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昼間を無為に過ごすのも口惜しいので、茉麻は部屋べやの掃除を始めた。 嘗て、掃除を日課と決め込んでいた頃は隔世の感。 スッカリ身体の方も鈍ってしまった。 と言っても、3日に一遍はするのだけれど、黒い家具が白くなってしまうのはあっという間だ。 まずはリビング。ウエスや掃除機等で、隈なく、住み家を綺麗に仕上げてゆく。 サイドボードに立てられている、去年の夏に夫の友人である有原や、中島と、熊井一家で 長野へデイキャンプに行った際、撮影した記念写真を懐かしみながら、付着した塵を拭きとった。 次は寝室である。粘着クリーナーに、夫と自分の陰毛が纏わりついている。 思いがけず、茉麻は、昨晩の出来事を再び脳裡へ呼び戻すのだった。 萎えてしまった夫のそれを、口で懸命に慰めても、却って彼を苦しめてしまう。 自分には彼を悦ばす術がない、彼が情愛を吐き出す寄す処とはなれない、……眼に涙液が滲む。 こうして、夫に愁いでいる茉麻ではあったが、多分に自己の欲求不満をも含有していた。 それは、本来の彼が与えてくれる、烈しく貪るでもなく、淡泊に片付けるでもなく、 ゆっくりと脈打つ様な、やがては死に至るであろう豈弟への渇望だ。 彼の気持ちが高まり、向き合って一体となってかたどられる、命を奪う“あぎと”が、 追憶を通して、茉麻の肝臓を啄ばむ大鷲となった。 心に群がる猛禽どもを追い払うつもりで、ベッドの傍の小棚にある、長女が5歳のとき母に呉れた、 ピカチュウのぬいぐるみの埃を払い、次いで、ぬいぐるみの隣の小さな立て時計を見た。 信楽焼の香炉等、有原からは様々な品を贈られているが、茉麻はこれが一番のお気に入りだった。 子供部屋へ入ると、フト茉麻は、先日中間テストのあった事を思い出した。 梨沙子も舞も、あまり見せたがらないが、仕舞っておく場所は解っているので、勝手に確認する。 「舞はまだましだけど、お姉ちゃんはひどい点数ね。名前も間違えてるわ」 我が子達の答案用紙を眺めながら、母は再教育の必要を感じた。
昼間を無為に過ごすのも口惜しいので、茉麻は部屋べやの掃除を始めた。 嘗て、掃除を日課と決め込んでいた頃は隔世の感。 スッカリ身体の方も鈍ってしまった。 と言っても、3日に一遍はするのだけれど、黒い家具が白くなってしまうのはあっという間だ。 まずはリビング。ウエスや掃除機等で、隈なく、住み家を綺麗に仕上げてゆく。 サイドボードに立てられている、去年の夏に夫の友人である有原や、中島と、熊井一家で 長野へデイキャンプに行った際、撮影した記念写真を懐かしみながら、付着した塵を拭きとった。 次は寝室である。粘着クリーナーに、夫と自分の陰毛が纏わりついている。 思いがけず、茉麻は、昨晩の出来事を再び脳裡へ呼び戻すのだった。 萎えてしまった夫のそれを、口で懸命に慰めても、却って彼を苦しめてしまう。 自分には彼を悦ばす術がない、彼が情愛を吐き出す寄す処とはなれない、……眼に涙液が滲む。 こうして、夫に愁いでいる茉麻ではあったが、多分に自己の欲求不満をも含有していた。 それは、本来の彼が与えてくれる、烈しく貪るでもなく、淡泊に片付けるでもなく、 ゆっくりと脈打つ様な、やがては死に至るであろう豈弟への渇望だ。 彼の気持ちが高まり、向き合って一体となってかたどられる、命を奪う“あぎと”が、 追憶を通して、茉麻の肝臓を啄ばむ大鷲となった。 心に群がる猛禽どもを追い払うつもりで、ベッドの傍の小棚にある、長女が5歳のとき母に呉れた、 ピカチュウのぬいぐるみの埃を払い、次いで、ぬいぐるみの隣の小さな立て時計を見た。 信楽焼の香炉等、有原からは様々な品を贈られているが、茉麻はこれが一番のお気に入りだった。 子供部屋へ入ると、フト茉麻は、先日中間テストのあった事を思い出した。 梨沙子も舞も、あまり見せたがらないが、仕舞っておく場所は解っているので、勝手に確認する。 「舞はまだましだけど、お姉ちゃんはひどい点数ね。名前も間違えてるわ」 我が子達の答案用紙を眺めながら、母は再教育の必要を感じた。 [[←前のページ>12]]   [[次のページ→>14]]

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