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いきなりおやっさんと艦長女王の温泉旅行中という色々途中をすっ飛ばしすぎた状況からお送りします。



「そういえば、風呂上りっていうとお前に襲撃された思い出ばっかりだなぁ」
 部屋の内湯に肩まで浸かったシモンがのんびりとした口調で呟く。
 ばっかりだなどとは聞き捨てならない。風呂場で喧嘩を吹っかけたなんて憶えはあの20年前、リンカーネ刑務所のシャワー室でのただ一度しかない筈だ。

「その7年前もだよ。俺たちが山の中の温泉旅館に偽装したガンメンと戦闘して、なんとか勝ったけど素っ裸だったとこにお前がいきなり出てきて裸猿ども服を着ろー! とか叫んでたじゃないか」
 何だ、最後のは私の物真似か?
 ちっとも似てないと言うかそんな風には言っていないぞ。…たぶん。

 しかしそうか、考えてみればこの男も確かにあの場所にいた筈だ……筈なのだがなぜか思い出せない。おそらくあの時はカミナともう一度戦う事ばかり考えていたから、人間といえばカミナただ一人しか認識していなかったから、すぐ側にいたこいつの存在をずっと見落としていたのだ。

「はは、どーせ兄貴の裸しか憶えてないんだろ」
 呆れたような、お見通しだとでも言うような、かなり人の悪い笑みを浮かべた表情でシモンが言うものだから、自然と私の言葉も言い訳めいた響きを帯びてしまう。
「ち、違……じゃなくて、別に貴様らの裸を見るつもりで夜明けと同時に急襲を掛けたわけでは!」
「あん時ゃまだまだガキだったとはいえ、尻丸出しの恥ずかしい格好を敵だけど女の人に見られたのが結構ショックだったってのに、当の張本人はコロッと忘れてるんだからヒドイ話だよなぁ」
 どう考えても嘘だろうという感じの口調で、わざとらしく溜息をついて顔を覆ってみせる仕草が非常に腹立たしいが、実際私も本気で覚えていないので反論も出来ない。
「……っ!?」
 せめて何かひとつくらいは思い出して言い返してやろうと、しきりに考え込んでいたせいでいきなり手を掴まれたことに対しての反応が遅れる。
 はっと我に返った時には握られた手首がぐいと引かれ、湯船の縁に腰掛けていた体がバランスを崩して湯の中に引きずり込まれた。

「うわ……ぁ、ちょ、何す…っ………シモ、ンっ!!」
 流石に溺れるほどの深さでも広さでもない浴槽の中で、じたばたと暴れる体はすぐに掬い取られてがっしりとした膝の上に抱き上げられる。
「…人の裸見といて忘れてた仕返し」
 慌てて身を捩ってもみるが、背後から強く抱きすくめられていて逃げられない。
「だ…から、見ようと思って見た、わけ、では……」
 タオルで髪を上げて露わにされている首筋へ熱い息が掛かる。そのままじわりと口付けられる感触。
 上半身を拘束している腕はゆるゆると湯を掻き混ぜながら肌の表面を撫で回し、ところどころで指先が悪戯を仕掛けていく。
「ふ……! ……んっ、や…ぁっ……!」
 文句を言おうとしたところで胸の先端を捻るように抓まれて、思わず情けない声を上げてしまった。
 必死に抗おうにも私の弱いところを知り尽くした手指は絶妙のタイミングで刺激を送り込んできて抵抗しようとする力を削ぐ。

 今頃になってそんな昔のことで糾弾される不条理さに、その不条理さに文句を言ってやりたいのに果たせず、指先一つで良いように苛められてしまっている悔しさに目にはつい涙が滲む。
「お、お前だって私の…裸を見たり、触ったりしているくせに……」
「俺は忘れたりしてないだろ、ほら」
 シモンの掌が、指先が、体のかしこを縦横に這って弄り回し、私の体は以前こういう風にされた時にもやはりこう返したのだろうか、相手の意図する通りに震え、跳ね、甘えた鳴き声を上げてしまう。

「…ゃ、も……やめ…っ……………!!」
 もう解放して欲しいと乞う言葉とは裏腹に、まるで自ら誘うかのようにくねってしまう尻の下で俄かに嵩を増した存在を感じ取った途端、顔が燃え出しそうなほどに熱くなるのが判った。
 それとほぼ同時に体を拘束している腕の力が強められ、きつく抱きしめられたまま湯船の縁に押し付けられるような体勢。
「ぇ、あ……嘘……ここ、で……!?」
 無防備に突き出してしまっている腰へあてがわれた熱と質量に、全身がわなないて呼吸が詰まる。
 体の奥から欲しているものを与えられるのだという期待と、いくらこの部屋専用とはいえ浴槽の中でのそういった行為を躊躇する思考が天秤の両側で引き合って、自分でもどうしていいのか判らない。

「……お仕置きだからな」
 耳元でぼそりと囁く声、続いて軽く耳朶の縁を噛まれる感触。
 いつの間にか仕返しがお仕置きになってるじゃないか、と慌てて抗議しようと開いた口から上がるのはしかし、散々に煽られ、身の内に大きく育てられた飢えがやっと満たされようとしている事への、歓喜の声でしかなかった。




 薄ぼんやりとした視界に板の天井が映る。

「ん……」
 無意識に寝返りを打とうとして、そこでようやく自分の体が畳の床に敷かれた布団に横たわっている事、もはや「脱げかかった」と形容するのもおこがましい状態の浴衣が右腕だけに纏わりついている事、そして体の左側から回された逞しい腕の中に半ばすっぽりと包まれるようにして眠っていた事を認識する。

 眠ると言うか意識を失ったという方が近いか、視界が暗転する直前まで味わっていた感覚が次第と思い出されてくると共に、自分の額の少し上辺りで今は呑気に寝息を立てている男に対して腹立たしい気持ちばかりがふつふつと湧き上がってきた。
「……見られて困るほどの裸でもなかったくせに」
 呟きながら、耳から顎にかけての骨ばったラインを指先でなぞってみるが目を覚ます気配はない。
 思えばあの頃はもっと小さくて薄べったくて、手足だって棒っ切れの如しと、到底男としても戦士としても関心を惹くような風体ではなかった筈だ。それを憶えていなかったからといって、どうして私が責められる筋合いがあろうものか。

 爪を立ててしまわないように注意を払い、耳元から首筋へ、鎖骨から肩へ、腕へと手指を辿らせる。
 陽によく灼けた皮膚は僅かにひやりとした湿り気を帯びて、その下に存在するがっしりとした骨と筋肉の手触りをいつもよりも鮮明に、撫で回す掌へと返して来るような気がした。

 いったい、いつの間にこんなにも大きくなったのだろう。
 あんな小柄で見るからに頼りなかった子供から、今や私よりも少し背が高く、腕の中にもたやすく収められてしまうほど逞しい男へと変わる過程をそれなりには見てきた筈なのに、改めて考えてみると信じられないような気分が──

「今は、寝込みを襲いたくなるくらいの裸か?」
 突然降ってきた声にぎょっとして視線を上げれば、にやけた表情が見下ろしてきていて俄かに顔が染まる。

 いつから目を覚ましていたのか、寝たふりをして人の様子を覗き見るとはいやらしい奴だ。
 そう文句を言って男の腕の中から抜けだそうとするも果たせず、私の体は忽ちの内に強い力で抱き込まれ、綺麗に筋肉の付いた胸の中へよりきつく捕らえられてしまった。
「悪い悪い、なんか妙に真剣な顔で撫で回してたもんだから」
 悪い、などと微塵も思ってはいないだろう口調で囁いた口はそっと鼻の頭を啄ばみ、そのまま額に、瞼に、耳元に、急激に火照り始めた頬にと軽い口付けを送り込む。
 私の腕ごと体を抱え込んで自由を奪っている手はそれぞれあやすように髪や背を撫でていたが、途中から次第に別の良からぬ意図を持ち体中を這い回り始めた。
「……起きたばかりなのにか!?」
 眠りに落ちるまでに何度受け止めたのか憶えてもいない腰はまだ重たくてだるい。
 半分悲鳴のような声を上げた私の喉元の辺りで、だってお前が起こしたんだろ、とでも言っているらしい不明瞭な声が唾液に濡らされて過敏さを増した皮膚に直接伝わってくる。

 あんまりだ、忘却の代償がこんなにも高く付くとは思わなかった。

「そりゃまあ、忘れられるとけっこう悲しいからな」
 しれっとした口調が耳に届くのとほぼ同時に、先程よりも幾分か温度を上げた肌が覆い被さってくる。
 昨夜あれだけ好き放題しておいて、何故一人だけこうもやたらと元気なのか。やっぱり不条理だ。
 ゆっくりと分け入ってくる熱と質量に、背を引き攣らせた私を宥めるような手の動きと、覗き込んでくる余裕の表情がひどく小面憎い。

「…シ、モ……ン…」
「ん?」

 見上げる先で、柔らかく細められた目と面白そうに引き上げられた口の端の皺。寝癖のついたままのぼさぼさの髪。
 全身くまなく揉みほぐすように撫で回す掌や、布団の陰で絡めてくる足。
 息が混じって耳のくすぐったくなりそうな声。
 昔から変わらないところも、どんどん変わっていくところも、何一つとして取りこぼせない。

「こ、これから…先、お前の、どんな姿も…どんな、言葉も……僅かたりとも忘れてなど、や、やらないからな! 覚悟…して、おけ……!!」

 精一杯脅しつけてやった筈なのに、目の前の男は何故か満足げに相好を崩す。
 しかもその上、まるで子供でも誉めるみたいに私の頭をわしわしと掻き撫でたりするものだから、ひどく調子が狂った。