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定期報告も兼ねて訪れたホテルのスイートルーム。
いつもの様にパッとしない戦果に仏頂面のアイツも、きっとこの報告を利けば少しは明るくなるんじゃないか?
なんて、ウキウキしながら茶菓子をかじりつつ話し相手が来るのを待っていると、部下への指示を終えた相方が帰って来た。
「で、今日は?何かあったんですか」
「言ってくれるな、デコイ!何かなきゃ来ちゃダメなのか!?」
入るなり早々疲れた顔してぞんざいな切り返しをされてむくれるが、今日はそう言う日じゃない!と思い直してサスーンは不敵に顔を歪める。
「ふ、ふふふっ…そんなに私を軽視しない方がいいぞデ・コ・イw」
「だからデコを叩かない」
何時ものとおり広いおでこをペチペチ叩くと、何時ものとおり嫌そうな顔をして手を払う。
ツーと言えばカー…長い間一緒にいた間柄、もう家族みたいなものだ…
―だから、祝福してほしかった―
「で、本当に何の用なんです?僕は貴女と違って日本支部の指揮もある。暇じゃないんです」
くだらない話ならお菓子持ってとっとと帰れ。と付け加えるデコイにサスーンは大仰に溜め息を付いた。
「大丈夫だ安心しろ。今日は大事な話があるからきた。」
その言葉に興味を引かれたのか、相手の口から「ほぉ」なんて言葉が漏れ聞こえ、少し得意になって胸を反らす。
「聞いて驚くなよ!実はな……妊娠したんだ!」
《ほらみろ!キョトンとしてる!》
と相手の反応にほくそ笑んだのもつかの間…肩をつかまれ、激しく揺すぶられる。
「誰だ!?誰の子供だ!」
「だ、誰って堀田に決まってるだろ」
と固有名詞を出した途端、ロシウの顔色が変わった。
「何を考えてるんだ君はっ!」
冷静沈着な彼にしては珍しく声を荒げて抗議する。
《おかしいな?ロシウならこんな簡単な事分からないはず無いんだが?》
と内心小首を傾げつつ、完璧な作戦の説明をする。
「落ち着けロシウ。考えて見ろ、ラガンは堀田博士の息子の志門に受け継がれたんだ、なら私が奴の子供を生めば自動的にラガンはその子供に引き継がれるだろう?どーだ!完璧なs」
パンと軽やかな音の後に、頬に痺れを感じる。
「ろしう…?」
「貴女は何も解っていない!」
険しい顔つきの幼馴染みに、頬を張られたのだと理解した。
《でも、何故?》
「今すぐ下ろせ」
「やだ!」
とんでもない宣告に突っ撥ねると、肩に力が掛りソファに押し倒される。
「嫌だ!ロシウ痛い!」
今の今まで昂揚していた気分が一瞬にしてぶち壊されて、腹立ち紛れに胸を押し返して見るが、彼は揺るがなかった。
《一体いつの間に、こんなデカくなったんだ?》
「君は何も解っていない。僕の気持ちも、今置かれている状況も!」
まったく、何時までお子様扱いする気なんだ!と自棄っぱち気味にそっぽ向くと、素早く元の位置に戻されてしかめっ面と真っ向勝負になる。
「大事な事だ。きちんと聞け」
やや和らいだ口調に、流し目をくれると疲れたため息が漏れ聞こえる。
「君が言った完璧な作戦には確かにと言える処がある。だけど、それは君とその子供を利用していち早くラガンを手に入れる事も可能…なんだ」
わかるね。と今度は諭すように言われた言葉に愕然とする。
そんなこと考えてもいなかった。
「ロシウ…どうし、よ」
予期せぬ事態に身体が震える。
「下ろす気は無いんだろう」
再三の確認にうなづくと、肩に掛けられていた力が抜けて開放される。
「そうか…そうだな。諦めるのは君じゃない僕だ」
「…ロシウ?」
何の事を言っているのか尋ねても、彼は頭を振るだけで答えようとはしなかった。
《諦める?何を?》
一変して穏やかな顔つきで私の髪を梳く幼馴染みに、酷く不安な気持ちになる。
「ロシウ!私は…」
言いかけた言葉に人差し指をあてがって、彼はまた首を横に振る。
「ヴィラル。君には死んでもらう」
突然降って湧いた殺害宣言に目を見開くと、ロシウがさもおかしそうに笑った。「違うよ。死んだ事にしてあげるから……君はあちら側に行けばいい」
そんな顔で頭撫ぜられても嬉しくなんか無い!
こんなはずじゃなかったのに!
胸の中をグチャグチャにかき回されて、何がなんだか処理が不能で、訳が解らなくて、気付いたら子供みたいにワンワン泣きじゃくっていた。
「ろしうのバガァ!おめ、おめでとうって、いってほしかったのにっ!」
胸にしがみついて駄々を捏ねると、優しく抱き締め返される。


結局何処に行ったらいいか解らずに、河原の土手に座り込み、渡された手紙をマジマジと見つめる。
『この手紙をニアに見せればいい』
頭の中でさっき聞いたロシウの言葉がリフレインする。
『さようならだね。ヴィラル』
手紙を差し出しながら、寂しそうな顔をする。
《なんで?なんで?なんで?なんで!?》
いったん引いた波が帰って来て、ボロボロ涙が零れる。
困った時はデコイに相談!が鉄則だったのに、何だか違う!
「ロシウの…ロシウのバカーッ!」
「誰が馬鹿なのよ?」
思わず対岸に投げ付けた言葉に、予期せぬツッコミが入ってずっこける。
「う!ううう宇津和!?」
「それ以外に誰に見えるって?」
逆光で顔色が伺いにくいが、真っ赤な髪に勝ち気な言回し…宇津和庸子本人と見て間違いないだろう。
「何の用だ?」
「いや、それはこっちのセリフ…こんな処でピーピー泣いてどうしたのよ?」
なんて、言葉とは裏腹に心配そうな顔で除き込まれたら、戦意が失せるだろ!
やりきれない気持ちで、手紙を睨む。
「何?ラブレター?」
アンタ意外と美人だしねーとか茶化しつつも、そんな雰囲気じゃないな。と察したのか、しばらく黙って手近に在った石を河へ投げる。
「悩み?女の悩みなら聞いてやらないこともないけど」
「相変わらず威勢がいいな…」
「アンタに言われたくないわよ」
これでは売り言葉に買い言葉だな…と諦めて、話す覚悟を決めた。
「実は……妊娠したみたいなんだ」
「ふ~ん……………って!えぇええええっ!?」
案の定、元々大きい目を見開いて半身乗り出す庸子にため息一つ。
「もう一ヵ月生理が来てないんだ…」
「え?えっ!?って事は相手はもちろん志門なんだよね!?」
ハッキリうなづくと、息巻いていた彼女の肩から力が抜けた。
「じゃあ…その、そういうことしたんだよ…ね?」
顔を髪と同じぐらい赤くして問う少女に、またうなづくと赤い頭がガックリうなだれた。
「だって、堀田が家族っていいねって言うから…だから、子供がいたら家族ができるなって思って…」
我ながら、安直な考えに落ち込む。
だが、庸子はそうは取らなかったのか、慈愛に満ちた顔つきで私の腹を撫ぜた。
「アンタもいいトコロあるじゃない。そっか、志門に家族か…」
しみじみと付け加えられた言葉に、思わず胸が熱くなる。
「ところで、このこと志門も知ってるんでしょ?」
ごく当たり前な調子で投げ掛けられた問いには、首を振るしかなかった。
「え!?何!何で当人が知らないのよ!」
「だって!言ったら口聞いてくれなさそうだったし…」
唇を尖らせて言い訳がましく言うと、庸子は顎に手を当て明後日を見る。
「そーいえば、今志門学校で改修工事してるはず」
これから行けば間に合うんじゃない?との提案に勢いよく立ち上がる。
「そうだな!もう後には引けないんだ!ヴィラル・サスーン腹を括るっ!」
善は急げ!と駆け出す正に直前、複雑な表情の庸子がスカートの裾を引っ張って止めた。
「今気付いたんだけど…アンタ病院とか行って確認した?」
「…うぅん。してない。」
「…アンタバカ!?」


ドラッグストアの一画、ブロンド美女とどっかで見た事ある女子高生が、何やら言い争いをしつつある物を物色している。
「妊娠検査薬って、庸子お前まさか!」
棚入れのため運んでいたポテチの箱を足の上に盛大に取り落とすと、血相変えた庸子に通路に引っ張り込まれた。
「ちょっと!何で神名がここにいるのよ!」
「何でってバイトに決まってんだろ!」
口を塞がれているから小声にはなったが、相手にはしっかり伝わったみたいだ。
「んもー!ツイてないなー…神名のバイト先だって知ってたら、避けたんだけど…」
「何だよ。そんなに知られたくねー奴の子供なのかよ!」
「違うわボケッ!」
また地雷を踏んだらしく、踵落としが脳天に直撃した。
「ってーな!」
「馬鹿神名!もっとデリカシーってもんを考えなさいよ!って、そこ!逃げない!」
棚の陰でコソコソしていた女の襟首掴んで自分の側に引き寄せると、一仕事した!と言わんばかりに庸子は鼻を鳴らした。
「ほら!これはアンタに必要なんでしょ!」
真っ赤になりながら妊娠検査薬を女に押しつける。
《というか…この女どっかで見た事あるよな?》
「…って、あーっ!お前志門んとこの居候ねーちゃんか!?」
やーっと思い出せてスッキリしたってに、相手のねーちゃんは頭一つデカいくせに、庸子の陰に隠れてるつもりなのか必死に屈んでいる…
「神名のバイト先なんて聞いてなかった!」
「仕方ないでしょ。私だって知らなかったんだから…」
とか何とか二人でゴニョゴニョ喋ってる。
《ん?ちょっと待てよ…この状況下で妊娠検査薬で居候ねーちゃん?》
「ま!まさモガッ!」
しーっ!と勢い良く美女二人に口を押さえられて、ちょーっとムラムラしなかったっちゃー嘘になるが、とりあえず漢神名!ここは名誉は保って口を噤む。
「まぁ、解ったと思うけど、そう言う事情なのよ…ここは穏便に。誰にも言わないでいてくれるわよね?」
あったり前の条件に、俺はグッと立てた親指でクールに胸を叩く。
「俺を誰だと思ってやがる!」
キメ台詞でバッチリキメると、二人ともホッとしたように俺から離れた。
「まいどありー!」
きゃいきゃいと遠ざかって行く背中に、嬉しさが滲んで口元が緩む。
「いやー。志門も男になりやがったな」
「誰が漢になったって?」
「いやな、俺の弟分の志門が…って騎丹!?」
振り返るとポケーッと突っ立ってる騎丹がいた。
《あちゃー…》


キーキーと金属音が、おおよそ似つかわしくない保健室から聞こえる。
しかし今はそんなこと気にしてはいられない!
ついさっき購入した妊娠検査薬を握り締めて、思い切りよく扉を開ける。
「堀田!私妊娠したかもしれない!」
勢いに任せて言い放つと、ピタリと音がやむ。
「え…今、なんて…?」
「妊娠したかもしれない。」
もう一度言い直すと、志門の手から愛用の電動ドリルがこぼれ落ちる。
「え?」
「これから検査するから生き証人になってくれ!」
握り締めていた検査薬を突出して見せると、堀田の顔色が変わって何か言いた気に口が開かれるので、慌てて逃げ出した。
「あ、先生!」
延ばした手空しく、サスーン先生は脱兎の如く走りさって行った。
「フフッ…」
「笑い事じゃないですよ」
物陰から聞こえる笑い声に、志門はガックリうなだれる。
「あら?でもこれで不審メールの意味が解ったんじゃない?」
何が楽しいのやら、ニコニコしながら回転イスに腰を下ろした理野先生のおっしゃる通り…
先ほどから引っ切り無しに送られてくる『おめでとう』なるメールの意味は理解できた。
だが、肝心なのはそこではない。
「妊娠って…」
何だかここ1、2週間心当たりになることしかないorz
「あの人、思い込んだら一直線だから…」
「一途でいいじゃない」
確かに。
でも、それには肝心な事が抜け落ちているんだ…
と考えを巡らせていたら静に扉が開いて、庸子に付き添われながら先生が帰ってきた。
「残念なお知らせだ…生理来た」
何だかじんわり広がる安堵感に溜め息を吐き出すが、当人はよほどショックだったのか、ボロボロ泣き出した。
「先生?」
「やっと、堀田に家族作ってあげられると思ったのに…一人で騒いで、みんなに迷惑かけたのに……生理きたぁあああっ!」
ふぇええんとか何とか、凄く頼り無く泣く彼女をそっと抱き留める。
「一人にしてごめんなさい。ホントなら俺も一緒に受止めなきゃいけなかったのに…」
髪を梳いて宥めると、小さく頭を振る感覚が伝わってくる。
「そうだ。先生、迷惑掛けた人に俺も謝りに行くよ」
「ふぇ?」
「だって、先生一人に悩ませた責任は俺にあるんだし、今度は一緒に行くよ」
もう一人にしないからね。
と言った途端、腰に回されていた細腕に力が籠って、背骨が軋む。
「いたたたたっ!痛い!先生、痛いっ!」
「あ!堀田!死ぬな、置いて逝かないで!」
て、夫婦漫才が始まった横では、庸子とリーロンがお菓子パーティを始めていた。
「まったく、付き合い切れないわよ」
「まぁ見てる分には楽しいからいいんじゃない?」


例の如く夜中、恐る恐るダイヤルを回す。
『もしもし…』
受話器の向こうから聞こえた声にホッとする。
「ロシウ切らないで」
向こうも声音で誰だか気付いたようで、言われた通り受話器を置かず押し黙った。
「実は…妊娠は勘違いだったんだ」
はぁ?みたいな空気の抜ける音が聞こえて、怒鳴られる!と身構えたが、待てど暮らせど怒号は飛んでこなかった。
「ロシウ?」
『いや、以後気をつけてくれ』
様子がおかしい…まだ怒っているのか?と尋ねると、苦笑のような息遣いを感じる。
『もう君とは二度と会えないと思っていたからね。ホッとしたと言うか、肩の荷が下りた心地だよ』
ロシウも自分と同じ事を思っていたのか…と思うと、思わず笑みが零れる。
「私も。お前に祝福されない結婚も出産もしたくない。さよならはもう懲り懲りだ」
実感を伴った言葉にお互い笑いが止まらなくなる。
『なら、僕が認めるような相手を見つけるんだな!』
「いってくれるな!デコイのくせに!」
『ヴィラル・サスーンに言われたくないな』
売り言葉に買い言葉…ノリもテンポも全部把握してる。
「これからもよろしくな。ロシウ・デ・コ・イw」
『君の面倒見切れるのなんて、僕しかいないからね…もう暫く隣りにいるよ
この感じが心地良い…
願わくば…ずっと…