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「ぇくれああああああああああああああっ!」
と騒がしい…なんて言葉じゃ表し切れないほどの騒音が、要職たる超銀河大グレン艦長の私室から外の通路に響くほどに木霊している。
「ぇくれああああああああああああああっ!私のエクレアは何処だっっ!」
バタンバタンと手当たり次第に戸棚という戸棚をひっくり返し、引き出しという引き出しを引っ張りだし…と目茶苦茶に荒れ果てた部屋の中には目を血走らせ、腰に届く程の髪を振り乱した獣がいた…
「ぇくれああああああああああああああっ!ぇくれああああああああああああああっ!」
とまるでその物の名を呼べばヒョッコリ出て来んとばかりに絶叫する獣人に、戸の向こう側で書類片手に艦橋クルーでもある青年は立ち尽くす。
「これは帰るべき…かな?」
独り言とも自問とも付かない呟きに空しく溜め息を吐くと、青年はシャキッと居ず舞い正して来客用チャイムを鳴らす。
すると中で暴れ回っていた音がピタリと止んで、幾分取り澄ました声音で部屋の主が応答する。
『何かあったか?』
「副艦から艦長に渡して欲しいと頼まれまして…」
と玄関口に備え付けられたカメラに書類を捧げて見せると、扉が光の早さで開けらて、サッと中に引きずり込まれた。
「か、かかかかか艦長!?」
訳が分からず目を白黒させる部下の口を肥大気味の手で押さえて封じると、女はのっぴきならないと言った調子で耳打つ。
「どうやら私の部屋に侵入者が居たようだ」
え?と身動く部下を更に押し止どめると、素早く室内に視線を一巡させて息を潜める。
「私のエクレアが消失したんだ」
思わずな~んだと言う視線をバイザー越しに投げ掛けると、獣の直感なのかはたまた素なのか…顔を真っ赤にして抱えて居た青年から半身離れて、顔の前でブンブン手を振って否定のポーズを取る。
「違う!決して昨日の夜寝ぼけて食べた訳じゃないからな!明日の非番の為に取っておいたんだからな!」
だから食べる訳ないだろう!と聞いても疑ってもいないのに、何回も言い訳する上司に始め青年は困ったなと頭を掻いていたが、やおら部屋に備えてあるPCの前に座って電源を入れる。
「何をするんだ?」
覗き込んで来る相手にやや気恥ずかしさと嬉しさで口元がにやけるが、とりあえずそれ以上外に出さないように押し止どめて、向き直る。
「侵入者が居たならPCからデータが盗まれていないかチェックしようと思いまして」
「そんなことできるのか?」
普段の業務上PCと触れている時間が長いので、セキュリティチェックや外部接続履歴なんかを引っ張って来るのはお茶の子再々…
なので、青年は憧れの艦長の問い掛けに言ってみたいセリフNo.1を言ってみることにした。
「俺を誰だと思ってるんですか?」
案の定、艦長はニンマリと口角を吊り上げて《いつもの笑い》を見せて青年の頭を小突く。
「言ってくれるな、若僧!そこまで言うなら任せた!」
「はい!」
正に天に舞い上がらん気持ちで、キーボード操作を始めたみんなの心の友グラさん。

から溯ること二時間…

今だ帰らぬ主を待つベッドにゴロリと寝そべる男が一人…
「折角非番前にドッキリ部屋が綺麗になってるよ!スゲーッ!作戦だったのに、アイツ部屋片付きすぎっ!」
とか何とかぶちくさ無意味な文句を垂れつつ、男はゴロリゴロリと人様のベッドでのたうち回った。
グ~キュルルル
挙げ句、腹の虫を鳴らしてみせたり…もう若くは見えない外見とも相俟ってオヤジ臭さが漂う。
「…ブータ。腹減ったぁ」
と訴えられたブタモグラが、慌てて逃げ出してしまうと、男はやれやれと言った具合に部屋の中をウロウロ歩き回って《ソレ》を見つけた。
「エクレア発見!いただきまーす」
ムグムグと咀嚼しつつ、男はエクレアが乗っていた皿に見覚えを感じて、明るい場所でもう一度確認する。
「あ…」
見覚えがあるのも当たり前だ。これは以前自分がプレゼントしたティーセットのソーサー。
懐かしい思い出に一人でニヤニヤしていてふと思い至った。
《俺エクレア食べちゃって良かったのか?》
考えれば考える程良くない気がする…
「…ブータ。ちょっと出かけようか」
「ブ~イ」
心配そうな顔つきのブータが後に付いて来るのを確認して男は部屋を後にした。



それから数時間後…
ケーキ屋から大きな箱を抱えて出てきた男は、呑気に鼻歌何か歌いつつ繁華街を歩き出した。
彼がこの艦を使っていたのは戦時真っ直中で、艦自体もデカ過ぎて隅々まで見て回ることなんて無かった。
そんなこともあって男には、賑わいと人々の息遣いが感じられるようになった此処がとても嬉しく感じられた。
と、彼の視界の片隅に映画の広告塔が見えてしばし立ち止まる。
《映画デートもたまにはいいかもな~》
と湧き上がる思考を脳内に現れた思い人が《忙しいから無理》と棄却した。
「ですよねー…」
どっと老け込みつつ再び歩み始めると、頭の上で大人しくしていたブータが急に暴れ出す。
「何だよ…ん?」
ブイッ!ブイッ!と短い足で必死に指し示している先にはレンタルビデオ店が……
「ブータ!お前天才!」
天才ペットブータに称賛を贈ると、小さい体を目一杯満足気に反らす。
そんな姿に男も気分最高潮でウキウキと店内に入り込んだ。


馴染みのケーキ屋から箱二つ抱えて出てきた女は、申し訳無さそうに一つを隣りに立ってる部下に差し出す。
「いえ!お気遣い要りませんよ。どうせ上がりだからって書類のお使い頼まれたんですし」
と遠慮する青年にも食い下がって、今度は箱を押しつける。
「シベラに頼まれた仕事以外に、部屋の片付けから買い物まで付き合わせてしまったんだ。受け取って貰わないと困る」
グッと力の入った眉間に、青年が肩を竦めて箱を受けとろうとしたまさにその時!
「シモンが来てるらしい!」
「え!?シモンってあの英雄シモン?」
「今レンタルビデオ店にいるって!」
ウソー!マジー!とわ~わ~俄かに慌ただしくなった繁華街に、当の目の前に居られる艦長は暫くフリーズしていたかと思うと、瞳孔を糸のように細くして、渦中に飛び込んで行った…
「あ、かんちょ…」
延ばした手の先にはもう相手は見えなくなっていた。
「抜け駆けしようとした罰ですか?」
と天を仰ぎつつ、忠義者の青年は消えた御仁の後をトボトボと追いかける。


ビデオ屋のレンタルカード作るだけなのに、何でこんな大騒ぎになっちゃうかなぁ?
と自分のネームバリューに辟易しながら、ふと巡らせた視線に彼女を捕らえる。
「ヴィラル!」
こっちこっちと手招きすれば、目尻を吊り上げていかにも怒ってます的表情の癖にホイホイやってきた。
「こんなところで何をやってるんだ貴様はっ!」
「何ってDVD借りようと思って」
しれっと言う相手に思わず一パンぶちかましそうになって、公衆の面前だったと思いとどまった。
「何でまたそんな珍しい事…」
呆れ半分興味半分で投げ掛けた言葉に、男はデレッと相好を崩して頭を掻く。
「いやさ、お前忙しいみたいだから映画デートはできなくても、部屋で一緒にDVD観賞ならできるんじゃねーか?って」
ダメ?なんて年甲斐も無く可愛いポーズを取られてダメ!と言ってしまえる程彼女も怒っている訳では無かったし、むしろ嬉しく感じられたのでその場を穏便に済ませようと考え至ったヴィラルの目にそのタイトルが主張をする。
「獣に愛して?…君のアソコに天元t……シモン」
「ん?」
「歯ぁあああっ食いしばれぇえええええっ!」
公衆の面前で超銀河大グレン艦長ヴィラルの獣人パンチが、螺旋族の英雄シモンにクリティカルヒットした。
そんな修羅場に居合わせた哀れな一艦橋クルー通称グラさんは、その後憧れの二人のため目茶苦茶走り回ってキッチリ事後処理する。
そしてちゃっかり艦長オススメエクレアをゲットしたり…しなかったり?


スッカリ拗ねてベッドで背中を向けて丸まる部屋の主に、シモンは気まずいなーと三角座りをしながらケーキを頬張る。
「ヴィラル~ケーキ旨いよ」
「…それはよかったな」
ぞんざいに投げ返される返答に小さくない体を縮こめて、しょぼんとしながらブータの背中をなぜた。

「…ごめん若くないのに若げの至りした」
ポツリと零した弁解に、ようやっと背中が身動く。
「別に攻めてなんか無い。ただ、ちょっと恥ずかしかっただけ…だ」
起き上がったおかげで見える顔が紅潮しているのを見て
《そう言えばコイツも相当なネームバリューだったよなー》
とか何とかようやっと思い至り、せめてものお詫びにとケーキを差し出す。
「次からは自重しますorz」
「ん。頼む」
まくまくとケーキを咀嚼する彼女は一見仏頂面だが、纏っている空気は幾分穏やかなものに変化していた。
「なぁシモン…」
「ん?」
不意に問い掛けられて振り返ると、頬にクリーム付けながら真っ赤になってテーブルに置かれているパッケージを見つめている。
「あ、あわわ!片付け」「なくていい」
《獣に愛して》を手にしつつフリーズするシモンにヴィラルは頑張って二の句を継ぐ。
「一緒に見てもいいぞ」
ポカーンとしていた男の顔がみるみる明るくなって、散歩に連れて行って貰える子犬の様なまなざしで、DVDパッケージを広げてどれにしようかな?と始めた。
「なぁなぁヴィラル!獣に愛してと君のアソコに天元突破とトビタヌキ様が見ているのどれが良い?」
「べ、別にどれでも!」
と示して見せられた物品を一巡すると、中に見慣れない一作が混ざっていて一瞬思考が停止する。
「って何か増えて無いか?」
「あ?うん。何かお前の部下のバイザーかけた奴が、盛り上がるからオススメだって」
「……グラぁあああっ!」

―終われ―