それを受けて池田の緊張も足下からほどけていく。
   無言でうなづき、わかってます。の意志を伝えた。

   「…今年も荒れそうですね。何かとんでもないことが起こりそうです」
   「華菜もそう思う? …実は私もなの」
   「そうなんですか!? 近頃変な夢ばかりばかり続いて睡眠不足で…」

   ふわわ。とあくび混じりで語尾をボヤかすと、きびすを返して美穂子の
   元へ小走りで駆け寄った。

   「…でも! 必ず勝つのは私たち、最強の風越女子です!」
   「それを証明するため、この1年頑張ってきたんですものね…」

   美穂子はその言葉を胸に、夏の空を見上げて右目を薄く開ける。
   ここで終わればそれで終わり―――そんな寂しい一抹の不安が
   首をもたげるが、首を振ってその愚考を払い捨てた。


   (キャプテンは3年生最後の試合…これを勝って、インターハイを
    一緒に闘うんだ! そのためにこの1年やってきたんだから!)

   目を伏せ、胸に握り拳を当てて、池田は今一度思いを確認する。
   自分たち2年含めて、1年生の牌に触れる時間を増やしてくれた
   この、キャプテンの気持ちを昇華させるために……!

   ふと焦点を合わせると、美穂子が不思議そうな顔をして覗き込んで
   いた。
   「…………! キャ、キャプテン!」
   鼓動が急激に高まる。
   「やっと気づいた。何度呼んでも反応ないんだもの」
   いきなりの接近に対処できないほど、薄い胸は早鐘を打ち、
   汗がこめかみを伝う。
   (あぁ……このまま時間が止まればいいのに――そうすれば、
    キャプテンとずっと一緒に―――――)

   竹林を抜ける風がざわめきの声を上げた。
   見つめられる瞳に気恥ずかしさを覚え、たまらずぎゅっと目を閉じる。
   目を閉じたまま、心の奥にあるものを後先考えず吐き出した。

   「絶対…勝ちます! 私がキャプテンを全国に連れて行きますからっ
    いつまでも、キャプテンの傍にいられるためにもっ!」


   言い切った。少しずつ肩の力が抜けてくるが、まだ目は開けられずにいる
   高い空を航空機が飛んでいく小さな金属音が蝉の声の隙間を
   ついて静かに響いた。

   不意に池田の身体にある感覚が走った。あたたかい何かに
   抱きすくめられる感覚だと気づくのに数秒要して、ゆっくりと目を開ける。

   「華菜のその言葉、待ってた」
   「……きゃ、キャプテ………うえぇぇ~ん」

   堰切ってあふれ出る涙を拭おうともせず、抱き締められるがままに身を
   任せる。泣きやまぬ子をあやすように、後頭部に手が添えられ
   ポンポンと優しく往復する。


   身体を離し、見つめ合う形になったところで額と額が合わせられた。

   「華菜。絶対勝ちましょう? どんな強豪が立ちはだかろうと、
    私と華菜、そして部員のみんなが一丸になれば無敵。でしょ?」
   「……ぐすっ、……ひ、ひゃい!」

   涙でグシャグシャな池田の頬を指で撫で、溢れるものを払う。
   再び頭を軽く撫でてやり、よしよし、と微笑みかける。

   「いつまでも泣いてる子には、おまじないかけないとね」

   池田がおまじない? と疑問をもった次の瞬間、
   柔らかい唇が押し当てられた――――。

   現実の出来事だと理解し、池田は口付けられたまま固まり、
   目を丸くしたが、時間経過と共にふにゃりと蕩ろけ出す。

   「……華菜はキスしてあげないと落ち着かないのよね?」
   「あぅ……にゃー……しょ、しょうですけれどぉ~…」

   唇を離して悪戯っぽく笑いかけると、池田の顔が真っ赤に染まった。

   身体にこもる熱は、日射しと地面の照り返しのためではない。
   ここで止めておいたのは正解だろう。

   熱に当てられ、ふらつく足取りの池田。その手を取り、美穂子は
   慈しむ笑顔をこぼし、そのままふたりは歩いていく。

   高校生活最大の暑い夏は、ここから始まるのだ。
   長い長い闘いの直前、想いを重ねるふたりの物語は
   始まったばかり――――――――。 
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