俺らの女神を保管する。
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俺らの女神を保管する。
ja
2009-10-04T07:46:49+09:00
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『おしょうがつ』
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いくら総指令と言えど議会が休みの盆と正月は自宅でのんびりまったりできる。
年の瀬どころか大晦日の夜、紅白を見て年越し蕎麦を愛猫と啜っていても誰にも咎められない。
非番!何て素晴らしい響き!
隣りでは「ぜったいジョヤのカネきくんだ!」と息巻いていたので、
眠気覚ましにと淹れてやった緑茶をちびりちびりと飲んでるヴィラルがいる。
それが、先程から何かのチラシを熱心に見つめて時折「はぁ」とか
「うん」とか呟いてはクレヨンで何やら書き込んでいた。
「……何やってるんだ?」
と問い掛けると、その言葉を待っていたーァ!と言わん許りのキラキラおめめが俺を見据えた。
「あしたのはつうりで、かうプクプクロにしるしつけてた!」
あーこの目は行く気満々だなぁ……
明日は寝坊しつつ昼過ぎ辺りに初詣なんて想定してたんだが、こりゃあそうも言ってられないな。
とシモンは一呼吸置いてから腹を決めた。
「福袋な。うっし、じゃあ明日早起きして初売りに出撃だ!だから早く寝るぞ!」
「めいれいか?」
「いいや、提案だ」
「だったらのったー!ブータもはやくねるぞ!」
「ブミュ」
ウキウキしながら二階の寝室に駆けてく小さい姿を見やって、
自分もコタツから体を引き抜いて伸びをする。
福袋が欲しいなんて、やっぱり女の子なんだなぁ
と思いながら、置きっ放しになっていたチラシを手に取ってどれどれと目を通す。
「……前言撤回」
何故なら、しるしが付いていたのは洋服やアクセサリー等の福袋ではなく、
トビタヌキソーセージ詰め放題の写真にそれこそデカデカと赤いクレヨンで三重丸がついていたからだ。
「……俺も寝よう」
なんだか1年分の疲れがドッと押し寄せた心持ちで、トボトボと寝室へ上がる地球政府総指令であった。
翌朝、腹に強い衝撃を受けて飛び起きた。
「ぐぎゃっ!」
「おきろシモン!あさだ!はつうりだ!」
テンションゲージMAX状態で、俺の腹上で踊り狂う子猫の頭をぽふぽふ叩いて宥める。
「解ったから、とにかく腹の上をのしのしするの止めような。昨日の蕎麦が鼻から出そうだ」
「うん!」
ぴょんと反動を付けて飛び退いたもんだから、再び息が詰まるが何とかかんとかこらえて、
シモンは暖かい布団にさよならした。
早く早くと急かされるままに雑煮を適当に飲み下し、
バスに乗っかってえっちらおっちらたどり着いたデパート前には、既に長蛇の列ができていた。
「正月なのに……みんなのんびり過ごしたいとか思わないもんなのかな」
「サスーンもいくっていってたしな!みんなはつうりがだいすきなんだな!」
わたしもまけないぞ!と気合い十分な愛猫に、
たぶん人間ヴィラルが相手の俺も、今日はこんな感じで初売りに引っ張り出されてるのかなぁ
と思いを馳せて見た。
すると、ぼんやりしていた俺にヴィラルはキリッと向き直って活を入れる。
「いいかシモン、はつうりはオンナのセンジョーなんだぞ!きあいをいれろっ!」
「お、おぅ!」
ちゃんとした返事を聞いて満足したのか、小さな猫手でむんずと俺の手を握って、行列に並ぶべくのしのし歩き始めた。
……が、しかし、あるけどあるけど「列の最後尾です」が見えない。
一体全体何をどう広告に載せればこんなに人が集まるのか!?
心なしかヴィラルの表情が険しくなってきた気がする。
「心配するなって、こんなに人が集まるってお店側は解ってるだろうから、福袋いっぱい用意してあるさ」
だから大丈夫。とフワフワ頭を撫でると、気合いが入ったのか三角耳がピンと立つ。
「わかったぞ!むりをとーしてどーりをけっとばすんだな!」
「んー。使いどころが間違ってる気がするけど。まぁそういうことだ!」
そうさ、折れない心が有る限り人の力は無限なんだ!
なんて思っていたら、正面入口方面からわーっと歓声が聞こえて、次いで拍手何かも聞こえて繰る。
不審に思い見やった行列もゾロゾロ動き始めている気がする。
開店時間にはあと一時間あるはずだよな…と確認のためチラシに目を走らせる。
開店時間10:00よかった合ってる、と思ったのも一瞬で、下方に小さく書かれているただし書きに驚愕する。
『1日に限り9:00開店』
くじかいてん
「いっけねっ!」
?マークを飛ばす愛猫を小脇に抱えて、列の向かう方とは逆方向に全力疾走。
とにかく尻尾にいかなければっ!
結局列の尻尾を見つけたのが9:20、更に店内に入れたのが9:50……
それから目的地たる地下の食品館にたどり着いたのが10:00を少し過ぎた辺りで……
そこは既に合戦の真っ直中だった。
まぁ、案の定いるのは若い女性ではなく妙齢のご婦人ばかりなのだが……
そんな状況に臆することなく、迷子防止で肩車されていた子猫は猫手でペシペシ俺の頭を小突いて急かす。
「シモン!アレをやるぞ!」
「アレ……それも一興ッ!……って逆じゃないか?」
「こまかいことはいわない!とつげきー!」
「あ、はい」
言われるままにおばちゃんの群に近付く……弾かれた。
なにくそ!もう一度売場に近付く……弾かれた。
ま、負けるかっ!……弾かれた。
「もうダメだよ。ヴィラル、家に帰ろう」
「なにいってるんだシモン!むりをとおしてどーりをけっとばす!!」
ペシペシと再び頭をはたかれて気合いが入る。
「解った!アンチスパイラルだって蹴散らせたんだ!おばちゃんの10人や20人なんだってんだ!俺に任せろ!」
うぉおおおおおっ!とは声に出さないまでも、それ相当の気概をもってしておばちゃんの壁に挑む。
「あれ?」
意外とすんなり売場に到達した。
なんだ!その気になれば楽勝だったじゃないか!と、品物が出されているケースを見て固まる。
「……うりきれ?」
悲しげなヴィラルの声が物語っているように、その場には折れたソーセージが数個残っている程度で、殆ど何もない状態だった。
「そんなまさか!だってまだ開店してから一時間しか経ってないんだぞ」
とキョロキョロ辺りを見回して発見した店員に声を掛ける。
「すみません、広告に出てたトビタヌキソーセージ売場に無いんですけど」
「あ、申し訳ありません。出てる分だけなんで、売場に無ければ無いです」
ななななななんだってー!?
あまりの衝撃に返す言葉も無く、スタスタといなくなる店員を呆然と見送るしかなかった。
「うりきれ…」
すんと鼻をすする音が聞こえてハッとする。
「ほら、泣くなよ。代わりに何か美味しいもの食べて帰ろう。正月なんだから寿司とかさ!」
「………うん」
何処となく渋々うなづいた感はあるが、兎にも角にもお腹がいっぱいになったら機嫌もなおるだろう。
一人と一匹は上を目指してエスカレーターに乗っかった。
少し早い時間から並んだからか、飲食店には大して待たされることなく入れて少しホッとしながら腰を下ろす。
「えーと、お子様セットでいいのか?」
「…うん」
ぼんやりメニューを眺めながらおざなりにうなづく子猫に、シモンは肩を竦める。
「そんなに楽しみだったのか」
「うん。このまえ、テレビでみたひとが、イーッパイつめててかっこよかったから…」
へこんと三角耳が頭に突っ伏す。
そうか、そりゃあ家計のことに必死になってる主婦の姿は雄々しかっただろう。
「そっかそっか、俺もカッコいいヴィラルが見れなくて残念だ」
「ちがう」
「ん?俺何か変なこと言ったか?」
「ちがう。わたしじゃなくて、シモンのカッコいいトコロみたかった!」
「俺!?」
考えてもいなかった展開に目を丸けると、目の前の子猫がゆっくりうなづく。
えっ!?俺?詰めるの俺の予定だったの!?いや、やってやれないことはないよ。そーいう細かい作業得意だし…でも、俺!?
「え、えーと。とりあえず寿司頼んじゃおうか」
「うん。おもちゃはコマな!」
話したらスッキリしたのか、気持ちがお食事モードに移行したようだ。
先程と打って変わってウキウキとメニューを眺め始めている。
「すみません。えっと、お子様セットと、寿司盛り松お願いします」
店員に注文をした後は、シモンがぼんやりする番だった。
カッコいい俺?どーすりゃいいんだ?
早めの昼食後、せっかく来たんだから!と各階をぶらぶらして回った。
福袋があらかた履けてしまったからか、新春初売りバーゲンなるものをやっていて、そうだとヴィラル用のコートを買った。
「その色なら迷子になってもすぐ見つけてやれるな」
水色に星の柄がプリントされさコートに着替えたヴィラルが、ニッコリ笑顔でうんとうなづく。
何故だかめちゃめちゃ値引きされてて、買う時店員に苦笑いされたが、ものすごく似合ってるじゃないか。
「でも、シモンとてをちゃんとつないでるから、まいごにはならないぞ!」
ギュッと握り返された手に、何だか暖かい気持ちになる。
「そうだぞ。俺の手を放しちゃダメだからな」
「うん!」
こんなあったかい手、ニアにも握らせてやりたかった。と心中感傷にふける。
「シモン、シモン」
「ん?どーした?」
「フクフクロまだうってる!」
手を引かれてそちらをみると、ヘアアクセサリー等の雑貨を扱ってる店の店頭に、ピンクの紙袋が幾許か鎮座間していた。
「うりきれじゃないんだな!」
「あーうん。というか、欲しいのか?アレ…」
「うん!プクブクロほしい!」
「でも、中身トビタヌキソーセージじゃないぞ」
「いーの!きぶん!」
ぷーっと頬を膨かして断言する子猫に、気分ならしょうがないか。と満更でもなく尻ポケットから財布を引き抜く。
「ほら、どれがいいんだ?」
「かってくれるのか!?」
「だって、欲しい気分なんだろ?」
すると、途端に不安げな顔つきになって、モジモジ猫手をすりあわせる。
「うん。…でも、おかねだいじょうぶか?おスシたべたから、おかねなくなったんじゃないか?」
「そんなもんじゃ俺の給料無くなったりしないよ。心配すんな!」
ポンと黄色い頭に手を置くと、三角耳がシャキンと背筋を伸ばす。
「じゃあ、じゃあね、コレ!」
君に決めたーと言った勢いで引き抜かれた紙袋に、シモンは子猫に代金を握らせた。
「レジに行ってこれ下さいってお金渡すんだ」
できるよな?との問いに子猫は自信満々にうなづく。
「わたしをだれだとおもっていやがる!」
「シモンさん家のヴィラルです。はい、じゃあいってこい」
「うん!」
トビタヌキソーセージ詰め放題だけじゃなくて、ちゃんとこういう女の子らしいものにも興味があったじゃないか。
お代を握り締めてレジに駆けてく小さな背中を見つめてホッと一息。
「シモン!かえた!」
意気揚々と紙袋を掲げて、突進してくるヴィラルを受止めて、ニッコリ笑顔にニッコリを返す。
「よくできました」
「はなまるか?」
レシートを差し出しながらされる問いに、花丸だよ。と返した。
「なかみ、なんだろうな!」
「家に帰ったら開けて見ような」
「うん!はやくおうちかえろう!」
「そうだな。その前に夕飯のおかず買ってこう」
「うん!」
一人と一匹は再び地下の食品館に向ってエスカレーターに乗っかった。
コタツにつかりながら、玄関にさがっていた御重を開ける。
「ヨーコも来るなら来るって言ってくれればいいのにな」
「そーだな。いそくさいな!」
「みずくさい、な。んでも、お節用意するのすっかり忘れてたから助かったよ」
ぱっかり開けられた御重には昆布巻きに海老、黒豆、数の子とヨーコの気遣いがみっちり詰まっていた。
「おいしそうだな!」
おめめをキラキラさせながら見ているヴィラルには悪いが、蓋を閉めて台所に持って行く。
「夕飯にはまだ早いだろ。とりあえず今時間はお茶とミカンだ!」
「りょーかいした!」
ポテポテ階段下の物置に蜜柑を取りにヴィラルが駆けていく。
はぁやれやれ、やっと一息吐けそうだ。と湯飲みを手にコタツに舞い戻った。
「ミカンもってきたぞ!」
ポロッと一抱え(と言っても3、4個)の蜜柑を卓上に置いて、俺の脇にちょんとすまし顔で座る。
「なぁシモン、フクブクロあけてもいいか?」
「あ、すっかり忘れてたな。いいぞ」
よしが出たとなると、おめめキラキラが三割増ぐらいになって、嬉々として紙袋をこじあける。
「?」
それまでニコニコしていた顔が疑問に固まった。
「どーしたんだ?」
「なんかモジャモジャがはいってる」
「モジャモジャぁ?」
モジャモジャって何だ?と恐る恐る中から小分けにされてるビニール袋を取り出した。
「……モジャモジャだな」
「な!」
恐らく付け毛だろう茶褐色の人工毛の束が、ヘアアクセサリーなんかと一色他になって詰まっていた。
取り出してヴィラルの黄色い頭に乗せて見る。
「……プリンアラモード」
「うまくない!」
お気に召さなかったようで、ぶんむくれにむくれながら頭上の毛束をはたき落とす。
「あーもー。物を粗末にしちゃダメだろ!」
と拾いあげたそれをコタツの脇に寄せて、新年会の一発芸で使うかさもなきゃロシウにあげるかな。と思案した。
「ほら、可愛いヘアピンだって入ってるんだからそんなにホッペ膨ますなよ」
「ふくれてない!」
明らかに膨れていたが、言及せずに取り出したヘアピンをつけてやる。
「お、印象変わるな」
「そーか?おねーさんみたいか?」
「うんうん。似合ってるぞ」
おでこが見えるだけで随分雰囲気が変わるんだな。と半ば関心しつつ、その後とっかえひっかえ髪飾りを付けて遊ぶ。
「ブィ!」
頭にリボンを結ばれたブータが紙袋から最後の小袋を取り出してみせた。
「お?髪飾りじゃないのも入ってるのか?随分お得なんだな福袋って」
その小さな包みを小さな手(前足)から受け取って、中身を引っ張り出す。
「ブレスレットか?にしては長い気もするけど…」
細い鎖に小さな星型チャームが一つぶら下がっている。
それをしげしげ眺めていたシモンが、ふとした思い付きでヴィラルの首にかけてやると、ちょうどよく巻かさった。
「ネックレスだったんじゃないか?」
「うーん…タグにはアンクレットって書いてあるけど……まぁピッタリだからそれでいいよな!」
「わたしはかまわないぞ!」
元々は何処に着けるんだかサッパリ解らないが、似合ってるし丁度いいんだからそれにこしたことないじゃないか!
と己を納得させて、袋からピンクのブタモグラストラップを取り出してヴィラルのポシェットに吊す。
「シモン、なんかおちた!」
掲げて見せるそれが目に止まった瞬間、シモンの中で全てが制止した。
「ん?…ゆびわだ!」
その通り、愛猫が手にしているのは指輪だった。
それもよりによって、ニアに渡した婚約指輪と色も形状も瓜二つというとんでもない代物だ。
恐らく、ニアの指輪に便乗した類似商品なのだろう。石の部分もよく見ればプラスチックかガラス玉で光彩が微妙に違うではないか。
「どーしたんだ?シモン、おなかいたいのか?」
おずおずよってきたヴィラルを抱き締める。
「どこも痛くないよ」
嘘だ。強いて言うなら胃と心臓の間ぐらいがギュ~ッと締め付けられて呼吸がし辛い。
しかし、心配したヴィラルが頬を舐めてくれるので、だいぶ楽になってきた。
「それ、かして」
小さな猫手から指輪を受け取って、首に巻かさった鎖にそっと通した。
「それなら無くさないだろ」
ペンダントヘッドに早変わりした指輪をしげしげ眺めていたヴィラルが相好を崩す。
「おそろいだな!」
コアドリルの代りに首から下げてる指輪のことをさして、愛猫がニッコリ笑う。
「そうだな。おそろいだ」
「うん!すっごくうれしいぞ!シモンありがとう!」
「俺こそ、いてくれてありがとうな」
アンチスパイラルを倒してニアを救出す事に全力を注ぎ、注ぎ切った対象がサラッと己の掌から零れ落ちた。
悔いは無かった。悔いどころか何もない空虚な心を埋めてくれたのはこのフカフカの小さな毛玉だったのだ。
ギュ~ッと抱き締めた子猫がキョトンと俺を見上げる。
「なにをいってるんだ?わたしはシモンとずーっといっしょだぞ!」
だからそんな顔をするなとばかりに肉球がぽふぽふ額に当たる。
「うん。ありがとう」
抱き締めた子猫が照れくさそうに喉をクルクル鳴す。
――暖かいな――
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SS保管庫
https://w.atwiki.jp/virako/pages/11.html
※通称及び作品タイトルは暫定ですので、修正のご希望などありましたら掲示板へ。
各種ネタがよくわからないという方はスレ過去ログをご参照下さい。
183様(エロパロ名義):
[[『女定時さん温泉でドッキリ』]]
[[『女定時さんダイグレン潜入大作戦Aパート』]]
[[『女定時さんダイグレン潜入大作戦Bパート(01)』]]
[[『女定時さんダイグレン潜入大作戦Bパート(02)』]]
[[『女定時さん監獄で宿命合体』]]
[[『女定時さん監獄で宿命合体・隙間ネタ』]]
[[『総司令×ヴィラ子』]]
[[『螺旋王自重しる』]]
[[『艦長とグラサンと抱き枕』]]
[[『艦長とおやっさんと抱き枕』]]
[[『ゲリラ女王陵辱してみた(殺伐・痛い描写注意!)』]]
[[『おやっさん×公務王女』]]
[[『新年会で女装』]]
[[『貝印』]]
[[『赤いのとか青いのとか』]]
[[『Dog Style』]]
[[『ヴィラ子スレ一周年記念SS』]]
[[『ご開帳』]]
[[『アバン艦長ショタ返り1』]]
[[『アバン艦長ショタ返り2』]]
[[『アバン艦長ショタ返り3』]]
[[『アバン艦長ショタ返り4』]]
生殺し様:
[[『おやっさんとヴィラ子の晩酌』]]
[[『サスーンとデコイの入浴』]](進行中)
ドリドリ様:
[[『生理』]]
[[『想像』]]
ねぎ様:
[[『デコサス膝枕』]]
[[『カミナとヴィラ子のドタバタ湿地対決』]]
[[『女子高生ヴィラ子』]]
[[『女子高生ヴィラ子「バレンタイン編〜目撃者!〜」』]]
[[『女子高生ヴィラ子「卒業式編~今宵満願!~」』]]
[[『ツンデレ艦長とペット子』]]
4-498様:
[[『艦長女王とおやっさん』]]
[[『入れ替わりペットとアバン艦長』]]
┗AK774様による続編[[『入れ替わりこぬこと飼い主さん(一方あちら側)』]]
[[『サスーン先生と志門くん』]]
[[『サスーン先生と志門くん2』]]
[[『ギミーくんと艦長女王』]]
[[『サスーン子の憂鬱』]]
[[『エクレア』]]
[[『ヴィラ子会議』]]
[[『シモン先生のお悩み』]]
[[『六月の花嫁』]]
[[『サスーン子のホームステイ』]]
[[『シモンなんかカミナリおっこちてしんじゃえっ!』]]
[[『おしょうがつ』]]
[[『痴話★喧嘩』]]
AK774様: [[『手をつないで帰ろう』]]
369様: [[『裏施線幻視行』]](進行中)
2-214様: [[『ある肌寒い夜の物語』]]
3-190様: [[『アバン艦長死亡フラグ』]]
3-862様: [[『アバン艦長とペットヴィラ子』]]
4-926様: [[『さようならと唱える』]]
┗[[『さよならに向けて』]]
5-312様: [[『生きてく二人』]]
5-536様: [[『ペット未満』]]
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1254609584
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簡易掲示板
https://w.atwiki.jp/virako/pages/26.html
意見とか伝言とかそういう感じの色々。
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#region(ログ)
- テステス -- 庫主 (2007-12-11 18:37:17)
- 検索避け入れました。 -- 庫主 (2007-12-11 22:38:19)
- デザイン変えました。これなら長文も読みやすいかな? -- 庫主 (2007-12-12 03:14:16)
- 過去ログとスレ3の画像保管完了。小説と小ネタはまた後日; しかし過去ログ保存するなら小ネタ倉庫いらない気もしてきた。 -- 庫主 (2008-03-14 23:52:19)
- ネタはスレ過去ログを参照して頂くことにしました。 -- 庫主 (2008-04-08 11:11:14)
- スレごとの作品投下数が減ってきたため、画像系作品をヴィラ子の種類(?)でのソートを検討中。しかし結構作品数が多くて時間かかりそうです。現スレの補完はスレ終盤に行いまする。 -- 庫主 (2008-09-27 20:12:39)
- パソのモニタが壊れてネット出来なかった結果がこれだよ!作業再開、急がなければ。 -- 庫主 (2008-12-01 22:52:34)
- ヴィラ子の種類でソートは難しかったので、やっぱり作者様別にソートしました。ついでに画像は1ページにまとめました。携帯だと大変かな…?どうだろう。 -- 庫主 (2008-12-02 21:38:13)
- 更新乙です! ところでうpろだ145-148の絵茶ログは収録されないんですか? -- ななし (2008-12-03 23:13:01)
- おおっと!気づいてませんでした!後ほど収録しておきますー!教えて下さり感謝です! -- 庫主 (2008-12-04 00:09:08)
- 27日にレンタルうpろだが完全に初期化されてしまうそうなので、未収納のファイル9点の保管庫入りにつきまして、とり急ぎお願いに上がりました。お忙しいところお騒がせしてすみません。 -- ななし (2009-04-21 22:33:14)
- 虫の知らせか、ひょいと覗いたらなんと初期化ということで…。急ぎ補完致しました。遅れてすみません;過去ログは初期化後に上げ直しますね。 -- 庫主 (2009-04-24 21:25:08)
- 庫主様保管作業お疲れ様です!ところでこういう事言うのは大変恐縮なのですが、>407で投下したサスーン子先生の絵って保管されてるでしょうか?私の見落としだったら御免なさい。ちなみに今頃申告するのも申し訳ないんですが>5-828、>6-179、>7-24も自分の投下です。 -- 4-973 (2009-04-28 22:37:12)
- 失礼しました、wikiにUPして一回編集しておきながら手違いで画像へのリンクが消えていましたorz 再度編集し、申告頂いた御作品もまとめましたのでご確認下さいませ。こちらとしては出来るだけ同作者様でカテゴリをまとめたいので、申告はとても助かります! -- 庫主 (2009-04-28 23:16:29)
- 素早い対応ありがとうございました! -- 4-973 (2009-04-29 03:57:46)
- 過去ログサルベージ完了です -- 庫主 (2009-05-11 15:21:20)
- 第7スレもそろそろ完走なので、SSや5月以降の画像収納をお願いします~。お忙しい中、お手数おかけします。 -- ななし (2009-09-20 14:09:54)
#endregion
- 庫主さま、今回もログ収納お疲れ様です。7-649の「入れ替わりこぬこと飼い主さん」及び725の「手をつないで帰ろう」を書いた者ですが、「入れ替わり~」は書きかけ版と同様、4-498様の「入れ替わりペット子とアバン艦長」のところにオマケで置いて頂いて構いません。あと、今ごろですが画像の4-934「魔改造」、5-586「騎士ヴィラ子」、7-13「騎士ヴィラ子修正版」、7-714「きらめき★ヴィラ子」も他の方のついででおkですのでまとめて頂けると嬉しいです。 -- AK774(仮) (2009-09-29 20:34:17)
- AK774様のお名前で作品まとめさせて頂きました。「入れ替わり~」は書きかけと入れ替えさせて頂きました。気が回らずすみません(汗) -- 庫主 (2009-10-01 20:50:36)
- デザイン変更。コントラストとか大丈夫かな? 前のよりはいいような気がするのですが、何か微妙な部分などありましたらお知らせ願いますm(_ _)m -- 庫主 (2009-10-01 20:52:13)
- 上部のwikiタイトル…黄緑が気に入らないので変えたいものの、CSSどこいじればいいのかイミフで涙目 -- 庫主 (2009-10-03 15:49:25)
- ご本人ではないのに言っていいものか少し迷ったのですが、第7スレの257-266に投下されたSSで4-498さんのお正月ネタが収録されていないようですので、僭越ながら申し上げさせていただきます。 -- ななし (2009-10-04 02:51:11)
- ほんとうだ(;゚д゚) お知らせありがとうございます! -- 庫主 (2009-10-04 07:36:22)
#comment
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2009-10-04T07:36:22+09:00
1254609382
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画像保管庫
https://w.atwiki.jp/virako/pages/68.html
収納の際、画質やサイズを下げる場合があります。同作者様の作品まとめご依頼は掲示板まで。
▼183様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):コラ|BGCOLOR(#FAF0E6):二次絵|
|[[ニアコス>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/daigrren_uljp00147.jpg]]|[[エンキ水着アイキャッチ>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/daigrren_uljp00181.jpg]]|
|[[サラシ巻き>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/daigrren_uljp00150.jpg]]|[[女定時さんアイキャッチ>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00015.jpg]]|
|[[ロリ?>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00016.jpg]]|[[お揃いスペースルック>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00051.jpg]]|
|[[普通に女装>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00017.jpg]]|[[軍服改造例>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00056.jpg]]|
|[[アディーネ様と>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00025.jpg]]|[[抱き枕>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00059.jpg]]|
|[[タイーホ>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00026.jpg]]|[[ヴィラ子お嬢様>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00062.jpg]]|
|[[メインヒロイン>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00039.jpg]]|[[シモン先生とJKヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00083.jpg]]|
|[[好きにするがいい…>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00061.jpg]]|[[ペットヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00087.gif]]|
|[[ビリビリ>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00089.jpg]]|[[若奥様のえろ下着>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00090.jpg]]|
||[[サスーン子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00092.jpg]]|
||[[バレンタイン>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00095.jpg]]|
||[[かぼパン幼女>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00105.gif]]|
||[[ちちくらべ>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00136.gif]]|
||[[暑中お見舞い>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00143.jpg]]|
||[[ペット子NEWバージョン>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00149.jpg]]|
||[[ちちうしペット子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00156.jpg]]|
||[[ちちうしミルク(ERO)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00157.jpg]]|
||[[あかかぶと>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00166.jpg]]|
▼A様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):コラ|BGCOLOR(#FAF0E6):二次絵|
|[[ゲリラ女王>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako1.jpg]]|[[艦長女王個人的な設定ラクガキ>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/gurenyo1.gif]]|
|[[獣人女王>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako2.jpg]]|[[あまり見るな>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako9.gif]]|
|[[バニー女王>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako3.jpg]]|[[ご飯つぶ>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako10.jpg]]|
|[[わっしょい女王>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako4.jpg]]|[[おやすみなさい>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako11.jpg]]|
|[[汁女王(ERO)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako5.jpg]]|[[いてら>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako12.jpg]]|
|[[螺旋族のいぢめ>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako6.jpg]]|[[揉>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako13.jpg]]|
|[[幼女王>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako7.jpg]]|[[艦長女王とグラース(仮名)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako14.jpg]]|
||[[艦長女王>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako8.jpg]]|
||[[埋め込んでみた>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/A_virako15.jpg]]|
▼32様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):コラ|BGCOLOR(#FAF0E6): |BGCOLOR(#FAF0E6): |
|[[1、2部ヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00018.jpg]]|[[水着ポスター改造ヴィラ子×2>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00019.jpg]]|[[初登場ヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00020.jpg]]|
|[[悔し泣きヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00021.jpg]]|[[監獄浴場にて>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00022.jpg]]|[[監獄浴場にて2>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00023.jpg]]|
|[[綾波ヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00024.jpg]]|||
▼4-973様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):二次絵|BGCOLOR(#FAF0E6): |BGCOLOR(#FAF0E6): |
|[[ペットこぬこ>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00127.jpg]]|[[若妻ヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00131.jpg]]|[[抱かれ枕>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00139.jpg]]|
|[[浜辺のペット子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00144.jpg]]|[[ペット子抱き枕>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00153.jpg]]|[[誘惑授業(嘘)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00160.jpg]]|
▼323様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):二次絵|BGCOLOR(#FAF0E6): |
|[[王の愉快な魔改造>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00043.jpg]]|[[おっもちかえりぃ~(フィギュア)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/daigrren_uljp00143.jpg]]|
|[[かぼパン幼女>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00099.jpg]]|[[かぼパン幼女2>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00100.gif]]|
▼N様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):二次絵|BGCOLOR(#FAF0E6): |BGCOLOR(#FAF0E6): |
|[[拘束ヴィラ子(二次絵)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00028.jpg]]|[[螺旋王自重www(二次絵)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00046.jpg]]|[[艦長vs艦長(二次絵)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00102.jpg]]|
▼188様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):二次絵|BGCOLOR(#FAF0E6): |BGCOLOR(#FAF0E6): |
|[[甘夢1(コラ)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00033.jpg]]|[[甘夢2(コラ)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00034.jpg]]|[[甘夢3(コラ)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00035.jpg]]|
▼706様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):コラ|BGCOLOR(#FAF0E6):二次絵|BGCOLOR(#FAF0E6): |
|[[ヴィマ子先生>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00058.jpg]]|[[ペットヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00085.jpg]]|[[う゛ぃらりゅさん>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00098.jpg]]|
▼元祖様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):コラ|BGCOLOR(#FAF0E6): |
|[[元祖1>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00001.jpg]]|[[元祖2>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00002.jpg]]|
▼ねぎ様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):二次絵|BGCOLOR(#FAF0E6): |
|[[綾波コス>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00049.jpg]]|[[覗かれました>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00055.jpg]]|
▼無言様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):コラ|BGCOLOR(#FAF0E6): |
|[[にくきゅう>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00054.jpg]]|[[DVD5巻表紙>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00057.jpg]]|
▼不明様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):フィギュア|BGCOLOR(#FAF0E6): |
|[[ブルマ>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/1193564590354.jpg]]|[[ランブルry>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/058350.jpg]]|
▼AK774様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):コラ|BGCOLOR(#FAF0E6): |
|[[魔改造>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00126.jpg]]|[[騎士ヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00137.jpg]]|
|[[騎士ヴィラ子修正版>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00154.jpg]]|[[きらめき★ヴィラ子(ERO)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00164.jpg]]|
▼単発投稿の皆様:
|BGCOLOR(#FAF0E6):コラ|BGCOLOR(#FAF0E6):二次絵|
|17様:[[ゲリラ女王>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00003.jpg]]|2-164様:[[サンタガール>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00066.jpg]]|
|127様:[[ヴィラ子(仮)?>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/virako.jpg]]|2-346様:[[トビタヌキが見てる>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00071.gif]]|
|493様:[[D/M/Cのトリッ●ュ→ヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00050.jpg]]|2-462様:[[あけましておめでちゅー>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00073.jpg]]|
|2-313様:[[ヴィマ子先生脱がせてみた>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00070.jpg]]|2-609様:[[初夢の内容>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00080.jpg]]|
|5-424様:[[ひっそりトップレスヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00132.jpg]]|2-933様:[[女子高生ヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00082.jpg]]|
|5-444様:[[ペット子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00133.jpg]]|3-196様:[[ペットヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00086.jpg]]|
|5-444様:[[↑の黒パンバージョン>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00134.jpg]]|3-364様:[[公務王女裸体>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00091.jpg]]|
|6-668様:[[生ヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00150.jpg]]|3-617様:[[裸マフラーゲリラ幼女王>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00101.jpg]]|
|6-959様:[[サスーン子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00152.jpg]]|4-132様:[[ヴィラ猫>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00104.jpg]]|
|7-??様:[[サスーン子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00155.jpg]]|5-745様:[[服をぺろーんと>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00138.jpg]]|
||5-889様:[[ケフィアまみれゲリラ女王>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00140.jpg]]|
||7-197様:[[晴れ着こぬこ>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00158.jpg]]|
||7-231様:[[おいブータ>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00159.jpg]]|
||7-508様:[[布団がめくれて…>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00161.jpg]]|
||7-654様:[[ご開帳>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00162.jpg]]|
||7-695様:[[絆創膏プレイ(ERO)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00163.jpg]]|
||7-768様:[[SSアバン艦長ショタ返りとセットでどうぞ(裸)>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00165.jpg]]|
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▼お絵かきチャットログ:
|[[クリスマス絵茶1:N@17と85と38様・ロム人様・超銀河クルー25号様>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00063.gif]]|[[クリスマス絵茶2:チキン323号様・N@17と85と38様・A様>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00064.gif]]|
|[[クリスマス絵茶3:ロム人様・183様>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00065.gif]]|[[新年絵茶1:2-460様>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00072.gif]]|
|[[新年絵茶2:A様・183様・鳥323様・N様>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00074.jpg]]|[[新年絵茶3:とりにく様・鳥323様/エロ注意>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00075.jpg]]|
|[[新年絵茶4:183様・N様/エロ注意>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00076.jpg]]|[[新年絵茶ログ5:鳥323様/エロ注意>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00079.jpg]]|
|[[メイドさん編>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00145.jpg]]|[[プリクラ編>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00146.jpg]]|
|[[微エロスタイム編>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00147.jpg]]|[[わりとセクスィー編>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00148.jpg]]|
▼ヴィラ子ウマウ祭(二次絵):
706様:
|[[幼女+ペット子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00107.jpg]]|[[艦長女王+公務女王>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00108.jpg]]|[[シモン先生+女子高生>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00109.jpg]]|
|[[アニキ+バニー女王>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00114.jpg]]|[[超銀河ウマウ祭>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00119.jpg]]|[[テッペリンウマウ祭>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00122.jpg]]|
|[[兄貴と私>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00123.jpg]]|||
183様:
|[[デコイ+サス子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00110.jpg]]|[[シモン+ヴィラ子祭>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00115.jpg]]|[[アバン艦長+ペット子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00116.jpg]]|
|[[シベラ+艦長女王>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00117.jpg]]|[[シモン(小)+ヴィラ子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00120.jpg]]|[[混線>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00121.jpg]]|
|[[ショタアバン艦長+ペット子>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00129.jpg]]|||
4-397様:[[706氏の絵を借りて動かしてみた>http://www31.atwiki.jp/virako/pub/viral/nyovira_uljp00113.gif]]
4-637様:[[動かしてみた(zipファイルにつきDL・MP4の再生ソフトが必要です)>http://www6.uploader.jp/dl/nyovira/nyovira_uljp00124.zip.html]]
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2009-10-01T20:43:36+09:00
1254397416
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『さよならに向けて』
https://w.atwiki.jp/virako/pages/79.html
泣き声を聞いた。それもとても沢山の。あのときはどうしてか頭がぼんやりして、喧しいとしか思えなかった。意識がはっきりしてからあんまりな考えに後悔したのだけれど、誰も彼もそれほど弱い奴ではなかったのだ。
ありがたいことだと安堵していたのに、今悲鳴に近い泣き声が聞こえてきている。人のマントに顔を埋めて、体を二つに折って泣いている。どれだけの間そうしていたのだろう、掠れてしまった声で何度も何度も自分を呼んでいた。
ヴィラル。
会いたい、寂しい、と泣く彼女に呼びかけた。もちろん声は届かなかった。艶やかだったはずの髪を撫でてやっても、ヴィラルは顔を上げようともしない。
それでも次第に彼女のしゃくりは収まって、ついにはマントから顔を離した。雨風に晒されていた布に付いた埃や泥が移った頬を涙ごと拭い去って、ヴィラルはゆっくりと立ち上がった。自信に溢れたあの表情はどこにも見当たらず、食いしばる口元にばかり目がいってしまう。今にも崩れ落ちてしまいそうな体を懸命に支え、自分の墓に背を向けたヴィラルをカミナは見ていることしかできなかった。
カミナがカミナとして意識を保てるようになるまでには結構な時間が必要だった。気が付けば戦いが終わっていて、墓に参りにきたシモンは人として一回りも二回りも大きくなっていた。ふわふわな髪をした女性を連れてきて、沢山の話をしてくれた。自分が死んだときのことに、その後のシモンの心情や隣にいるニアに会ったときのこと。何もかも包み隠さず話す中に、当然ヴィラルの話題もあった。
かなりの間、ヴィラルがカミナの死を知らなかったこと、テッペリンでヴィラルと戦ったこと。そうして、ヴィラルが自ら死なない体になったと言ったこと。本当かどうかは分からないけれど、とシモンは付け加えた。とても高い所から落ちたようだったから、実際不死でもないと生きてはいないだろう、とも言った。
「アニキ、俺、思うんだ。俺達は獣人がいたから穴の中で暮らしていたけど、今の獣人を憎むのはおかしいかもしれないって。ロージェノムが獣人にそうさせてたんだから、憎むべきはロージェノムが作った体制だって俺は思う」
だから、とシモンは言葉を切った。
「俺はヴィラルを恨まない。もし、別に何か悪いことをすれば別だけど、アニキを殺したとかそういうことでは憎みたくないんだ」
よし、よく言ったシモン、とやはり頭を撫ぜると、派手に風が吹いてシモンの髪がばさばさと揺れた。シモンは一瞬驚いたように目を丸めてから柔らかく瞼を細めて、ありがとうと囁いた。
ヴィラルはきっとシモンに許されていることを知らないだろう。
ヴィラルは日が傾きかけた頃に帰ってきた。遠くから徒歩で来ていたらしく、色々な荷物を背負っている。どこかに拠点を作って歩き回っていたのだろう。ヴィラルはカミナの墓の横に荷物を置いて、鞄から寝具を引っ張り出した。普段は物陰で眠っているのか、テントはないようだった。墓の近くで石が少ない場所を選んで黙々と仮の宿を作り上げていく。
こんなところで一人で眠ってしまっていいものなのだろうか。そう訝しんでから、この辺りに猛獣の類がいないことを思い出す。人影も皆無なのだから、その辺の心配はないものとの判断なのかもしれない。
火の準備はせずに食事を済ませ、ヴィラルは手元にカンテラを置くと早々に寝入ってしまった。日は既に地平線の向こうに沈んでいて、金の髪が弱々しい光をわずかに弾く。カミナは赤く染まったヴィラルの目許に口づけて、目を閉じた。
目を閉じるといっても、生きているときとは勝手が違う。見る、という意識を閉じるといえばいいのか、はたまた見ないようにすると強く念じるといえばいいのか。
目を閉じると必ずといっていいほどにどこかに辿り着く。場所はその時々によって変わるのだが、長くいてはいけない所ということだけは分かっていた。帰ってこられなくなるのだ。きっとそれが自然なことなのだろうが、まだ行ってはいけないと己の勘が告げている。まだやらなければならないことがあるのだと。
「……お?」
いつもと毛色の違う所に辿り着いた気がする。丈の長い金色の野原が広がっていて、空もまた薄い野原色だった。吹く風は暖かく、軽く草原を揺らす。
草がズボンに擦れるのを感じながら当てもなく歩いていると、突然道に出た。道は踏み固められていないのか、妙にふわふわしている。靴よりも素足で歩いた方が良さそうに思えた。
かといって靴を脱ぐ気にもならず、とりあえず足元を気にしながら進む。俯いていたから直前になって初めて、道が一段下がった真っ黒な石になっているのに気がついた。爪先をつけると予想通り、硬い感触。一応手を近づけると、一瞬躊躇してしまうほどの冷気が伝わってきた。
しゃがんだまま視線を前方にやったとき、カミナは思わず息を飲んだ。おおよそ金色の空間でも一際目立つ金の髪が十歩ほど向こうで項垂れていたのだ。ご丁寧に膝を抱えて座っているせいで顔は全く窺えない。
「おい!」
呼びかけてもぴくりともヴィラルは動かない。石に足を踏み入れて、カミナが目の前にまできても動く様子はなかった。
「ヴィラル!」
墓前と同じように聞こえてないのかもしれないと焦燥を抱きながら、カミナはもう一度呼びかけた。反応のあるなしに拘わらず、膝に乗った頭を押してこちらを向かせる。触れられるということは、恐らく言葉は届いている。
「カミナ……?」
惚けたような口調でヴィラルが掠れた声で囁いた。頭から頬まで滑らせた手がぞっとするほど冷たい。暖かく柔らかな空間でヴィラルと、ヴィラルの周りだけが酷く冷たかった。
「立てよ、ヴィラル!」
腕を引っ張って立ち上がらせようとしたのだけれど、ヴィラルは状況が飲み込めないのか目を大きく開けたまま動こうとしなかった。軽く舌打ちをしてから、両脇に手を入れて強ばったヴィラルの体を無理やり持ち上げる。一瞬触れた体は頬と同じように冷えきっていて、実際に死んでしまった自分よりも死者らしく思えた。
「歩けるか?」
「あ、ああ」
返事と共に頭が揺れる。何故か頭と一緒に流れた髪は初めて出会ったときの艶やかなそれだった。服装もさっき墓前で見たものではない。記憶の中の彼女のまま、ヴィラルは掴まれた腕を不思議そうに見ていた。
「カミナ」
後もう少しでふかふかの道に出るというとき、ヴィラルが足を止めた。
「どうした?」
「お前、死んだんじゃなかったのか」
絞り出すような声だった。始めにカミナを見ていた瞳はすぐに伏せられ、答えを望んでいるふうには見えない。
「ああ、死んでる」
けれど答えなければいけないような気がして、ゆっくりと返答をする。そうか、と呟いたヴィラルの声はやけに口早だった。
すまない、とヴィラルは口早のまま言葉を続けた。
「すまない、わたしが――っ!?」
次に続ける言葉など容易に分かってしまって、カミナはヴィラルを抱き上げた。冷たい体を強く強く抱きとめ、さっさと石の向こう側へ行く。柔らかな地面に足をつけさせると、そのままずるずると座り込んでしまった。
「別にいいじゃねえか、そんなこと」
ヴィラルの前にしゃがんでカミナは俯いた顔を持ち上げた。
「……よくない」
顎に添えられた指を気にしながらもヴィラルが否定した。意志が強いはずの瞳の輪郭がぼやけて、口元がぐっと下がる。
「私が殺したんだ」
「いや、だからな?」
再び下がっていく頭を見ながら、何と言ってやっていいのか分からなかった。リーロンならどんな言葉をかけてやるのだろう。今のヴィラルに対してものを言うなら、カミナよりもリーロンの方が適役な気がした。
「お前だけじゃない、沢山の人間を殺したんだ」
けれど、リーロンはここにいない。自分なりの言葉でヴィラルに伝えなければならない。
「だったら俺だってそうだろ!」
自然大きくなったカミナの声に弾かれたようにヴィラルが顔を上げた。
「違う、お前は」
「違わねえよ。確かに俺は人間は殺してねえ。けどな、獣人は殺してきたんだぜ?」
「そうじゃない、お前達が獣人を殺したのには正当性がある。私達が人間を襲わなければ、お前は殺さずにすんだはずだ!」
眠る前に沢山泣いたというのに、ヴィラルの瞳から涙が零れる。垂れたままの大きな手が柔らかな地を掻いた。
「ヴィラル」
その手にカミナは手を重ねた。体を寄せて、瞼にそっと口付ける。濡れた目尻を舐めると、舌に温い塩味が滲む。
「俺達は何も知らなかった。お前達はちゃんと伝えられていなかった。俺達は何も知ろうとしなかったし、お前達は聞こうとしなかったんだ。おあいこだろ?」
びくりと手と瞼を震わせたにも関わらず、ヴィラルは抵抗する素振りを見せなかった。代わりにゆっくりと顔を上げて、至近距離でカミナの瞳を覗き込む。
「お前、知っているのか」
「いろんな奴が報告しに来るんだよ。お前のことも聞いたな」
自分の掌の下で、ヴィラルの指が握り締められた。持ち上がっていた顔もゆるゆると下がって行く。非難されて当然と思っている上で、ヴィラルは傷つくのを酷く恐れているように見えた。
「ったく、らしくねえな!」
ヴィラルの手を放して、代わりに両手で耳の当たりに手を置いて頭を挟んでやる。
「な、ちょっ……止めろカミナ!」
わしゃわしゃと滑りの良い髪を掻き回すと、ヴィラルが必死に手を止めようとしてきた。彼女にならこれくらい簡単に止められるだろうにその腕はやけに控えめで、軽く添えられるだけに留まる。
「別にお前を殺したいほど憎んでる奴なんていないんだぜ? そりゃ、複雑な奴だっているだろうが、皆どうして俺達があんな戦いをしなくちゃいけなかったのか知ってんだ」
「そんな、はずは」
両手に挟まれながらもヴィラルは弱々しく首を振る。揺らぐ瞳が嫌というほどヴィラルの気持ちを伝えてきているように思えて、カミナは彼女の頬に親指を滑らせた。
「じゃあ、お前はシモン達を憎んでるのか? 今、俺を殺したいって思ってるのか?」
既に死んでしまっている身の上でこう言うのも変かもしれないが、とこっそり付け加える。ヴィラルがもう目をきつく瞑って、もう一度首を振った。ころりと目の縁から零れた涙が頬を撫でていた親指に染み込んで、何だかこっちまで泣きたくなってきた。どうやったらこいつの悲しみを取り払って、以前のような自信を取り返させてやれるだろう。ただ、俺はお前を憎んでなんかいないと伝えたいだけなのに。
お前もただ、許されたいだけなんだろう。けれど、気難しくて馬鹿正直なお前は自分のしたことが許せない。ヴィラルという一個人を許していないのは、もうお前だけなのに。
「優しい奴なんだな、お前は」
きっとそう口にしても、ヴィラルは受け入れることができないだろう。なら、どう伝えればいいのだろう。案の定、ヴィラルはふるふると髪を揺らして否定を示した。
「今どこに住んでんだ?」
「え、ああ、地下の人間の集落だ」
ふっとヴィラルの目尻が緩んで、言葉の端々が柔らかくなった。おおよそ豊かではないだろう状況で、ヴィラルに与えられていた旅道具を思い出す。質素ではあるだろうが、十分な量の食事もまた頭を過った。
「好かれてんだな」
「すかれて、いる?」
良く分からない、とヴィラルが素直な疑問符を浮かべた。実感できないとか好かれているように思えないとか言われるならまだ分かるが、この反応は何なのだ。まるで、その経験をしたことがないような。
「ああ、分からないんだ。我々は必要のない感情を省かれて、螺旋王に作られたからな」
「必要ない?」
螺旋王が求める獣人像は、死を恐れぬ戦人だろう。ときに人を弱くも強くもしてしまう愛は獣人の個々の力を予測できないものとしてしまって、甚だ不必要とされてもしかたがないのかもしれない。
けれど、愛を心を持つ生き物がなくすことができるのだろうか。そして心があるからこそ、ヴィラルはこんなにも苦しんでいるというのに。
「獣人はクローンによって作られるから、種の存続のために愛情は必要ないだろう」
会話をキャッチボールに譬えることは良くあるが、それでいうところの暴投とはこのことだろう。それも明後日の方向に投げたのならともかく、デッドボールを鳩尾に食らったような感じだ。話の方向自体は合っているのに、着地点が全く違ってしまっている。
「な、おい、お前何言ってんだ?」
「人間の生殖行為には基本羞恥心が伴うだろう? そのままだと子孫が残し辛いから、愛情でもって主に女性側の欲求を掻き立てるのではないのか」
そんなことも知らないのか、というふうにヴィラルが溜め息を吐いた。ヴィラルの説明が分からないわけではないが、カミナが言いたいことはそういうことではない。
「確かにそうとも取れるかもしれねえけどよ、別に俺達は子供が欲しいから誰かを好きになるわけじゃないぜ?」
「じゃあ、どうして好きになるんだ? 利点がないだろう」
そもそも感情に利益を求めること自体如何なものかと思わなくもない。けれど物質的に求める姿が無性にヴィラルらしくて、呆れるついでに笑えてくる。だからいって爆笑する程でもなくにやついていると、ヴィラルが眉間に皺を寄せた。
「うわっ! おい、何を――」
侮辱しているわけではないと説明してやる代わりに、目の前にある体を思いっきり抱き締めて地面に尻をつける。色気も糞もない悲鳴を上げたヴィラルの口を自分の口で塞いでやれば、一度肩が大きく震えてから全身が硬直してしまった。
「分かんねえ。分かんねえけど、しかたないだろ。生きてるなら、きっと誰かを好きになる。そうしなけりゃ、誰も生きていけねえんだよ」
至近距離過ぎてピントの合わない視界でも、ヴィラルの顔が真っ赤になっているのが分かった。さっきも瞼にしてやったというのに、全く意識していなかったらしい。
ヴィラルは無駄に頭でっかちで、色々な感情を押さえ込まれて生きてきだのだ。たとえ獣人が作られた種族であったとしても、感情まで操作できるはずもない。できるとしたら、ただ遠ざけることだけだ。
「それは、私もか?」
「ああ。お前は今、自由だろ?」
何もお前を押さえ付けるものなどないはずなのだ。おずおずと肯定した頬を撫で上げてやって、細まった瞳にもう一度唇を落とす。それだけで鋭く反応する彼女が酷く愛おしく感じた。
ああ、そうだ。愛しいのだ。
いつの間にか芽生えていた愛の片鱗に今更ながら気が付いて、思わず苦笑してしまう。今、こいつが欲しくてしかたがない。
「今の自分が嫌いか? 全部忘れちまいたいか? 忘れちまって、それで昔に帰れたらそれで構わないなんて思うか?」
「嫌だ」
ふるふると首を振って否定するヴィラルの記憶に果たして自分が含まれているのだろうか、となんとはなしに思う。初めての出会いは彼女にとって最早過去に成り果てているのではないか。
ならば、今の己はどうなのだろう。カミナという存在に会うことで彼女が過去に戻っているなら、それは酷く悲しいことだ。
「なら、そんな昔の格好してんじゃねえよ」
短い髪の端を摘んで、目の前で振ってやる。ヴィラルが自然寄った目で髪の長さを確認してから、手首部分に付いたファーを不思議そうに見下ろした。
「……どうして」
万感の思いを込めて、というふうに吐き出された言葉が掠れて響く。どうしてなのだろうか、とヴィラルは少しだけ間を開けて言い直した。
「私はお前を既に過去の人物だと思っていた。でも、違うんだな。こうやって、今生きている私に作用してきているんだ」
一呼吸分空白が生まれて、ファーを見詰めていた視線がこちらを向いた。
「私がここで死んでいなければ、お前もある意味死んでいないのかもしれん」
自分の上で縮こまっていたヴィラルの体が少し柔らかくなった気がする。何がどうなったのか、瞬きをしていた間に艶やかで短かった髪が背中辺りまで伸びて、抱き寄せる腕に掛かる。さっきまでのような艶がないその髪が、やけに美しく見える。
「仕方ない、お前の為にも生きてやる」
深く抱き締めて髪に顔を埋めてしまったせいで、彼女の服装も表情も全く分からない。けれど、きっと服は埃に塗れていて、口元には笑みを湛えていたに違いない。そう思うと、不思議なくらい満たされた。
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2009-09-28T13:17:45+09:00
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『アバン艦長ショタ返り4』
https://w.atwiki.jp/virako/pages/78.html
「……っ、く……」
食いしばった歯の間から抜けていく空気が、やけに甘えた声音となったことに自分でぎくりとしたのか、少年の体が僅かに跳ねる。
「ひっ!?」
身動きしたせいで、薄皮一枚に守られた肉と血管が、少し硬いもの──例えば、そう、尖った歯とか──に当たったような気がして咄嗟に全身が竦む。
が、いつまで経っても予期した痛みなどはなく、その器官はただ温かく濡れて柔らかな感触に延々と撫で回されて、これまでに体験したこともない、強烈な快さに翻弄されるばかりだった。
ついさっき、抵抗する間もなく下穿きを剥ぎ取られた驚愕と恥ずかしさとその他諸々で一瞬縮み上がったかに見えたというのに、今や臆面もなく怒張し、屹立しているそれは既に自分の体の一部ではないかのように意のままにならない。
だというのに受け取る感覚だけは忠実に脳裏へ送られ、腰から下の骨が抜かれでもしたかと思うほどの快感で意識が埋め尽くされている。
「や、やや、やめ……っ、…て……そこっ……ぁ、あ!?」
静止の声が途中から裏返り出したことに、それまで少年のなだらかな下腹部に顔を埋めるようにしていた女もふと気付いた風に顔を上げる。
もとい、視線だけは上げたものの、口と手では未だ休みもせずに捕らえたものへの奉仕が続行されていた。
「…んっ……ここ、辛いか……? シモン…」
ぴちゃぴちゃと湿った音を立てながら、剥き出しにされたての粘膜を熱くて僅かにざらっとした舌で舐り回された途端、少年の全身ががくがくと震える。
問いかけられる言葉にも満足に答えられず、肯定か否定かも判然としないそぶりでひたすらにかぶりを振る様に、それを否定と取ったのか、女は更に執拗な動きでその場所を攻め立て始めた。
「あぁっ、やっ、ちが……っ…!」
微かにひりひりとする場所を舌の平で丁寧に撫でられ、雁首の縁やその下で僅かにたるむ薄皮の中までも舌先でなぞられる触感に腰椎が痺れ、全身がぐずぐずと蕩けてしまいそうになる。根元から幹のかしこまで行き来する指先はぬめりを帯びた液体を助けに忙しなく、しかし爪が当たらないよう慎重を期しながら擦り立て、時にやわやわと嚢を揉んでいく。
頭の中に靄がかかり、目の奥で何か眩いものがちかちかするような忘我のうねりの果てに、先端の小さな窪みに舌先をねじ込まれ、同時に唇で吸い上げられる感覚がついに止めを刺した。
「……いっ、ぁ、っ……あ…………!!」
自分の中から何かが激しく溢れ出す、それは開放感を伴う明らかな快楽だったが、ぼんやりとした視界に映った、自分の脚の間に顔を寄せたままの相手がその放出したものを口中に受け止め、躊躇わず飲み下す様を認めた瞬間、シモンは自分でも驚くほどの衝撃──はっきりとは正体の掴めない、幾つかの感情が複雑に絡み合ったような動揺に見舞われ、それまでの本能的な充足感は跡形もなく吹き飛んでしまった。
尿道内の残滓も全て吸い出し、先走りと唾液にまみれたものを丁寧に舌で清め終わったヴィラルは自分の頭上から降る視線が、どこか咎めるような雰囲気を含んでいることにふと気付いて顔を上げる。
見上げる先の表情は、耳の先から首筋まで真っ赤に染まって快楽の名残を露骨に示してはいたものの、大きく見開かれ、眦に涙を溜めた眼には確かにそれとは違う、何かを悲しんでいるような、そして同時に怒り、悔しがっているような色がうっすらと浮かんでいた。
「……口でされるのは嫌だったか、シモン?」
とりあえず思い当たった可能性を訊ねてみれば、少年の首は壊れて取れてしまいそうなほどにぶんぶんと左右に振られる。眼に溜まっていた涙がほんの少し嵩を増して溢れ、宙に散った雫の一滴がヴィラルの頬に飛んだ。
「…違っ、違う…そうじゃ、なくて……ぃ、いつも…っ、こんな…事、してるの…!?」
黙って頷けば、泣きっ面はまた盛大に歪む。
「私と──獣人と、こういう事をするのは今は嫌か」
「嫌だよ! ……ぁ、うぅん、その嫌、じゃなくて……だって、俺、殴ったり…して…るのに………」
服のスカート部分で手を拭いながらヴィラルは立ち上がり、またも完全に項垂れてしまった藍色の頭を旋毛の辺りからわしわしと撫でる。
驚いたように跳ね上がる顔の、額に掛かる前髪を指先でよけ、そこに軽くキスを落とせば元から丸く大きな眼が更に丸くなるのが少し可笑しい。
「確かに、大人のお前は……拳を振るうのと同じ意図で、私にそういう行為をさせる時もあるが」
少年が目に見えて辛そうに眉根を寄せる寸前、肩に手を置いて顔を覗き込む。至近距離で獣の金色の眼と相対することになった黒い眼の中で、瞳孔がきゅっと不安げに縮んだ。
「でも、私は案外、それが嫌ではない。最初の頃は……まあ多少は抵抗がないでもなかったが、だけどお前の存在を体の深い場所で感じていると何だか幸せな……と言うのも変だが、なんとなく私の中にある足りないところが埋められるような、そんな気持ちがするんだ。無論、今のお前が嫌だというなら、もうしない」
真正面から思わぬ告白を受けたシモンの両眼はまたも大きく見開かれ、頬に新たな赤味が注す。
動揺のあまり舌の回らなくなった口は慌てて何か適切な言葉を探そうとするが、そんなものはどこにも見つけられなかった。
「そ、そういう…意味で、い、嫌、とかどうかなんて……そんなの、わかんないよ……俺……」
しどろもどろに呟いて、顔ごと目を逸らそうとする動きは途中でぎくりとしたように止められる。
肩から滑り降りていった獣人の大きな手が、胸の真ん中から腹を撫で下ろしたその先で、いつの間にか再び頭をもたげ始めていたものにそっと触れていた。
「なら、いっぺん試してみるといい……こちらは、随分とその気になっているようだし」
鋭い爪で触れないよう、気遣って伸ばされた指の腹が先端をふにふにとつつけば、半勃ちだった雄はやにわに硬さを増して奮い立ち、少年のなけなしの意地をもあえなく霧散させてしまう。
些か悔しげに唇を噛んだ表情はそれでも首肯の形に小さく上下して、女の提案を受け容れた。
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「……そう、そこでいい。そのまま、入って……っ、ん……!」
未成熟だがそれなりに嵩のある若茎を、しかし宛われた場所はさほどの抵抗もなくつるりと呑み込んだ。
先程、口腔内に含まれたときよりも更に熱く、ぬめる体液を潤滑剤としてひたひたと柔軟に絡み付く粘膜の感触が、未だ経験したことのない快さの信号で頭の中を充たしてしまうことにシモンは僅かな怖れを覚え、小さく身震いする。
「あ、ぁあっ…!?」
その震えが相手の体まで伝わった途端、自分の最も敏感な部分を咥え込んだところがきちきちと、独自の意志でも持っているかのように細かく蠕動し、まるで幾つもの柔らかい舌で舐め回すような淫らな刺激が与え返された。
逃げ出したいという反射的な忌避感と、逆にもっと奥まで入り込んでこの快楽を味わいたいという欲求が体の中で拮抗し、ぎこちなく前後に動いた腰は結果として、更なる肉悦の渦に少年を引きずり込む。
「いい、か……? シモン…」
シーツに背を預け、腰だけを浮かした形の女獣人はゆったりと下肢を揺すって自分よりも相手の快さを導くように動いている。仰臥していてもなお、充分に豊かな膨らみを誇示する二つの乳房がその動きに連れ、たゆたゆと蠱惑的に揺れた。
「…ん、……っ、う…ん……」
心身の許容値を軽く超えた、圧倒的な感覚の奔流にもはや小さく呻く事しかできず、力の入らなくなったシモンの上体はかくりと前傾する。
身を二つに折るような姿勢を立て直そうと動いた手は、咄嗟に触れた女の脚に縋り付き、結果としてより強く密着した肌の温度に、より深く繋がり合った秘部からの刺激に少年の理性はあっさりと陥落し、堰を切った欲望はどくどくと耳の奥に響きながら女の体の奥へ注ぎ込まれて行った。
「……ぁ…っ、あの…ご、ご…めん……っ!!」
解放感に高揚していた意識も、己の現状を顧みれば背筋に冷水を浴びたかのごとく素に引き戻される。
実体験は伴わなくとも、大人や少し上の世代の子供達が話す内容や家畜の繁殖に関わって聞き囓った知識は、たった今自分がした事の意味を理解できないほどに少なくはなかった。
慌てて退きかけた体に従い、相手の中から半分近く抜け出した自分のものに掻き出されるよう、白濁した粘液がどろりと結合部からこぼれ落ちる。
いくら獣人とはいえ、こんなにも人間に近い形をしているのなら、もしかして──
途端に顔色を無くしたシモンの様子を不思議そうに眺めていたヴィラルは、あることに思い当たり口元に小さく笑みを刷いた。
どんどん俯いて旋毛が見えそうな頭を、大きな手でふわりと撫でてやれば恐る恐ると顔が上げられ、大きな目がひどくもの言いたげな視線を投げてくる。
「……安心していいぞ、シモン。獣人の体には新しい命を生む機能はない」
言いながら浮かした両脚を細い腰に絡めて引き寄せ、一旦出て行きかけたものを再び深くまで咥え込む。
バランスを崩して前傾する上体はそのままに、おろおろと所在なさげな両手をそっと取って、ふるりと揺れる両の膨らみへと導いた。
「だから何も気にせず、愉しむために使えばいい」
「…っそ、そん、なの……」
自らを道具のように言う女に、何か気の咎めることがあるのか一瞬辛そうに表情を歪めた少年も、ゆるゆると貪られる腰から、柔らかな感触を掴み締める手からの快楽に再び流され始める。
「何も問題はない、私も……これは好きだ……っ、んっ」
その言葉が嘘ではないと証明するように、女の腰はこなれた動きでグラインドを掛けながら、またもや硬度を増しはじめた雄を食んでは淫らな水音を隠そうともしない。
しがみつくように指を食い込まされた乳房の頂点では痛々しいほど鮮やかな色に染まった先端が、更なる蹂躙を待ち望んでぷくりと立ち上がっていた。
温かくぬめる内側に撫で回される感覚は体の奥に熱くわだかまり、腰椎がどろりと溶け出しそうな快楽信号がひっきりなしに背筋を駆け上がってくる。
指先が埋まってしまいそうなほど柔らかな、それでいてみっしりとした密度と弾力を具えた二つの膨らみはうっすら汗ばんで掌に吸い付くようだ。
おっかなびっくりと腰を揺らし、同期するようなリズムで両手に掴んだものをこわごわ揉み立ててみるさなか、ふと金色の目が柔らかい光を湛えてこちらを見ていることに気が付いた。
「もっと好きなように扱ってかまわないぞ、元よりお前のものだ」
「……今の、俺のじゃ…ないから……ねえ、大人の俺って…いつもどんな風に……」
言いかけて目を伏せるシモンの上体を、獣人の大きな手が壊れ物を扱うようそっと抱き寄せる。
はっとして薄く開いた唇を、小さな音を立てて優しいキスが何度も啄んだ。
「…お前はいつも素直じゃなくて、何でも出来るくせ変に不器用で……他人に甘えるのがとても下手だ」
薄い胸板に押し付けられる、柔らかで弾力に富んだ感触に思わず意識をほとんど持って行かれそうになりながらも、女の言葉を聞いた少年の顔には複雑そうな、泣きかけて不意に笑ってみたような表情が浮かぶ。
「……なんだ、俺…大人になってもそんなに変われてないや……」
ゆるゆると吐き出される溜息は情けないと言わんばかりの、ほんの少しだけ安堵の色を交えた響きになった。
「そうだ、どんなに時間が経とうと、どれほど姿形が変わろうとお前はシモンで、それ以外の誰にもなりはしない。いつも自分で言っているだろう? 『俺を誰だと──」
「……『俺を、誰だと思っている』?」
にこりと微笑んだヴィラルの指が、さらさらと髪を梳くようにして頭を撫でる。
「いつも、言ってるんだ……」
「ああ」
てらいもなく返る肯定に、しかしシモンの胸中は再びじくじくと痛む。
大人の自分はどんな気持ちで、カミナから貰った言葉を口にしているのだろう。
大人になった自分に、カミナの言葉を背負う資格が果たしてあるのだろうか──少なくとも、ヴィラルに対する振る舞いという意味ではそんなものは無いように思える。だってカミナは、決して復讐心とかそんな昏い感情に駆られて戦ったりはしなかったし、無抵抗の相手を殴るような真似は自分にも他人にも許さなかったはずだ。
自己憐憫の涙を呼びかねない、震えた呼吸を無理矢理に呑み込もうとした刹那、頬が大きな両手に挟まれたと思う間もなく鼻の頭がくっつくほどの近さからヴィラルが覗き込んでいた。
「シモン、今の──大人のお前は、昔のお前から見れば歪んだ道を歩いているのかもしれない。だけど、私はそれでも結構お前が好きだし、あの副官やリーロンも、この艦に乗っている者たちも皆、お前とお前の選んだ道を信じて共に歩もうとしているのは確かなんだ。だから──」
金色の眼は優しく眇められながらも、いつか見たような意志の勁さを湛えて少年のそれを射抜く。
静かな声音と温かな吐息が、今にも重なり合いそうな距離でそっと唇に触れた。
「怖がらないで、お前の明日へ来てくれ……シモン」
>>>
>>>
ふと、水の底から浮き上がるような感覚と共に目を覚ます。
もぞりと寝返りを打った体がシーツの上で動く感触、手足の重さとそれに比例する抵抗。
片手を持ち上げて目の前にかざす。照明を落とした薄闇の中で辛うじて見て取れる輪郭は、骨張って大きな成人男性のそれだった。
「……大人の…俺、か」
腕を下ろし、体の左半分にひたりとくっついている、柔らかくて温かいものへ触れる。
そちらへ顔を向ければ鼻がくっつきそうな近さに、静かに目を閉じている女の顔。ぐっすりと眠っているのか、腰に腕を回して体を抱き寄せても僅かに身じろぐ程度の反応しか返さない。
「犬のくせに、随分と芝居が上手いじゃないか?」
目元に落ちかかる金の髪を掬い取っては指先に玩ぶ。毛先が頬を擦るのがくすぐったいのか、女は小さく息を洩らして体を捩ろうとした。
腰を抱いた腕の力を強め、逃げ掛かる体を押さえ込めば今度は従順に身を寄せてくる。
甘えるように胸板へ頬を擦り付けた女の口元には穏やかな笑みが浮かんで、うすらと開いた唇が微かな、闇に溶けてしまいそうな音量で言葉を紡いだ。
「……シ…モン……」
優しく、慈愛に満ちてさえ聞こえる囁きに却ってぎくりと身が竦む。
子供の姿の自分に対するこの女はどう見ても正気だった。
かつてそうだと知っていたのと変わらず、並みの人間よりも理知的で高潔で、それでいながら母親のように優しかった。
両親やカミナを、大切な人たちを殺した獣人のくせに。
数多の獣人を、そして螺旋王を殺した人間を許さないと言ったくせに。
宇宙に破滅をもたらす元凶を討つと刃を向けたくせに。
いつから、それともずっとそうだったのか。
気の痴れた女のふりをして、身勝手な侮蔑と暴力を甘受してまで、どうして大人しく側に居続けるのか。
その向こうにある気持ちが解らない──いや、解りたくない。
本当のことを知るのが、真実を正視するのが怖くて堪らない。
「それ」はきっと、自分をとてもいい気にさせるだろう。
「それ」はきっと、自分を立ち上がれないほど打ちのめすだろう。
絶望と憎悪を糧に戦ってきた自分が、幸福などというものに僅かでも触れればどうなるかなんて目に見えている。
希望だの愛だのに心を許せば、罪と悔恨はその何千倍もの重さで背骨を折るに違いない。
赦したくなんかない。
だから。
「……お前も、俺のことを一生赦さなくていいんだ」
掠れた声で呟き、眠る女の顔を覗き込む。
そっと触れてみた唇はひどく柔らかで温かく、その温度も、どんな夢を見ているのか幸せそうに微笑んだ表情も、却って氷の棘のように胸の底へ突き刺さった。
>>>
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薄ぼんやりと開けた視界に、広い背中が映る。
こちらに背を向けベッドに腰を下ろしている姿が誰のものなのか、一瞬戸惑った頭は数秒遅れで正解を見つけ出し、従ってその意味するところに遅まきながら気が付いたヴィラルは慌てて飛び起きた。
「シモン! よかった、大人に戻ったんだな…!」
「……何をわけの解らねぇ事言ってやがる、この馬鹿が」
喜んでかけた言葉を一蹴するにべもない声音も、むっとして不機嫌そうな表情も数日前と同じ、元通りの成人した男のそれだ。
しかしヴィラルがその次の行為を予期して身構えていても、いっこうに平素ならそう来るような打擲は訪れず、シモンはふん、と小さく鼻を鳴らしただけでさっさとベッドを後にした。
「…………」
じろりと周囲を睥睨した男は足元やベッドの端に散らばった衣服、明らかに今の彼にはサイズが小さなそれらを目に留め、不審そうに眉根を寄せた表情でつまみ上げた後に全てを丸めてダストボックスに放り込み、クロゼットから自分の服を取り出しては身に付ける。
その様子をどこかぼんやりと眺めているヴィラルの視線を遮るよう、敢えて大きな動作で黒いコートを纏った後で、ようやくまた口が開かれた。
「……目が覚めたら寝る前よりも何日分か日付が余計に過ぎてやがるんだが、俺はその間の記憶が無い。何があった」
はっとしたように目を瞬かせ、次いでうろうろと視線を彷徨わせたヴィラルはほんの少しばつが悪そうな顔つきになる。
「な、なんだか螺旋力の暴走みたいなものが起きて……少しおかしな状態になっていた。私には難しい事はよく分からないけど、たぶん、お前の副官かリーロンに訊けばちゃんとした説明が聞ける、と思う」
「難しい事は分からない……か」
確認するよう呟かれた言葉に、ヴィラルが僅かに身を硬くする。
「ま、お前はどうせ馬鹿犬だから仕方がないな」
ぴん、と指先で白い額を軽く弾くと、一瞬目を丸くしたヴィラルは徐々にその表情を柔らげ、最後にくしゃりと泣き笑いに近い顔をした。
「……ああ」
「馬鹿呼ばわりされて喜ぶなんざ、本当に馬鹿だろう、お前」
「そうだな……」
呟くように答え俯いた顔はいきなり男の手の中に頤を捉えられ、やや強引に上向かされると噛み付かんばかりの勢いで唇を塞がれる。
驚きの反応も一瞬の間に溶け消え、抵抗らしい抵抗も無くむしろ招き入れるよう開かれたそこは無遠慮な侵入者に容易く征服され、息苦しさばかりとは思えない甘い喘ぎを一つこぼした。
「──はい、現在本艦は擬装形態で隠蔽停泊中です。ブリッジにお戻りになられ次第、通常航行へ移れますが……いえ、別にあと一日くらいはお休み頂いても構いません。どのみち、後ほど医局で一通りの検査と、この数日間の経過に関する報告を受けて頂く必要もありますから。それでは、お邪魔でしょうから失礼致します」
口早に告げて通信を切り、副官は艦長席を囲む遮音シールドを解除した。
通信端末を突っ込んだ制服のポケットの中で脈動するように光を放っているコアドリルや、メインコンソールで輝く超螺旋ゲージの埋まり具合で彼の調子が今や万全なことくらいは誰の目にだって明らかだ。
だから別に通信内容を他のクルーから隠す必要はない。無いのだがそれでも音声を遮ったのは、まあ今現在やたらに元気を持て余しているだろう艦長の下で、派手に鳴かされている彼女への配慮というか何というかだ。
昨日の明け方頃、突然に強い、それでいて不安定な明滅を始めたコアドリルにただならぬものを感じて彼の部屋へ駆け付けたもののドアのロックは固く閉ざされて艦長権限以外では解錠することも出来ず、リーロンともども一日中気を揉まされ通しだったというのに、今朝になってみれば向こうはけろりとした様子なのだからやっていられない。
それでも、通信画面越しに見た久々のその表情は今までにないと言っても差し支えないくらいにすっきりとしていて、昨日の密室で起きた出来事が悪いものばかりではなかったのだろう、という見当くらいは付こうというものだ。
(まったく、面倒くさい人たちなんだから)
色々と思うところはあるものの、表向きは絶対的に忠実なる副官であるところの彼はそれらを口にも表情にも出さず、専ら事務的な口調と態度でブリッジクルーたちへ隠蔽停泊は本日いっぱいまでとし、明日の本格的巡航再開に向け、各機関のチェック及び出航準備を怠りなくする事などを通達しただけだった。
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2009-09-28T13:12:58+09:00
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『アバン艦長ショタ返り3』
https://w.atwiki.jp/virako/pages/77.html
意識が浮上するのに伴って、さっきまで夢の中で繰り返されていた記憶の連なりが、大量の水が流れ込むようにして脳裏に焼き付けられる。
昨日の朝と同じ、遠く過ぎ去ったはずの記憶と実際に体験した記憶が同じくらいの鮮明さで重なり合う現象に頭がひどく混乱して、目の前がぐるぐる回っているみたいな調子で少し気持ちが悪い。
昨日はリットナーの村を出て七日ほどの場所で、ちょうど良く身を隠して休めそうな岩場にキャンプを張っていたはずだった。
ラガンで周囲を偵察してみたら少し離れた緑地に小さな泉があって、飲み水を充分確保した後でヨーコは水浴びに行ってくるとやけに張り切って出掛け、リーロンはいつものようにラガンとグレンのメンテナンスを、カミナは見張りのためと登った岩山の上でやおら刀を振り回し、どうやらイメージトレーニングらしきものを始めていた。
何をしているのかと訊ねてみれば、彼は存外に真面目くさった顔で『その内、またこないだのケダモノ大将とやり合う日が来るに違いねえ。そん時にゃ今よりもっと強く上手くなってなきゃいけねえからな!』と、おそらく脳裏に描いたヴィラルの太刀筋と斬り結んでいるのだろう刀捌きを続けながら答えて──
「…………ヴィラル!?」
「呼んだか、シモン?」
目を見開くと同時に上掛けを跳ね飛ばす勢いで起き上がれば、すぐ傍らから叫んだ名に応える、些か面食らったような声と表情。
白地に青いラインの入った不思議な形の服を着て、思い出した姿よりも随分と長い髪をさらりと肩口に流し、どこか心配そうな面持ちで覗き込んでくるその顔は確かに、記憶にある限りではほんの僅か前、リットナー近くの湿地で遭遇し、熾烈な戦闘を交わした獣人の女だった。
「な…んで……?」
本当の一昨日に初めて見たときはただ変わった姿だとしか思わなかった肘から下の大きな異形の両腕も、その手に生えた鋭い爪も、刃物の先端を並べたような歯も、あれら全てが地上に出た人間の命を刈り取るために存在しているのだと他の誰でもない、この獣人が言ったのだ。
カミナもヨーコも今は自分の側にいないのに、どうして自分たちとは敵対していた筈のヴィラルがこんな、自分のもっとも側にいるのだろう。
「どうした、具合が悪いのか? リーロンを呼ぶか?」
鼻の頭がくっつきそうなほど近くから覗き込んでくる金色の目が、僅かに瞳孔を膨らませるようにして心配げに揺れた。
前髪をそっと持ち上げながら額に触れた手は女性のそれとは思えないほど大きく、ごつごつと節くれ立って皮膚の質感も少し硬いのに、微妙な力加減でひどく優しくその場所を撫で、発熱の有無を確かめている。覚えている限りでは触れられれば間違いなく切り裂かれそうに鋭かった爪の先も削るか何かしたのだろうか、幾らか丸みを帯びて子供の肌を傷付けまいとする心遣いが感じられた。
「……あの、さ、ヴィラル」
ともすれば喉につっかえてしまいそうな息と共に言葉を口にする。
だいぶぎくしゃくとしたこちらの態度に、小首を傾げながらも耳を傾けている女獣人の物腰はどこまでも柔らかく親しげで、かつて相対した時はひどく怖ろしく死の化身のように思えた姿も、声も、全くといっていい程に印象が重ならない。
「俺、さっき思い出したんだ……リットナー村の近くで、兄貴とヴィラルが戦って……ガンメンが出てきて、俺は逃げ出したけど次の日もまた戦って、グレンとラガンが合体して……」
言いたいことが上手くまとまらず、要領を得ない。
それでもヴィラルの表情は次第に真剣なものとなって、それらの言葉をひとつたりとも聞きこぼすまいと、全身の注意を傾けている気配がなんとなく窺いとれる。
「……だから、その、俺たちは敵だったのに、どうして今は一緒にいるのかなって……」
しばしの沈黙は、ひどく長いようにも、ひどく短いようにも思えた。
ヴィラルは金色の睫毛を伏せて、一瞬何かを言いあぐねたように唇だけを動かし。
「お前を──人間というものを、見届けるためだ」
それだけ言うと、後は押し黙るばかりだった。
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「今日はシモンの様子はどーぉ? また質問責めに遭ったりしてない?」
リーロンの私室の一画、機能的ながらもシックなデザインでまとめられたリビングセットのソファに些か落ち着かない様子で腰かけている客人へ、努めて明るい口調で話を振りながら部屋の主はマグカップに注いだコーヒーを差し出した。
「ああ、目が覚めてすぐはいつものように少し混乱してはいたが……今は落ち着いて本を読んでいる。リーロンから文字を習ったことを思い出したと言っていた」
ミルクを通常の三倍ほど入れてもまだ飲める温度にはならないのか、ヴィラルは大きな手の中でカップをくるくると回すばかりで、いっこうに口を付けずにいる。
そのどこか子供じみた仕草に微笑ましさを憶えながら、リーロンは頭の中で日数の経過を遠い記憶と照合していた。
一晩あたりにシモンが取り戻す記憶の量は常に一定ではないが、おおむねは十日から十五日分といったところだ。昨日はもう、アダイ村を発って数日ほどの時点まで思い出したと言って、ロシウたちは今どうしているのかと質問を受けもした。
「本が……読めるくらいに字を憶えた頃、ってことね……」
不意に、かつりと微かな音に思索が遮られる。
ヴィラルが半分ほどに中身が減ったマグカップを置いた音。
それが合図だったかのように、差し向かいに腰掛けた女獣人はひどく緊張したような面持ちに変わっていた。
「……リーロン、教えてくれ。お前たちが地上を旅していたとき、山の中で人間掃討軍の仕掛けた罠に──温泉、とやらに行ったのは、いつの話だ」
恐る恐る、といった口調で尋ねられた内容に、来るべき時はとうに迫っているのだと理解したリーロンは軽く眉根を寄せ、ともすれば重くなりそうな口を開く。
「あの子、カミナが…あんた達のダイガンザンを乗っ取る作戦を決行した、ほんの二日前よ」
既に十何年もの歳月が経っているというのに、あの頃の記憶だけは少しも色褪せない。
あんなに馬鹿騒ぎをしたのに、あんなに誰もが活き活きと笑っていたのに、たったの一日かそこらで運命は急展開して、そして全ては変わってしまった。
「きっと今夜中にはもう……ヴィラル、夜になったらあんたは別室に移りなさい。次に目を覚ましたシモンは、たぶん……いいえ、必ずあんたを」
「ああ、解っている」
>>>
>>>
日中だというのにどんよりと雲が垂れ込め空は薄暗い。
普段より低く見える空の底を焦がすよう、炎と煙を吹き上げる山々。
そして地上を覆う戦火、絶え間ない銃声と金属の打ち合い、軋む音。
暗い土の中で、狭いコクピットの中に蹲るようにしてそれらの響きを聴き、機を待っている。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
この先を知りたくない。
あの光景を見たくない。
あの言葉を聞きたくない。
それなのに自分を取り巻く状況は無情にも先へ、先へと突き進んでいく。
焦れば焦るほどに自分の体も、戦況も、何もかもがままならない。
目眩滅法に操縦桿を握り、己を呪う言葉を吐く。
駆け寄ってきたあの人がシャッターを叩く。
醜い感情に振り回されるばかりの自分を殴って目を覚まさせ、大切な言葉をくれる。
遠ざかる背中の炎は紅蓮の機体の中へ消える。
駄目だ、そこには──
何かが絶え間なく震えているような異様な気配にヴィラルの意識は即座に覚醒し、寝台の上に身を起こす。
「……シモン?」
眠っているはずの少年の体はがくがくと痙攣し、全身から噴き出した汗がシーツをじっとりと湿らせていた。
大きく喘いだ咽喉が空気を求めてひゅう、と鳴る。
「どうした、シモン!?」
慌てて抱き起こした上体がびくりと強張り、次の瞬間、その口から絶叫が放たれた。
「シモン、目を覚ませ、シモン! 大丈夫だ、今は、もう……」
叫び声が途切れた後も、その口は二、三度音もなく開閉する。入れ替わるよう大きく見開かれた目は、のろりと虚空に視線を彷徨わせ、一瞬後に焦点を結ぶと昨日までとは違う、しかしこれまでにもよく見知った感情に彩られて目の前の女をひたと見据えた。
「……ぁ、兄貴を! お前が…お前らが、兄貴を……よくも……!!」
抱きかかえた手を遮二無二振り払い、半ば転がるようにして身を引き剥がしたシモンの声が、視線が、灼けた鉄の如き憎悪を帯びて自身に突き刺さるのを、ヴィラルは完全な諒解をもって受け入れる。
そうだ、既に覚悟は決めていたはずだ。
シモンは夜毎に少年時代の記憶を取り戻していく。そしていずれ、カミナを喪った記憶へ、彼の心へ憎悪と絶望の楔を打ち込んだその時へ辿り着く。
その時、かつてカミナを殺すのに荷担した自分が彼の目の前にいればどういう事になるのかは、火を見るよりも明らかなのだと。
「……して、…る……」
少年の口からは血を吐くような呪詛が漏れ出す。
「殺してやる! お前らを! 獣人どもを、一人残らず!!」
掻き毟るように胸元を探った指先は空しく宙を掴む。
副官がコアドリルを預かって行ったのはこういう事態を想定していたのだと、ヴィラルも今更ながら気が付いた。まさか、この部屋の中でラガンを呼び出させるわけにも行かないだろう。
シモンは一瞬失望したような表情を見せたものの、動揺はすぐに別の怒りに取って代わり、空を掴んだ拳はそのまま強く握り込まれる。
「やってやる……ガンメンなんか無くったって、俺が、兄貴の仇を!!」
その声を、室内の空気を震わす殺気を、硬く握られた拳から溢れ出す碧の燐光を、全てを受け止めながらヴィラルは静かに目を閉じた。
>>>
びちゃり、と濡れた音が部屋の片隅に小さく響く。
音の源、今しがた自らの吐いた血溜まりの中に突っ伏すよう倒れていたヴィラルはのろのろと顔を持ち上げた。
色白のおもてはすっかりと血に塗れ、淡い金の髪も白い服も、赤黒い斑模様に彩られた凄惨な姿。
それを見下ろすように立つシモンは肩で大きく息をしながら、どこか途方に暮れたような表情で鮮血のこびり付いた自分の両手と、足元に這いつくばる獣人の女とを交互に見やっている。
「な……んで、抵抗、しない……ん、だ…………何の、つもり…で……」
荒い息の合間から絞り出すような声は当初の怒気を幾分か薄れさせ、今は困惑の色ばかりを濃くしていた。
ヴィラルはゆっくりと身を起こし、背後の壁に凭れて座ると、目の前に立ち尽くす少年を見上げる。
「シモン…」
「……っ、馴れ馴れ、しく…呼ぶな……! 獣人の、くせに……」
一瞬、気色ばんで見せたものの、言葉の後半は迷うように揺れて小さく消えた。
その目の前で獣人の女は突然、身に纏っていた衣服の前を開いて素肌を露出させる。
かっちりとしたデザインの布地から解放され、下着で押さえ付けられてはいなかった二つの柔い膨らみがこぼれ落ちるように弾む。ひゅっと息を呑み込む音。
「……見ろ、シモン」
すっ、と持ち上げられた獣の手には、いつの間にか鋭利な爪が五本とも立ち戻っていた。
薄く室内の照明を弾くその鋭さに、僅かに激昂を削がれた少年は引き攣れたような呼気を一つ吐く。
大きく見開かれた目が見つめる先で、女はその五本の爪を己の肩口へ宛がい、ずぶりと突き立てながら胸元まで躊躇せず引き下ろした。
「なっ…………!!?」
獣の爪に白い肌は難なく切り裂かれ、噴き出した鮮血が毒々しいほどの鮮やかさで五条の軌跡を描く。
むせ返るような新たな血の臭いに言葉を失ったシモンの目の前で、しかしその傷口は逆回しされる映像めいて再生する。露出した肉が、裂けた皮膚がひたりと閉じ合わさり、べたべたと付着した血液以外は痕跡も残さず塞がって消えた。
「この通り、私の体は不死だ。螺旋王がそうした……この死なぬ体で、人間を、お前を見届けろと……だから」
自らの血に塗れた手は再び持ち上がり、呆然と硬直している少年の頬へとひたり、添えられる。
「カミナの仇として死んでやることは出来ないが、お前の気が済むまで、何度でも私を殺すがいい」
自分の頬へ、ぬるぬるとした鉄の匂いを塗り付ける女をシモンは呆然と眺めた。
(死なない? 兄貴を殺したこいつが、仇が、自分を殺せと、俺に? 見届けろって何を、獣人は一人残らず殺す、螺旋王が、どうして、何で──)
思考が混乱してまとまらない。
震える両手を目の前の獣人の女へそろそろと伸ばす。
女は無言で頷いて目を閉じる。
僅かに仰け反らせるよう晒された喉が、白く細い。
「…う、ぁあ……あああぁああああぁあ!!」
闇雲に吠え、指先が触れるや否や女の首を全力で締め上げる。
見た目よりも遥かに力の強い指が薄い皮膚の下でひくつく気道を押し潰し、頸椎をみしみしと軋ませる。
ごぼっ、と嫌な音がして獣の口元からは新たに血が垂れ落ち、半開きの唇と鋭い歯の向こうで痙攣するように赤い舌が震えた。
その光景の怖ろしさに慌てて目を瞑っても、耳に届く断末魔の喘ぎと、両の掌と指先に伝わる感触、相手の息が途切れ強張っていた筋肉がにわかに弛緩する死の気配が、容赦なく全身に絡み付く。
自分の口から上がるその音が、復讐の喊声なのか、それとも怖れによる悲鳴なのか、シモンにはもう判らなかった。
>>>
暗転していた意識がぼんやりと浮き上がる。
何度経験しても慣れられそうにない、致命的なまでに破壊された肉体が再生を始めるときの不快な感覚。
折れた骨が、潰された肉と粘膜が、千切れた血管が復元され、肺腑が新たな空気を求めて呼吸が再開され──否、息を吸おうとして口腔内から喉まで溜まった血澱に咽せ、慌てて顔を横向け鉄臭い体液を吐き出す。
薄く涙の滲んだ目を開けば、ここも血が入ったのか目の前が赤い。
不意に、そういったものとは違う、生暖かい雫に濡らされるような感触を覚えて目を瞬く。
「…………?」
霞んだ視界が徐々にクリアになれば、俯いて陰になった人の顔が眼前にあった。
体にかかる重みからすると胴の辺りに馬乗りになった体勢で、頭の両脇に手をついて、覆い被さるようにしてこちらを覗き込んでいる。
その大きな眼から止めどなくこぼれ落ちるものが自分の顔や喉元を濡らしている意味を一瞬考え、僅かに遅れて理解が追い付いた。
「……どうして泣く、シモン……」
声をかけられたことに驚いたのか人間の子供はびくりと肩を震わせ、見る間に歪められた口元がしゃくり上げるような息を漏らす。
瘧めいて震え続けるその肩を、背中を、持ち上げた手でさすってやると何故か嗚咽の音がいっそう酷くなった。
「私が、死なないからか?」
「………ぅ、…違う、違う! こんなこと! こんなことしたって、何にも、俺……!!」
すっかりと身を二つに折り、自分の上に頽れるシモンをヴィラルは困ったような表情でしばし眺める。
そろそろと姿勢を起こしつつ、少年の体に腕を回しても何ら抵抗が返らないことを認めると、少し思案顔をした女は腕の中の小さな体を抱え上げ、部屋の反対側にあるベッドまで運んで行った。
>>>
冷たい水に濡らしたタオルで泣き腫らした顔を丁寧に拭われ、その心地よさと、同時に感じるきまりの悪さにシモンは僅かに身を捩る。
もう一度、今度は少し温かいタオルで首の周りから上半身、両手の先までを拭いてくれているヴィラルを見上げれば、確かに怪我はもう治ってはいるものの顔もかしこも生乾きの血で汚れた酷い有様に、つい目を逸らしてしまいそうになる。
ぼそぼそと、自分を拭けばいいのに、とかいうようなことを呟けば彼女は今気付いたとでも言うように頷いて、使い終わったタオルで大雑把に顔や首、胸回りの血を拭った。
洗面器とタオルをバスルームに戻し、再びベッドサイドへ帰ってきたその衣服の端をそっと引くと、所在なく座り込んだ隣へ、マットレスを静かに撓ませながらヴィラルが腰を下ろす。
ほんの僅かな間の沈黙、しかしそれは、ひどく長いものに感じられた。
「……あの、さっき…ごめん……」
喉から押し出すようにして謝罪を告げれば、相手の何を謝っているのかわからない、とでも言いたげな表情に出会って余計に座りが悪くなる。
実際、先刻あれだけ殴った顔も、指の跡がつくほど締め上げた首も、今は鬱血の一つも残さず何事も無かったかのように元通りとなっているが、だからと言って自分の掌や拳にまとわりつく人を傷付けた感触が消えて無くなるわけでもない。
「俺、ひどいことした、よね……もう、本当は兄貴がいなくなってから、何年も経ってるのに」
どんどん俯き、首が折れそうな程にまで下向いた頭を、不意にふわりと撫でられる感触。
獣人の、大人の男よりも二回りほど大きくて鋭い爪を生やした手が、その作り出された用途とは裏腹に優しく子供の頭に触れ、己の胸元へと引き寄せる。
「時間が経てば大切な者を失った事実が無くなるわけでもないだろう。それにお前は私に何をしても構わない、その為に私はいるのだから。暴力だろうと、侮辱だろうとお前から与えられるものなら私には拒む理由がない」
縮こまる肩を包み込んで柔らかく抱きとめる手も、穏やかな声も、女の言葉が本心からのものと告げているようで、それは却っていっそうの居た堪れなさばかりを深くする効果しかなく、シモンはこれ以上顔を上げてヴィラルの顔を見ることが出来なかった。
「…ずるい…よ……そんな風に言われ、たら…俺……」
大人になった自分が、カミナの仇である彼女をわざわざ側に置いた上でどう扱っているのか、彼女はそれをどう受け止めているのか。彼女の言葉から、態度から、垣間見える断片は繋ぎ合わせれば繋ぎ合わせるほどに自分をみじめにさせる。
またしても鼻の奥がつんと痛む。吸い込む息が喉に詰まって上手く呼吸できない。
たった今拭いてもらったばかりなのに、と抑えようとしても果たせず、堰が切れたようにこみ上げてくる涙を慌てて手で擦る。
しかしその手はやんわりと掴み取られ、優しく抱き寄せられた顔は肉感的な弾力を具えた、それでいて柔らかな胸へ半ば埋もれるような形になった。
行き場を無くした両手を自分の胴に回させ、癖のなく短い髪を撫でながら女はそっと耳元に囁く。
「この部屋の中ではお前の友も部下も、誰も見ていないのだから気が済むまで泣けばいい。私にとっては昔の事だとしても、お前は今、悲しいのだろう?」
>>>
大きく息をつき、シモンは呼吸を整えようと数度ほど試行する。
全身が、鉛でも詰め込まれているかのように重く感じられて、僅かに身じろぐことすらひどく億劫だ。
だが、それでも、心は凪いで静かだった。
先程まで身の内であんなにも荒れ狂っていた激情は、今やすっかりと引き去っている。
目の周りが腫れぼったくなるほど流した涙が、喉が嗄れるほど叫んだ声が、体から出て行く時に様々な感情の澱までも道連れにしたのかもしれない。
残されているのはただ気だるい疲れと、他人の前で散々と感情的に振る舞ったことに対する一抹の気恥ずかしさだけだ。
恥ずかしいと言えば、今のこの体勢も冷静に考えると途轍もなく恥ずかしい。
相手が獣人とはいえ、女性の豊かな、しかも服装を崩して剥き出しになった胸の谷間に顔を突っ込むようにしてしがみついているのだから。
その上、自分が泣き喚いている間もずっと離さずに抱き締め、背を撫でてくれている手が刻む優しいリズムだとか、全身を包み込んでいる温かさだとか、しっとりと湿る皮膚の微かに甘い匂いだとか、耳元にそっとかかる息だとか、今更になって押し寄せてきたそれらの感覚が、意識すまいと努力すればするほど強烈に意識されてならず、無理矢理頭から追い出そうとすれば勝手に背筋を下って、あらぬところへ火を点してしまいそうになる。
「…も、もう、離、して……」
我ながら可笑しいくらいのひっくり返った声を出しながら身を引こうとすれば、至近距離から視線を合わせることになった金色の目がはたりと瞬く。
僅かな間を置いて、「ああ」と何かを合点した様子で彼女は頷き、それからとんでもない言葉を口にした。
「昂ぶっているのなら、処理しておこうか」
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2009-09-28T13:12:18+09:00
1254111138
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『アバン艦長ショタ返り2』
https://w.atwiki.jp/virako/pages/76.html
数分後、ブリッジに戻った副官により「過労の兆候が見える艦長を休養させるため」停泊及び擬装形態にて艦を隠蔽せよとの指令を受けたカテドラル・テラは久方ぶりに、戦火に艦体を洗われぬ一日を送ることとなった。
「……あ、あの……」
シーツを換え、綺麗にベッドメイキングされた寝台の隅に所在なげに腰掛けているシモンは逡巡の末、勇気を振り絞る思いで今は唯一、同じ室内にいる自分以外の人物に話しかけた。
「どうした、何か必要なものが……そうか、そういえばまだ食事をしていないな。今持ってこよう」
穏やかな声音で応じたその女性は意外なほどきびきびとした動きで続きの部屋へ姿を消し、ほんの数分もしない内にまた戻ってきた。手にしたトレイに乗っていたのはどれも見たことのない食べ物だったが、食欲をそそる匂いに、今まで驚きの連続ですっかりと忘れていた空腹はきゅうと音を鳴らして歓迎する。
それとほぼ同時に、壁の一部が細く切れ込んだかと思うと薄い板のようなものがそこから飛び出してきて、するすると何の支えも無しに宙を滑り、ちょうど胸のすぐ下あたりの位置まで来るとぴたりと止まった。その上に微かな音を立ててトレイが置かれれば、料理から立ちのぼった湯気がふわりと頬をくすぐる。
「あ、おいしい……!」
何だかよく解らないことだらけながらも、未知の料理を一匙口に運んだシモンは思わず弾んだ声を上げた。
ジーハ村での食事と言えばブタモグラの肉以外に食材は無く、それが焼いてあるか煮てあるか、あるいは干してあるかくらいの差しかなかったが、目の前のトレイに盛りつけられた食事は色も形も、材料も調理法も見当が付けられないものながらもどれも何故か不思議と舌に快い。
「口に合って、良かった」
食事を持ってきてくれた女性は、妙にほっとしたような顔でベッドの傍らに立っている。
その不思議な色合いの眼が自分の一挙手をつぶさに見つめていることに気付いたシモンはどこか座りの悪い心地になって、ふと料理を口に運ぶ手を止めた。
「えっと、あなたは……食べないんですか?」
「私はいいんだ」
あっさりと即答され、それ以上の会話が繋がらない。
元より、十四年ほどの人生において母親以外の女性と差し向かいで話す機会などついぞ無かったし、両親を亡くしてから後はむしろ女の人というのは努めて避けて通りたい存在ですらあったのに。
大人になった自分はこんな綺麗な人と四六時中一緒に過ごしていて、気詰まりだったり緊張したりはしないのだろうか。いや、よく考えれば先程目を覚ましたとき、同じ寝台で──しかも裸で一緒に眠っていたということはつまり──
「あ、ああ、あの…っ! その……あ、あなたの……な、名前………」
突然、何か意気込んだ様子で口を開いたかと思うやあっという間に尻窄みに不明瞭となった少年の声に、一瞬面食らったように目を瞬いた女性もすぐに柔らかい表情に戻る。
「私の名はヴィラルだ。言葉遣いもかしこまる必要はない、この部屋の主はシモン、お前なのだから」
「う、うん……ヴィラル、えっと……」
声は掛けたがこの先をどう質問していいものか、主観の上では妙齢の女性と接する経験が皆無に等しいシモンには非常に荷が重かった。
あなたと自分は夫婦とか恋人とかそういった間柄か? などと、どんな顔をして質問すればいいというのか。
しかもそんな事を訊いて「全く違う」と返されでもした場合には居たたまれないどころの話ではない。
結局、うんうんと呻りながらの懊悩の果てに口に出来た問いはひどく抽象的なものとならざるを得なかった。
「……ヴィラルは…俺の、何……なの?」
一瞬、薄く口を開いたぽかんとした表情で──唇の間に覗くぎざぎざと鋭く尖った歯列が先程から大変に気になる──問われた言葉を受け止め、どうやら頭の中でその意味を咀嚼しているらしいヴィラルは淡い金色の瞳でじっとシモンを見つめる。唇が小さく動いて「何……」と繰り返す声が微かに耳に届いた。
「……私は……そうだな、この部屋の家具のようなものと思ってくれて構わない」
「家具!?」
とりあえず想定していたあらゆる可能性のどれとも、全く方向性の違う返答にシモンは思わず素っ頓狂な声を上げる。
家具って。
「そんな、物……みたいに人を思うのは、ちょっと………」
困惑しきって歯切れの悪い反応に、ヴィラルは黙って静かな笑みを返すだけだった。
>>>
『こんな時間にすまない、少し困ったことが……』
カテドラル・テラがが停泊中であってもするべき仕事はそれなりに山積している副官が、夜も更ける時間帯にようやくの遅い夕食を摂った後、自室への通路を歩いているところで通信端末がその日最後の仕事を運んできた。
「どうかなさいましたか」
艦長のプライベートルームの寝室では、昨夜までは艦長だったはずの少年と獣人の女が深刻な顔をして向かい合っている。
「あの、ヴィラルが……」
「私がいつも通りの場所で寝ると言ったらシモンが怒るんだ。かといって、ならリビングで寝ると言っても怒るし」
考え得る限りの好ましからざる事態を予想していたところに想定外の、わりとどうでもいい部類の一悶着の裁定を委ねられたのだということを悟って、副官は内心で大きな溜め息をついた。
「だ、だって、そこ……床じゃないか!」
信じられない、という表情で少年のシモンが指す先には、確かに普段ヴィラルが寝起きに用いているスペース──部屋の一隅に、古びたクッションと毛布をお義理程度に敷いてはあるが有り体に言えば確かにただの床──がある。
かつての因縁ある虜囚を犬と蔑んで跪かせ、その尊厳を著しく貶めるという過去への復讐を、あまり良い趣味ではないとは思いながらもそれで彼の心の平衡が多少は保たれるのならと看過したことがこんな所で仇になるとは、などと後悔するにしても今更な事情を頭の中だけに押し込めつつ、副官は軽く眉間を押さえた。
「まあ、このような習慣ができているのには色々と経緯があるのですが、確かに今のあなたにとっては関係のない事ですから驚かれるのも無理はありませんね。とりあえずは、こちらをお使いになるのがよろしいかと」
言いながら、ドア脇の壁面パネルを手早く操作する。それに従い、通常の寝台が置かれているのとは反対側の壁の下部が大きく開いて一台のゲストベッドが姿を現した。
「永らく使われていませんから一度シーツを交換した方がいいでしょう。上掛けの予備は……ああ、ありますか。それでは、もう遅いですから私も失礼致します」
おやすみなさい、と久々に聞くような挨拶を残して部屋を辞す副官の後ろ姿を見送ったシモンは、次いで黙々とゲストベッドのシーツを整えているヴィラルへ目をやった。
ぴしりと僅かの皺もなく綺麗にメイキングされたシーツの上に、クロゼットから取り出された予備の上掛けシーツと、枕の替わりに床から拾い上げられたクッションが二つほど置かれる。
今の人は「色々な経緯」と言ったが、いったいどんな経緯があれば一緒に暮らしている女の人が床で寝ることになったり、自分のことを家具と称したりするようになるのだろうか。それらは全て、大人になった自分がそうさせている事なのだろうか。
こんな空気の中で普通に会話を交わすには些か気まずく、もそもそとベッドに潜り込み目を閉じてはみたものの、頭の中に渦巻く疑問や不安は、眠りへの安易な逃避をなかなか許してくれそうにない。
それでも必死に目を瞑って頭の上まで引き上げたシーツの外で、ヴィラルが小さなフットランプだけを残して部屋の灯りを落とした。
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閉じている瞼の外が、やけに明るい。
ああ、もう「朝」が来たんだっけ。
でも「太陽」の光とはどこか違う。あれはもっと、目を閉じていてもすごく眩しくて、しかも光が直接肌に突き刺さるかと思うくらいに強い温度を持っているはずだ。
今、瞼の外を照らしている光は同じくらいの明るさだけれど太陽ほどにはぎらぎらしていなく、刺激的でもない。
そう、村にあったのと同じ「電気」の光だ。もちろん、あの何倍も明るくて強いやつ。
「宇宙」には地上のような朝や夜がないから、地下の村と同じように電気を使って寝起きの時間を分けているのだと、昨日リーロンから訊いたばかりだ――そうか、あの人、ロンさんだ――
眠りの内に脳裏へ継ぎ足された記憶と、実際に体験した昨日の記憶が二重映しになって頭をひどく混乱させる。
「思い出した」記憶によれば自分は、自分たちは昨日、ほんの昨日、ラガンに乗って地下の村から地上へ出てきたばかりなのだ。
初めての地上、空、太陽と月、満天の星。ガンメンと獣人。ヨーコとリットナーの人たち──そしてカミナ。
だけど、本当の昨日、目を覚ましたときに教えられた。今はもう、あの初めて地上に出た日からかなり長い年月が経っているのだと。その間によくは解らないが色んな事があって、現在はカミナやヨーコと一緒ではなく、リーロン以外は見知らぬ人たちと共に宇宙──あの、星という沢山の光の中を旅しているのだと。
自分の知らない長い時間の中で、何がどうなってそんな事になったのだろう。
リーロンは「カミナは遠いところにいる」と言ったけれど、どれくらい遠い場所なのか見当も付かない。
遠くって、ラガンで飛んで行っても届かないほどの遠くだろうか? あの、地下の村から飛び出した時に見えた大地の果てより更に遠く?
たったの昨日、いや本当は昨日じゃないけれど、初めて声に出して「兄貴」と呼び、魂の兄弟二人でなら何でも出来るしどこまでも行けると語り合ったばかりだったのに。
大人になったら、もう、二人一緒にいないなんて。
夢とも現ともつかない微睡の中へ、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえたような気がしてシモンはぼんやりと薄目を開いた。
靄が掛かったような視界に、自分を覗き込んでいる人影がおぼろげに映る。
「……あ…にき……?」
舌のもつれたような声で呼んでしまってからはっと我に返り、大きく目を見開いた。
ちょうど正面から顔を見合わせる形でやはり驚いたような顔をしているヴィラルの姿が目に入る。
「あ…あの、ごめん………ちょっと、寝ぼけてて…」
気恥ずかしさに慌てて視線を外し、起き上がって寝台から脚を下ろす。
晒し布を巻き直した足を靴に突っ込みながらそっと室内の様子を窺えば、ヴィラルはもう自分用の寝台を再び壁に収めてしまったようだった。俯いた視界の隅を、白いブーツに包まれた足が横切って行き続きの部屋へと姿が消える。
「そういえばさ、ヴィラル」
今日はダイニングの卓に並べられている朝食を口に運びながら、シモンはふと胸に浮かんだ疑問を尋ねてみた。
「ヴィラルは、兄貴……カミナと会ったことがある?」
やはり昨日と同じく自分の食事を摂っている様子のないヴィラルが、急な質問に驚いた様子で、何故か奇妙に硬い、のろのろとした動作で首を縦に振る。
「それっていつ頃のこと?」
「昔、お前がまだ子供だった……今の姿とそれほど変わらない頃に、何度か」
「そうなんだ!? 俺と兄貴がラガンで地上に出てから、どれくらいなんだろう……あ、ヨーコには会ったことがある? ロンさんと同じリットナー村の出身で、赤い髪の綺麗な人なんだけど」
彼女は無言でもう一度頷いたが、その表情はどういうわけかひどく強張っていた。
何かあったのかと重ねて問おうとしたところで、急に大きな音を立てて椅子が引かれ、ヴィラルが席を立つ。
「いや、そのまま食事を続けていてくれ。じきにリーロンも来るだろうし……私は急ぎの用事を思い出したから、少し出掛けてくる」
>>>
直後に、入れ替わるよう姿を現したリーロンはまたもや妖しい手つきでシモンの身体データをあれこれ計測し、手にした見覚えのある機械に何事かを打ち込みながら自然な口調で会話を続けた。
「そう、じゃあカミナと二人で敵のガンメンを乗っ取ったところまでは思い出したのね?」
「…あの、ロンさん」
「ロンでいーわよぅ。今更改まらなくたって、私とあなたの仲じゃないの」
思い出しはしたが、やはり慣れないと強烈に感じるリーロンの物腰にたじたじとなった様子で、シモンは言いにくそうに言葉の先を口にする。
「昨日……ぁ、その、本当の昨日、兄貴は遠くにいるって聞いたけど……ヨーコも? ヨーコは兄貴と一緒に行ったの?」
まるっきりの興味というよりは、どこか不安げな──知りたいが答えを聞きたくないとでも言うような気配を漂わせながら、シモンは躊躇い混じりに問うた。
その上目がちの黒い瞳に揺れている感情に、きっと本人は気付いていないだろう。
あの時だって──彼は結局、最後の最後まで気付くことが出来なかった──
「……ヨーコは、やっぱり遠いところには違いないけど、カミナとは別の所にいるわ。でも、だからといって別に、あんたたちのうち誰かが仲違いやケンカ別れをしたってわけじゃあないの。全てはタイミングと……その時々での選択の結果なのよ」
普段通りの超然とした物腰に、哀切も悔恨も全て隠しきって性別不祥のメカニックは少年を煙に巻いた。
シモンは「そう…」と口の中で答えたきり、これ以上何を話して良いか解らない、といった表情で床と自分の爪先あたりを眺めている。
ここで悲しそうな顔をするのも、嬉しそうな顔をするのも、おそらくどちらも選べないのに違いない。
かつて、地下からやって来た二人の少年と、幼い時分から見守ってきた少女との間に形成された、幼くて脆くて、可愛らしかったけれど危ういバランスで保たれていた関係をリーロンは思った。
誰が悪かったわけでもない、ただ、ほんの少しだけ行き違ってしまったそれが三人の上にもたらした、大きく取り返しのつかない悲劇の思い出を。
「ハイ、今日の検診はここでお終いよ。何か調子のおかしい所や気に掛かることがあれば、いつでも端末で教えてちょうだいね」
そう言われ、シモンは上着のポケットに収まった小さな機械を引っ張り出してみる。
先程、この部屋に来たときリーロンが渡してくれたシモン用の通信端末には、まだ字の読めない少年にも必要な通話が出来るよう、短縮ID表示の上にリーロン手ずから妙に可愛いシールを貼ってくれていた。
リーロンへの番号には紫色のハートマーク、副官へは何故かピンクの星。そしてヴィラルの──正確には今はヴィラルが持っている本来のシモンの端末──ところへは水色の……シモンには何だか正体が解らないが動物らしきマーク。
「そうそう、さっきヴィラルが許可を取りに行ったから、あとで面白いところに連れて行ってもらえるかもしれないわよ」
「面白い…ところ……?」
首を傾げたシモンの手の中で、不意に端末が小さなコール音を鳴らす。
その操作盤の中で、水色の仔犬のシールが貼られたIDがちかちかと瞬いていた。
>>>
「いいと言うまで手を繋いで離さないように」と注意され、言われるままヴィラルの大きな手を握って一歩踏み出した途端、淡い碧の光に包まれたかと思うと室内の景色が掻き消すように消え失せた。
「…あ!? えぇ!?」
わたわたと辺りを見渡し、とりあえずヴィラルが隣でしっかり手を握ってくれていることに僅かながら安堵し、もう一度周囲の様子を見ようと顔を上げた瞬間、眩い光と鮮やかな色彩がシモンの眼を刺す。
「ぅわ…ぁ、って……えぇ───っ!?」
いつの間にか、二人は緑の丘の頂に立っていた。
足元にはうっすらと光っている丸い板のようなものがあるが、それ以外は果てしなく拡がる自然の景色ばかりが視界に映る。
清涼な空気が微風となって吹き抜ける先の空は青く、高く、天頂には直視できないほど強い光を放つ太陽。
丘の上から麓にかけては丈の短い緑の植物──「草」だとヴィラルが教えてくれた──に隈無く覆われ、少し離れたところには丈の高い頑丈そうな植物が群れるように生えて濃い日陰を作っている。更にその向こうにはきらきらと光を反射する大きな水場があり、そこに集まる動物の影までがはっきりと見えた。
「わぁ……あれ、何だろ……?」
「あれは湖だ。近くまで行ってみるか?」
初めて見るものばかりの景色に眼を輝かせている少年を柔らかい表情で見下ろし、ヴィラルが草の海へ足を踏み入れる。
繋いだままの手に引かれるようシモンも歩き出し、土や岩場とはまた違う足元の感触に驚いたり周囲を忙しなく見渡したりしながらも湖へと丘を下った。
「ここ、やっぱり地上なの?」
湖畔に幾つか設置されていたベンチに腰掛け、心地よい風にたゆたう水面や、草むらから飛び立つ鳥などにひとしきり目を奪われた後でシモンはヴィラルを見上げ、訊ねる。
「いや、ここも宇宙で──おまえの艦の中だ。とても大きな家の中を、沢山の部屋に区切ってあると考えてくれ。その部屋のうちの幾つかにこうして地上の自然環境や生態系を再現した場所があって、乗組員たちが心身を休めたり、食糧を作ったりするために使っている。周りの植物や動物は本物だが、空や、一番遠くの景色は映像だ」
「そうなんだ……」
映像、というのは要するにリーロンの機械が映し出すような、鮮明で動いたりもするけれど触れる実体のない絵のようなもの、という事なのだろう。
あの空も、雲も、太陽も。
自分の理解の範疇をだいぶはみ出した事実に、シモンはそれ以上の言葉を継げずにただ目の前の風景を眺めやった。
あの地下の世界から飛び出して、どこまでも果てしないと思えた大地や空の拡がる地上から今はまた更に遠くへと来ているらしいのに、わざわざ地上によく似た場所を作って部屋にしまっておくなんて、大人になった自分のしている事はよく解らない。
兄貴がこういうのを見たら何て言うだろう。「なんだよ、地上かと思ったらまた天井じゃねえか!」とか文句を言ったりするだろうか?
それとも、自分と同じように大人になって、遠いどこかでやはり別の天井を見ているのかもしれない。
「兄貴……」
ぽつりと呟いてしまった言葉に、隣でヴィラルがはっと顔を上げる気配がした。
そういえば、朝にカミナのことを聞いたときにも何だか様子が変だった。ヴィラルはカミナのことを、もしかしたらあまり良く思ってはいなかったりするのだろうか。
「あ、その……ヴィラルは、兄貴に会ったことがあるって言ってたけど……」
「……ああ」
「ヴィラルから見て、兄貴ってどんな人だった?」
質問を受けて考え込む表情には、朝に見た時とは少し違い、どことなく懐かしむような様子がある。
金色の眼が遠くを見やって焦点をぼやかし、口元には微かな笑みが乗った。
「正直なところを言うと、初めてカミナと出会った時、私はとても驚いたし、腹も立った。その頃の私から見たあの男はとてもでたらめで、常識知らずで、失礼で……」
急にすらすらと話し出したヴィラルの表情に、シモンはこっそりとカミナが彼女と初めて相対した時の様子を想像してみる。
カミナのことだから、きっとヨーコと初めて会った時のような調子で色々と怒らせるようなことを言ったりやったりしたのに違いない。ヴィラルは真面目な性格だから、彼が相手ではおそらく普段のペースを崩されて振り回され通しだっただろう。
「……だが、今にして思えば……そうだな、とても面白い男だった」
そう締めくくって、小さく笑ったヴィラルの髪をゆるい風が揺らしていく。
先程と少し角度を変えた、偽の太陽の光が淡い金色の髪と眼にちかちかと反射して眩しくて、しかしそれだけではない理由からシモンは視線を伏せた。
湖の方で、魚か何かの跳ねる音が聞こえた。
>>>
「──では、今のシモンは夜眠るたびに昔の事を思い出していく、というわけですか」
科学班長、という簡素な肩書きの中に研究・開発部主任にして艦内システム管理者そして整備・工場部特別顧問だの艦医補佐だのと多岐に渡る役職を内包しているリーロンの私室へ、今は半ば公的、半ば私的な用件で訪れていた副官はその容易に歓迎しかねる報告内容に眉を顰めた。
「そ、聞きだした限りは昨日目を覚ました時点から約十二日ちょっと……地下の村での日数カウントは曖昧だから正確な時間は計れないけど、とりあえずシモン本人の体感で言えばそれくらいの記憶が一気に追加されたようよ。困っちゃうわね」
口調は軽いが、リーロンの表情はいつになく気重そうに見える。
実際、困るどころの話ではないと副官も溜め息をついた。
たかが十日と少し、しかしその僅かな間に外の世界のことなど何も知らなかった少年はコアドリルやラガンを掘り当て、地上から落ちてきたガンメンに遭遇し、兄貴分のカミナや騒ぎの中で出会ったヨーコと共に地中から飛び出して隣村のリットナーを訪れるまでにその運命を急転させていたのだ。
「ずっと現状のまま、というのは論外ですが、しかしこう寸刻みに時間を進められるというのも非常に問題ですね。そもそも、今日そこまでの記憶を取り戻したのなら明日にはまず間違いなく、ヴィラルとのことも思い出してしまう筈です。よしんば、それを何とか納得させられたとしても、いずれはあの時のことを──」
明日も、明後日も、この調子で眠る間にシモンの失われた時間が圧縮されて与えられ直すのだとしたら。
地上に出てからほんの二、三ヶ月で激しく転変することとなった運命を追体験させられるのだとしたら。
「きっと大変なことになるでしょうね」
「……大変、どころでは済まないと思いますよ」
残り数日で、彼は再び知ることになるだろう。
身の内に渦巻く膨大な力を以てして、この世界全てを道連れに破滅へと突き進む、その契機となる絶望を。
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2009-09-28T13:11:26+09:00
1254111086
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『アバン艦長ショタ返り1』
https://w.atwiki.jp/virako/pages/75.html
※内容説明とご注意点など※
このSSはかなり前の過去スレでネタの出されたアバン艦長ショタ返り話です。
以下の点にご注意の上、趣味に合わないと判断されました場合は無理に読まずにファイルをゴミ箱へ放り込んで下さい。
・このSSは成人向けの性的及び暴力的表現を含みます。
・しかもエロパートと暴力/流血描写パートとそれ以外のパートの割合がpropellerのエロゲ並みです。
・エロにはおねショタが含まれます。
・文体が冗長です。というか長すぎて全3話に分割されてます。
・ペット子が「雌犬奴隷のふりをしている」バージョンです。
・アバン艦長が中二病通り越して大変に女々しいです。
・艦の名前はどうでもいい理由により、超銀河ダイグレンではなくカテドラル・テラのままです。
・匂わせる程度に書かれている背景事情は深く気にしないで下さい。
・SFガジェットや用語の使われ方はおおむねいい加減です。
・スレ内の雑談・小ネタをところどころ勝手に拝借しています。
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星々の引力圏から離れ、公転運動に従っている訳ではない宇宙戦艦の内部とはいえ便宜上の一日という概念は存在する。
ただ、故郷である小さな惑星を発つ際に地上の標準時に合わせられていた時間の区切りも今は時計の刻む数値の上にしかなく、艦内の者達にとって朝と言えば彼らの艦長がブリッジへ現れる時間帯であり、夕といえば彼がその席を払う頃という認識へと変わりつつあった。
「……タブー」
背後からの声に、第一艦橋の最上部に位置する司令塔からクルーたちへ指示を下していた長身の副官はそれ以上の内容を求めずに頷いた。
「現時点、超螺旋索敵圏内に敵影は認められません。どうぞお休みください」
振り向いた視線の先でうっそりと席を立つ影のような姿は、炎を纏ったロングコートの裾を翻したかと見えた刹那、淡い碧の光を残して宙に溶けるよう消え失せる。
主の姿が無くなった艦橋内には、ほんの僅かだが緊張感の弛んだ空気が漂い始める。
太陽を持たない小世界に、夜が訪れようとしていた。
>>>
緩く手を握り、開く。
そんな動きを半ば無意識のうちに繰り返していた事に、やっと気付く。
今日も大勢殺した。
広大な真空に隔てられてはいても、堅牢な外殻で鎧われてはいても、見知らぬ誰かの命を握り潰した感触はいつもこの手に生々しく感じられる。
自らを艦の心臓、主動力機関と化す戦闘中にはこのカテドラル・テラの艦体全てが己が身の延長上に等しく、戦場に渦巻く螺旋の力場は天文距離ほど離れた座標に響く断末魔すらも克明に伝えてくるのだ。
だが、手が血で汚れているなどと今更嘆くつもりも別に無い。
この宇宙の全てが自分を、自分の選び取ってきた道を否定し押し潰そうとしてきているのだから、こちらも奴らにそうし返してやっているというだけのことだ。
結果、宇宙そのものがいずれ滅び去ることとなろうとも構いはしない。
横合いからじっと、探るような視線。
らしくもない思索に耽って食事の手が止まったのを怪しんででもいるのだろう。
俄かに新たな苛立ちを募らせながら、トレイの上の食事を一匙、口に運ぶ。砂でも噛んでいるみたいに味がしない。
この部屋専用の自動調理器は何故か妙な事にばかり細かく口うるさい副官の管理下にあり、量だの栄養価だの味付けだのは全て自分にとって最適なものに調整されているというが、それをありがたく実感できた例しなどついぞなかった。
「どうしたんだ、シモン?」
摂食を完全に放棄するや否や、すかさず掛けられた声へ忌々しげな視線を投げた先には、馬鹿げた格好の女が床に直接跪いている。
肘から先が肥大化し鋭い爪を具えた両手や、鮫じみた牙の生え揃う口元を別にすれば人間とさほど変わらないように見える姿はしかし全身から髪の一本に至るまでが造物主の目的に添って設計された人造生物で、初めて出会った頃にはかっちりとした軍服に身を覆っていたが、今は被覆率が低いにも程がある拘束具紛いの黒革のみを身に着け、首に鎖を繋がれた惨めな姿。
地球の、そしてこの艦の支配者がすげ替わるまでは獣人軍の部隊長として気位も高く振る舞っていた女の、落ちぶれ哀れな末路というべきか。
「体の具合でも悪いようなら医局に……」
その口が全ての言葉を紡ぎきる前に、硬く耳障りな音が要らぬ気遣いを遮った。
机の上から払い除けた、料理が乗ったままのトレイが頭を直撃し、飛び散った食べ残しに顔や体を汚された女がぽかんとした表情で見上げてくる。
「犬の分際で俺に指図する気か? そんなに人の皿の上が気になるんならくれてやる。せいぜい綺麗に食え」
手の中に玩んでいたフォークで床を指し示し、放り捨てたのが合図だったかのように、呆けた面で尻を落とし座り込んでいた女はのろのろと動き出した。
床に両手を突いて本物の犬めいた四つん這いの姿勢に伏せ、鋭い牙の並ぶ口元からそろりと舌を伸ばす。
散らばり、垂れ落ち、もはや原形も失って限りなく汚物に近付いた残飯へと直接口を付け、啜る音だけが暫しその場に響いた。
「いい格好だな、ヴィラル」
耳に捩じ込むような強さで、わざとらしく名を呼んでやればその肩が一瞬だけ震える。
今やすっかりと本来の矜持も砕かれ、犬として飼われる身分に甘んじているように見える女だが、時折ふとした拍子に本来自分が二本足で立っていた事を思い出すのか、面白い反応をすることがあった。
とうに正気は失われているだろう頭で、昔は毛無しの猿と蔑んでいた人間ごときの足元に這いつくばって床を舐める自分の零落ぶりをどれほど理解できているのかは知らないが。
「……ああ、ここも汚れたな」
食物の飛沫が僅かに付着したブーツの爪先を顔前へ突きつければ、逆らいもせずに獣の舌がねろりとその表面を拭う。
「……っ、ふ………」
ぴちゃぴちゃと小さく水音を立てながら靴を舐めている女の表情は長い髪に隠れて窺えなかったが、例えその顔が屈辱に塗れていようが悦んでいようが同じ事だった。
──解ってはいる、こんなくだらない遊びに何の意味も無いことくらいは。
ただ、自分よりも惨めな奴が一人いるというだけのことでもほんの僅か程度、鬱屈した心を紛らわせてくれる効果はあった。
爪先で獣人の女の顎を掬い、その顔を上げさせる。
牙の生えた口の次に人間との相違点が明らかな、縦に瞳孔の切れ込んだ金色の眼にも、いつかの時点までは確かにそうあったはずの鋭さなど微塵も見て取れない。
首輪に繋がった鎖の先を掴み、椅子を立ちざまに強く引けば、女も絞首刑が執行される寸前でよろめきながら立ち上がり、主の歩みに従って寝室への扉をくぐった。
>>>
ベッドサイドで男は身に纏っていたロングコートを脱ぎ、手近な椅子の背へと放る。
螺旋を刻んだ双眸が無感動な視線を投げれば、それ以上の命令は不要だった。
躾けられた犬の従順さで、床へ膝立ちに傅いた女は大きく武骨な両手には不似合いなほど丁寧な動きで男の衣服を解き、くつろげ、布の内側から引き出されたもの――既に頭をもたげかかっていた陰茎を押し戴くような仕草で顔を近づける。
薄く開いた唇はその先端に口付け、赤い舌が雁首から先端までをじっくりと舐め上げた。
黒革のグラブに包まれた両手の指は茎の根元をゆるゆる擦り、先端を口に含んで転がす動きと同期させるよう扱き出す。
「んっ、ふぅ……む、…ぅん……」
見る間に硬さを増し、太い血管を浮き上がらせ始めた雄肉の表面を女の唇と舌が縦横に這う。
先端を指先で弄りながら幹を舐め回し、付け根を舌先でくすぐり、嚢を片側ずつ唇で挟みながらやわやわと揉みしだく。
白い鼻筋も頬も、自らの唾液と先走りの液にべっとりと汚れながら肉棒への奉仕に専念する女の姿はひどく扇情的で、なおかつ男の昏い感情を満足させるくらいには無様だった。
「そんなに裸猿の一物を舐めるのが好きか?」
淡い金の髪をさらさらと指で梳くようにして頭を撫でながら、自分の股間に顔を埋める女を揶揄う。
舌全体を使って裏筋から亀頭の結び目までをねぶっていた相手は視線だけを上げ、目元を淡く染めながらこくこくと頷いた。
「ハ、随分といい子になったもんだ、あの野良犬が……もういい、咥えろ」
涎に濡れててらりと光る唇へ先端を押し当て、髪を鷲掴むよう頭に置いた手へ力を込めれば、女は抗いもせず喉の奥まで怒張を迎え入れる。
柔らかな舌の上を、温かな口腔内を、赤黒い肉塊が行きつ戻りつ蹂躙し、その動きで混ぜ合わされる二種類の体液は空気を巻き込んでじゅるじゅると派手な音を立てた。
「……ふっ、ウ…んっ、んんっ……!」
頭を押さえられて逃れる事も出来ず、男の欲望のままに口を使われる女がこぼす声はいかにも苦しげだったが、その中にはどこか甘やかな響きが含まれている。
ぼんやり眇められた金色の眼も、おそらく生理的な涙に濡れながら蕩けそうに潤んだ眼差しで男を見上げ、視線で更なる暴虐を希っていた。
「お前は本当に好き者だな、淫売が」
嘲りの言葉を投げられても女はひたすらと従順に頭を前後させ、咥内を占領する質量に舌を絡め、頬の内側や口蓋の粘膜で雄肉を擦り立てる。
その刺激で嵩を増して膨れ上がったものがじきに爆ぜる事を予期しながらも、一向に頓着しないといった様子で口淫に耽る女の表情は今しがた与えられた侮蔑を肯定するようにだらしない。
「…出すぞ」
短い宣言通りに放たれた、濃厚な精をひくつく咽喉が必死に飲み下す。
口腔内で絡みつくような粘っこさに息も絶え絶え喘ぎながらも、女はほぼ全てを飲み干すとゆっくりと口を開いた。
ずるりと舌の平を擦って抜け出していく雄肉との間に、白濁が細い糸を引く。
「ぁふ……れんぶ、のみ…まひた……」
自分の涎と、僅かにこぼれた精液とで口の周りをべたべたにしながら、どこか焦点の定まらない眼で見上げてくる女の呆けたような顔。
それは男の胸の中の征服欲や嗜虐心といったものをささやかに満たしはしたが、同時に己ではその正体を把握できない苛立ちの火が、ちり、と心の一隅を灼いた。
「立てよ」
命じられるままに女は立ち上がり、ほぼ変わらない身の丈から、真正面に位置する眼と眼の間で視線が絡み合いそうになる。しかし寸前、振りかぶられた男の手が殴りつけるのと大差ない勢いで上体を薙ぎ、避けもしなかった女の体は半回転ばかりよろけて、顔からつんのめるように背後のベッドへと倒れ込んだ。
じゃらり、鎖の音を鳴らして俯せに這った女は一瞬反射的に藻掻くも、男の手がその背へ触れるのを感じた途端にあっさりと抵抗を放棄する。
乱れたシーツに長い金の髪を散らばせて、露わになった背中の中心をじわりと撫で下ろして行く指の感触。背骨の形を確かめるよう背筋を辿り、無惨に刻まれた大きな傷跡を微かになぞり、女の肢体を所々、申し訳程度に包んでいる黒革の縁にくい、と指先が掛かった。
男の指がこの縛めじみた衣装を剥ごうとしている事を察した女はごく自然に腕と膝で支えた体を浮かせ、作業を遮らないようその身を差し出す。
小さな金属音を伴奏に胴体を締め付けていたビスチェが取り去られ、それにベルトで吊られる形のショーツも剥ぎ取られたところで、下着の内側と陰部の間に粘液質の梯が架かる気配が女の顔に朱を差し、男の口元に薄い嘲弄を貼り付けた。
「しゃぶってるだけでここまで濡らしたのか? 意地汚ねぇな」
シーツに伏せた肩と胸、そして両膝で高々と掲げられた腰を支える四つ這いの姿勢を取らされたまま、馴らすまでもなく淫蜜に濡れそぼり待ち焦がれるよう口を開き掛けている秘唇を男の視線と言葉で嬲られ、女は小さく身悶える。
ふるりと揺れた白い尻房を男の両手が掴み、無毛のあわいにいつの間にか硬度を取り戻したものが押し当てられ──
「…ぁっ、シ、モン……?」
直後に訪れるはずの、深く貫かれる感触に備え身構えていた身体は、ただ入口にあてがうだけで僅かも動こうとしないそれにひどく戸惑った声を上げた。
「何か期待してるんだったら言ってみろよ、犬らしい態度でな」
焦らすように粘膜のとば口へ先端を触れさせているだけの、その質量を既に全身が欲しがって欲しがって、頭がおかしくなりそうなくらいなのに。冷たい笑みを含んだ声に、女の眦にはじわりと涙が滲む。
「……ね、がい……いれ…て……私の、中…お、犯して…っ、ぐちゃぐちゃに……!」
男が満足するよう、女はなるべく惨めに、道化じみた哀願をしてみせた。
尻を振り、腰をくねらせて、もどかしい位置にある切っ先をなんとか咥え込もうと滑稽な踊りを披露する。
気の毒なほどに必死な様にくっ、と喉の奥で低く笑った男はそろそろ飼い犬に餌を投げ与えてやることにした。
「ぃ…っ!? く……ぁはあっ、あー………!」
今まで意図的に中心を捉えず遊ばせていた剛直を、潤みきった隘路へ一気に突き入れる。
たちまちの内に熱い肉洞はそれを奥まで呑み込み、ぬめって蠢く粘膜が舐め回すように歓待を示した。
熟れた媚肉に根元まで包まれる快さを僅かな時間だけ味わって、男はやおら腰を引く。返す動きは小刻みに、入口を荒々しく掻き混ぜ、半ばのざらついた襞壁を先端で削るよう擦り立て、奥を強く突き抉る。
抜け出ようとする雄に掻き出され、押し込む動きでまた溢れ出す淫水はじゅくじゅくと厭らしい音を立てて泡立ち、飛び散っては互いの脚を、真下のシーツをしとどに濡らした。
「…ひ、ぁ……ああっ、あ……んっ、ぁっ、ふぁあっ……!」
女はとうに正気を飛ばしているのか、押し隠そうとするそぶりもなく艶声を上げ続けている。
全身の肌を淡く染め、背後からがつがつと穿たれる動きに合わせて背を撓ませ、尻を弾ませて快楽を貪る姿に、自分もまた肉の愉しみを享受しながらも男の脳裏には先程微かに感じた苛立ちが再び灯されつつあった。
「誰が独りで出来上がっていいなんて言った、あァ!?」
刺々しく、腹の底のわだかまりを吐き出すように罵倒しながら、首輪に繋がる鎖を掴み取って手綱よろしく乱暴に引く。
いきなり頸を引き起こされた女の口からは苦しげな、しかしそれでもどこか媚びを含んだ声が上がり、しなやかな背が弓なりに反らされた。
生理的な反応なのか、締め付けを強くした内部を荒々しく抉り立てるごとに上がる声はいっそう浅ましく、隠しようもない喜悦に彩られ出す。
「……みっともない声で鳴きやがって、そんなにいいのか? これが!」
休み無く腰を打ち付けながらの理不尽な言葉にも、金色の瞳を蕩けさせた女は陶然と、ただ自らの快楽を追うばかりの咽び泣くような声音でいらえた。
「は…いっ……ぃ…の……気持ちぃ……っ、ァ、はぁっ……これ…ぇ、大き…の、すき……!!」
しまりなく淫声と涎をこぼす口元は紛れもない喜色に歪み、涙と熱に潤んだ眼は情欲に濁っている。
自ずから振り立てられる腰は己を苛む衝撃を柔らかに受け止め、ぬかるむ雌穴は貪るように雄に喰らい付いて離さず、蜜を滴らせながら硬く張り詰めた肉杭をしゃぶり尽くさんとしていた。
「…雌犬が」
舌打ちし、乱暴に小突き回すよう腰を使えば女の嬌声はいよいよ高く、甘ったるく撒き散らされていく。
繋がった場所を執拗に貪られる快楽は確かにあって、思考の一画をどろりと溶かすそれに身を任せてしまいたい衝動を覚える一方、フラッシュバックのように脳裏に閃く遠い記憶が男の意識の奥底をじくじくと痛ませる。
どこまでも続くかと思えるほど高く、青く澄み切った空。皮膚をなぶる乾いた空気。燦々と眩しい陽の光を受けて、風を纏い歩んで行く、生涯を懸けて追い続けようと誓ったはずの背中。
あの人が、今の自分を見たらどう思うだろう。
絶望に呑まれ、力に溺れ、挙げ句に彼の愛した大地も、彼の夢見た月も、彼の記憶を共有できたはずの人々も──この女も、全て壊し、歪め、己の捻れた想いに付き合わせて、果てには破滅しかないだろう暴走に巻き込んでいる。
叶うものならもう一度殴ってほしい。
殴って、この曇った目を醒まさせて、自分の往くべき方向を思い出させてほしいのに。
解っている。そんなのは馬鹿げた感傷だ。
あの人はもう、どこにもいない。この宇宙中、どこを探しても。
死んでしまったから。
──俺が、死なせてしまったから。
自分の中を掻き回す動きが鈍ったように思えて、ヴィラルは快楽にぼやけ、拡散していた意識を僅かに立ち戻らせた。
背後にいる男の様子が、どことなくおかしいような気がする。
彼が自分を“使って”いる時でも他のことを考えていたり、すぐに興味を失ったようなそぶりを見せるのは今更珍しいことでもない。だが、今こうして背中に感じる気配は、おそらく、思い違いでなければ──
「シモ…ンっ、ぁ……ひぁあっ!?」
肩越しに振り向こうとした刹那、強引に腰を掴んで揺さぶる動きで中断され、不自然な角度から深く突き込まれた質量が腹の奥をしたたかに打ち据える衝撃が、そのまま内部を削るような律動が、折角まとまりかけた思考も、喉から送り出そうとした言葉も全て、ずたずたに切り裂いて閨の薄闇へと霧散させる。
「…ケダモノが、余計な言葉を喋るな」
投げつけられた声に、微かな水気が滲んでいたように思えたのは気のせいだろうか。
それ以上何かを考えることも出来ずに女の意識は熔け落ち、男はまた一つ暗い呼吸をこぼすと同時に全ての熱を吐き出し終えた。
「……っ、ん…!」
おもむろに引き抜かれ、今まで隙間無く埋められていた場所が覚える喪失感に、腫れた粘膜がひやりと外気に撫でられ、垂れ落ちた体液が内腿を濡らす感触にヴィラルは身震いし、小さく声を洩らす。
どさり、マットレスに男の身体が投げ出される気配に今夜はこれで終わりなのかと意外に思い、シーツに半ば伏せられた表情を窺ってみるものの、既にその瞼は閉じられてぴくりとも動く様子はなかった。
普段ならあと二回くらいは相手をさせられるところだったが、今日はどうやら面倒になったらしい。
今までにも急に飽きただの、興が削げただのと中途半端なところで放り出される事はしばしばあって、この男の気紛れに振り回されることにはとうに慣れていたが、今夜ほど淡泊なのはやはり珍しかった。
しかも、そういった時の常として自分の寝床へ行けと追い出されもしないのは、このベッドで、隣に眠っても構わないということだ。普段は激しい行為に疲弊しきって気絶ないしは昏倒してしまった時くらいにしか許されないのに、どう言った風の吹き回しだろうと訝りながらもとりあえず最低限の汚れの始末だけはして、空いているスペースへ身を横たえる。
僅かな空間を挟んで向かい合うよう側臥している相手の表情には、やはり先程の一瞬に覚えた僅かな違和感の名残が、どこかあるように思えた。
そろそろと伸ばした手で、男の剥き出しの腕から肩に触れてみる。
以前、これと似たようなことをしたときには突然目を覚まして「寝首でも掻くつもりか」と意識が朦朧とするまで殴られたりもしたものだが今日はそういった反応もなく、ただ、小さく鼻で息をするような音が微かに聴こえるばかりだった。
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──くらい、暗い場所にいる。
暗いのはいつものことだ。ここは穴の中だし、今は夜だから電気もついていない。
だけど、何だかいつになく暖かい。暖かくて、柔らかくて、いい匂いのする何かにぴったりとくるまれているような感じ。こんなの、まだ小さい頃に母さんと一緒に寝ていたときくらいにしか憶えがない。
ぼんやり、漠然とした認識から少しずつ意識が浮かび上がり、それを追うように体も目を覚ます。
いつもの朝だ、暗い穴ぐらで、村長のがなり声に起こされ、穴掘りに出かける変わりばえのない朝──
「……ぇ…………?」
なぜか、視界全体が白っぽい何かで塞がれている。
というか、その白くて柔らかいながらも適度な弾力を具えた温かいものに、顔を押し付けるようにして自分は眠っていたらしい。
慌てて両手を動かし周囲を探れば、掌に伝わるその肌触りも、頭の中に再現された輪郭も、ある一つの可能性しか提示してこなかった。
恐る恐る上げた視界には、案の定いま自分が顔を埋めていたところ同様の白い首筋、そして顎の線。そしてこれまでに見たことがないくらいに淡い色の長い髪。
知らない、おんなのひと、が。
なぜか、何も着てない、はだか、で。
「ん……」
小さく、鼻に掛かったような声を洩らして、その見知らぬ女の人はゆっくりと身じろぎ、髪と同じ色の淡い睫毛を震わせた。
どうしよう、どうしてこんな状況になっているのかさっぱり思い当たる節がないけど、女の人の寝室に自分なんかが──しかも、今ごろ気が付いたけどこっちも素っ裸だ──入り込んだなんて知れたら、絶対大騒ぎになる。
今までは根も葉もない中傷だった女の子達の悪口が実際に犯した悪事を論うものになるだけならまだしも、これは流石に村長や大人たちだって問題にするに違いない。それに、誰よりも何よりも──彼が、そんなことをした自分をどう思うのか、想像することすら怖ろしくて──
目覚めないでくれ、と必死で祈りはしたが勿論何の効があるわけでもなく、うっすらと目を見開いた彼女は次の瞬間弾かれたように起き上がり、しかし予想とは大きく違って悲鳴を上げるでもなく、その顔に明らかな嫌悪の表情を浮かべるでもなく、ただ些か慌てたような様子で言っただけだった。
「…っ、すまない、こんな時間まで寝ているつもりじゃなかったんだ、シモン……」
「…………シモン?」
重ねて名を呼ぶ声音にも非難するような色は一切無かったことに幾ばくかの安堵を覚えつつも、自分の上に視線を釘付けにして唖然とした表情をしている裸の女性はいったい誰なのか、それに今気が付いたが自分たちの居るこの見知らぬ部屋はどこなのか、さっぱり答えが見出せないことにシモンの困惑は尚のこと深まるばかりだった。
>>>
第一艦橋の中央、艦長席の設けられたフロアで定位置──今は主の姿無きシートの右斜め前方に、いつものように直立していた副官はやおらその彫像の如き不動を崩し、制服のポケットから着信のバイブレーションを発している通信端末を取り出した。
ディスプレイ上で点滅する回線IDは艦長専用の端末を示している。
軍隊というよりは彼の小さな王国と形容するのが相応しいこの艦で、しかも戦闘も何もない通常航行下ときては、最高責任者とは言え艦長自ら定期的にブリッジへ詰める必要性は実際のところ無い。
だが、それでも普段ならばだいたい定時と言っていい決まった時間に背後のシートへ収まっているはずの人物がいっこうに現れない件について、何らかの事情を連絡してきたものだろうと副官は見当を付ける。
しかしパーソナルモードで立ち上げられた通信画面に映し出されたのは予想外の人物であり、常に沈着を旨としている副官はそれに対し露骨に驚きこそしなかったものの、目元を覆うグラスの奥で僅かに片眉を上げることで、この事態に関しての意外さを表明した。
『その…すまない、他に誰に言っていいものか解らなかったから……』
そう画面の向こうより困惑したような態度で伝えてきたのは艦長の私室に“飼われて”──今更表現を取り繕っても仕方がない──いる獣人の女。かつては敵軍の士官であり、紆余曲折を経てこちらの捕虜となり、今となっては艦長の個人的なあれこれを処理するための慰安要員、いやもう少し平たく言えば玩具かペットとして扱われている彼女が“飼い主”の通信端末を用いてその副官である自分にコンタクトを取ってくるなど初めてのことで、そうなるに至る理由を一瞬のうちにざっと数件想定してはみたがどれひとつとしてろくな事態が思い浮かばない。
念のために艦長席を囲む遮音シールドを展開し、会話が漏れないようにしてから返答。
「──どう、しました?」
『し……シモンが、なんだかおかしなことになっているんだ……誰か、なるべく彼が信頼していて、それで難しいことの解る人間を寄越してもらえないだろうか』
その応答に、頭の中の非常事態リストが更に絞り込まれる。
ひとまずはすぐ向かうとだけ答えて通信を切り、チーフオペレーターへ持ち場を外れる旨と、追って指示があるまで現状を維持とだけ伝えた副官は部下たちに異変を悟られないための悠然とした歩調で、目的地への直通経路が開かれた不可視の入口へと足を踏み入れた。
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「あっらぁ~、コレはまた懐かしいわねえ~」
目の前でくねくねする男だか女だか判別しづらい人物に、裸身にとりあえずはシーツを巻き付けただけ、といった出で立ちの少年はあからさまに怯えた様子で背後の壁に貼り付いていた。
「だっ、だだ、誰、です…か……? おれの、こと…知って……?」
「アラ残念。私のことも判らないとなると、地上に出てくるより前かしらね? でもそう年齢的に離れてるわけでもないみたいだし…」
ふーむ、と鼻を鳴らして手元の検査機器を覗き込んだリーロンの言葉尻を耳にし、大きな眼がはっとしたように見開かれる。
「え、あの、ここ…もしかして、地上なの…!? あ、あに……カミナは!? 俺と一緒に誰かいなかった!?」
「──カミナは、ここにはいませんよ」
どことなく素っ気ない口調でそう言った相手を、シモンはぽかんとした表情で見つめた。
くねくねする怪人物に気を取られてばかりいたが、今、この部屋の中には自分以外に三人の人物がいる。
そして、その三人ともが、そう交際範囲が広いとも言い難い己の中の基準に照らしても、皆──「変」だった。
いちばん離れた場所、戸口らしき所のすぐ横の壁際で静かに立っているのは目が覚めたとき同じ寝床にいた女性で、はじめは一糸纏わぬ、いや、首に何か黒いベルトのようなものを巻いてはいるもののそれ以外は素っ裸だったのが、あまりにも大騒ぎしたせいか今は寝台の上掛けを肩から羽織って、その大変に目の毒としか言いようのない姿を覆い隠してくれている。
彼女もそうだが、残る一人、今「カミナはいない」と言った背の高い男も非常に不思議な姿形をしていた。服装や顔立ち、髪や肌の色が変わっているというだけではない、はっきり言ってしまえば、二人とも部分部分が人間とまるで異なった形状なのだ。一方、くねくねの人物は奇妙と言えば最も奇妙なように見えても体の部品と言う意味では全て普通に人間のそれで、地上というのはこうも不思議な人や出来事ばかりなのかと驚きよりも困惑が先に立つ。
「急に理解しがたい事を申し上げるようですが、隠していても仕方ありません。シモン、現在のあなたは、あのジーハ村を出た日より既に十年以上を過ぎて大人になっているのです。それがどうしてそのように、肉体的にも精神的にも巻き戻ってしまっているのかは我々にも皆目解りませんが、ともかく今のあなたを取り巻く環境は非常に変化しているとお考え下さい」
他人が自分に向かってこうも丁重な物言いをしてくるという時点でまず面食らっていた頭の中が、その言葉の内容で更に引っ掻き回される。
「へ……? 俺が……おとな……?」
「はい。そして、今のあなたは我々にとってとても大切な人間です。この艦……いえ、この場にある全てはあなたの為に存在すると考えて頂いて構いません」
もちろん、大人のあなたの為にですが、と締めくくって不思議な男は目元のサングラスをずらし直すような仕草をした。
シモンはと言えば、酸欠の魚のように口をぱくぱくとさせているしかない。「まさか」「嘘だ」という音声を出したいのに、舌の根が乾上がったかのように出入りする空気が言葉を形作れずにいる。
「あ、あの……」
暫くしてようやく喉から押し出すことの出来た言葉は、何故か部屋の中にいる全ての人の表情を一瞬だが硬くさせた。
「それじゃあ、カミナは……今どこにいるんですか?」
他の二人よりも、僅かに早く表情を元に戻した男の──と言っていいのかどうか判らない──人は少し眉尻を下げるようにして微笑する。
「カレ、すごく遠いところに居るの。会いたいでしょうけど、今は難しいわ。ごめんなさいね」
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「申し訳ありませんが、この場は一時リーロンに任せて、私と一緒に来て頂けますか」
何故か、妙に改まった口調でそう言いながら、副官はヴィラルを寝室の外に連れ出した。
閉じかけるドアの向こうの「じゃ、もうちょっと身体データ計測しちゃってイイかしら?」とうきうき弾んだ声と、少年の半ば悲鳴じみた応えにヴィラルが気を取られている間に、一旦廊下側のドアの方へ歩いていった副官が片手に何かを持って戻ってくる。
手渡されたのは圧縮パッケージングされた衣服らしき塊で、促されるまま封を切れば、それは瞬く間にばさりと拡がって一着の女性クルー用制服へと姿を変えた。
「とりあえずはこれを着用して下さい。いつものあなたの格好は、あの時期の彼には刺激が強すぎますので」
真面目くさった顔でそんなことを言われるのも可笑しくて、ヴィラルもつい表情を緩めながら宛われた衣服を身に着ける。
とりあえずと言いながらも、きちんとサイズを合わせて成型させたものらしい制服は人間とは最も形状の異なる腕の部分まで過不足なく覆い、セットになっていたアンダーウェアやロングブーツに至るまで──いつ採寸されたのかは定かでないが──全て誂え向きで、万事においてそつのないらしいこの副官の仕事ぶりはこんな所にまで発揮されているのかと妙な感心すら覚えさせられる。
上着の丈が長い男性クルーのものと違って、ジャケットもスカートも丈が短めで体のラインがはっきりと出るデザインになっているのはいったい誰の趣味なのかと訊いてみたい気もしたが、さすがに今は、その疑問は後回しにするべき類のものだろう。
「さて、服を着て頂いたところでもう少し手掛かりになりそうなことを伺ってもよろしいでしょうか?」
それまで律儀にも後ろを向いていた副官に声を掛ければ、間髪入れずに質問が飛ぶ。
シモンの心身の変容は十中八九、何か螺旋力の特殊な作用によるものだろう。そして、この艦内のみならず、宇宙でも比肩するものを探すのは難しい程の螺旋力を具えるシモンにあそこまでの干渉を与えることが出来る犯人はと言えば、それはシモン本人である可能性が最も高い。
そう推測を伸べる副官に頷いて、ヴィラルは昨夜から今朝にかけてシモンの様子におかしな兆候が無かったかどうか、懸命に記憶を手繰ってみる。部屋に戻ってきた時、夕食を摂っていた時、寝室で自分を“使って”いた時──
「……そういえば、昨夜のシモンは少し様子がおかしかった。なんというか、普段に比べても感情がだいぶ不安定だったように思える。もしかしたら疲れていただけなのかもしれないが……昨日はそんなに大変だったのか?」
「いえ、昨日は確かに対艦隊戦闘がありましたが、当艦は巡航形態を解除するまでもなく短時間での敵勢力殲滅に成功、その後速やかに戦闘宙域より転移しましたから艦長にとってはさほどの身体的負荷ではなかった筈です。それに疲れたからと言って子供に退行するような人ではないでしょう。となれば心理的要因の方をこそ疑う必要が……」
鼻先に皺が寄るほどに考え込んでいた副官が、ふと顔を上げた。目元を覆って表情を見えにくくしているグラスの向こうから、探るような視線でじっと見られたヴィラルは奇妙な居心地の悪さを覚えて軽く肩を竦める。
「ああ、すみません。あなたとこう、普通に相談が出来ることが少々意外だったもので」
メモを取っていたらしい個人端末の画面を閉じ、男は僅かに表情を和らげた。
「艦長は……よく、あなたが既にかつての人格や理性を破壊されていて正気ではない、というような事を言っていましたから。ですが、こうして話している分には昔のあなたとさほど変わったところはないように思えますね」
「な……っ!?」
思わぬ事を指摘され、ヴィラルの眉が跳ね上がる。
僅かに遅れてその顔が、少し尖った耳の先まで朱を刷いたように染まり、内心の動揺を映した声は不明瞭にもつれて口からこぼれ出た。
「…わ……私が正気だなどと…そんな筈が無いだろう……正気だったなら、本来の私が一片でも残っていたなら、今日までにあの男を生かしておく訳がない……」
「まあ、そういう事にしておきたいのでしたら深くは追求しませんが」
どこか悔しげな表情で睨み付けてくるヴィラルから目を逸らし、副官は内心で深く溜息をついた。
もし自分の想像が当たっているなら、なんというか、まあ、お互いに不器用すぎる人たちなのだろう。
あんな出会い方をしなければ、あんな再会の仕方をしなければ、などとは今更思ったところでどうしようもない事だが、それでも歯車が多少ずれて噛み合っていれば双方共にもっと気が楽だっただろうに。
(……だけどシモン、君がもし、そのために子供に戻ったんだとしても……起きてしまったことは消えて無くなる訳じゃないんだ)
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大騒ぎの──物理的には取り立てて大したことはなかったものの、検査機器を体に宛うリーロンの台詞や手つきがいちいち妖しいおかげでシモンが過剰に怯えたり抵抗したりするのが主な原因だった──身体データ採取と検診が一段落する頃、再び室内へ戻ってきた副官は手にした数枚の衣服、圧縮パッケージングされているためシモンからは平たい板のようなものとしか見えないそれを差し出した。
「遅くなって申し訳ありません。製造依頼ログを残さないよう、直接工場区へ行ってきましたもので」
そう説明されたところで、今や自分のいる場所が宇宙を航行中の超々弩級ダイガンの中だということもさっぱり理解できずにいる少年にとっては呪文のような音の連なりとしか思えない。
とりあえず、手渡された板のようなそれをひねくり回している内に指先に触れた、微かに薄くめくれる部分を何の気無く引っぱってみれば平たい板はふわりと拡がって、一枚の薄いグレーの上着と黒いハーフパンツに変わった。
「へ…っ!? うぇ!?」
「肌着類と靴はこちらです。一応、ジーハ村で一般的に着用されていたものと大体のデザインを似せてはみましたが、何か不明な点がありましたら仰って下さい」
肌着と言われて渡されたものを開封すれば、確かに生まれたときから慣れ親しんだ、晒し布を直線的に裁って作られたシンプルな構造のそれらが現れる。
確かに各々の形はおおむね理解の範疇にあり、身に付ける方法が解らないということはない──ないのだが、シモンの頭にある服という物のイメージと何かが微妙に食い違っている。具体的に挙げるのなら、ブタモグラの毛や皮、植物の繊維などで出来ていた故郷の服とは全く異なる、ごわごわしたところがどこにも無いさらりとした手触りの布地だとか、裏側をひっくり返してみてもどこにも縫い目の見当たらない不思議な造りだとか。
しかしそれでも裸でいるより遥かにましなのは明らかで、手早く身に着けてみれば非常にしっくりと馴染むというか、普段着ていたはずの物のように別の子供の着古しを無理矢理ベルトなどで体に合わせる必要もなく完璧にフィットするのが逆になんだか落ち着かない。
「ゴーグルは現状で必要ないと判断しましたが、あった方がよろしいですか?」
そういえば、とでもいうように訊ねられてはじめて、無意識のうちに額の上あたりを指で探っていたことに気付いたシモンは慌てて首を左右に振った。
目が覚めてからこの方、色々と説明を受けた内容の八割以上はさっぱり理解出来ていないが、少なくとも今の自分が村長のために穴を掘らなくてもいいことだけは確かなようだ。
それに、遅まきながらやっと気が付いたが、ジーハ村では常に手の届く場所に置いていたはずの手回しドリルも見当たらない。ベッドの頭の部分の横にある抽斗付きの台の上に、掌に乗るほどのミニチュアのドリル……らしきものがあったが、まさかそれで何かの作業が出来るとも思えなかった。
そう、見当たらないといえば──
「……っ、ブータ!?」
素っ頓狂に挙げた声に、すぐ側でリーロンと会話を始めていた人物が何故か驚いたようにこちらを向く。
「あ、あの、すみ、ません……」
突然大声を出したかと思えばすぐに背中を丸めるようにして縮こまってしまった少年の様子に、一瞬はっとした面持ちだった副官もつい表情を和らげる。
「ご心配なく、ブータはまだ元気にしていますよ。もっとも、今のあなたには一目でそうと判らないほどに姿が変わってはいますが」
「ほ、本当…です、か……!?」
副官が確と頷けば、今まで不安げだった表情が見るからに明るく変わり、ほっと安堵の息が吐かれる。
「そっか……俺が、本当は大人になってるくらいだからブータだってもうかなり大きいんだよね……でも良かった、食べられたりしてなくて」
その言葉に苦笑めいた表情だけを返し、次にシモンが口を開きかけたタイミングに重ねるよう「それでは、私はまだ仕事がありますので」と踵を返しかけた副官はふと何かを思い出したようにサイドチェストへ歩み寄った。
「何か危険があってもいけませんから、こちらは暫く私がお預かりします」
拾い上げられ男の手の中で鈍く光を弾く円錐体を不思議そうに目で追いながらも、あまり訳が判っていない、といった風情でとりあえずこくこくと頷く少年の意識を更に逸らすよう、副官は会話の間に入室していたもう一人の人物を差し招く。
「困ったことや必要な物がある場合はこの女性へ申しつけて下さい。彼女の仕事はあなたのお役に立つことですから」
「え? あ、あの…?」
再び傍らに立った女性が今度はちゃんと服を着ていたことに安堵の表情を見せながらも、副官と、その肩の向こうで「じゃあまたね、チャオ!」と手を振っているリーロンがこの部屋を出ていく──つまりは今の自分にとっては誰だか知らない女の人と二人きりで置いて行かれるのだと理解したシモンは一転して傍目に気の毒なほど狼狽えた様相になった。
「あ、まっ、待って、くださ……!」
慌てて追いかけようとしたその鼻先で、無情にもドアが閉まる。
無論ロックなどはされていないにしろそもそもの開け方が解らず、途方に暮れるばかりのシモンは気付く事はなかった。
副官とリーロンが、その長身の陰に隠すようにして、コート掛けの横に立て掛けられていた一振りの刀を持ち去ったことを。
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2009-09-28T13:09:43+09:00
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『手をつないで帰ろう』
https://w.atwiki.jp/virako/pages/74.html
「見ろっ、シモン!!」
大変に元気な声とぽてぽてっという足音と共に、左脚の太股やや後方あたりに飛びついてくる、柔らかくてあったかい感触。
「見ろったってそこじゃ見えないよ。どれどれ?」
ゴロゴロ喉を鳴らしながら脚にしがみついてる生き物を、両脇の下を持ってひょい、と抱き上げる。
いつものフワフワした色の薄い金髪にぴんと立った三角形の耳、得意満面といった感じの表情。
そして首から下はといえば……
「お、ダリーの昔の服だな」
「えっ、シモンさん憶えてたんですか!?」
少し遅れてヴィラルの後を追いかけてきていたピンクの髪の少女が、ものすごく意外そうな顔をする。
俺ってそんなに、他人のことに注意を払わない質だと思われてるのかな……ちょっとショックだ。
「これを選ぶときにロシウが凄い顔して悩んでたから印象に残っててさ。動きやすくて丈夫で、女の子らしく清楚かつ健康的な……とか何とか、ずっとブツブツ唱えながらカタログめくってたんだぜ」
自分が小さい頃の話をされるのは、たとえ話題の中心が自分本人のことでなくともやっぱり微妙な気持ちになるんだろうか、ダリーがなんとなくむず痒そうな表情をしている。
でもあの頃の──カミナシティの人口がどんどん増えて、インフラも整備され始めてきて、俺たち大グレン団の皆も今まで着の身着のままで旅をしてきた頃のようには行かなくなったあたりのロシウは、本当にあれやこれやでいっぱいいっぱいだった。早く学校を作ってギミーとダリーを通わせなくちゃ、とか毎日のように言いながら、昔の教育制度についての本を難しい顔で読んでたっけ。俺もちょっとだけ読んでみたけど、昔の基準で言ったら俺やロシウも、たぶんニアもその学校ってやつに通わなきゃいけないんじゃないのかなー、って言ったら「高等教育は基礎教育を一般化させてからです!」とか早口言葉みたいな勢いで却下された憶えがある。
結局、俺たちは学校に通ったりする機会もなく、リーロンやテッペリンのデータベースから引き出した教育カリキュラムにだいたいの知識や護身術を含む訓練なんかを叩き込まれてそういった年頃を終わってしまったけど。
ちなみに余談だけど、ニアは姫としてテッペリンにいた頃に一通りの教育を修め終わっていたみたいで、自分の修得している分野においては一緒に勉強と言うよりはむしろ先生の側だった。
まあそんな昔話はさておき、現在両手の中にいるぬくぬくぽにゃぽにゃとしたもの、うちの飼い猫であるところのヴィラルはかつてロシウが眉間にシワを寄せて選び抜いた子供服、深い赤の地に肩吊りとポケットの明るい赤がアクセントになったシンプルなラインのジャンパースカートを着て誇らしげに胸を張っている。
昔ダリーが着ていたときは淡いピンクの髪に映えて随分お洒落に見えたけど、金色の髪に合わせても結構悪くない。
スカートの裾は膝上丈で、ややもするとぽってりした子供用パンツが覗いてしまいそうでもあるが動き易さを考えたらこんなものだろうか。いや、尻尾で持ち上がってしまう背面の方を考えたら相当丸出しだな、これ。
「ダリーにおさがりをもらったんだ! にあうか、シモン?」
「うん、いつもより少しお姉さんっぽく見えるな」
お世辞でも何でもない、正直な感想だったがヴィラルはこれにいたく満足したらしい。
既に胸を張っていた姿勢から更にふんぞり返って、もうそろそろ後ろの景色が見えそうだ。
「よかったね、ヴィラル」
「れいをいうぞ、ダリー! ありがとう!」
ご機嫌な仔猫は俺の手の中からするっと抜け出して今度はダリーに飛びつく。
小柄ながらも常に厳しい訓練を受けてるだけあって、見た目よりも力のあるダリーがそれを余裕でキャッチ。
「なんだか、そうやってると姉妹みたいだなー」
女の子同士の仲が良い様子に思わず和んでしまい、つい口から出た言葉にダリーが「そうですか!?」とやたら嬉しそうな顔をする。
思えば、ダリーは長いこと大グレン団の中で一番年下扱いだったしグラパール隊にもまだダリーより若い女子の隊員はいないそうだから、ヴィラルといると妹分が出来たみたいな気持ちなのかも知れない。
「ん、どうしたヴィラル、急にぷくーっとして」
何故か俺の言葉にいきなり頬っぺたを膨らますヴィラル。
あれ、友達はいいけど妹って言われるのは嫌だったのか?
「……ダリーのいもうとになるのはいいけど……」
ぼそぼそっと口を開いたヴィラルは、何かを思い出したのか不機嫌そうに耳をぺったり倒して口を尖らせる。
「ダリーのいもうとになると、じどうてきにギミーのいもうとにもなるからそれはいやだ……」
「さっき遊びに来たとき、グラパールに乗ってみたいって言ったらギミーにお子ちゃまには無理だって言われたからちょっとケンカしちゃったんだよね」
思い出し怒りで更にふくれっ面になるヴィラルを、苦笑混じりのダリーが宥めるように頭と耳を撫でくる。
おおギミーよ、お前年の割にはしっかりしていると思っていたのに幼児とケンカするとはなにごとだ。
「実機は隊員以外の人は乗れないようになってるからだめだけど、今度訓練用のシミュレーターに乗せてあげるね」
「うん! わたしがりっぱなガンメンのりだということをしょうめいしてギミーをぎゃふんといわせてやるぞ!」
「その意気その意気!」
俺が遠い目をしている間に、何やら物騒な決意を固めたヴィラルをダリーが気軽に焚き付けている。
またこれで負けて帰ってきたら、しばらくはぷりぷりしてるんじゃないかと思うとあまり推奨も出来ないんだけど。
「しかし、グラパールか……」
女の子なのにガンメンに乗りたがるってあたりはまあ想定内として、何だか急に具体的な将来の進路希望を呈示されたような気がして複雑な気分になる。
ヴィラルは成長速度が人間や普通の獣人と違うから一般の学校には通わせてやれないけど、グラパール隊なら訓練と同時にそれぞれの特性に合わせた個別カリキュラムを受けることもできるし、ダリーのような友達ももっと沢山作れるかもしれない。
他より危険な職業だという心配はあるが、もしヴィラルが本気でその道を選びたいというのなら止める事なんてできないだろう。
今はまだ小さくて俺の保護下にあるとはいえ、ヴィラルはれっきとした一個の人間──いや猫?──であって、俺が寂しいからずっと側にいてほしいなんて馬鹿げた理由でその一生を拘束できるはずがない。
「むずかしいかおしてどうしたんだ、シモン? わたしがしゅれみーたーにのるのはだめなのか?」
「あの、もちろんちゃんと安全面には気を付けて監督しますから……」
などと考え込んでいる間に、その沈黙を否定のニュアンスに取ったのものか、ヴィラルとダリーが心配そうにこちらを見上げている。
「……あ、いや、そうじゃないよ。ただ、ヴィラルもなんか大きくなったんだなあ、って思って」
流石に今しがたのしみったれた思考過程を開陳するのも憚られて、つい無難に、なんとなく年頃の娘を持った親みたいなコメントを出してしまった。
すると、くりくりとした目でじっとこちらを見つめていたヴィラルが突然の破顔一笑。
「うん、わたしはもっとどんどんおおきくてつよくなって、シモンのことをずっとまもってあげるんだからとうぜんだぞ!」
「え……っ?」
間抜けにも、ぽかんと開いた口が塞がらない。
これはちょっと不意打ちすぎるんじゃないか?
顔が勝手に真っ赤になりかかっているのが薄々と感じられて、目の奥が少しばかりじんわりする。
「あ、でもね、ヴィラル。グラパール隊に入ったら、同じ隊の仲間と一緒に寮ってところで暮らさないといけない規則だから、今はまだシモンさんといっしょにいてあげて、もう少し大きくなってから入隊試験を受けても遅くないよ。大丈夫、優秀な後輩はいつでも大歓迎だから!」
「わかった! そのときはよろしくたのむぞ、せんぱい!」
一人で動揺している俺をよそに、えらく体育会系的なエールを交わしたダリーとヴィラルはさっさと次回に遊ぶ約束を取り決め、これから夕方のシフトのミーティングがあるらしいダリーは元気に手を振ってもと来た方へと走って行った。
「シモン、わたしたちもおうちにかえろう!」
「ああ、ついでにちょっと買い物に寄って行こうな」
冷蔵庫の中身や消耗品の類で残り少なくなっているものを頭の中で検討しつつ、いつものようにヴィラルを肩車しようと手を差し出すと、何故かいきなりずい、と突き出された肉球つきの手の平にNoサインを出される。
「わたしはすこしおねえさんになったので、いっしょにあるいておかいものにいけるぞ!」
そう宣言してまたもやジャンパースカートの胸を張る、可愛くも頼もしい仔猫の姿にどういうわけかさっき必死で堪えたものがうっかりまたこぼれ出そうになったので、慌てて進行方向へ向き直り、努めて張り切った声を(ちょっと鼻声になってはいた)上げた。
「よし、フォーメーションBだ、行くぞヴィラル!」
「りょうかいだ!」
* * *
なお後日、グラパール隊の実戦シミュレーターで部隊創設以来の高成績を叩き出した奴がいると警備局が大騒ぎになり、プレイヤーであるところのゲスト用IDの主を捜している、という話がリーロン伝いに総司令執務室まで持ち込まれたが俺はとりあえず知らないフリをした。
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2009-09-28T13:02:08+09:00
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