無題            一×透華          百合注意         ◆AjotIQkrmw氏


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無題 一×透華 百合注意 ◆AjotIQkrmw氏
第1局>>178~>>183

   中世の城を思わせるような古びた煉瓦で囲まれた部屋の中―――。
   蝋燭が揺らめき、ぼんやりと鈍い明度を放っていた。
   古めかしい格子の窓から見える冷たい夜空に時折、遠雷の稲妻が走る。

   揺れる炎に浮かび上がるのは、豊かな金の髪を湛えた痩身の女、
   相対して向かい合うのは、それより二回りは小さな体躯の少女。
   短めにまとめられた、深く蒼い髪が緊張に揺れる。

   「――それで、結局何が言いたいんですの?」
   苛ついた様相を隠すことなく、端整な顔立ちを僅かに歪めて問いが
   放たれた。問われた方はひと呼吸の間をおいて、意を決したように
   口を開く。その表情は思い詰めた何かに染まり、強張っていた。

   「……透華が衣を大事に思ってるのは、ボクだって痛いほど知ってる。
    こんなことを言うのは気が引けるけど、もう心に嘘はつけない」

   透華、と呼ばれた者の眉が微かにつり上がる。

   「なんでそこで衣の名が出てくるのか理解し兼ねるわ……」

   「い、いや、だって……いつも透華は口を開けば衣のことしか……」

   「はじめがそこまで聞き分けが出来てないとは思いませんでしたわ。
    あの子はわたくしの従姉妹。何よりも不幸な事故で身寄りがない
    ことだって分かっているでしょう!? 気にかけなくてどーするんですの!」

   語気が上がり、アンティーク調のテーブルの天板を強く打ち据える。
   その音に首を竦めると同時に、蝋燭の炎も頼りなげに揺らめく。

   今まではここで引いてきて、思いを飲み込んできていたはじめ。
   しかし今日は違っていた。腹に力を込め、負けじと己の思いを吐露する。

   「分かってる! それも分かってるよ!…だけど…ボクは透華のお付きの
    メイドなんだ! 単なるわがままだって思ってくれてもいい! ほんの
    ちょっと、ちょっとだけでいいから……透華がボクのことだけを見てくれる
    時間が欲しい……それだけ…なんだよ」

   やっとの思いで告げられた言葉に、面食らったのは透華自身だった。

   「な……、はじめ…あなたまさか……」
   「……ごめん、呆れたよね…メイドの分際で主人に恋愛感情を持つ
    なんて、失格もいいところだ。…だけど、関係が壊れたって、
   どうしても……伝えたくて……」

   後半はもう涙声が混じり、俯いたはじめの目からは大粒の涙が溢れて、
   乾いた煉瓦の床に悲しみの跡をいくつも刻んでいた。

   「…言いたいこと、言えた、から…スッキリしたよ……これでもう、
    透華とボクの主従関係は終焉しちゃったけど………」
   「ふざけないでくださる!?」

   透華の声がはじめの声を遮る。

   部屋中に響くような怒号にも似た叫びに、泣き濡れた目を上げて
   透華を見やるはじめ。その視線の先には、先ほどより怒りの色を
   滲ませた主人の顔があった。

   怒号が反響し終え、煉瓦に飲み込まれ切った頃、遠方の雷鳴が
   静かに空気を震わせる。

   「か、勝手に思いを告げて、勝手に自己完結して、勝手に
    消えようだなんて、専属メイド失格にも程がありますわっ!」

   頭頂部の癖毛がぴん、と立ち上がり、透華の感情を声高に表す。
   不機嫌絶頂の合図だ。はじめにはそれが分かっている。

   「うん……そうだね。こんなダメなメイドなんて要らないって話だよね」
   「だからそこですのっ!」
   「……え?」
   「だ、誰が要らないなんて言いましたのっ!?」

   透華のその言葉が耳に届いても、いまいち伝わっていないはじめは
   絵に描いたようにきょとんとしている。
   その様子が、透華のさらなる不機嫌に上乗せされていくのだ。

   「わ…っ、わたくしは、その…ぅ、」

   言い淀む透華に近づいて、じっと顔を覗き込むと、見る見る間に
   透華の白い頬に赤みが差していくのがはじめにも見て取れた。

   「は――――はじめが必要なんですのっ! 主従関係とか、
    そんなのを差し置いても……!」

   静寂が、訪れる。

   時間が止まってしまったかのように、空間自体が凝り固まる。

   「え、ええええぇぇぇ~っ!」

   口火を切ったのははじめ。目を丸くして透華の顔を食い入るように
   見つめるが、赤く染まった頬をごまかすように視線を逸らす。

   「むしろ、わたくしの方が先なんですのよっ! あなたと初めて逢った
    時、か…ら」

   2回目の驚嘆の声がはじめから発せられた。

   ヂヂヂ……と芯が焦げる音。

   速く刻まれる、二人の心臓の鼓動すら耳に届く。

   「その拘束具も、イカサマ防止以外の気持ちが入ってるなんて、
    そんな様子じゃ気づいてないようですわね……」

   ヂャラ…と腕から伸びる鎖に目を落とすと、その意味合いに気づいて
   はじめの頬も染まる。

   「確かに…腕の自由を少し止めるなら、手錠型じゃなくても…
    …いいんだよね」

   「はじめは鈍すぎなんですのっ! まったく、わたくしにここまでしゃべらせ
    ないと分からないなんて、鈍くさいにも程がありますわ!」
   「…透華、ごめんね。」

   上目遣いで見上げられるはじめの純朴な瞳に、透華の鼓動は
   更に高まった。

   「……ね? 抱きしめてもいい、かな?」
   「な、なな、なにを言って…………!」

   慌てる否定は、透華の照れ隠し。そのことは周知の事実。
   構わずにゆっくりと身を寄せる。

   「…あ。手錠したままだとハグ出来ないや……」

   腕を伸ばせぬようにと拘束されることが仇となり、思いを遂げられない
   事実が、はじめの顔を曇らせた。

   「し、仕方ないですわねっ 特別、特別ですわよっ!」

   覆い被さるように透華の腕がはじめの小さな体を捕らえる。

   「……透華、あったかい」
   「いちいち口に出さないのっ!」

   ふわりと包み込まれた幸せの空間を享受する。

   「透華、透華」

   口元に手を当てて、耳打ちを促すように透華を呼ぶはじめに気づき、
   懐のはじめに届くように首をもたげると……

   不意打ち上等、一気に背伸びをして唇を奪った。

   「へっへ~ん、頂いちゃった☆」
   「~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」

   熟れきったトマトの如く、限界まで顔を赤くし、蒸気が噴出する
   かのような混乱に襲われる。


   「好きだよ、透華」

   届いているかは分からないが、改めて想いを口にする。

   厚い雲が流れ、澄み渡った夜空が広がる。
   星の煌めきはいつまでも静かにたゆたって、壮大な天空を彩っていた。
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