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素材としてのMSX


 パーソナルコンピュータの標準化に対する提案=MSXに関してひととき騒然とした動きがあったが、それも鎮まって、このプランは一歩一歩着実に進みつつある。

 ともあれ、標準化への第一段階は成功裏に終結した。次以降のステップは、ハードウェア・メーカーの対応(ことに出荷時期、製品のできばえ、価格、販売戦略等)、サード・パーティーの参加状況、そしてなによりたいせつなコンシューマーの反応待ちへと続いている。

 第一段階であった「提唱」のフェーズを締めくくるにあたり、システムとしてのMSXの可能性を考えてみたい。

 その前に、MSXの全貌を始めて紹介する記事が本号に特集されているので、新聞報道等をご覧になっていないむきには、まずご一読をお勧めしたい。

 MSXシステムをどうとらえるか、それは各人の自由な判断にゆだねられる。

 ゲームカートリッジの共有化と思う人もいるだろうし、なんの変哲もない新型コンピュータがいろいろなメーカーのエンブレムを付けて登場するだけという考え方もあろう。あるいは、何が起こるか、期待で一杯というケースもあるかもしれない

 いずれのとらえかたも、それぞれ正しいと思う。言わば、見る人ごとに違ったビジョンを与え得る、多様性のあるシステムをいうのがMSXの本質なのであろう。

 私は、MSXを素材だと考えている。

 規格の決まった完成品というわけではなく標準化されたゆえに汎用性、多目的性を得た使い易い部品ととらえているのだ。

 素材といっただけでは漠然としすぎているので、もうすこし具体的な例を挙げよう。

 エレクトロニクスにおける素材の一つに、Z-80というCPUがある。このCPUは、特定の電気的、物理的、ソフト的仕様を持っており、その結果或るバスラインに適合して動作し、Z-80同士でソフトウェアを交換可能である。これらの仕様はザイログ社が提案したもので、それに呼応する世界中のいろいろなメーカーが同一仕様のCPUを生産しているわけだ。それにより、Z-80を応用したシステムは数限りなく登場し、ソフトウェアの蓄積を厖大なものとなっている。

 私の言う素材とは、このZ-80のようなもののことである。つまり、それ自身、単体ではあまり価値がなく、何かと組合わせ、料理するとその能力が生きてくるような性質を有する部品のことだ。その意味において、Z-80はよい素材といえるだろう。

 ここで一歩進んで、マイクロコンピュータチップだけでなく、パーソナルコンピュータシステムを素材と考えてみたい。

 素材にとって必要な要件は、安価なこと、柔軟な適応性、ある程度の製品寿命、複数の供給元、などである。

 また、素材の形が標準化されることによって、利用時の原価がさがり、応用ノウハウが蓄積されるといった数々のメリットがある。

 これらの条件はこれまでのパーソナルコンピュータでは満足されていなかった。ところがMSXは、量産が始まりさえすればすべての点で素材となれる素質を持っている。

 このような根拠から、MSXシステムの出現と普及により、はじめてコンシューマ・エレクトロニクスのレベルにおける素材として、パーソナルコンピュータを考慮できるようになったと考えるのだ。

 さらに、いまやVLSI時代で、パーソナルコンピュータをLSIチップに集積することも可能になろうとしている。そしてMSXが安定した広い市場を確保とするとともに、きわめて安価で小型のワンチップ・MSXが開発されるのはまず確実であろう。そうなれば素材としての優位性はさらに明確になってくるだろう。

 その結果、マイクロコンピュータ・チップが産業界に起こした変革以上のインパクトがもっとわれわれの生活レベルに近いところに与えられるかもしれない。

宮崎 秀規 (月刊ASCII 編集長・当時)



月刊ASCII1983年8月号(通巻74号)P81 FROM THE EDITORIAL OFFICE 記事より転載