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ある冒険家のダンジョン冒険記

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ラビダンジョンで発見された旅行手帳の内容を忠実に再現した話題の本。「ダンジョン初心者必読!」と書かれている。

-ある冒険家のダンジョン冒険記-
A Memorandum found in Dungeon
ヤント著
-目次
--序文
---ダンジョンで発見された旅行メモ
--後記
  • 序文

私はラビのダンジョンがなぜか気に入っている。 ダンバートンから近いうえに、内部の雰囲気も他のダンジョンとは一風変わっているというべきか。。と書いてみても理由としてあげるには本当に説得力がないが、 いずれにせよ ダンジョンという所が人々の冒険心を絶えず刺激する場所であるとすれば、ラビダンジョンには他のダンジョンには無い何かがあるのではないかという感じがする。

そう思うのは私だけではないようで、ここをくまなく見てみれば、最初にここを訪れた人々の遺留品は他のダンジョンよりも多数見つかる。

数ヶ月前には、ダンジョンの各部屋を調査中に、蜘蛛の巣だらけの部屋の片隅で、旅行者たちがよく持ち歩く小さな旅行メモが見つかった。驚くべきことにそれはかなり遠い昔にこの場所を訪れた人が残したもののようで、ラビダンジョンの探検の過程が記されていた。私がそうであったように、その記録の冒頭は何かの本を拾ったというエピソードから始まっていた。興味の引かれる内容だったが、あちこち破れて湿っており、保存状態は決していいとは言えなかった。そのうえ薄暗いダンジョンの中は本を読むのに適した環境とは言いがたい。そのためいったんは荷物の中にしまっておき、家に帰ってからそのメモを読み通した。

しかし私がそのメモを読んでみていちばん強く心に残ったのは、大きな衝撃と何とも言葉にしがたい戦慄だった。

私は長いこと考えた。この記録の存在を他の人に知らせるべきか、あるいは私の心の中だけに留めておくべきか。 しかしある日、私はこの記録のもつ文献的価値に気づき、結局この記録を多くの人に知らせるべきだという結論に達し、こうして本という形で発行することとなった。

語法の異なる文章などにわずかに手を加える以外、もとの記録には変更を加えないとの方針のもと、私はこの仕事に取りかかった。しかしこの記録を本にまとめる作業は当初考えていた程たやすいことではなかった。メモをそのまま本にする方法がないのと同じように、筆者の手でメモの内容を転記する過程で、原典のもつ冒険の痕跡 - メモ自体に付いている凹みだとか筆跡のわずかな乱れなど - をすべて反映させることはできないという点で、私はもどかしさを感じずにはいられなかった。そして本が完成した今は、そういった点によってこの記録に深く刻まれた冒険家の精神への共感が失われないことを祈るばかりである。

現代に蘇ったこの記録を読む人々にモリアンの祝福のあらんことを。。。

  • アルバン エイレル 3日。 ヤント
  • ダンジョンで発見された旅行メモ

(端正かつ趣のある字で)

人生は一発勝負だ。先ほど役所の前で出会った娘は私のこんな言葉を鼻で笑ったが、世の中のことを何も知らないからこそそんな反応を見せたのだ。

どんなに懸命に努力してみても結局人生は一発勝負だ。裕福な者はそのままずっと裕福に暮らすし、貧しい者は貧しいままだ。薪取りはいつも薪をとるし、羊飼いはいつも羊の毛を刈るのだ。恋人のいる者は周りでも美女たちが互いに争い、恋人のいない者はいつも一人だ。こういう固定的な秩序を壊すのは、個人の実力や努力というよりは運である。幸運がめぐってきたら逃さずに掴むのが肝心だ。それがつまり一発勝負だということだ。

数日前、パララがだんだん沈んでいくころ、一冊の本を拾った。乾いた土の中に埋もれていたからか、埃が幾重にもひっついていて、表紙は取れかけていた。ともすれば見落としていたかも知れぬその本は題名がどんな内容なのか判らなかったのだが、驚くべきことにまだ剥がされていない封印が貼られていた。

封印。。。それはこの本のもっている魔力がまだ外に流れ出てはいないということを意味する。見かけとは違ってかなり高価な値段が付くという話だが、これくらいの物ならきれいな服をパリッと着こなしてレストランに行って思い切り気取りながら高級料理を腹いっぱい食べておまけにチップまで渡してこれるくらいの金が手に入る。

こんな本を拾うなんてことは夜空の星をつかむほどの幸運に恵まれなければありえないことだ。これだから人生は一発勝負だというのだ。

しかし表紙の状態があまりに悪すぎるのに加え、正直私の服装は魔法を使う人にしてはみすぼらしかったし、これが万が一盗品や紛失物だった場合、あとでまたこの都市に来て物を売り買いするのに面倒が多くなりそうな気がした。事実ダンバートンの噂はフクロウよりもはやいから。

結局、この本を売るなんてことは相当面倒なことになるという判断が働いて、私はとにかくこの本を読むほうを選んだ。 こう見えても私は自分で読み書きを覚えたし、知的能力にもそれなりの自信があった。19歳で世の中を渡り歩く知恵を悟る位なら結構なほうじゃないだろうか。

夕方、私は誰かが見てはいないか確認してから建物の後ろのひっそりとした路地裏に入っていって、封印を丁寧にはがしてタンウェンという人が書いた本を読みはじめた。恐る恐る読んだ本にはファイアボルトの魔法についての内容が収められていた。率直に言ってあまり面白かったとはいえない内容ではあったが、魔法の使い方について扱っていたという点では少しばかり興味津々だった。

それはちょうどそのとき起こった。本を読み終え、ページを閉じる瞬間、以前には感じたこともないような感覚が私の体中の隅々までかけめぐって出て行ったのだ。

これが話にだけ聞いていたマナの感覚だろうか。脳天のほうから明るい何かが体中に広がってゆく感じ。その光が四肢を通じて流れてゆき体に戦慄を起こさせる感じ。私の体の中に内在するマナに対する自覚とともに、宇宙の秩序に共鳴する自分に気づく、この感覚。その瞬間、私はまるで生まれ変わったような感覚を覚えた。

まさか。。。それならファイアボルトの魔法を?私はマナを集中させて一点を見つめ、するとすぐにそこから小さな火花が出てきた。やった!

読むときに全然期待していなかったわけではないが - いや、言いかたを変えよう - 期待していなかったならあんな高価な本の封印をわざわざ剥がしてみようなどとは思わなかっただろうが、正直私は本当にこんな簡単に魔法を身につけられるなんて夢にも思わなかった。これは間違いなく魔法の才能があるという証拠だ。私は意気揚々となった。当座の食事を心配しながら暮らす無知な田舎上がりの青年が、自分に魔法使いとしての才能を見いだした瞬間の喜び。。。

ふむ。もう少し詳しく説明したいとは思うが。。面倒だ。今日はここまでにしようと思う。

(前日と同じような筆跡で)

昨日の夕方以降わたしは魔法使いとして生まれ変わった。私はこれからどう生きていこうかしばらく考えた。これからはもう、私は羊飼いや木こりとして一生を送るような人間ではない。役所や冒険家たちの依頼を受けて高価な報酬を受ける貴い身だ。

そのうえ私は自分自身にそれまで考えてもみなかった魔術的な才能があるとわかってから、この才能を自分の資本として大切に育てていこうと心に誓った。そのためにはとりあえず他の魔法を習わなければ。

私は学校に行って自分の魔術的な才能について説明し、私が一時間ほどで身につけたファイアボルトの魔法を先生の前で実演したが、メガネをかけた先生は私に対する心地よい賞賛の言葉とは裏腹に、さして興味もなさそうな表情で天文学的な額の授業料を要求した。

。。。こうなると私は、本を読んで自分で魔法を習ったほうがいいのではと思えてきた。どうせファイアボルトの魔法だって昨日あんなふうに身につけたのだから、他の魔法だってそういうふうに覚えられないはずがないじゃないか。

近所の書店を訪ねてみた。 興味をそそる魔法の本が何冊かあったのだが、先ほどのけちな魔法の先生に気があるのを露骨なほど見せ付けている女店員が、手も出せないほど高い値段をつけたから、私は買うのを断念した。何だか納得がいかない。

まあいいさ。それでも魔法を使うことができるじゃないか。ともかく魔法を使って冒険家たちを助けて報酬をもらえば魔法の本を数冊買うくらいの金はすぐできるさ。

今日は無駄足になったが、明日は町の広場のほうへ行ってみようと思う。運がよければ魔法使いを必要とするパーティーに合流することもできるだろう。

(筆跡が少し震えている)

今日は昨日と違って全てがうまくいった。 新しい友人にも本当にたくさん出会った。今私はラビダンジョンの入り口で友人たちと一緒にキャンプ中だ。

この友人たちはダンバートン広場でパーティーを募集していた冒険家なのだが、みなとてもいい奴らだ。 ちょうど行ってみたら、 もうパーティー募集のピケはこれだ。 ”ラビダンジョン探検隊大募集!どうせ人生は一発勝負、人生逆転を志す勇者をお待ちしています” ふっ。やはり何かわかってるね。

とにかく私はそこに行ってパーティーに魔法使いが必要かどうかリーダー格らしい人に尋ねてみた。彼はブロードソードを脇に下げている、皮膚の黒い筋肉質の戦士だったが、目つきが本当にぎらぎらしていて一目見ただけでも世の険しい荒波にもまれてきたような印象を与える人だった。

彼はみすぼらしい身なりの私を見て少し顔をしかめたが、私が返事の代わりにファイアーボルトを出してみせると、三色のローブを着たそばかすだらけの痩せた若者の名前を呼びながら顔をそちらに向けた。アイモンという名前のその青年は、しばし目を丸くして驚いていたが、私がつくった火花を見てニヤリとして微笑を浮かべた。

そうしてうまく行ったのだった。私はすぐに一行の紹介を受けた。

とにかく口数のすくないリーダーの名前はラル。世界中を冒険する30代前半の男だが、バンホルの飲み屋で出会ったアイモンからラビダンジョンにある宝物の話を聞いてここへやってきたという。 必要最低限の防御具のほかは荷物も簡素なようで、何かにとらわれることを嫌う実用的な性格の人のようだった。

アイモンは見たところ20代後半くらいの魔法使いで、朴訥とした話し方に余裕のある行動からも窺えるように魔法をかなり熟知しているらしかった。(だから私の才能を一目で見抜いたのだろう)強いて短所を挙げるならばローブがやや落ち着かなく見えた。

タマラという名前の私より2つほど年上らしいバドもいた。かなりな水準の応急治療の技術をもちあわせた彼女はラルの彼女のように見えたが、ちょうどいい年頃なのにもともと体が貧弱で、私のタイプではなかった。まあしかし足だけは鹿の足のようにまっすぐすらっと伸びているうえに脇にスリットが入ったスカートをはいていて少しは一行の目を楽しませてくれたが。

彼女が非常時の食料を買いにいくのにしばし席をはずした少し後、のっぺりとした男がクラブを持って合流した。ウォレスと名乗った30代前半のその男は太い首にがっちりとしたトークを嵌めていたが、塊のような外見でも力だけはあるようだった。

これでパーティーの人員は5名。われわれはこのままラビのダンジョンへ向かうことにした。

タマラが卵を桶一杯買ってくる間に、われわれはあれこれ必要なものを少し買って夕方になってからダンバートンを出た。ラビダンジョンに到着した時には既に夜は更けていて、われわれはその前で野宿することにした。

。。。それで今は準備してきた薪で火を焚いてちょっとした余興に興じている。いまはタマラの歌を聴いているところだ。タマラ、楽器の演奏は得意なようだが歌は高音部分で声がかすれる。

この数日間での大きな変化

(くねくねした字で)

はは。やはり達人は達人を知るっていうじゃないか。

  • アイモン

(かなりしゃれた感じの小さな字で)

ええ。記録とかいってこんなこと書いたの? ほんと悪趣味。

  • タマラ

(筆跡が元に戻っている)

昨日記録を書いている途中に少し居眠りしてしまったようだ。たくさん歩き回ったからだろうか、知らず知らずのうちに眠ってしまったらしい。

今日はダンジョン探検の初日。緊張とスリルの連続だ。金も少し集まった。一週間くらいこうしていればあの高い魔法の本も後1冊くらいは買えそうだ。

今日の話は最初から書かなきゃだめそうだ。ラビダンジョンの入り口へと進むと大理石のようなものでできた巨大な女神像が見えた。

近くの祭壇に供え物をするためにラルが近づいていって女神像に触れた。彼はその像が戦士を守護するモリアンという名の女神の石像で、花崗岩でできているようだと言った。(実際大理石だろうと花崗岩だろうとさして違いはないだろうに)

続けてアイモンが、女神像には魔法がかかっていて供え物のアイテムの種類によってさまざまな場所に移動することができるという話をしてくれた。どんな原理なのか聞いてみたかったが頭が痛くなるだけのような気がしてそこは我慢し、いったん全員で祭壇のそばまで行き、そのあとタマラが自分がいつも持ち歩いているという詩集を祭壇にささげた。

外の光景がだんだんかすんできて光に包みこまれた。そしてわれわれ一行が気を落ち着かせてみてみると、そこは真っ暗なダンジョンの別の女神像の前だった。

湿気だらけでじめじめとしたにおいがするのが本当に気分の悪い場所だった。外からはわからなかったが体もぞくぞくする。本来土の中にもぐればもぐるほど温度が上がっていくという話をどこかで聞いたような気がするが。。。

ウォレスはそんな私を見てダンジョンにきたのはこれが初めてなのかとずっとしつこく聞いてきたが、これが仲間でさえなければファイアボルトを放ってやりたいくらいだった。誰だってこれが初めてだっていう時くらいあるだろう。ダンジョンで生まれたわけでもないだろうに、えらそうに。。。

その上こいつはタマラがラルの彼女だと知ってこれ見よがしに親切に振舞った。ほら何というか、 かなり年下のタマラに対して最上敬語をつかったり、タマラの荷物を持ってあげるといって自分のかばんの中にタマラの持ち物を全ていれてしまったりとかそういうことだ。明らかにあとでパーティーの分配をするときにラルから少しでも多くもらおうという魂胆だろう。たぶんアイモンが私にこっそり目配せしなかったら不快な顔をそのまま見せてしまうところだった。

何はともあれ午後遅くにわれわれはダンジョンの入り口を抜けて一つ目の部屋に足を踏み入れた。そこではわれわれ一行の足音が響き渡っていたが、そこにどこからか水がぽたぽたと垂れる音が混じり、なんとも言いがたい奇妙な雰囲気になった。モンスターがどこかに隠れているかもしれないから注意するようにというアイモンの忠告を聞いてわれわれはひどく緊張した面持ちで入り口付近からくまなく捜索した。

少ししてアイモンがわれわれを呼び集めたが、そこには古い宝箱があった。ラルが自分の太刀の切っ先をつかってそれを開け、われわれはその中が相当な量の金貨で一杯になっていることを確認した。やはり宝物をみてごくりとのどを鳴らすウォレスの姿に顔をしかめるところだったが、ラルの指図で平等に分けてみな巾着に金貨をしまった。 やはりこのパーティーへの参加を決めた私の眼は正しかったようだ。ダンジョン探検の序盤から こんな掘り出し物を当てるなんてこの先いったいどれだけ多くの宝物があるかいまから楽しみだ。やはり人生は一発勝負だ。

(筆跡が震えている)

好事多魔というべきか。。。 やっぱり良いことは続いてばかりはいられないようだ。ウォレスがひどい怪我をした。タマラによれば死ぬかもしれないとのことだ。今私は寝ずの番に立ちながら今日の記録を書いている。

数時間前、われわれはダンジョンの巨大な部屋を一つ一つ通りながら歩を進めていた。

ウォレスが斥候役として一行とは離れていちばん前に、その後にラルをはじめとする本陣がついてゆき、アイモンが後方を警戒するという形でだ。誰も出てきそうにない殺伐とした雰囲気だったがわれわれは精神を集中させて注意深く警戒しながら移動していった。

それはそのとき起こった。ウォレスがまさにダンジョンのその次の部屋 - われわれが今腰をおろしているこの部屋の入口 - に足を踏み入れたその瞬間、巨大な蝙蝠が一斉に飛んできて彼に襲いかかったのだ。彼は必死になってその馬鹿みたいにでかいクラブをぐるぐる振り回したが、蝙蝠の数はあまりに多く、彼はすぐに蝙蝠の大群に巻き込まれて悲鳴を上げた。すでにそいつらはどこかに飛んで逃げてしまっていて、ウォレスは全身に深い傷を負って倒れていた。

気の毒なことに、タマラが応急処置をしようとしたがウォレスはタマラの荷物を全部持ったまま移動していて蝙蝠の襲撃を受けたから、血みどろの戦いの渦中で包帯をはじめとした応急処置の必需品が汚れたりどこかに消えてしまっていた。こんな状況では何かきちんとした治療はおろか命を救うだけでも相当難しくなってしまう。

私が覚えたファイアボルトの魔法も、アイモンのアイスボルトの魔法も、そんな状況では全然役に立たなかったということがとても悲しかった。

もうわれわれにできることはその場で火を焚いて彼に非常用ポーションを飲ませてやることぐらいしかなかった。もちろんポーションは彼の消えいりそうな生命力を少しは維持させることもできるだろうが、根本的な解決策にはならない。

ちょっと早いような気もするが、とにかくわれわれはここでしばらく休むことにした。たかが蝙蝠などにこれほどあっけなくやられてしまったなんて本当にあきれる話だが、もっと強いモンスターがこれから先現れるかもしれないということを考えれば、一方では恐怖心が湧いてきたりもした。

ラルは一時間ごとに交代で寝ずの番を置くことに決めた。 いったん、私、タマラ、アイモン、ラルという順序で休むことにした。しかし番をしながらみなが何度も体を落ち着きなく動かしているのを感じた。すぐに眠れるような人がいるほうがむしろおかしいだろう。

ウォレスがあんなふうに怪我を負ったままわれわれとともにダンジョンで探検することなどできるだろうか。連れて行くのならパーティーにどれだけ負担がかかるだろうか。もしくは昨日の収穫のみで満足とし、戻っていってダンジョンから出たほうがよいのだろうか。

私にとっても彼らにとってもどれも難しい問いだった。ウォレスはどう思っているのだろう。

(筆跡はひどく震えており、ところどころ血が付着している)

昨日に引き続き今日も悪夢のような一日だった。 騒がしい声で目が覚めた。タマラのわめき声だった。ぼんやりとした目をこすってよく見てみると子犬ほどの大きさの蝙蝠の群れがどっと押し寄せわれわれ一行と戦っているところだった。

私も無我夢中で駆けていってファイアボルトの魔法をつかい、火に炙られた蝙蝠たちはそこら辺に逃げていった。

こいつらはかなり獰猛で、いったんうまく噛み付いてこちらがひるむと何匹かで一度に襲いかかるというやり方で攻撃してきたのだが、ファイアボルトの魔法を出すのには意外に時間がかかり、私の力でやつらを全部殺すのはとても大変なことだった。

中には歯をむき出して私に飛びかかってくるやつもいた。しかしそのたびにラルが間に立ちふさがって一気に奴らを殴り倒し、私はラルに襲い掛かる蝙蝠をファイアボルトで跳ね飛ばした。

戦いの後はまるで修羅場のようだった。 そのうえウォレスの怪我はさらに悪化したようだった。彼の首に新たにできた傷はぬぐってもぬぐっても金色のトークを赤く染めるばかりだった。

不幸中の幸いかウォレス以外はみな大した怪我もなかったが、こうした戦いのあいだにわれわれが持ってきた物のほとんどがなくなったりだめになったりした。特に一日目に分けあった金貨のうちラルの分がなくなってしまい、残りの食料もほとんどなくなり、われわれは憂鬱な気分になった。特に昨日蝙蝠のおかげで卵が全部割れてしまったうえ食料が全部なくなってしまったのが本当につらい。

どうして蝙蝠たちが急に飛んできたのかよくわからないが、後に戦いがすんでからタマラに聞いたところでは、寝ずの番をしていたアイモンが退屈しのぎに周りを歩き回っていてすぐ前の部屋の遺跡に手を触れ、その結果蝙蝠たちが押し寄せてきたのだという。このことでアイモンとラルがお互い声を荒げて怒鳴りあう場面もあった。

われわれはすぐにその場をおさめて先に進んだが、道はだんだん複雑になり、のちにはわれわれがどのあたりに来たのか確認するのも困難になった。

ダンジョン探検のはじめのころのわくわくとした期待感は行き場を失い、今は疲労が体をむしばんでいる。 これを書いている今も、引きかえそうというタマラの意見とこのまま冒険をつづけようというラルとアイモンの意見とが真っ向から対立している。ああもう寝ようよほんとに。

(苦しさが伝わってくるような字だ)

今朝ウォレスが死んだ。 われわれは近くで石を集められるだけ集めてとにかくウォレスの遺体を葬った。 みな複雑な気持ちだった。

(筆跡がかなり乱れている)

われわれの冒険はだんだんハードになってきている。今日はアイモンが倒れた。 スケレトンウルフだった。話にだけは聞いていたが。。。

やつらはダンジョンの部屋を開ける瞬間に飛び出してきた。ちょうどウォレスを死に追いやったあの蝙蝠のように。しかし今回はおいそれとやられたりはしなかった。 われわれはこの間のことを教訓に、アイスボルトとファイアボルトをすぐに発射できる態勢を整えておいたから、スケレトンウルフが飛び出してくるたびにラルと一緒に集中攻撃を浴びせることができた。

特にアイモンのアイスボルトは攻撃速度がはやかったからかなり役に立った。やつらもそのことに気づいたのだろうか、スケレトンウルフはアイモンを集中的に攻撃し始めた。われわれは死にもの狂いでアイモンを守った。 しかし私やアイモンのマナはすでにかなり減っている状態だったから、魔法を出すのにかなりの時間を費やした。

アイモンが荷物の中をまさぐりマナポーションを取り出して飲もうとしたが、スケルトンウルフはそれを見逃さなかった。ラルと他のスケレトンウルフが対峙している隙を衝いて他の奴がアイモンに飛びかかって地べたに押し倒し、彼の首根っこをがぶりと食いちぎった。 悪夢のような光景だった。

私は恐怖にとりつかれて魔法すらつかうことができなかった。ラルが慌てて剣を振るってスケレトンウルフを殴り殺したが、すでに全てが終わった後だった。私は体ががたがた震えるばかりで何もできなかったのだが、 タマラはむしろ冷静にアイモンの荷物の中から使い道のありそうなものを取り出した。こうしてわれわれはその場をおさめた。

われわれはアイモンを葬ることすら忘れ、その部屋を逃げるように出てきてしまった。 戻る気は全くない。こんな私自身があまりに愚かだ。

ウォレスが死んでから、パーティーの移動速度は確実にはやくなったが、それがそのままわれわれの冒険の安全を意味するわけではないということにどうしてもっと早く気づかなかったのか。。。

引き返せるものなら引き返したいが、すでにわれわれはあまりに深入りしすぎたのではないかと心配になる。

(比較的きちんとした字で)

疲れた。 今焚いている焚き火で薪が切れてしまった。 もうこれ以上焚き火はできない。 食べ物もしだいに底をつきつつある。 いまタマラはラルに、もう冒険を中止して今まで来た道を反対に引き返すべきだと説明している。ラルは引き返すには遠すぎるため、封印された部屋を一刻も早く開けることがここから抜け出す唯一の方法だという。 私はこの忌まわしい空間から抜け出すことさえできれば、どんな意見だろうと賛成だ。

ラルは今日腕を負傷した。私はこのような周到綿密な戦士が怪我をするということがやはり信じられない。彼は特にこれといってミスをしたわけではなかった。ただいつものように宝箱を刃先でこじ開けようとしただけだ。かといって剣が滑ってしまったとかいうわけでもない。

問題は彼の発見した宝箱がモンスターだったということだ。宝箱にそっくり化けたモンスターである。すぐに叩き潰そうとしたがやはりラルの傷は意外と深かった。世の中長生きしてみると、いろいろと変わったモンスターがいるものだ。

いや、今になって思えば宝箱だらけの部屋だなんて少し怪しい感じもしなくはなかった。われわれが初めてそれを目にしたときは、今まで多くの犠牲をはらってきたが、その代償としては納得しうるものだ、というふうに思ったのだが、おそらくそんな思いにわれわれの警戒心が乱されてしまったのだろう。

タマラはラルが財布をなくしたせいで急に欲が出てきたのだろうと彼をけなしている。そうでなくても憂鬱な状況なのに女からそんなふうに言われたら腹立たしくなりそうなものだが、ラルは特に何も言わずによくこらえている。ため息まじりに傷に手を触れているところをみると、そんなことよりは宝箱の姿なんかで旅行者をおびき寄せる下等なモンスターに怪我させられたことに憤りを感じているようだ。

もう暖かい焚き火ともおさらばだと思うと気分が落ち着かない。 ファイアボルトを使って体を暖める方法について思案中だ。

(かなり整った字だが手がかじかんでいるようだ)

朝起きたとき体のあちこちが冷えて固まっていた。薪が切れて火を充分に熾せないせいだろう。ダンジョンの冷気が体にたまったせいか食べ物もあまり消化できず体がしょっちゅう震える。

ラルの意見に従い封印のかかっている一番最後の部屋へ行くことにしたため、つらい旅路はまだまだ続くことになった。せめてもの救いはその封印のかかった部屋まで行くのにさほど時間がからなかったということだ。

われわれがその巨大な部屋の前で見たものは、とてつもなく大きい錠前とずるずると巻きついている太い鉄鎖。 錠前を開ける鍵らしきものはどこにも見当たらず、かといってあの太い鎖を断ち切るのは丈夫な両腕を持つラルといえども無理なように思えた。

あんな頑丈な錠前で封印してあるなんていったいあの部屋の中には何があるというのだろう。もし運がよければあの中で宝物に出くわすかもしれない。しかし運が悪ければあの中には本当に今まで誰もみたことのない恐ろしい生命体が潜んでいるかもしれない。 この部屋について判断を保留し、危険の回避を選択した場合、われわれがこのダンジョンを出るには今まで進んできた道を後戻りするしかない。

われわれにはもう、食べるものも火をおこす薪も、怪我を治療する道具もない。再び引き返そうにも、長い時間がかかるだろうに、そういったものが全くない状況で引き返すことなどできるのだろうか。

悩みぬいた挙句われわれはこの部屋を開けることにした。しかしこの部屋を開けるよい手立ては思いつかなかった。あの錠前に合う鍵などいったいどうやって手に入れられるのだろう。。。

ファイアボルトの魔法は暗闇の中でさほど役に立たなかった。やや明るくする効果がありはしたが。たぶんファイアボルトの魔法がなければこの真っ暗な空間でこんな書き物をすることは不可能だっただろう。

(文字が解読しにくい)

ああ、あまりに惨憺たる思いだ。 最初から順々に書いていったほうがよさそうだ。

朝起きたときでさえこんなことになるとは思いもよらなかった。 火を焚くことが全くできないから眠りも浅くなり、前日の疲労がその翌日にもずっと続いているような感じはしたが、ともかくあの部屋さえ通過すればまた再びパララの光が射す外の世界に出られるのだということで希望を抱いていた。 今日はこうして始まったのだが。。。

われわれはわずかに残ったパンのかけらを全部集めて簡単に朝食を取り、あの巨大な封印を解く方法は今のところないが、このダンジョンを抜け出すためには必ずあの封印を解かねばならぬということでわれわれの意見が一致した。とにかく封印を解くことができそうな道具を見つけるために、今までただ見過ごしてきた遺跡のようなところをよく調べてみるつもりで、私は真っ先に後ろを向いて前に通った部屋へと向かおうとした。しかし。。。 5、6頭、もしくはそれ以上いると思われるスケレトンの一群が私の前に立ちはだかっていた。骨と骨がぶつかり合ってカタカタいう音を立てながらスケレトンたちはゆっくりと私の前へと進んできていた。骸骨の目の穴からは燐が燃えているような火花が気味悪く光っているのが見えた。

幸いにもタマラとラルがすぐ駆けつけてきてくれたが、それでもこちらはたったの3人。

まずい状況だった。タマラが弓を放ったがスケレトンは当たってもいないばかりか衝撃もさほど受けていない様子だったし、ラルの剣の腕前は門外漢の私の目から見ても以前より確実に落ちていた。

私のマナはときたま火をともすのにも魔法の力だけに依存し、戦えるほど充分な状態でもなかった。

われわれはだんだん隅に追い込まれたが、戦ってこれを追い払うよりもパーティーの力を合わせて包囲網をかいくぐって出て行くほうがましだということで意見が一致した。

われわれは合図とともにスケレトンの数が一番少ないほうへと疾風のごとく駆けて行き、ラルが逃げ道を開きタマラと私は残りのスケレトンが近づいてこられないように彼を援護して包囲網を抜け出そうとした。(このとき私は足を怪我した。)

しかしまさにそのときだった。血痕だらけの一頭のスケルトンに目がいったのは。。。 どっしりとした体つき、短い首、そしてウォレスがつけていたトーク。。。

われわれ3人は皆それを見て言葉を失った。すぐにタマラがスケレトンの群れにのみこまれ、ラルが直ちに助けに行ったが役不足だった。私はすぐに呪文をとなえファイアボルトの魔法をつかったがどうしようもなかった。スケレトンの数が多すぎた。鈍い音とともに悲鳴が聞こえてきて、結局私は一人踵を返して逃げ始めた。 その部屋を出るころには何の物音も聞こえてこなかった。

私が死ぬときにはいったいどうなるのだろう。われわれパーティーが来た道を引き返しながら、なるべく安全そうなところを見つけては疲れた体を休ませるようにしたが、その問いの答えを目の前にまざまざと突きつけられたおかげですっかり力が抜けてしまった。彼らは私が危険なとき助けにきてくれたが、私は彼らが危険にさらされたとき何の役にもたってあげられなかったということが何よりつらい。

スケレトンはこれ以上追っては来ないようだ。足を怪我したため、動こうとするたびに疼痛がはしる。畜生。

そういえば私はもう完全にこの身ひとつだ。食べ物も、治療の道具も、何もない。

(字がやたら崩れている)

寒い。腹が減った。 この中でいったい何日さまよい続けたかわからない。

もうこの手帳のページもあまり残っていない。 微弱ながらファイアボルトの魔法を使って出した火花もマナが全て消えつつある。 寒さのあまり全身がぞくぞくする。湿気と寒気が骨の髄まで染みわたって病気になりそうだ。口に水を垂らしていた革の切れ端も もはやぺらぺらになってきた。何か食べるものがあればいいのに。

(筆跡は少々落ち着いたような感じだが、震えながら書いたような痕跡もある)

熱は少し下がった。しかしあの日からローブを頭までかぶっても悪寒がおさまらない。わずかに残るマナでファイアボルトの魔法を使ったがそれも少しの間だけで、すぐに消えてしまった。

昼なのか夜なのかまったくわからない。 もっぱら周期的にマナの気が強くなる時が夜なのではと推測するだけだった。 足が腫れて歩きづらい。このまま残って救助を待つことだけが私にできる唯一の策のようだ。

(殆どなぐり書きである)

恐ろしい。私を取り巻く暗闇が恐ろしい。いつ現れるかも知れぬダンジョンのモンスターが恐ろしい。

誰か私を見つけてくれるだろうか。この深い迷宮の真ん中でわれわれを探し当てる人がいるだろうか。私は神を信じない。しかし今はこの記録だけでも発見されることを切に望む。 この閉ざされた世界で、私が地上の世界に存在していたという証拠も全くないまま死んでいくのはあまりにむなしい。私がいなくてもあの上の世界では誰も私を探しはしないだろうことが本当に怖く恐ろしい。

私が生きている間に救助されることは難しいとしても、死後にでもこの記録が発見されることを願う。そして今度このダンジョンへやってくる人がまたわれわれのような愚かな過ちを繰り返すようなことだけはないことを祈るばかりだ。この記録を読んでいる人がいるなら、二度とわれわれと同じ過ちをしないことを切に祈る。

そして、誰かこの記録を発見した人がいるなら、私の知り合いたちに私の消息をしらせてくれるよう望む。もちろん私を心配する人などいないだろうとは思うが。

ああ、一発勝負だろうが、二発勝負だろうが、 なるようになれ。

(以後の記録はなし。 次のページには血痕がのこされている)

後記

記録はここまでだ。たぶんこの記録を書いた人は私の記述では表現しえない深い絶望と孤独の中で最期を迎えたことだろう。 輝かしい冒険への情熱に反して彼らは不十分な準備と情報、未熟なチームワークのために結局死を迎えたようだ。

この記録の紹介者として、わたしはこの本を読む人々が、ラビダンジョンだけではなくほかのダンジョンでも、準備もなしに若い情熱だけでもって冒険をはじめるといったことがないように祈るばかりだ。 冒険を志す人たちの間で、この話が末永く伝えられていくことを願いながら結びの言葉に代える。


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