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業務の終わりも近づいた頃、急遽として熊井に接待役が回ってきた。 相手は金融庁幹部の立川という人物で、これといった面識は無かったが、 直々の指名を拒む理由も無い為、秘書から伝言を受け取ると即座に返答した。 帰りが遅くなるので夕飯は要らない、又先に寝て構わない、等といった旨のメールを妻へ送信した。 これで、2夜連続、愛妻の手料理が食べられない。夫が食さぬ時の茉麻の飯は簡単になるそうで、 父としては少し娘達を不憫に思ったが、仕事だから致し方がない。 熊井側が歓待する場所は、立川行き付けの会員制高級クラブで、これも相手側の指定だった。 席に着くなり、立川から見覚えのある顔のホステスを紹介された。 桃子である。 ドレスやアクセサリーで着飾ってはいるが、熊井にはすぐに誰なのか判った。 事態を呑みこむのに時間はかかったものの、どうやら桃子が立川に依頼し、 店へ誘い出したのだという事を知った。 しかし、得意客、それも官僚を利用してまで自分に会おうとする桃子の執念は理解し難い。 こんな使われ方をした立川に、不快ではないか訊ねても、彼は鷹揚に構えている。 「君に粗相があったからっていうんで、お詫びをしたいそうだよ」と、立川がわざわざ上席を譲る。 洋酒も薦められたので一口飲む。熊井は桃子を見た。 「どうしてここまでする?」 「お召し上がりになって」 熊井を無視するかのようにワインを注ぐ桃子。 不意に立川が帰る準備を始めた。 「立川さん、どちらへ」呼びとめる熊井。 「桃子は君に貸すよ」と告げる立川は笑顔だ。 「そんな」 熊井は困惑を隠せない。 「さ、立川様もああ仰って下さってますから」 桃子は初めから立川と仕組んでいた。 嵌められた、と思いながら、熊井は桃子に向き直した。 「夜はまだ始まったばかりですよ」 そう言って、桃子は微笑むのだった。
業務の終わりも近づいた頃、急遽として熊井に接待役が回ってきた。 相手は金融庁幹部の立川という人物で、これといった面識は無かったが、 直々の指名を拒む理由も無い為、秘書から伝言を受け取ると即座に返答した。 帰りが遅くなるので夕飯は要らない、又先に寝て構わない、等といった旨のメールを妻へ送信した。 これで、2夜連続、愛妻の手料理が食べられない。夫が食さぬ時の茉麻の飯は簡単になるそうで、 父としては少し娘達を不憫に思ったが、仕事だから致し方がない。 熊井側が歓待する場所は、立川行き付けの会員制高級クラブで、これも相手側の指定だった。 席に着くなり、立川から見覚えのある顔のホステスを紹介された。 桃子である。 ドレスやアクセサリーで着飾ってはいるが、熊井にはすぐに誰なのか判った。 事態を呑みこむのに時間はかかったものの、どうやら桃子が立川に依頼し、 店へ誘い出したのだという事を知った。 しかし、得意客、それも官僚を利用してまで自分に会おうとする桃子の執念は理解し難い。 こんな使われ方をした立川に、不快ではないか訊ねても、彼は鷹揚に構えている。 「君に粗相があったからっていうんで、お詫びをしたいそうだよ」と、立川がわざわざ上席を譲る。 洋酒も薦められたので一口飲む。熊井は桃子を見た。 「どうしてここまでする?」 「お召し上がりになって」 熊井を無視するかのようにワインを注ぐ桃子。 不意に立川が帰る準備を始めた。 「立川さん、どちらへ」呼びとめる熊井。 「桃子は君に貸すよ」と告げる立川は笑顔だ。 「そんな」 熊井は困惑を隠せない。 「さ、立川様もああ仰って下さってますから」 桃子は初めから立川と仕組んでいた。 嵌められた、と思いながら、熊井は桃子に向き直した。 「夜はまだ始まったばかりですよ」 そう言って、桃子は微笑むのだった。 [[←前のページ>13]]   [[次のページ→>15]]

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