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ヴィラルの家で夕飯を馳走になるはこびとなった。

意外にもコイツの作る飯は旨く、久しぶりの温かい飯を腹いっぱいになるまで食べた。
そんでもって、料理の腕を褒めるとどういう訳かそっぽを向いて拗ねる。
褒めたのにそんな態度とられちゃ割にあわねぇな、と苦笑。

「……シモン。」
焼酎を飲もうとして、唐突に見つめられた。真面目な顔。
「どうした、ヴィラル。」
気のせいだろうか、顔が俺のほうに近づいてきた。
なんだ、その、俺のあごを捕らえた指は。
ああ、唇が迫ってきているぞ。何かの冗談じゃねぇのか。
悪いが胸元の谷間を見せられて節操保てるほど、俺は人間できちゃいねーよ。

瞬く隻眼の睫の一本一本を視認できる距離にまで近づいた時。
俺の唇に何かが触れる感触がした。

「ご飯つぶ、付いている。」
ヴィラルの人差し指が俺の唇から、するりと頬をなぞって逃げた。
指に残った白い粒をヴィラルは舌を出し、挑発するように舐め取る。

「お前……」
俺はヴィラルの肩を抱き寄せた。

グレンラガンで戦っていたときは、かけがえのない相棒だ。
だがそれはあくまで戦友で、たくさんの死線を超えてきた獣人。
ニアがいなくなってしまった後も、彼女の存在は恋愛対象にはなり得ないものであって、
それ以上の特別な感情からは一歩引いた存在だと考えていた。

強引に引き寄せたせいで、ヴィラルはひざを崩した不自然な体勢で俺の右胸にもたれかかる。
いい年こいたオッサンと若い獣人が、和室で寄り添っている光景。
傍から見れば奇妙な浮気現場にでも見えるんだろうか。

でも、俺はよく知っている。
男以上に猛々しい気性を持つ彼女が、こんな女々しい状態を晒すことをとても嫌がることを。
今回だっていつもの拳が飛んで来るに違いない。
(……そうだ、俺とお前はそういう間柄でいい。)

しかし、久しぶりとなると堪えるかも知れないな。
心の中で苦笑しつつ、歯を食いしばり衝撃に耐える。

ひとつ、ふたつ、みっつ。
…………。
何もおきない。

恐る恐る獣人の顔を覗き込もうとすると、酒瓶をとろうとする動きに遮られた。
酔いすぎて気分でも悪いのだろうか。
何も言わないヴィラルの様子はいつもと少し違うように思える。
俺の飲んでいた焼酎の隣、手土産に持ってきた大吟醸を取ってグラスに注ぐ。
グラスを手に取り彼女はそのまま大吟醸を一口呷る……ように見えた。

「ん……」
押し倒された拍子に空いたビール瓶が何本か転がった。
余りに突然な出来事に身体も思考も硬直する。
口付けされたことに気付いたのは、彼女が舌を割り込ませようとしてから。

「こら、ヴィラル……!」
顔を引き剥がそうとしたが、彼女の手がなだめる様に優しく頬を包んだ。
濡れた唇のやわらかい感触と、果実のような酒の甘い香りが嫌と言うほど五感を刺激する。
身体の密着した部分が焼けてしまいそうなほど熱い。

隙を突いて口内はあっけなく犯され、ヴィラルの口から大吟醸が流し込まれる。
幸いにも量は少なく、むせずにすんだがそのままゴクリと飲んでしまった。
酒が口の端から伝って零れ落ちる。

こんな大胆なことするなんて。
だが、唇を解放されてまず目に入ったのは真っ赤に上気した彼女の顔だった。
「なにもそんなになるまでキスしなくても。」
呆れるとキッと睨まれた。

濡れた唇をなぞると、彼女はぶっきらぼうに答える。
「……いきなり触った仕返しだ、このスケベ親父。」

(ああ?肩を抱いたくらいで人を押し倒して仕返しだって?
 だいたい最初にやらしく誘惑してきたのはお前の方じゃねーか、人の気も知らねぇで。)
と、啖呵を切って言い返したかった、本当は。

しかしベストポジション……もとい、マウントポジションを取られていささか分が悪い。
体勢的にも間抜けな格好だしそれに、気付いてしまったのだ。
年月を経て久しく沙汰無しだった俺のアレが、ヴィラルの太股に当たっていることに。
おお、愚息よ。よくぞ蘇った。
(……って、喜んでいる場合じゃない。)

「ヴィラル……」
眼前に迫る谷間をなるべく見ないようにしながら、抑える努力をする。
肩から砂のようにさらりとブロンドが流れ落ち、それ同時に漂う石鹸の匂いが嗅覚を責める。
ああ、なんて甘い匂いだ。そしてこの劣情を掻き立てるいやらしくも美しい曲線。
今すぐにでも彼女の豊満な胸を揉みあげ、服を脱がし抱きしめて、ぐちゃぐちゃにしてやりたい。
その邪な欲望は、何かの弾みですぐに決壊しそうだった。
けれども胸の中の『何か』が本能を強制的に押さえ込む。

何故だ?
決してヴィラルが嫌なわけではないのに。女性が嫌いというわけでもないのに。
ニアへの想い? いや、それでもないらしい。
何も問題がないはずだ。しかし上手く言えないが、そんな単純なものではなくて。
混乱した思考が彼女から視線を背けさせる。

「シモン。」
重い沈黙を破り、名前を呼ばれた。
その時視界に入ったのは、既に眼前に迫った握り拳で……
マウント体勢から放たれた鉄拳は、通常より2割り増しの威力で落とされた。

「……いってぇ……なにすんだよ!」
「女々しい顔で黙ってるんじゃないこの、バカザル!」
「ノーリアクションくらいで殴る奴があるかっ!」
「ふ抜けた顔をしていたから気合を入れてやったんだ、感謝しろっ!!」
胸倉を掴んで怒鳴ると、怒りで顔を真っ赤になった額と額がかち合う。
ムードがどうした、そんなもんクソッ食らえだ。
「アニキの拳より痛ぇ。てか見ろこれ、畳がへこんでんじゃねーか、この怪力女!」
「フン、宇宙を救った英雄がこの程度の攻撃をかわせぬようでは、地球外の螺旋族もさぞかしがっかりするだろうな!」
「うるせぇ!だいたい、久しぶりに会った客をぶん殴って持て成すのがお前の礼儀なのかよ?!」
「わざわざ辛気臭い顔を見せに来られるくらいなら、金ッ輪際会わないほうがマシだっ!」

ぐぐ、と額と両手をぶつけ合いながら、マウント取られたままでしばし罵声と怒号入り混じった口喧嘩。
最後に「もう勝手にしろ!」と叫び、「寝る」とだけ言い残してヴィラルは布団に入った。
(こいつ……人を殴っておいて、結局寝やがった……)

「電気消して、とっとと寝ろ。」
しかも、この期に及んで人に命令ときた。
不躾な態度に表情筋がひきつくのを覚えながら、隣の客用の布団にもぐりこんだ。

+++++++

屋外の穴倉での野宿と違う、暖かく快適な寝床に入れたというのに寝付けず目が覚めてしまった。
ぼんやりと天井を見つめる。

「眠れないのか?」
隣から声をかけられて振り返るとヴィラルも起きていた。

何を話せばいいのだろう。わからない。このまま狸寝入りしてしまおうか。
そんな思考を遮り、向こうが先に切り出した。
「これは寝言だが……さっきは、殴ってすまなかった。」
え、と驚いてあちら側に振り向くと、痛かったろうと続けた。
部屋の中には窓から月明かりが差し込んで夜目が利くほどには明るい。長い金髪はすぐに見つけたけれど表情までは見えなかった。
寝言の前置き付きか。素直じゃねぇなあ。
「こっちも寝言だが、その……セクハラみたいなことしちまって悪かった。」
真似して返す。暗くて見えないが、向こうも笑ったような気がした。

「でもほんと、人に殴られたのは久しぶりだ。」
アンチスパイラルとの死闘の後、全銀河全宇宙を救った英雄としてシモンの名が知れ渡った。
その功績は地球人はおろか全宇宙の螺旋族から賞賛を受けることになる。
だが成すべきことをしただけのつもりだったシモン本人にとってその賞賛は当惑にしかならなかった。
会う人、行く場所。どこにいても"銀河の大英雄シモン"の名が付いて回り、人々はシモンの顔を見るたびに尊敬の念を抱いた。
それがやがて畏敬の念、過剰な好奇心、力への畏怖、あるいは嫉妬となり、重くのしかかった。
神様でも見るかのような扱いの煩わしさから逃れるように、シモンは大グレン団のメンバーの前から姿を消したのだ。
それからはあてもない一人と一匹だけの放浪の旅。
銀河の大英雄シモンのことなど誰も知らない場所こそが安らぎの地だと信じて。

(でも結局、何十年もかかっても大グレンから離れられなかったか……)
天井に視線を戻して安堵のため息。なんともお粗末な皮肉が可笑しくて思わず笑ってしまった。
突然笑い出して気でも狂ったのかと心配した彼女が身を起こして覗き込んでくる。
なんにせよ、それをガシっと抱き寄せてひとこと。

「殴ってくれてありがとうな、ヴィラル!」
「はぁ!?」
腕の中で素っ頓狂な声をあげた。

彼女の顔から血の気が引き、毛も逆立って暴れだす。
「訳が分からん、どけ、はなせ!このど変態!」
しまった。いろいろすっ飛ばして発言したら、突然のマゾヒスト宣言と思われたらしい。
「待て、語弊があるがアメムチとか亀甲縛りとかそっち方向の話では……」
「真顔で変な用語を口走るな!」
聞け、いや放せだの、掴まれた手から逃れようと必死のヴィラルとそれを引き止める俺。
(くそっ、言いたいことも言えないじゃないか!)
苛立ちにカッとなり、強引に腕を引き細い肩を掴んで布団へと押し倒す。
一瞬苦悶の表情を見せるがそれでも抗おうとする。
「おとなしく聞けよ、暴れん坊。」
手首を押さえ、とっさに彼女の唇を俺のそれで塞いだ。
勢いに任せ開いた口内に舌を挿し入れ口蓋をくすぐる。
「んん……!」
突然のことに驚いたのか、ヴィラルは抵抗に迷っている。互いの呼気がくすぐったい。

やっと静かになったか。長くはなかった束縛を解き、隻眼を見据える。
「久しぶりにお前と会って大グレン団にいた頃を思い出したんだ。
 うまくいえないが俺は、英雄呼ばわりされて人に担がれるより
 お前とバカ喧嘩している方が性に合っているというか、なんというか……」
最初は威勢のよかった声がだんだん尻すぼみになっていく。なにかすごく恥ずかしいことを言っている気がして顔が熱い。
緊張して心臓がバクバクと音を立て、情けないことにもう目もあわせられない。
「お前といると、気持ちが安らぐって言うか……」
ああ、今すぐドリルで穴を掘って潜りたい。
「いきなり何を言い出すかと思えば……」
オッサンの情けない様に呆れたようにため息をつく。
いっそ、けちょんけちょんになるまで暴力つきの罵倒をされたほうが救われる。
「だが、たまには意見の一致することもあるんだな。」

ヴィラルの続けた言葉は罵倒でも皮肉でもなく。
あっけにとられてしまって意味を理解するのに時間を要した。
どうやっても信じがたい結論にしかならない。落ち着け、つまりこれは。
「もう一度聞くけど、いま……なんていった?」
「……なんでもない。」
「いや聞いたぞ、確かに聞いた。」
「なんでもないと言っているだろう。」
朴念仁と呟き、俺の下でぷいっとそっぽを向いてしまった。
開いた口がふさがらなかった。
今コアドリルがあればスパイラルネメシスが起こる、ギミーに預けてよかった、などとどうでもいいことを頭の片隅に寄せる。

久しく忘れていた感情の昂ぶりに思わず上半身を引き上げ、ぎゅっと抱きしめた。
柔らかい髪ごと頭を寄せて。
「……シモン、いたい。」
身じろぐヴィラルにわりぃと謝り、すぐさま離す。
そこにちょうど月明かりが当たり、薄闇の中に淡く色彩が加えられた。
柔らかい色みの金髪と、それを濃縮したような深い金色の瞳。

彼女の瞳はジーハ村にいた頃に掘り当てたお宝の石によく似ていた。
後でロンに聞いたらその石はコハクというらしい。
きらきら光る石がひどく気に入って、子供の頃とても大切にしていた記憶が蘇る。

はにかんでいるのは夢を見ているせいだろうか。

もう、放したくない。

彼女と布団の中で互いに向き合うようなり、寒くないようにと毛布をかけてやる。
ふと、彼女の長い髪が乱れているのに気づいた。
顔にかかった髪を指ですくって耳にかける。
くすぐったそうに目を閉じ、長い睫が目元を飾る。そこにひとつふたつと口付けを落とした。
少し躊躇いながら腕が脇をくぐって背中にまわされる。
男と寝た経験が少ないのだろうか。顔を見やるとやや不安げに強張る表情。
抱き寄せて安心しろと言い、頭を撫でてやった。そしてもう片方の手は背中に下ろす。
「んっ……」
一文字に縛られていた唇から僅かに声が漏れ出した。

胸元の地肌から地肌へ、じんわりと熱が伝えられる。
先ほどから鎖骨から胸部にかけてを容赦なく圧迫してくる胸は男を誘惑した。
(それにしても)
じっくりと抱き合ってみればその骨格は折れてしまいそうなほどにか細いことに気付く。
記憶よりも体つきが随分と女らしくなったように感じてはいたが、いざ抱いてみるとさらにそう感じた。
かつて筋張っているように見えた背中は、今では程よく脂肪を蓄え、なだらかなくびれの曲線を描く。
兵士として鍛錬され、ゲリラの厳しい生活に明け暮れていた頃と比して、そこそこに恵まれた生活を送っている証だろう。
しかし、長い髪でこれを覆ってしまっているのは少しもったいないように思えた。
背筋を撫でる。声を出すことを堪えているようだが、震えた息は隠し切れずに首筋をくすぐる。
強がりな性格がそうさせているのだろう。けれどそれでは面白くはない。
子供のような悪戯心が疼いた。

手のひらを背筋から、引き締まった臀部に移す。
ぴくっと僅かな反応を示したがそれ以上はなにも言わない。
触るか触らないかぐらいの距離感を保ち、さわさわと手を這わす。
たまに手を止めたり、背筋に逆戻りしたり。不規則に刺激を与える。

「……ぅん……」
しばらくすると自ら強請るように腰をくねらせてきた。
「仕方ねぇな。」
尻肉を掴み円を描くようにこねてやると、身を捩って応えた。
少しずつ感じるようになってきたらしく、手の動きに合わせて腰を擦り付けるようになる。
尻をひと際強く鷲掴むと、ヴィラルは驚いて艶のある声で鳴いた。
「っ……ぁっ……」
子供をあやすように頭を撫でからかうようにどうかしたのかと、耳元で囁いた。
肩をすぼませ必死に声を押し殺し、胸に押し当てた頭が横に振られる。
強情な奴だな。

尻の愛撫を止め、浴衣の裾を引っ張った。
するすると布地が捲り上げられて、そこから太股に手を忍び込ませる。
かさつく指ですべらかな肌を直接触った。
「……はぁっ……ぁ……」
上下に太股をさすってやると切なげな声が漏れる。
俺の着物は背中に回された指が握られているせいで、後ろに引っ張られた。
太股を掴んだところでヴィラルは音を上げる。
「シモン……もう……」
ひくひくと体は震え、今にも泣きそうな声で。
「ああ、わかってる。」
もう限界なんだろ?

内股の中に指を潜入させ、すぐさま股の少し前に指を充てがう。
「やぁっ……!」
ヴィラルはひときわ大きく嬌声をあげた。
既に湿り気を帯びた下着の上から肉芽を探る。
「……あぁっ!」
彼女がよく啼くポイントを見つけ、その周りを優しく愛撫する。
小さな場所にも関わらず、ひと回りする度に声をあげた。
呼吸は喘ぎとなり、刺激を受けるたびに美しい背中がしなやかに反る。
「うんっ……っ……いやっ……!」
次第に大きくなる豆を左右に転がすと余りの刺激の激しさに悲鳴のような声があがる。
湿り気の増した下着がくちゅくちゅと淫らな音を奏で、その音でさらに彼女は感じているように見えた。
俺の胸から顔が離れた。
「シモンっ……!」
今にも泣き出してしまいそうなほど切なげな表情で哀願。
肉芽をひと際強くつつくと、彼女は俺の腕の中で絶頂を迎えた。

布団に仰向けでぐったりと倒れこんだヴィラルの目じりは、色味を帯びて潤んでいた。
乱れた髪を布団の上に散らして、自身を抱くようにした腕の間ではだけた胸が上下している。
凛々しくも雄雄しい昼の姿とは全くの真逆の姿がいま、自分の手の中にあった。
「……ヴィラル、イッちまったな。」
愛液に濡れた指を眺めながら呟いた。

自らを守るように固められた腕は容易く解けた。
上向きになってなおその形を崩すことのない見事な乳房は、濃紺の布一枚だけで守られている。
その様に身体の中心に熱い血が集まるのを感じながら彼女に跨り、手を滑り込ませてやわやわと揉みあげる。
「……あッ……!」
程よい弾力と柔らかさ、ほんのりと手を温める熱が指から伝わってくる。
汗ばんだそこからは女の匂いが僅かに立ち上り、肌は指に吸い付くほどみずみずしい。
くすぐったさに身を捩るもその抵抗は今までよりも弱弱しく、口内に忍ばせた舌は素直に受け入れられた。
胸の愛撫を両手で施しながら口内を貪る。
舌の裏、歯列、頬の裏となぞると呻く声がくぐもって響いた。
甘い攻撃から逃れようと胸板を押しのけようとする獣の腕は、もはや無力であった。
「シモン、離せ。」
唇を振り切って解いたヴィラルは最後の反抗にと、すでに固くなった俺の中心におずおぞと指を這わせた。
甘く痺れるような衝撃が背筋を伝う。
たどたどしく施されるその感触は、それでも俺を昂ぶらせるには十分なものだった。
乳房の頂を指でくにくにと嬲ればよがる声で泣き、慰めに回された彼女の手が一瞬止まる。
すぐさま動きを取り戻して、竿から袋までをじわじわと攻めたてた。
そんなやり取りをしながらしばし、互いに高めあう。

ふと、一点の不安から乳房をまさぐる手を離して問う。
「このまま……本当にしていいのか?」
ここでやめることも出来るぞ、と。

着物の肩口から二の腕とするすると着衣を剥いていけば、不規則に刻み込まれた傷が露となる。
この傷も、この傷も……戦士として負った名誉の勲章か、それとも俺が与えた傷なのか。
(余りにもお前のことを知らな過ぎる。)
そのひとつひとつどれもが消して浅くはない古傷から、その歴史を辿るかのように。
多くは語らない傷跡の中で、最も大きく刻まれた胸元の十字傷につつ、と蛇のように指を這わす。
乳房の脇から鳩尾、帯を緩めてその更に下のくびれを撫で、へその周りをじわじわと。
「ふっ……ん……」
時折、からかうように黒いレースの下着に忍び込ます素振りを見せ、すぐさま腹へ戻る。その繰り返し。
最後の最後でお預けを食らいってなお、新たな快感に酔いしれたヴィラルはついに降参した。
「シモン、もう……」
膨張した下腹部が彼女の太股に布越しで熱を伝えている。
限界が近いのを分かっているのにあえて問う。
「どうしてほしい?」
「……。」
その答えを口にすることへの羞恥と、快楽への期待との間で躊躇う。
股間の熱を押し当て、更に問う。
「俺が欲しいか、ヴィラル?」
僅かだが口の動きだけが言葉を綴る。欲しい、と。
それが彼女の精一杯の譲歩だった。

音だけの軽いキスをして、彼女を横たえる。
「言っておくが、俺もあまり手加減できないからな。」
あまりにお前が、色っぽいから。
下着を剥ぎ取り白い足を持ち上げると蒸れた女の香りが鼻腔を突いた。
そこに身体を割り込ませ、張り詰めた肉茎を取り出す。
それを数回しごいてからすっかり濡れそぼった中心にあてがった。

「いくぞ。」
腰を掴んで熱く滾る肉棒を捻じ込む。
「……ああッ……はぁっ……!」
行き処を失った獣の手がシーツを掴んだ。身を貫く侵入者に泣き喘ぐ。
先端からうごめく肉壁が包み込む感触は温かく心地よい。
「くっ……」
捻じ込む度に狂おしく乱れる表情と、時折まとわりつく肉が快楽を呼び起こして意識を持っていかれそうになる。

ひとつに繋がり動きを落ち着けると、彼女から吐息のような喘ぎが漏れた。
上半身を抱き起こして目尻に溜まった涙を舐めとり、子供をあやすように背中をぽんぽんと軽く叩いて慰める。
ヴィラルが途切れ途切れの息の間に、苦しげな表情で気遣う。
「痛……くないか……シモン?」
馬鹿だな、痛いのはお前のほうだろう。余裕ぶっている割には、結構きつそうじゃないか。
俺は大丈夫だ、と乱れた髪をまとめてやる。
辛いなら一旦やめるか、と聞くとこのままがいいとすぐさま首を振る。
我慢強いけど、強情な奴。
けれど、今はそんな様すらいとおしい。

せめて気が紛れるようにと、乳房を下から持ち上げて頂を嬲ってやる。
「いやぁぁ……ッ!」
接合部がきゅうっと締め上げられて堪らない。
誘われるようにゆるりと胸を揉む動きに合わせて腰を揺さぶる。
「……あっ……あっ……」
吐息に甘いものが混じり始める。
彼女自ら腰を揺らし、繋がった場所が濡れて淫らな音が耳をつく。
徐々に速度を上げて突くけばやわらかく受け入れられ、引けば肉が離すまいと絡みつく。

「……いっ……ぁあっ!……ぁあ!……ン……」
突き上げる度に胸がたぷたぷと揺れ、乳首を口に含んで舌で攻めあげる。
「ひゃぁっ……!」
舌でくりくりと苛める俺の頭を、手で押し返そうとする。
けれどそれとは裏腹にきつくなった締め付けの部分が、感じていることを物語っていた。
「こんなに感じて、いやらしいな」
「あっ、ちがっ……!」
押し返す腕ががくがくと震えて心許ない。どこもかしこも敏感になって触るだけで感じるほどに高まって。
「シモン、また…来る……」
「俺も……そろそろ限界だ。」
そう告げると両足を抱え、緩急をつけて腰をうちつけた。
「はあっ……あッ!……ああッ!」
首に回された手が、爪を立てないように必死にすがりつく。ゆさゆさと揺らすように、その後は小刻みに。
水音と肉がぶつかり合う音。互いの息はあがってただひたすら熱を分け合う。
意識が白く飛ぶと同時に、待ちに待ったものが一気に溢れ出る。
「くっ……!」
「ひぃっ……ぃあああぁああぁああぁッ…!!」
開放の悦びとともに肉壁の中へ熱い奔流を叩き付けた。

同時に達してびくびくと震える彼女に2度、3度と念を押すように残滓を流し込む。
「はぁッ……はぁ……」
一気に脱力したヴィラルを横たえて、繋がったままとろけるような長くて深いキス。
それでも舌は求めに応えて絡めてくる。
ずるりと自身を引き抜いた。白濁した液が秘部からトロトロと流れ出る。
布団を汚さないように近くにあったタオルでそっとふき取り、ほとんど脱げていた浴衣にくるんだ。
ヴィラルはうつぶせになって呼吸を整える。意識こそ保っていたが、まだ思うように身体が動かないらしい。
(年甲斐もなく頑張っちまったなぁ……)
頭を撫でてやった。彼女は満足そうに微笑んだ。

彼女は薄闇のなか、手探りで感触を見ているようだった。
「ヴィラル?」
「随分と硬いんだな。」
獣の手が俺の手のひらに触れた。
指は力仕事で太く筋張り、年相応に皺の刻まれている。
ドリルのまめや、まめをつぶして出来たタコも長年の穴掘り生活でたくさんこさえた……
「……不細工な手だ。」

こんな手は人に自慢できるものじゃない。
けれど彼女は違った。
「不細工でもいい。こんなに優しい手は……はじめてだ。」
手のひらにキスを施すとそのまま、俺の右手を胸の真中に置き抱く。
彼女は控えめに、でもたしかに微笑んでいた。
うれしいとか、離したくないとか、そんな感情がどっと溢れて。
堪らずぎゅうと抱きしめた。

+++++++

あの後そのまま寝てしまった。
目が覚めた頃には、奴は何事も無かったかのようにケロリとしていた。
回復力と若さの速さもあるが、最中に見せたあの甘い表情など微塵も残さず、剃刀のように鋭い視線に戻った。
精神的な距離感が再び昨日までと同じ地点に戻り、安堵する。

いっぽうこちらは、事後のけだるさと疲労で布団の中から這い上がれないでいた。
日頃の穴掘りでは使わない関節がひきひきと悲鳴を上げる。
(……情けない。)
ああやだやだ、と己の老いをのろった。