ケイロアス大学紛争


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更新日:2014/06/09 Mon 23:14:34




概要


発生年代 EUC2058年ころ~EUC2066年ころ
主要舞台 アトラス・テクトラクタ
主要関与組織 ケイロアス星間大学アトラス銀河連合
主要関与者 ヒアギーノ・キトゥリンカスリーヴ・フェルドラ
トゥーカス・ミスティ
フォーグ・カナリウムエルベ・アーネスその他
事件の性質 大争議

総説


 ケイロアス大学紛争は、EUC2058年以降、アトラス銀河連合と「アトラス銀河系最高学府」の異名を誇るケイロアス星間大学で発生した大規模摩擦。形式的にはアトラス連合と大学の間での補助金論争に過ぎないのだが、もたらしたものは極めて大きかった。
 戦争におびえる市民感情を発端とし、一時はアトラス・テクトラクタを二分するほどの一大争議になったもので、戦時におけるアトラス連合内の紛議としては最大級のものとなった。

紛争の火種

 話は、オリオン銀河大戦のただ中、EUC2058年のアトラス・テクトラクタ(AT)空爆にさかのぼる。
 この空爆がAT市民に与えた衝撃は一通りではなかった。EUC2055年にアトラス連合軍がオリオン希宙域会戦タイランタ連邦を退けて以降、連邦の攻勢は低調になっていたからだ。
 希宙域会戦以前はともかく、もはや前線から遥か遠いアトラス・テクトラクタ本丸に爆撃を仕掛けるなどできるはずがない、と高をくくっていた市民にとっては青天の霹靂どころではなかっただろう。
 確かにAT内部でも連邦シンパや工作員による破壊活動はないことはなかったのだが、治安の悪い地域も少なくないATで、目立った事件として受け止められることは少なかった。

 ところが、さらに衝撃の事実として、アトラス捜査局がAT内部の秘密ドックなどが妙に効率的に襲われていることを奇妙に思い捜査したところ、スパイが摘発された。そして、そのスパイが、他ならぬケイロアス星間大学の学生、ヴェドレイズ種タルボ・ダ・プレスであった。
 大学当局は、すぐさまタルボを捜査局に引き渡し、放校処分とし、それで終わるはずであった。

 ところが、あまりに危険な結果をもたらしたタイランタに対しての非難の声は高まり、それがあろうことか、セリオネアンやヴェドレイズなどタイランタの有力種族を在学させているケイロアス大に非難が集まり始めた。

 そして、その非難が爆発的に広がったのがタルボの裁判のときのことである
 あまりにも重大な犯罪で現実に死者を数億発生させたタルボについて、死刑適用は免れないと言うのが大半の見方であった。
 ところが、タルボの軍事やタイランタのあり方についての知識を惜しんだ学生や教授たちが多数、次々弁護人に名乗りを上げ、せめてタルボの命だけでも永らえさせようとはかった。
 これが、生命まで含めて甚大な被害を蒙り、タイランタの恐怖に震えあがっていたAT市民の逆鱗に触れ、「ケイロアス大はタイランタの味方である」という批判が殺到、激しいバッシングが沸き起こった。
 多くの有力企業が、これまで大学に行っていた寄付の打ち切りを通告した。
 さらに、アトラス連合でタカ派議員として有名なエルベ・アーネス議員らは、このような大学の姿勢の容認が連合の正義を揺るがすと判断。タイランタ連邦傘下惑星出身の学生を退学させなければ、これまでアトラス連合が大学に出していた補助金を打ち切る旨の動議を発動。学費も取らず、財政がほとんど連合など外部の支援に頼りきりになっていた大学は一気に存続の危機に立たされることになった。

 大学側は、新総長に気鋭の若手学者カスリーヴ・フェルドラ教授を選任。
 さらに大学学生会では、開発者種族の視線を入れるという視点から、史上初の開発者種族出身の学生会長としてロイゲール種のヒアギーノ・キトゥリンを選任。
 教授会側は連合議会に立ち向かいながら大学を自立させ、学生会側は市民啓発に臨むという二面作戦でこの事態に対処にかかった。

第一次予算動議~第二次予算動議


 連合議会での第一次予算動議では、予算は打ち切られなかった。
 とは言え、危険を察した大学は前総長ヴェルド・ブラクトン大学院長の下、経営に優れた元GEC社(グロリアス・エンジニアリング・コンツェルン)取締役スタッグ・ディンチェ教授やミラモ・アクランド教授を招聘して、出版を始め、財源となるべき事業を始めた。
 さらに元々都市計画論の講師であったエリーグル大財閥の役員、マクリーン・パムラは大学の周辺都市の観光地化を進めこの都市からの徴税権(自治都市なので、徴税権はある)を財源とするなど、財源の独立を始めてこの動きに対処。
 さらに、大学はアルキオス・ハゴイル議員をはじめ、連合議会のケイロアスOB・OG等にも協力を要請した。
 他方、エルベ議員らはケイロアス星間大学に対抗させるべく、連合直属のフィルファング星間学院のパスケンド・アカメディア院長を取り込んで改革、最高学府ケイロアス大の代わりを作った。

 こんな水面下での作戦のさなか、市民の大学への反発の感情は和らぐどころか、広がる一方であった。学生会側の市民啓発活動がなかなか功を奏さず、一時は逆効果とすら言われた。自分は戦争をあおったのではないかと自省した悲劇のガロヌ人音楽家、フォーグ・カナリウム等の協力も得たが、世論の趨勢を動かすにはまだ至っていなかった。

 そんな折、学生会長ヒアギーノが何者かに襲われ負傷するという事件が発生。ヒアギーノは軽傷ですぐ復帰したが、ヒアギーノも戦士ではないにしても剣術を用いる相応の手練であり負傷させるのは相当な実力者である。
 これをチャンスと見たエルベは大学に「警護」と称して視察も同然に白銀騎士団を派遣。大学側も、むしろアリバイとして働く可能性を考慮してこれを受け入れることを決めた
 ところが、この博打は大学側に裏目に出る。ヒアギーノの右腕にあたる副会長、リーヴェアシス種ファルビレッド・ブクマが連邦傘下惑星出身であったにもかかわらず連合傘下惑星出身とごまかしていたことが発覚。彼自身はスパイではなかったが、大きな疑念を生む結果となり、彼の日常行動は監視つきになって、連合側には格好の攻撃材料となった。
 この結果に学生会ではヒアギーノを会長から下ろす動きが本格化。

 そして、第二次予算動議の際、エルベ議員から不意打ち同然に衝撃の提案が出される。
 ケイロアスOB・OGの議決参加は不公正であるとして、OB・OGの排除を提案。あまりにも予想外の提案に、アルキオス議員らは完全に虚をつかれた。
 そして、この要求が受け入れられ、ついに支持は逆転。アトラス連合は2年間の予算打ち切りを決定
 ただし、連合はタイランタ傘下の学生を追いだすのであれば戻す、という条件で、2年後の再協議を約束した。あまり極端に突き放すと、タイランタに優れた人材を取りこまれかねないと判断した連合側の示した温情措置であった。

第三次予算動議


 連合が予算打ち切りを決定したことにより、大学の財政難はいよいよ深刻となった。大学院はこの時までには独立財源で動くようになっていたが、まだ大学の財源を自前で独立させられるほど事業はすすんでいない。教授たちの中にはケイロアス大を離れる者が現れ始めた。
 学生会では、ヒアギーノを下ろして連合当局と妥協を図るべきと主張する者が現れ始め、ヒアギーノの対抗馬を擁立するなど分裂寸前に陥ってしまう。
 だが、テペトール商科大学が、秘密裏に手を差しのべた。教授たちを一時自分達の教授として預かり、紛争が終われば元に戻すというのである。さらに、一部のキャンパスを売却するなど、大学は2年間の予算措置なしに何とか耐えきった。

 そして、この間にオリオン大戦に大きな変化が起こった。
 EUC2060年、オルガナス戦役で伏兵と呼ぶべき勢力オルガナ同盟がタイランタ連邦軍を撃退。
 これに励まされたかのように、民間の反連邦勢力ATUなどが各惑星で蜂起し、連合の支援もあって多数の惑星でタイランタからの派遣政府を追い出すことに成功していた。
 次いで、グロリアス腕外縁の自由主義勢力ヴァリングトーリス合星国がタイランタと大規模交戦して勝利。タイランタが制裁名目で派遣した軍は撃退され逆襲を食らってしまったのだ。
 ついには、ディガスも本格参戦を決定し、既にスペクタス戦役で事実上参戦していたカリオス連盟と合わせ、タイランタはほとんど銀河で包囲されることとなったのだ。いくらタイランタでも、アトラス連合・ディガス・カリオス連盟・オルガナ同盟・ヴァリングトーリスと敵に回しては、そうそう好き勝手はできない。
 さらに、ネヴィル公国リーヴェアス連合連邦内部勢力の分裂も徐々に明らかになってきた。

 戦況有利になるにつれ、学生会の活動の効果がようやっと現れ始めた。これに、分裂寸前であった学生会も再度結束を取り戻し、啓発活動が一気に波に乗り始めた
 そして、ディガスのフレイヌ・ルメイミー正大使やトロガイ・ベルジック警視正らによるATの大スパイ都市の摘発。これが、大学だけをスパイ扱いして責めたてることの無意味さを市民に突き付ける形となり、世論は一気に大学側に有利に傾き始め、一部にはエルベの過激なやり口に対する批判も目立つ形で沸き起こってきた。

 そんな状態で、ついにEUC2062年の第3次予算動議を迎えた。大学としてもこれ以上の予算不足には耐えられそうにない、まさしく背水の陣。
 {ここで、決議から排除されたアルキオス議員らが粘り、エルベとカスリーヴの直接論戦を認めさせたのだ。
 直接論戦の結果、エルベが言い負かされたという訳ではないが、大学は再度財政支援を勝ち取ったのだ。}


その後


 第3次予算動議後、ヒアギーノは引退、新会長にユスラビオンの後輩、チェルン・スピンディアを指名し、副会長にはチェルンがゴルトナン種のマスコーク・レイヨウンを指名した。
 成果が現れたことに勇躍した学生会や教授会は、その後4年間、結束を保ち続けた。

 更に2年後、エルベは第4次予算動議を発動する。
 だが、この頃になると連邦軍の退潮はほぼ決定的になっていた。ネヴィリアンとリーヴェアシスの連邦内部での反発は連合にも大っぴらに漏れ聞こえるようになり、連邦に忠実な勢力であったアナリム連邦までが内部で停戦論争過熱。さらに、ディガスでも特に有力な艦隊、第33艦隊が参戦するに及んで、連邦軍は完全に退潮してしまった。
 第3次予算動議の段階で通らなかったエルベの提案が第4次になって通る余地などなくなってしまい、エルベの議案は否決された。
 エルベは、第5次予算動議の発動も考えたようだが、ネヴィル封鎖の報が入るに及んではどうしようもなくなった。彼の懐刀、ファブニル・レイドンもエルベを押しとどめ、第5次予算動議は出されず、エルベは派遣していた白銀騎士団を引き払って大学紛争は事実上終息する。
 大学が完全な予算の独立を果たすのは第2次オリオン危機直前、EUC2082年のことで、カスリーヴが学長から引退したのもこの時であった。

紛争のもたらしたもの


 この紛争は、エルベの強硬さを市民に気づかせ、エルベの発言権の退潮を一時的にせよ招いた。このため、アルキオス・ハゴイル議員らの一派が一時政権をつかみかけるが、彼等の手痛い終戦交渉ミスから第二次オリオン危機につながるなど、その後のアトラス銀河系の趨勢にもかすかながら確実に影響を及ぼしているのである。

 ただ、ヒアギーノを襲ったのは何者だったのか。これに関しては今なお犯人が不明で決着がついていない。ただの単独犯だったのか、黒幕がいたのか。黒幕がいたとして誰か。大学側、あるいは学生会の自作自演説、エルベの刺客あるいはそのシンパ説、はてはヴァーツであるという怪説までも流れている。

デザイン・プロフィール:「銀河最高学府」としてのケイロアス星間大学の設定はかなり前からあったが、大学紛争もケイロアス大の発想の勃興期に、オリオン大戦のAT空爆を見てひらめいたもので、流れもオリオン大戦に当てはめる形で作ってある。たまたまこの手の歴史について私自身講義を受けたことがあったことや、近年の某殺人事件における、弁護士に対するバッシング騒動なども影響している。
ロイゲール種を考えたきっかけの学生会長ヒアギーノ・キトゥリンとて、この紛争エピの設定がなければ設定されたかどうかわからない(仮に学生会長を作っても、平凡な?監視者種族となった可能性が高い)のであり、その意味ではれっきとした白銀世界観の一つの柱と言える事件である。現在小説もどきも書いているので、よかったらお読みいただきたい。
ちなみに、ヒアギーノを負傷させた人物は、実は未だに決まっていない(滝汗)


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最終更新:2014年06月09日 23:14