形を変えた二つの心


 ――さて、今日のスーパーロボット大戦は、はるか宇宙の彼方に浮かぶセイバートロン星から物語を始めよう。

この星に住む生命を持ったロボット、トランスフォーマーたちの軍団、正義のサイバトロンと悪のデストロン。
その両軍団の主力が地球に去ってから四百万年の時が流れ、そして今、偶発的な事故からその眠りを覚ました彼らは
長きにわたる平和を謳歌していた地球を舞台に、多種多様なエネルギーの争奪戦を繰り広げていた。
命の取り合いとはほど遠い、ある意味牧歌的な両陣営のこの戦いにも人々が慣れ始めていた頃。
セイバートロン星の基地で指令を待ち続けるデストロン軍防衛参謀、レーザーウェーブが今にも消えてしまいそうな、
しかし確かに輝くエネルギーの反応を異次元の彼方からキャッチしたのは、まさにそんな時であった。
それは、これから巻き起こる全ての戦いの予兆ともいえるものであったのだが、この段階でその事を察知できる者は
どこにもいなかったし、想像する事さえもできはしなかっただろう。
それがたとえ神に近しい存在であろうとも、そんなでたらめな運命を予期する事は。


第1話 「形を変えた二つの心」



一方その頃、地球のサイバトロン基地では。

「……本当に間違いないのか?」
「テレトラン1の分析結果でも約98%の高い一致率を見せてますな。
 2%の誤差がちょいと気にはなりますが、偽物やレプリカという事はまずないと断言させてもらいましょう」

神妙な面持ちのサイバトロン軍総司令官、コンボイが見据える先にあるもの。
つい先日、まるで導かれるようにして彼らの目の前に現れたそれは、細部の意匠こそ異なるものの、
それは紛れもなく「マトリクス」。
サイバトロンの総司令官に代々受け継がれる、この世にただ一つしかない宇宙の叡智の結晶であった。
しかし、サイバトロン司令官の象徴たるマトリクスを現在所有しているのは、他ならぬコンボイその人。
アナザーマトリクスとでも言うべきそれを目の前に、コンボイ達はただ頭を捻る事しかできないでいた。
と、そこに緊急事態を告げるアラームが鳴り響く。
破壊大帝メガトロン率いるデストロン軍団が、遠く日本に姿を現したと言うのだ!


その日も、少年は「戦争」を見ていた。
幻というには現実感のありすぎるビジョン……巨大なロボット同士による戦争の光景を。
晴れた空よりまだ青い翼を大きく拡げ、閃光の剣と銃を手にし、大空を舞うロボット。
それよりは小柄だが、黄色と緑のよく目立つそのカラーリング同様に、
ダイナミックなアクションを見せるロボット。
そしてこちらは彼にでもわかる。車からその姿を人型へと変える、宇宙の彼方からやってきた機械生命体、
トランスフォーマーの、恐らくサイバトロンと思われる陣営の姿だ。
彼らが戦う相手は、大地を駆ける豹の姿をした猛獣のロボット達と、空を埋め尽くす鷹のようなロボット達。
自分以外の誰にも見えない、その過程で建物が破壊されても現実には傷一つついていない
蜃気楼のような戦いを、その少年……四加 一樹(よつが かずき)はずっと見続けていた。
変人だと思われても仕方がない。けれども見えるものはどうしようもないのだ。
だから、彼はその光景をせめて小説としてネット上の記録に残す。
他の機体のような特筆すべき派手さはないが、それでも必死に立ち向かう白いロボットを主役にして。

一樹はいつものように端末から自サイトに書きあげた文章をアップロードしていると、今日に限って
背後に人の気配を感じる。振り向くとそこに立っていたのは学園のアイドル的存在である一人の女生徒、
真田 三月(さなだ みつき)の姿。
彼の書く小説に興味があると言う彼女は、周囲の男どもの視線を気にせず一樹を連行する。
一樹とて思春期の男の子。淡い期待が無かったと言えば嘘になるのだが、連れて行かれた先で待っていたのは……

「そいつが貴様の言っていた並行世界に何かしらのかかわりがある小僧か、真田博士?」
「と、トランスフォーマーだぁーっ!?」

三月の家の庭に、所狭しと居並ぶトランスフォーマー達。
以前ニュースで見た映像から判断すると、この連中はデストロンと呼ばれる悪い方の陣営だろう。
まさか三月はこの連中とつながりがあるのか……と思ったら、トリコロールカラーをし、
航空機の翼を背負った一体のTFが、ニヤニヤと下品そうな笑みを浮かべて肩の砲塔を彼女達に向けている。
渋い顔をして、何やら妙な機械をいじくっているのは恐らく三月の父親とみて間違いないはず。
誰がどう見ても彼女たち親子は脅されているようにしか見えない。
しかし、並行世界とはどういう事なのだと考えていると、メガトロンと名乗るデストロンの首領は
得意そうに笑みを浮かべ、勝手に解説を繰り広げ始めた。

曰く、この世界に近似するパラレルワールドと、自分達が存在するこの世界に、何らかの原因で接点が生まれた。
曰く、そちらの世界には、彼らが探し求める戦争に利用するためのエネルギー源「エネルゴン」が大量に存在する。
曰く、三月の父である真田博士はもともとそういった研究を趣味で行っていて、奇妙な戦争の光景を垣間見る事の
できると言う一樹に前々から目を付けていた。遅かれ早かれ、自らの研究の実験台とするために。

そして今まさに、デストロン軍団は真田博士の研究を利用し、一樹をその鍵としてエネルゴンを求めて
世界の壁を越えようとしているのだと。
もともと自分を利用する気満々であった事に釈然としない気持ちを抱き、一樹は三月達を仰ぎ見ると
三月は申し訳なさそうに手を合わせてその頭を下げている。
そうしている間にも着々と整う機械の準備に一樹の不安が増大していた、その時である!

「そこまでだ、メガトロン!
 サイバトロン戦士、トランスフォーム!!」

その叫びとともに、デストロンでひしめく真田邸を取り囲むようにしていつの間にか集まっていた
何台もの車両が、駆動音を上げながらその姿を鋼鉄の巨人へと変える。
そう、彼らこそ正義の使者サイバトロンの戦士たちだ!

「やはり来おったな、コンボイ!
 だがこちらには人質がいる。手を出すとどうなるかわかっておるだろうな?」

勝ち誇ったかのように不敵な笑みを浮かべるメガトロンに対し、コンボイは拳を固く握りしめ、しばし黙考する。
他の者も思いは同じのようで、ただただにらみ合いを続けることしかできない。
だが、その膠着状態も長くは続かなかった。

「デストロンめ、汚い真似を! この俺が許しやしないぜ!」

血気盛んに飛び込んで行くのは、先日、サイバトロンシティ建設計画のための補充人員として
新たにセイバートロン星からやって来たばかりのニューフェイス、騎士ホットロディマスだ!
彼の無鉄砲な行動に虚を突かれたデストロンは、蜂の巣をつついたかのような大騒ぎ。
動き出した事態をどうする事も出来ず、コンボイは、自らが先頭に立って人質の救出に乗り出す。
さぁ、戦いだ!

「サイバトロンの馬鹿が調子に乗りやがって、こうなったらこっちも目に物見せてやるぜ!」

ビーム飛び交う戦場の中、一人冷静に事態を見据えるのは自称デストロンのNo.2、航空参謀スタースクリーム。
彼は逃げようとする一樹をその手に掴みあげると、彼の命が惜しければ降伏しろと言い放つ。
だが、しかし。

「あなた達いい加減にしなさいよ! 人様の家の庭でドンパチやるなんて非常識にも程が……」

 ――ガチャン

「……ガチャン?」

頂点にまで高まった三月の怒りとともに振り上げられた拳は、手近にあった物体に叩きつけられる。
そう、パラレルワールドを超えるための機械の、その作動スイッチに。
まばゆい光と放電がその場を支配し、デストロンの軍勢は次々にその光の中へと消えていく。
スタースクリームがその光に飲み込まれたことで、空中へと放り出される格好となった一樹もまた、
その中に巻き込まれてしまう。
三月は最も近くにいたホットロディマスに、真田博士もまたそれに遅れる形でサイバトロンに救助されるが、
一度枷から解き放たれた装置は止まらず、その毒牙をサイバトロンにまで伸ばそうとしてくる。
しかし、そんな彼らを守ったものがあった。

「司令官、あれは!」
「アナザーマトリクスだとぉっ!?」

宙に浮かび、その輝きでサイバトロン達を救ったのは、基地に厳重に保管されているはずのアナザーマトリクス。
なぜここに? そんな疑問がコンボイの脳裏をよぎるが、胸の中におさめられた彼のマトリクスは
誰に見られるでもなく光り輝いている。マトリクス同士が呼びあったというのだろうか。
だがしかし、一体何のために? 誰の意思がそうさせている?
次々と浮かぶそうした疑問を知ってか知らずか、二つのマトリクスはただ人々を守るために、
その大いなる力を使うだけ。
そしてすべてが終わった時。
胸の中のマトリクスの脈動は収まり、アナザーマトリクスもまた、まるで何事もなかったかのように、
大地の上で穏やかな輝きを放ち続けていた。

しかし、残された者達にとっては、何も終わってなどいない。
デストロンや一樹は作動した装置の効果により、まず間違いなく並行世界へと転移した。
このまま手をこまねいて、自分たちの世界の混乱をよその世界にまで広げるわけにはいかないし、
何より一介の市民である一樹は何としても救出せねばならない。

かといって、こちらの世界をまるっきり留守にしておくわけにもいかないだろう。
コンボイ達がああだこうだと議論を繰り広げる中、何も言わず機械に近づく影があった。
この騒ぎのそもそもの原因を作ってしまったロディマスと、機械を直接作動させてしまった三月だ。
自らの犯した過ちは、自らの手で取り戻す。
コンボイや真田博士達も二人の覚悟を認めると、向こう側の世界にも存在すると思われるサイバトロンや
もう一人の真田博士に助力を求めるよう伝え、必ず自分達も後を追うと誓い、再び装置に力を注ぎこむ。
すると、それに同調するようにコンボイのマトリクスとアナザーマトリクス、本来二つと存在しないはずの
叡智の結晶は互いに共鳴しながら激しい光を放ち、そして――

ロディマスと三月とともに、アナザーマトリクスはこの世界から姿を消した。
まるで、最初から彼らを導くという、ただそれだけが目的であったかのように。

「う、うーん……ここは……?」
「あっ、気がついた! お母さーん、お兄ちゃーん!」

どれくらいの時間が経ったのだろう。
三月はゆっくりとその瞳を開けると、自分のすぐそばで元気のいい女の子の声がして、そうかと思えば
その声の主はスリッパをぱたぱたと言わせながら遠ざかって行く。
いくらかけだるさの残る体を、自分が寝かされていた布団から起こして辺りを見渡すと
そこは何の変哲もない、ごく普通の家庭である事が見受けられる。
果たして自分は本当に並行世界への転移に成功したのだろうか?
一樹は、デストロンは、ロディマスは一体……と、まとまらない頭を回転させていると、
先程の軽い足音が、大人のそれを伴って戻ってくる。
変わったデザインのグローブをはめた手で襖を開けて、そこに立っていた人物は。

「よぉ、どうやら目が覚めたみたいだな。どこか痛むところはないか?」
「あ……あぁっ!?」

思わず大きな叫び声をあげてしまう三月。
そこに立っている人物は、父との付き合いがある学者仲間の息子で、自分も何度かあった事がある人物。

その名は。

「ひ、宙さんですよね? 司馬遷次郎博士の息子さんの、司馬宙さん?」
「いかにも俺は司馬宙だが、突然どうしたんだ、一体?
 ひょっとして、俺のファンだったり……って、それじゃ親父の名前が出るのはおかしいな」

いきなり知っている人物に出会え、三月は己の幸運に感謝する。
しかし、当の宙本人は自分の事をまるで知らない様子。
これからしなければならない山ほどの説明の事を考えると頭が痛くなるが、ともかくこれで三月は確信した。
ここは、この世界は、自分の認識している世界とは違う世界、パラレルワールドなのであると。


丁度その頃、三月とともに並行世界へとやって来たホットロディマスはと言えば……

「う、うーん……ここは……?」

どれくらいの時間が経ったのだろう。
辺りを支配するものはごうんごうんと聞こえてくる大きな作業機械の音と、すっかり酸化してしまい
すえた悪臭を放つ、タール状にべとつく機械油の残りかす。
朦朧としたロディマスの聴覚に真っ先に飛び込んできたものは。

「!? おい、止めろ! 機械を止めろ、外交問題になるぞーっ!!」

しわがれた年配の作業員の大きな怒鳴り声。
ロディマスは廃棄物処理場でジャンクと化す寸前、奇跡的にその命が繋ぎ止められていたのであった。
その事を知ったロディマスは自分の恐ろしいまでの運の悪さと、そこから這い上がる事が出来たという
一瞬に訪れた天国と地獄のフルコースにその金属の体をぶるぶると震わせていた。
漏れ聞こえる彼らの話を総合したところ、ここは地球ではなくスペース・コロニーで、またどうやらこの世界にも
トランスフォーマーは存在するらしく、人類とはおおむね友好的な関係を結んでいるという。
驚く事に、そこにはサイバトロンとデストロンの争いの様子は一切語られない。
だが、そんな事は彼らにとっては関係のない事。地球と宇宙どころか、地球人と地球外生命体との
異文化コミュニケーションだ。その待遇に問題があっては人類そのものの存亡が危うい。
そんなこんなでたらいまわしにされた揚句、最後に彼を預かる決断を下したのが、仕事帰りでその場を通りかかり、
運悪く騒動に巻き込まれてしまった溶接工のレズリー・アノーだった。

「父さん、トランスフォーマーのお客さんが来てるって、本当かい?」
「赤くて速そうな車だぁ、あなたがトランスフォーマーさん?」

彼の案内で駐車場に辿り着くと、この珍客を目当てに彼の二人の子供たちが早速駆け寄ってくる。
二人はシーブックとリィズと言い、明るい性格のロディマスと妹の方のリィズは意気投合し、
シーブックとレズリーはそんな二人の様子を温かく見守っている。
会話の中で、ロディマスは明日がシーブックの学校で学園祭が行われる日だと知る。
よければ特別ゲストとして飛び入り参加してほしいと誘われたが、ロディマスにそれを受けることはできなかった。
自分はこの世界にとっては異分子だ。不必要に目立つ真似はできないし、何より今は情報が足りない。
残念そうな顔を見せるリィズに必ずドライブに連れて行くと約束し、ロディマスはレズリーに頼んで
ネットにアクセスさせてもらい、ざっと歴史や文化、風俗などの話題を漁る。
そしてロディマスは知った。
この世界は自分の知る地球とは大きくかけ離れた、戦乱の上に成り立った世界であるという事を。





■登場味方ユニット
総司令官コンボイ
技術者ホイルジャック
騎士ホットロディマス
(以上確定組)

■登場敵ユニット
破壊大帝メガトロン
航空参謀スタースクリーム
(同上)

■登場キャラクター
四加一樹
真田三月
真田健

司馬宙
司馬まゆみ

シーブック・アノー
リィズ・アノー
レズリー・アノー


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最終更新:2009年10月02日 20:03