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どれほど歩いたのか。荒野が広がる大地の一角に樹海とも呼べる緑が繁り、乾いた砂と湿る土の交わる場所があった。
姫捨て谷のように、獣人を造る際生まれた出来損ないを廃棄するための森である。
その森にある『多肉植物』を採ってこいと螺旋王に命ぜられ、こうして参じたはいいが、それがどんな植物かは知らされなかった。
多肉植物というくらいだから水分を多く含んだものだろうとは予想した。
さらに噂に聞く話では、ヌメリブドウカバのように植物と獣を掛け合わせたものらしいが皆目見当がつかない。
僅かに残る轍にここが森への入り口かと顔を上げれば、ぬめぬめとした液体を滴らす蔦が淫靡に絡み合っている。
嫌悪感に腰に下げた鉈を手に取ると、一刀に切り捨てる。糸を引いて散らばる蔦を踏み越えて生い茂る草木の中に歩を進めた。
独自の生態系を築き上げたこの森には、食虫植物のように獲物を待ちかまえる生物と、狩られる側の生物しかいない。
花の香りに引き寄せられた蜂鳥が花に食われるような、そんな世界だ。
行く手を阻む蔦を切っては捨て、切っては捨て、その内ヴィラルはあることに気が付いた。
切り落とした蔦の切断面を見やると、やはり潤っている。ヴィラルの知る多肉植物とは、こういった植物のことを指していた。
(螺旋王はこれを持ち帰れと?)
切り落とした蜥蜴の尻尾のようにのた打つ蔦をどうすべきか逡巡し、恐る恐るつまみ上げる。
「なっ!?」
突然ヴィラルは頽れた。意志に反した自らの動作に首を巡らせると、足首を何かに掴まれたのだと気付いた。
何か、ではなく、手の中にある蔦と同じものが纏わりついていた。
戸惑う内に手の中の蔓も暴れ出し、手首を捕らえて絡みつく。
「このっ…やめ…」
この蔓の目的を理解できたと同時に息を飲んだ。もし、本当にその目的を果たすのならばこの蔓に。
(犯される)
植物らしからぬ速さで軍服の隙間から表皮に纏う粘液を滴らせながら滑り込み、ふっくらとした乳房に絡みつき、先端が突起を吸い上げる。
「ひっ…や、だっ…!」
逃げ出せぬようヴィラルの身体を軽々と持ち上げる蔦には、明らかに獲物を補食する獣の動きがあった。

どこから涌いて出たのか、蜘蛛の巣のように徐々に四方から延びてくる蔦を視界に捉え、更なる危機を感じて抗った。
得物の鉈は捕らえられた際地面に置き去りにしてしまい、腕と足を封じられてはこの生物に対抗する術は、やはり獣のように牙を立てるしか残されていない。
背に腹は代えられないと怪しげな液を滴らせながら手首に絡む細い蔦をなんとか引き寄せ、
獲物をおびき寄せる甘ったるい臭いを放つそれを食い千切らんと歯を立て――ようとした。
「んん!?…っ…んぅ…!」
蔦が無理矢理口内に侵入し、中で体積を増したかと思うと、微かに戦慄いて蜜を注ぎ込んだ。
太い幹の轡で口を塞がれたまま吐き出すこともできずに、おぞましい液体を飲み下す。
臭いと同じく甘い白濁色の樹液が口の端から伝う。
「…ぷは、はぁ…けほっ」
そのままぬるりと口から抜け落ちた蔦の行方を目で追ってから、喉に絡み付いた粘つく液を吐き出す。
濁った色の樹液は確か――そうだ、毒だ。
出来るなら今すぐ喉頭に指を突っ込んで全部出してしまいたい。もしくは腹部を圧迫し――。
その瞬間、蔦の乱暴な動きが力のない愛撫に変わった。
「…嘘、なんで」
蔦の変化ではなく、自身の変化に目を見開いた。
四肢が麻痺したように痺れ、なのに度数の高い酒を飲まされたように身体が火照り、
恐怖への悪寒ではなく別の何かに背が粟立ち、たまらず膝をすり合わせる。
ねっとりと舌のように這う獣の蔦――いや、最早触手と呼ぶ方がふさわしいであろうそれが、
自らの体液を潤滑油代わりにして肌を撫で、その度にゾクゾクと吐息が震え歯の根が鳴る。
「嫌だ、やめて…許してくれ…」
まるでこの身体が自分のものではないような感覚に、ヴィラルは訳も分からずしゃくりあげた。
構わずに生きた蔦は下肢を覆う服をずらして、後ろの割れ目を伝い秘部を探り当てる。
いくつも瘤がある細い触手が熱く泥濘るむ入口を撫で、容赦なく先端部を埋めていく。
「――――ッ!」
熱い。温度のないはずの触手が粘膜に触れ、内壁を擦って中に入ってくる。
生殖を目的とするのか、交わることだけを目的とするのか、
意思の読めない植物の蹂躙はヴィラルを混乱させ、軍人として刻まれた思考訓練さえも崩れ去る。
「あ、あっ…い、やあぁっ!」
痛みこそは無いが、何も迎え入れたことのないそこに異物が侵入していることへの恐怖、
それだけがヴィラルの思考の全てだった。
「う…や、やだ……助け、て…!」
その時耳に届いたのは、紛れもなく何かが草を踏み荒らす音。
目の前の背の高い草が揺れた。
何かがいる。だが獣人ではないだろう。螺旋王の命無しにこの森に入る者などいる筈がない。
だから血の臭いを捉えた獣のような、他の何かが近付いて来たのだと思った。
いっそ肉食獣だといい。このまま慰み者になるくらいなら、そのあぎとで死んだ方がましだ。
淡い希望は絶望に似て、この窮地を乗り越えるだけの力は既になく、心を閉ざしてしまおうかともヴィラルの精神を蝕んでいく。

――その姿を視認してしまうまでは。