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緊急連載! 華々しくデビューのMSX その力量を探る

冨成 正樹(フリーライター)

“MSX-DOS”登場で、CP/M版応用ソフトの流用も可能に…!?


 「アスキー・西氏VS日本ソフトバンク孫氏の泥仕合」などと、パソコンユーザーの興味とはいささかズレた視点でマスコミに取り上げられた“MSX”。年末のボーナス商戦に向けて各社から続々と第一世代のMSX仕様パソコンが発表されている。けれど、ここでも“規格の統一”“互換性の確保”といった面のみが強調されていて、「MSXにはどの範囲の仕事をさせられるのか」「現在の8ビット機と性能がどう違うか」などユーザーが本当に知りたがっている部分がいまひとつ明確にされていない。その一方、9月中旬にアスキーとマイクロソフトが行った“MSX-DOS開発”の発表は、「業務用にも機器の機能拡大」(9月20日付朝日新聞)の見出しで伝えられ、「ひょっとしたらビジネスにも使えるのでは」といった期待をユーザーに抱かせている。いったい事実はどのあたりにあるのだろうか。MSXにはどんな可能性があり、限界はどこまでか。MSXが店頭に並んでいないいまの段階でそれを見極めるのはなかなか難しいが、今月号と来月号で出来る限りMSXシステムの実態に迫ってみたい。


MSXは「オモチャ」か


 6月中旬、アスキー、マイクロソフト各社がソフトやハードの互換性確保を目指してMSXの基本仕様を発表した当初から、「MSXはオモチャだ」という声が根強くあった。
 現在ビジネス用パソコンの主流となろうとしている16ビット機はもちろん、ビジネス用に使われている8ビット機に比べても、性能的には格段に落ちる、だからアスキーやマイクロソフトも単にパソコンと呼ばず「ホームパソコン」と呼んでいるではないか、という見方だ。ソフト情報も9月号で、MSX事務局の「ゲーム・学習からホームビジネスまで幅広く対応できますが、高度なビジネスということになるとチョット難しいのではないでしょうか」とのコメント(ソフト情報9月号71ページ)を引いて、“ビジネスユースには無理では?”としている。
 しかし、ビジネスユースといっても幅は広い。どこまでをビジネスユースと考え、どこまでをホームビジネスと呼ぶのか。たとえば16ビットのもっとも進んだパソコンはいまやオフコンに匹敵する性能を持ち、大企業のオフィスにもどんどん進出していて、「パソコン」「オフコン」という従来の分け方はほとんど意味を失いつつある。「MSXに対するもっとも具体的な判断基準を」9月号を読んだ読者のなかにもそんな感想を持ったひとが当然いるに違いない。
 そこでこの二回の連載では、「ビジネスユース」「ホームビジネスユース」といった抽象的な言葉から少し離れて、我々が現在「ビジネスに使えるパソコンは」と聞かれたときイメージする8ビット機、たとえばPC-8801、IF-800モデル30などの従来からある8ビット機と比べて、MSXがどう違うか、アスキー・マイクロソフト両社が謳っている“MSXの拡張性”を含めて考えていきたい。

アスキー、マイクロソフトも認める画面の粗さ


 MSXが「オモチャ」と一部のソフトハウスから切って捨てられた背景には多分に政治的かつ心情的な部分もあるようだ。「確かに統一規格を打ち出して互換性の実現に一歩近づけたアスキーは立派。だけどどうもアスキーやマイクロソフトの商売のやり方は好きになれない。今度も裏があるようで」ひと口にまとめるとこんな声が確かにある。もちろん、MSXが今後どれだけ浸透していくかまったくわからず、日電、富士通といった大手の出方も気になるソフトハウスなどが、MSXに対して慎重にならざるを得ないのは当然だろう。
 けれど「アスキーやマイクロソフトが気に入らない」という理由でMSXの可能性まで踏み潰されたのではユーザーとしてはたまらない。なにしろ、アスキー、マイクロソフトが提案したMSXは「ほとんど」とか「大部分」とかいった言葉に泣かされてきた我々ユーザーに完璧な互換性を与えてくれようというのだから。
 事実はどうなのか。やはりMSXは「オモチャ」なのか。
 MSXをオモチャと断言するひとたちの根拠は二つある。まずひとつは、画面の質やグラフィック機能の問題だ。
 9月号でも述べたが、MSXの基本仕様では、CPUが8ビットの「Z80A」、そして画面の処理に、テキサスインスツルメンツ社の「TMS9918A」相当のLSIを使う。このTMS9918Aが256×192ドットの解像度を持ったCRT画面をコントロールする。
 この256×192ドットという数字は、現在PC-8801やIF-800モデル30などの機種をお使いの読者なら分かるように非常に低い数字だ。たとえばPC-8801がサポートする画面は640×400ドット。
 ドット数が低いほど当然画面は粗くなる。9月末現在MSXで漢字を使うための「漢字ROM」はまだ発表されていないが、「漢字ROM」が登場したとしてもMSXの画面に表示される漢字はずい分大きなものになるはず。この点は、「確かに現在は画面の粗さという問題があって従来の8ビット機と同じようにというわけにはいきません」(アスキー・マイクロソフト、MSX事務局長・渡辺洋氏)と、アスキー、マイクロソフトも認めている。表や図形なども最先端の8ビット機に比べると相当雑なものになるだろう。ソフト情報の内部でも、「せいぜいPC-6001ぐらいの画面の質。あれでは高度のワープロを使って、社内文書や公文書を作るってわけにはいかないだろう。プリンターの性能にもよるけれど公文書には文字の“品質”についての規程があるそうだしね」といった見方が圧倒的だ。


RAM64KByteまで拡張可能。だが…


 MSXを「オモチャ」とする見方のもうひとつの根拠はRAMの容量だ。RAMの容量は「Byte」の単位で表され、コンピューターの記憶容量の大きさを示す。RAMの容量によってコンピューターの扱えるプログラムの規模が決ってくるし、データの処理能力にも影響してくる。
 MSXの基本仕様によると、MSXのRAMは8KByte以上、つまり最低8KByteの容量を持つRAMを装備していないものはMSXと呼びませんよ、と規程しているわけだ。
 この「最低」の文字をうっかりかあるいは故意にか読み落して、「RAMが8KByteじゃ、せいぜいゲームがやれる程度。ビジネスには無縁の存在だ」というのが「MSXオモチャ説」の二つめの根拠になっているようだ。
 ソフト情報が毎号「独断採点簿」などで取り上げているビジネス用応用ソフトは、ソフトそれ自体が必要とする記憶容量だけで30~40KByte、高度なものになると100KByteを超えるものもある。
 当然8KByteのRAMにはソフトすら乗らない。「何度も申し上げたように8KByteというのは『最低これだけは』と下限を定めたもので、理論的に64KByteまで拡張できるように設計してあります。MSXを設計したときもっとも気をつけた点は、RAMも含めた拡張性の問題なんです」(前出・渡辺氏)これが、その点についてのアスキー、マイクロソフト側の反論だ。また先に述べたMSXの“画面の粗さ”についても、「将来MSX仕様の枠をこわさず現在8ビット機で普通に使われているぐらいまでドット数を上げることは可能です」(渡辺氏)という。

メーカーはMSXの拡張性をどこまで考慮して製品作りを行うか


 アスキー、マイクロソフトの説明を聞いて気になるのは、「理論的に」「将来は」などの言葉がやたら出てくる点だ。読者が知りたいのはとりあえず年末に発売されるMSXの「第一世代」がどうか、だろう。
 たとえば先のRAMの容量の問題。トップバッターとして発売されたYAMAHAのMSX仕様パソコン四機種の場合、32KByteの容量を持つものが二種、残りの二種は16KByte。拡張RAMの発売予定は今のところない。
 また9月末にMSXパソコンのプライスリーダーと見られていた松下電器が「54,800円」の価格を付けて発表した「CF-2000」のRAM容量は16KByte。これは拡張カートリッジで32KByteまで拡張可能だ。
 今後続々と発表される各メーカーの仕様を追っていかなくては断定できないが、どうやた年末に発売されるMSXパソコンの能力は、RAM容量に限って見れば、32KByteあたりに落ちつきそうだ。
 これはPC-6001と同等、PC-8801の二分の一という低い数字。
 MSXは「64KByteまでRAMの拡張が理論的に可能」というが、MSX第一世代について実際それが可能な設計になっているか、64KByteまで拡張するための、「拡張RAM」がいつごろ供給されるのかはいまのところ不明だ。
 この点はさらに取材を重ねて、メーカーから明確な答えが得られれば来月号でお知らせしたい。
 「RAMの容量」などという、とにかくコンピューターに仕事をさせられさえすればいいのだ、そう割り切っている読者にとっていささか退屈な話をあえて取り上げたのは、MSXと現在の8ビット機と性能を比較してもらう際の目安としてがひとつ。
 もうひとつはRAMの容量だけでなく、周辺機器まで含めMSXの拡張性をどこまで考慮して、製品化するかが、メーカーの姿勢ひとつにかかっている点を明らかにしたかったからだ。たとえばYAMAHAのMSXパソコンの「YIS-503」。これはプログラムの入ったROMや拡張RAMなどを差し込んで使うための「カートリッジ・スロット」をひとつしか備えていない。このカートリッジ・スロットはディスクドライブとMSXパソコンをつなぐのにも使われる。
 今後「YIS-503」のRAM容量を64KByteにする拡張RAMが発売され、さらにディスクドライブも登場してきたような場合、そのままで両方同時に使用することはできなくなる。
 松下の「CF-2000」があらかじめカートリッジ・スロットを二個備えているのは、16KByteから拡張RAMを使って32KByteにしたとき、こんな不都合が起きないようにとの配慮だろう。(MSXの基本仕様ではカートリッジ・スロットは最大6スロットまでサポートできる設計になっているから、これを使えばこの問題は解決する。しかし拡張カートリッジスロットなるものが実際に発売されるのかどうかもメーカーの姿勢しだいだ)


MSX-DOSはMSXの機能を「業務用にまで拡大」するのか


 アスキー、マイクロソフト両社がMSX-DOSを発表した翌日の朝日新聞の紙面には、「ホームパソコンの統一規格、業務用にも機器の機能拡大」という三段抜きの見出しが。MSXをゲーム機としてしかみていなかったひとのなかには何故ゲーム機に本格的なOSが、と奇異な印象を受けたひとも多かったようだ。
 MSX-DOSはソフト情報が先月号から始めた連載企画、「ハードからの独立宣言」の“主役”であるCP/MやMS-DOSと同じOS(パソコンを構成するCPU、メモリー、ディスプレイ、ディスクドライブ、プリンターなどを効率よく働かせるためのソフト。詳しくは9月号52ページを)の一種だ。
 CP/M、MS-DOSといった高度なOS上で働かせるソフトは、いまやビジネス用応用ソフトの主流になろうとしており、高性能のワープロ、データベースなどが続々と登場している。
 MSXパソコン用のOSとして開発されたMSX-DOSは、なんとこのCP/MやMS-DOSと“互換性”があるという。「MSX-DOSは、16ビット機用のOSであるMS-DOSのいわば8ビット版。MS-DOSとの間にはデータの互換性があります。プログラムは実行できませんが。また8ビット用のOS、CP/M-80上で動くソフトはMSX-DOSでも大部分が動きます。」(前出、MSX事務局長・渡辺氏)「大部分」というパソコン業界の“常套句”はおくとしても、もしこの話が事実だとすれば画期的なことだ。少なくとも8ビット機の世界ではCP/M、MSX-DOSを共通OS(9月号52ページ参照)として、ハードに依存しないソフト選びが可能になるかもしれない。また、MSX-DOS版のビジネス用応用ソフトが仮にどのソフトハウスからも供給されなかった場合でも、現在発売されているCP/M-80版の応用ソフトを流用できる可能性もある。
 MSX-DOSの詳細な仕様が発表されていない現在、「MSX事務局」の話が事実かどうかを裏付ける方法はないが、仮に事実だとしても「業務用にまで機能拡大」という朝日新聞の見出しはハシャギ過ぎだ。
 先に触れた画面の粗さはがまんするとして、問題になるのは例のRAMの容量だ。仮にMSXに64KByteまでの拡張RAMが供給されたとしても、現在CP/M-80版として販売されているビジネス用応用ソフトは、プログラムだけで30~40KByte分食ってしまう。残りはたかだか20~30KByte。MSX-DOSに必要な分を差し引くともっと少なくなる。
 これに比べて、PC-8801、IF-800モデル30など最先端の8ビット機は前にも触れたように最高250KByteのRAM容量を持つからCP/Mやプログラム本体の分を差し引いても100~200KByte近くをデータの処理などに当てられる。それだけデータの処理速度もMSXに比べて早くなるわけだ。
 データなどの処理速度の遅さは実際に使ってみると意外に気になるもの。MSXのRAMが64KByteまで拡張されMSX-DOS上で現在市販されている有名なビジネス応用ソフトが動いたとして、かろうじてMSXに乗っかった、という状態のそのソフトがどこまでビジネスユースに耐えうるか。しかし、ここから先は、今後供給されるだろう拡張RAM、MSX-DOS、ディスクドライブなど、周辺機器を含めたMSXシステム全体の価格を見て、各人が判断すべきだろう。
 最初にも触れたようにどこからがビジネスユースかを機械的に判断してもあまり意味はない。自分の仕事に必要な機能と処理速度をもしMSXが安く提供してくれるのなら、あなたにとってMSXは立派なビジネスユースのパソコンかもしれないからだ。



月刊コンピュータソフト情報1983年11月号(通巻12号)P54 緊急連載! 記事より転載