Ⅳ. ブラック・ロータス



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|original=感情の摩天楼 ~ Cosmic Mind
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|prev=Ⅱ. 幽明境を分かつこと
|next=Ⅵ. from the corpse to the journey
今際のときにさえ
その道を説くこと

その心に幾ばくかの影 在れば或いはと

いとしきその名を呼び
どれほど惜しんでも

その声が此方を向くことは 終ぞ此の時
ありはしなかった

せめて 最後には 応える言葉を
一言二言さえあれば
あるいはそれが かなしむ胸中(むね)
取除いて くれたかと
嘆きの(こえ) 呼びさますことも
できずに 届かぬ距離を錯覚(おも)

私はこうして独りになっていった。


もう、誰もいない。独りになる。
それが恐ろしいのかと。自問()えば。
そうでもあり。そうではなく。
ただなぜか戦慄(わなな)く手の。
わけのわからぬまま。止められなく。
その衝動に埋もれながら。

私は何を怖れている。


握り締めていた手を
開いて見つめれば

見る影無く枯れ細った手に 老い白んだ髪

私はあなたほど
強くも無ければと

この心に幾ばくかの影 振り払うなど
できはしなかった

曰く そも受け入れ難きことにも
心の在り方を正せばと
寄辺とした 教示(おしえ)さえ今
空しければ 意味は無く
うつろうべく 生きることは苦と
思い至ることも必定と

わたしはこうして独りになっていく。


そう、生きていたい。消えてしまう。
それが恐ろしいのだと。気付く。
何物(なん)でもなく。何者(だれ)でもなく。
ただこの身だけを惜しんで。
老いて消えゆくまで。止められなく。
その衝撃に打ちのめされて。

私は怯えているのだ。


こうして消えていくは世の倣いであるなど
わたしはもはや認められない

あの花の(いろどり)を移したこの髪さえ
わたしはもはや認められはしない

ゆえに、手繰り寄せる。この両手で。
道を踏み外そうとも。それが。
信じたもの。縋ったもの。
全てに背を向けようとも。
我を喪うこと。止められよう。
その願いさえ叶うのならば。

生きてこそ至れるものへ。

―もう、何も怖れない。
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最終更新:2022年08月30日 23:05
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