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低価格パソコン市場制覇へ 動き出したMSX


10月のエレクトロニクスショーに第1弾!?


 MSXの発表でコンピュータ業界に巻き起こったてんやわんやの大騒動も一応、終息して二ヶ月。ニュースの陳腐化の早い世間では話題にのぼる機会も少なくなった。しかしMSXはパソコン市場の一角を席巻するべく着々と準備をすすめ、出番が来るのを待っている。そこで六月のあの騒動はいかにして発生したのか、MSXとはどんなものなのか、また各メーカーの対応はどうなのかを探ってみる。

グループ内互換性確保がきっかけ


 6月16日のMSXの発表会の時、記者団に配られた発表資料の中にウィリアム・ゲイツ氏(マイクロソフト会長)の挨拶が載っている。その中に次のような一文がある。
「MSXホーム・パーソナル・コンピュータのプロジェクトはいつ生まれたのかをたどると、この思いついた正確な時期はおぼろげになってしまいますが、このプロジェクトを進めてまいりました上で日本電気株式会社の大内副社長と松下電器産業株式会社の城阪副社長には格別のお力添えを頂き、深くお礼申し上げます」(発表資料より抜粋)
 当日のテーブルに臨んだのは14社。なかでなぜ松下電器と日本電気を名ざして礼を述べているのか。
 話は2月15日までさかのぼる。この日、松下・日電・日立・ソニー・ヤマハ・パイオニア・富士通・三菱の8社が一同に会した。席上パソコンの互換性について話しあわれ、これがさらに発展して6月16日に続く。この会合を実現させたのが“家電の雄”松下電器と“パソコンの旗頭”日本電気なのだ。両社のうちでも松下電器が非常に活発に動いている。
 新聞などでMSXは規格統一の動きとして報道されたが、決してそのようなものではないというのは松下電器の技術本部PC開発部長・前田一泰氏だ。
「初めは志のある数社でグループを形成し、その中でお互いの機種に互換性を持たせようと考えていた。今でもその考えは変わらない。ただグループの規模が大きくなっただけだ」(前田氏)
 MSXに関する一連の動きを見るとこの前田氏の存在をおろそかにできない。MSXの発表のすぐあとで、日本ソフトバンクが規格統一の対抗策を出し、結局は日本ソフトバンクがそれを引込めて幕という事件があった。
 前田氏と(株)アスキーの西和彦副社長とは家が近所で、アスキー創立の頃からよく知っているということだし、日本ソフトバンクの孫会長は彼がアメリカに留学している時から知っているという。
「西氏はベーシックで、孫氏にはアプリケーションソフトでそれぞれがんばって欲しいと常々考えていた」(前田氏)
 対立する両者にコンタクトがとれるという点からも前田氏の仲介があって、手打ち式の舞台づくりがなされたのではないだろうか。


アスキー副社長・西和彦氏


日本ソフトバンク社長・孫正義氏

準備作業は順調に進行


 日本ソフトバンクが対抗の動きを表明するというチョットした波乱があったものの、MSXは今の所、実現に向けての作業は順調に進んでいる。
 7月下旬には、MSX-BASICのROMが完成。各ハードメーカーの手に渡り、いっせいにデバッグ作業に入った。またMSX発表時の14社に加えさらに数社が参加の打診をしてきているという。
 一方MSX仕様のソフトの開発用として各ソフトハウスに供給されるプロトタイプ機も8月下旬には約200台が完成し、ソフトの開発も急がれている。
 MSXが市場に出回るための準備に関係方面はフル回転している。


ソフトハウスに供給されるプロトタイプ機

仕様はシンプルそのもの


 次に、当のMSX仕様の中身をみてみよう。
 「MSXの大きな特徴は内部の仕様が非常にシンプルな点です」(MSX事務局渡辺洋氏)
というように実際のハードはともかく、仕様はあっけないほど簡単なものだ。
 MSX仕様のハードの最小構成(図1参照)はCPU(中央演算処理装置)にはザイログ社の「Z80A」を使い、VDP(画像表示LSI)にテキサス・インスツルメンツ社の「TMS9918A」を使用。PSG(音楽信号処理LSI)はゼネラル・インスツルメンツ社の「AY-318910」で、PPI(入出力制御LSI)はインテル社の「i8255」を使うことになっている。


ソフトウェアサポート範囲


最小構成


将来はMSXを利用した複合製品の登場も


 ただしまったく同じものでなくても相等品であればよい、としているのでMSXのハードがすべてこの仕様通りの部品構成になるとは限らないが、一つだけ絶対使わなければならないものがある。メモリーのROM32Kの部分はマイクロソフト製のMSX-BASICを内蔵させたものでなければならない。MSX仕様のハードが互換性を持つ所以だ。MSX-BASICの基本はマイクロソフト社のVer4.5ビジネス仕様BASICでMSX事務局の渡辺洋氏は「8ビットとしては考えられる限りの最高レベルのもの」としている。
 MSXは互換性だけでなく拡張性もあわせ持っており、ステレオやテレビとの複合商品が考えられている。家電系のメーカーはその辺にも魅かれている。特に鳴り物入りで登場したが、売行きが今一つ伸びないビデオディスクには強力な助人になりそうだ。

いちばん積極的な松下電器


 ところで、ユーザーにハードを提供する立場にあるメーカーはMSXへの対応をどのように考えているのだろうか。
 MSXの件に関しては企業サイドとしての微妙な問題があるらしく、なかなかコメントがとれない。中にはMSXグループへの参加を表明しながら「MSXには参加・不参加を含めて一切コメントできない」という企業もあった。
 一番積極的なのは、一連の動きで企業サイドのリードをしてきた松下電器だ。10月のエレクトロニクスショーにMSX仕様機種の第一弾を出品するべく作業を進めている。価格は5~6万円位になりそうだ。
「来年の1月にラスベガスで開かれるコンシューマ・エレクトロニクスショーに出品を予定している」(前出・前田氏)
 また年末にはコンパクトフロッピーディスクを出す予定だし、来年にはビデオディスクとMSX仕様機の複合製品も出しそうだ。
 ビデオディスクといえば、レーザー方式を採用しているパイオニアも興味を示している。
「レーザーディスクの膨大な情報収容能力、ランダムアクセス機能といった特長をいかすためパソコンとの結合を考えています。ところが現状のパソコンでは各社、機種ごとに言語を持ち対応が難しい。そこへMSXへのお誘いの話があり、そのコンセプトに賛同したわけです」(パイオニア広報)

静観の先発メーカー


 家電系のメーカーが秋のエレクトロニクスショーには何らかの動きを示しそうなのに対し、いわゆる先発メーカーと言われるパソコンメーカーの動きは今一つ活発ではない。
 互換性グループ形成に松下電器とともにイニシアチブをとった日本電気は、
「年内はこのレベルは7月に新発売されたPC6001MKⅡに重点を置いていく予定です」(日本電気広報室主任・久保庭氏)
と年内には動きそうにないし富士通も、
「将来そのクラスの製品をやることになればMSXも考慮の対象になります」(富士通広報課・山田氏)
と静観の構えだ。
 ところでパソコンのシェアが第2位のシャープは態度を保留中だ。その理由を東京支社業務部広報部長の成井実氏は、
「コンピュータの技術進歩が急速な今は慎重であるべきだと考えています。互換性が確保されるのにはもちろん賛成です。不参加というのではなく今がその時期なのか、MSXがそれにふさわしいのか、じっくり検討している段階なのです」

ビジネスユースにはムリ


 さてMSXをビジネスユースとして考えた場合にはどうだろうか。
「ゲーム・学習からホームビジネスまで幅広く対応できますが、高度なビジネスということになるとチョット難しいのではないでしょうか」(MSX事務局渡辺洋氏)
 数年前に「プリントゴッコ」という簡易な印刷ができる玩具がでた。家庭で葉書を印刷したり、チョットした集まりの案内状を作ったりするのに、大変重宝したが、これで本を一冊作るというわけにはいかない。MSXについても同じことがいえるのではないだろうか。



月刊コンピュータソフト情報1983年9月号(通巻10号)P68 ニュースレーダー 記事より転載